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【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合20

1 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/16(日) 23:45:20 ID:VCGIXess
     _      ここは「ゼロの使い魔」「グリーングリーン」に代表される
    〃 ` ヽ    ヤマグチノボル氏の作品のエロパロを書くスレよ。
    l lf小从} l  / 荒らし、それに反応する輩はあたしの虚無で一発なんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ /  ご・・・ご主人様が好きならSSを書いてみなさい!
  ((/} )犬({つ′  あと、次スレは480KBか、970レスを過ぎたら立ててね。
   / '"/_jl〉` j    立てないとお仕置きだかんね!
.  ヽ_/ノヘ.)〜′   分かったら返事するのよっ!犬!

前スレ
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合19
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1188628049/

過去スレ
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合18
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1186218518/
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合17
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1183319583/
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合16
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1180423832/
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合15
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1177903894/
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合14
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1175996758/
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合12(実質13)
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1174711221/
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合12
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1171789741/
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合11
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1169642847/
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合10
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1167223501/
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合9
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1165455703/
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合8
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1164035310/
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合7
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1162705335/
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合6
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1160901342/
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合5
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1159793943/
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合4
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【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合3
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【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合2
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1156100259/
【グリグリ】ヤマグチノボル総合【ゼロの使い魔】
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1141803280/

まとめサイト ゼロの保管庫wiki
http://wikiwiki.jp/zero/




2 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/16(日) 23:50:56 ID:iZ2ERGWl
>>1
そして20スレ到達オメ。

3 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 00:07:11 ID:wbsTtmLk
>>1乙です。

4 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 00:16:35 ID:gjrVudtP
>>1
プレゼントです

つ鱗 www

5 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 00:34:12 ID:5ciPWPKj
…本当に次スレに移るの早かった…

6 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 00:43:56 ID:ReV0iSez

こ、これは乙じゃなくてへし折った杖なんだから!!
勘違いしないでよね!!

7 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 00:46:50 ID:iQVLa3yb
ちょっとばかし早過ぎないか?
とりあえず>>1もつ

8 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 01:33:52 ID:LgrhI3ER
>>1


つ鱗

9 名前:ボルボX:2007/09/17(月) 02:20:14 ID:Dj3xyU3d
>>1乙です。

さて、勝手にアンリエッタルートを書いてみるという基地外な発想の産物、
「白い百合の下で」の続編UPします。
つーかオリキャラやオリジナル設定登場しまくり・・・す、すまん・・・↓
 

10 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:21:13 ID:Dj3xyU3d
 秋の夜、トリステイン王国領。ゲルマニア国境近くの山中。
 月夜とはいえ、足元は暗い。
 黒衣の一団は、それでも急ぐ足を緩めなかった。

 先頭に立って案内していた〈禿げ〉は、もう少しで足をすべらせたまま、岩の多い山の斜面を転がり落ちるところだった。
 腰の杖を抜く暇もなかったので、とっさに首領格の〈山羊〉がレビテーションをかけてくれなければ、頭を斜面途中の岩で砕いていたかもしれなかった。

「気をつけろよ、〈禿げ〉。お前はこのあたりの出身だろうに」

 頭を下げ、礼と謝罪を繰りかえし述べる〈禿げ〉に、〈山羊〉はそっけなくそう言った。
 〈山羊〉は痩せて背が高い壮年の男で、あごに尖った黒いひげを生やしていた。旅人風の黒いローブの下は、黒のダブレットに茶革の剣帯、同じ革でできたブーツを身に着けている。
 〈禿げ〉をふくめ、他の者も似たような格好だった。
 
「本当に、あんたらには迷惑をかけてばかりだ」

 〈禿げ〉は、心底から頭をさげた。彼は一団の中でもっとも新米であり、数日前に加わったばかりであった。

「なに、それほど気にすることはない。同志になった以上、助け合うのは当然だ。
 だが、お前、少しなまりすぎている。時間があれば体も鍛えておけ。剣でも練習しておくのだな」

 〈山羊〉の言葉に、〈禿げ〉は「そのうち」と答えておいた。
 トリステインの下級貴族出身である彼には、正直、平民が使うような武器を練習する気はなかった。どうせ練習しても、彼の目的には間に合わない。
 この一団は変わったところがあり、大部分がメイジの集団でありながら平民の武器さえ操った……まあ、〈禿げ〉以外はゲルマニア出身であることと関係があるのかもしれない。
 あの国は革新的だそうだから。

 彼がこの一団に加わったのは、明確な目的があったからであって、それはもう目前なのだ。その大仕事が終わりさえすれば、彼は死ぬつもりだった。剣を練習してなにになるだろう。
 大仕事。ある貴人に深くかかわること。

(待っていろよ、女王)

 かつての主君への深甚な憎悪をこめて、彼は胸中につぶやいた。



11 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:22:32 ID:Dj3xyU3d

\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\

 朝。
 アンリエッタは書類にサインした。マザリーニが机の前で説明する。

「これはかの領主の家系から、領主権を正式に剥奪するものです。かの反逆者は子を残さず兄弟もなく、本人はすでに死んでおりますが、やはり手続きは必要ですからな。
 さっそく王都トリスタニアに送っておきましょう」

 年若い女王は無言でうなずいた。正直、十日前のあの事件のことはあまり考えたくもないが、そういうわけにもいかない。彼女は女王であり、やることは旅先でさえ多いのだった。
 旅といってもこれ自体が仕事、女王としての巡幸なのだが。

 ここは屋根に緑の風見鶏がある館、その一室。
 机と寝台、そして暖炉があるだけの質素な部屋。アンリエッタ自身が選んだのだった。
 窓から見える針葉樹の木々。森におおわれたこの土地は、ゲルマニアとの国境に近いトリステイン領だった。大貴族ラ・ヴァリエール家の領地からはそれほど遠くない。
 巡幸途中で訪れた土地の貴族の館であった。

 説明は終わったが、マザリーニの講釈は続いた。

「国内の封建諸侯をたばねるため、君主はときとしてこのような厳しい態度を示す必要があります、かれらを恐怖させるに十分な程度に。
 地下牢であの領主が言った言葉、『愛されるより恐怖されるほうがよい』という言葉には、一種の真実があります。ああ陛下、そう嫌そうな顔をせず聞いていただきたい。
 人間が裏切るのは、悪意からよりも弱さからであることのほうが多いのですよ。
 そして弱さは、愛よりも恐怖によって縛られるものです」

「枢機卿……」
 アンリエッタは少々うんざりしたため息をついた。重厚なマホガニーのテーブルに羽ペンを置く。
「その言葉は、何度も聞きました。ほかにもあなたから聞かされた訓戒で、わたくしがそらんじられる文句はいろいろありますよ。
『人に接するに誠実に、万民にあわれみ深く、しかし判断は感情にとらわれず沈着に、快活にふるまって士気を鼓舞し、臣下に公平を心がけ、余計なことを言わず行わず、敵対者には剛毅に、しかし膝を屈したものには寛容に……』
 いえ、多いとはいいませんが」

「君主の心得としては、少なすぎますな」
 マザリーニはあっさりと言ってのけた。
「それに、文句を覚えたということと、意味を理解しているということは別物です。
 理解していると思っていても、そうでないことが多いものですからな」

「わかりました、わかりました。要するに、貴族たちをおさえておくため、わたくしは王威を保つよう努めればよろしいのね」



12 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:23:05 ID:Dj3xyU3d

 アンリエッタは辟易しつつ、小言を終わらせるために自分からまとめた。
 マザリーニはうなずくと、ふと窓の外を見た。
 窓から数メイルの近い距離にある糸杉の木から、鳥の声が聞こえてきたのだった。

『rot! rot! rot!』

 枢機卿の視線につられて、窓のほうを振りかえったアンリエッタの顔が、少しだけかがやいた。

「まあ、あの小鳥だわ」

「ええ……しかし、王都の周辺では見かけない種類ですな。ゲルマニア近くの森の中に住む鳥でしょうか。
 そういえばあの変わった鳴き声さえ、ゲルマニア訛りのように聞こえます」
 マザリーニはそう言ってから、こほんとせき払いした。
「陛下、わたしはこれで……それと、そろそろこの地を離れなくてはなりません。巡幸はまだ途中なのに、一週間とあまりに長くとどまりすぎました。
 この館の主も、そろそろわれわれの滞在が、財政的に大きな負担だと感じだすでしょう」

 アンリエッタは窓のほうを向いたままだった。しかし、少したってから「ええ」と素直にうなずいた。
 女王というよりは幼い子供を思わせるしぐさ。それを見て、マザリーニは胸が痛むのを感じた。主君がなぜこの地に一週間もとどまったか、理由を彼は知っていた。
 老臣は背を向け、部屋から出て行った。


 彼が出ていくのを背後に感じて、アンリエッタは再度重くため息をついた。
 ほんとうに、いつまでも引きずっているべきではなかった。十日前の、嵐の夜の出来事はもう終わった。
 あの土地で民に虐政をしいていた領主は、死んだ。だが、それがアンリエッタの心を痛めているわけではない。

 領主の犯罪の……そしてアンリエッタ自身が行った政治の被害者であった少女がいた。彼女はアンリエッタを責めた。
 女王を傷つけようとした(真相はわからないが)彼女は、修道院に入れられることになった。たぶん、一生出てくることはないだろう。

 その少女が一週間前に閉じこめられた修道院は、この領地にあるのだ。

(もう、思いきらなくては。この地から出立しましょう、明日にでも)

 アンリエッタは決断すると、いつのまにかうつむけていた顔をあげた。窓をそっと開けて、小鳥を呼んでみる。
 小さな、緑色の美しい鳥だった。

 あの嵐の翌日から、その鳥は姿を見せはじめた。ためしにパンくずを撒くと食べる。
 そのせいか、ついてきた。女王の一行の周りを飛ぶようにして、きれいな声で鳴く。今は館の外を見ると、ときどきそこにいた。

「おいで、小鳥さん。またパンをあげるから」

 窓をあけてアンリエッタが手をのばすと、小鳥はそこに止まった。
 実はアンリエッタにとっても、戯れに言ってみたことだった。小鳥がほんとうにとまったことに驚いて、思わず笑みがこぼれた。



13 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:23:35 ID:Dj3xyU3d

「ごめんなさい、実はいまパンはないの」

 そう謝ると、なあんだというように小鳥は羽ばたいて離れた。
 糸杉の枝に戻っていく小鳥を見ていると、部屋のドアがノックされた。
 窓を閉めてふりむき、ドアの外に誰何する。

「だれ?」

「アニエスです」

 入室許可をだす。銃士隊隊長は、マザリーニと同じ意見を持ってきていた。

「そろそろわれわれは出立するべきです。これだけの人数の一行となると、さすがに同じ場所に長期間とどまり続けるのは無理があります。
 加えて王都のほうから、増派されたメイジの護衛兵が来ますし」

 当初、この巡幸にはあまりメイジの護衛兵は連れてきていなかった。アンリエッタ肝煎りの水精霊騎士隊くらいである。
 それと平民女性からなる銃士隊のみの護衛でも、大きな危険はあるまいと思われたのでそうしたのだが、あいにく騒ぎが起こってしまった。
 これから先もこのようなことがないとは限らない、と女王の身を案じる臣下たちが主張した。そこで、王都のほうから急遽、メイジで編成された近衛兵団が派遣されることになったのだった。

「ええ、わたくしもそう思っていました。なるべく早くにここを発ちます。ただ……最後に一度、外出したいのですが」

「……陛下。どこに行かれるつもりなのかは、察しがつきますが……」

「お願い、アニエス」

 「御意」とアニエスは引き下がった。無表情ながらどこか、アンリエッタに対して気づかいとわずかな苛立ちの雰囲気がある。

「しかし、気をつけていただきたい。街道のほうで、なにやら不穏な空気がただよっているそうです。
 平民の傭兵団がうろついていたという情報もあります。悪質な部類であれば、ときに盗賊と化す危険な存在で、メイジではないにしろ人数が集まると厄介です。
 まさか王権にたてつくことはないでしょうが」

「もちろん、注意します」



14 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:24:10 ID:Dj3xyU3d

 その返答に一礼して、退出しようとしたアニエスが、「そうそう」とまったくさりげない調子で訊いた。

「サイトと何か、いさかいでもあったのですか?」

 心臓がとびはねた。

「……な、なぜそう思うのですか?」

「いえね、たまたますれちがっても、隣のギーシュ殿にはごく普通に声をかけるのに、サイトには目も合わせなかったりしていますでしょう。
 あれは馬鹿ですが、悪い男ではありませんし、そろそろ機嫌を直してやっていただけませんか。護衛としてはなかなか優秀なので、遠ざけるよりはこき使ったほうがよいでしょう。
 あいつが陛下にたいして、なにか無礼をしたとかなら、わたしが木剣で立ち合ってしこたま殴っておきますから」

 アニエスは一見して真面目な表情。本気でいさかいがあったと思っているのか、わかっていて空とぼけているのか判断がつきかね、アンリエッタは少々顔を赤くして言った。

「喧嘩したわけではありません。……この前は彼にみっともないところを見せたので、どうも少々恥ずかしいのです。そうですね、勝手な態度でした。気をつけましょう。
 のちほどの護衛の件ですが、彼にもお願いすることにしますわ」

 アニエスが出て行ったあと、女王は座ったまま頭をかかえた。
 予想外だったのはアニエスに少年の名を出されたことではなく、その名を聞いてうろたえている自分がいることだった。
 いや、うろたえる理由はわかっている。

 あの嵐の後の夜、彼に口づけされた。「もう一度して、寝られるまでそばで手を握っていて」と自分から頼んだ。
 アンリエッタが求め、才人のしたそれはどちらかといえば、泣いて眠れない幼子に対するものに近かったと互いにわかっているが。
 もしかしたらこれはルイズへの裏切りではないでしょうか、とアンリエッタは目覚めてからそのことでも悩んだのだった。
 昔、彼とずっと雰囲気のある口づけを交わしたことがあったが、あのときはルイズの気持ちに気づいていなかったのだ。身をひくと言った今となっては、状況がちがう。

 先ほどの枢機卿の言葉を思い出す。
 『裏切りは、悪意よりも弱さから起こることが多い』。

(あれはまさに、わたくしの弱さから起きた裏切りなのかも……)

 爪を噛みながら悶々とする。

(とにかく、普通にしていましょう。あれはサイト殿の善意でしたし、あの日から十日もたちました。本来、意識するのもおかしいのだから。
 いっそ……そうです、このあたりはラ・ヴァリエール領に近い。帰省しているというルイズを呼んでみましょう、次の土地で落ちあえるように)

 われながら、名案のように思われた。恋人同士であるあの二人の仲むつまじい様子を見れば、きっと変に意識してしまうことも無くなるだろうから。
 その様子を想像したときかすかに胸が痛んだことは、気がつかないふりをした。



15 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:25:10 ID:Dj3xyU3d
 
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\

「なあサイト。それルイズからの手紙か?」

 ギーシュが薄気味悪そうな顔でのぞきこんできたため、才人は手紙をとっさに握りつぶしてしまった。

「な、なんでわかるんだよ」

「ニヤニヤ気持ち悪い笑みを浮かべたり、急に黙りこくったり、震えながら怯えたり、手紙を読みながら君の顔が面白いように変わるんでな……」

 ああうるせえ向こう行ってろよ、と才人は照れ隠しに乱暴な言葉を投げた。くしゃくしゃになった手紙を広げながら、いそいそと読み返していく。
 ギーシュは肩をすくめて地面にしゃがみこむと、自分の使い魔である巨大モグラと会話をはじめた。

「聞いておくれヴェルダンデ。最近のぼくは怖いくらいに絶好調だ。昨日も女王陛下から通りすがりにお言葉をいただいてしまった。
 しかも陛下はその後、顔を赤らめて目をそっと伏せられたのだ……ああ、あの可憐さ!
 巡幸に付き従ってモンモンと離れているのは寂しいが、言えるね! 今の日々は充実しきっていると!
 おやサイト、なんでまた怯えだすんだね?」

 また握りつぶしてしまったルイズの手紙を握りしめつつ、才人は蒼白な顔でぶるぶる震えている。
 『もうすぐそっち行く』という内容の手紙、その最後の行には、こう書いてあるのだった。
『姫さまの随行、きちんとつとめること。追記、でも色気を出したら殺す。必要がなければ半径3メイル以内に近寄るべからず。影を踏むのも避けるように』

 キスしちゃいました。

 いやあれは下心の産物ではない、と一心に念じる。
 でも説明して、それが嫉妬深いご主人様兼恋人に通じるかは……通じるかもしれないけど、たぶんそれでも半殺しにされる。
 とにかく無かったことにしよう、と才人は思うのであった。

(それにしても姫さま、どうも危なっかしい人なんだよなあ……あの夜も、だから思わずああしちゃったわけで)

 手紙をまた広げながら、ぼんやりと思いかえす。
 あれから、目を合わせることさえ避けられていた。
 昨日ギーシュと館の中を歩いていて、アンリエッタとすれ違ったときなどがそうで、顔を見たら視線をそらされた。
 嫌われたのではなく意識されているらしい、と勘の良くない才人でも察することができたのは、アンリエッタの態度の端々にそれがあらわれているからだった。

(頬染めて目を伏せられると妙な気分になっちまうんだよなぁ……昔みたいだ。まあ、時間がたてばそのうち元通りになるだろう)

 実はちょっと名残惜しかったり。ルイズの前で言えば血がとぶが。才人は能天気にそう思いながら、手紙をふところにしまった。


16 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:26:20 ID:Dj3xyU3d

\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\

 太陽はすでに昇っていた。
 彼ら二人は崖の大岩の上に立って、眼下の村を見ていた。
 〈禿げ〉の故郷に似た風景だった、森のなかにひらけた田園と村と丘。故郷は近いし、こういったところはどこも似たようなものかもしれないが。
 下級貴族の四男として生まれたため、出ていかざるを得なかった故郷をなつかしく思う。

 が、正確には見下ろしているのは〈禿げ〉一人で、隣の〈鉤犬〉はひっきりなしにしゃべり続けている。左の手首を失い、かわりに鉄の鉤をつけた男だった。
 その平民出身の男は、乱杭歯をむき出しにしつつ、ときに鉄の鉤を宙にふりまわしながら、熱をこめて話していた。

「われわれは共和主義を信奉している。われわれが目指すのは、貴族も平民もない理想の世だ。
 下級貴族のあんたも考えてみろよ、大貴族や王家のような連中が軍隊をかかえてにらみをきかせ、聖職者とつるんで世の栄華をほしいままにしている。
 戦争で戦って死ぬのはおもに下級貴族であり、攻めこまれて死ぬのは多くが平民だ。その上に君臨する連中はわれわれの血を吸って肥え太っていくんだ。
 人民はいまこそ立ちあがり、王政を打倒すべきなんだ」

 相槌をときおりはさむものの、〈禿げ〉は憂鬱な気分でそれを聞き流していた。
 たしかに彼も数日前にこの一団、共和制を実現するために戦う者の一人となったばかりであったが、講釈をきくため、または議論をするために参加したわけではなかった。

(この平民はなんのためにこの一団に加えられたんだろう?)

 〈禿げ〉は横を向き、〈鉤犬〉の貧相な面をじっくりとながめた。
 と、その小男はにやっと笑った。意外に狡猾な笑みだった。

「あんた、おれが役に立つのかと考えているのか? おれは『鼻』だよ。鼻が利くんだ、犬のようにな」

 考えを読まれたことに、微妙に不快になり顔を前にもどす。だが、〈鉤犬〉の自慢げな語りはやまなかった。

「においでわかるのさ、なんでも。女と男が、富める者と貧しき者が、あるいは貴族と平民が……このような能力は、ときにひどく重要になるんだ」

(性別はともかく、身分や貧富の差までわかるのか?)

 〈禿げ〉には疑問だったが、あえて問いただそうとは思わなかった。

「おい、村に降りて情報を集めるぞ、〈鉤犬〉。〈禿げ〉、お前はどうする?」

 〈山羊〉および他の同志たちが彼らの背後にやってきていた。メイジである自分よりも〈鉤犬〉が優先して連れて行かれることに、一瞬不満をおぼえた〈禿げ〉だったが、すぐ思い直した。
 頭から黒いフードをかぶっている自分は、村人の注意をひくだろう。〈山羊〉がためらうのも無理はない。
 それでも、彼は「行く」と答えた。

 〈山羊〉はうなずくとそばに来て、眼下の村を指ししめしながら部下たちに説明した。

「見ろ。この村は街道から少し離れた場所にある。
 街道を通るよからぬ輩を警戒してか、村はぐるりと石の壁で囲まれている。
 街道に面した石づくりの‘表門’と、村の裏手にある木でできた‘裏門’の二箇所の門は日がしずむと厳重に閉ざされる。
 どちらもそこそこ重厚な門ながら、開閉はそれなりに早い。敵の襲来があれば速やかに閉じられなければ意味がないからな。
 だが少人数のわれわれにとって問題なのは、むしろ、門を閉じられて村から逃げ出せなくなるほうだ。お前ら、注意しておけよ。
 銃士隊という平民の女からなる集団と、騎士隊ごっこをしている餓鬼の集団がよく村を徘徊しているそうだからな……そんな連中でも、警戒にこしたことはない」

 〈山羊〉はつづいて、村から離れた場所に見える大きな街道、その向こうを指さした。

「そして、この村から街道をよこぎって、歩いて二時間ほどの離れた場所にあるのが、女王の滞在している領主の館だ。村と館の間を、街道が通っている形だな。
 いまは〈ねずみ〉一人がそちらに探りに行っている」

 〈禿げ〉は逐一うなずきながらも、なんとなく村から少し離れた田園や丘のほうを見やった。
 その視線の先、村の外にある風吹きわたる丘の上に、藤色の壁をした煉瓦造りの建物がそびえている。



17 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:27:38 ID:Dj3xyU3d

\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\

 その丘の上。
 太陽のまぶしい午後、修道院。秋の花々が咲きほこる中庭。
 藤色の壁にはツタがつたい、秋風に葉がときおり揺れる。

 青い隻眼の少女は、中庭で同じテーブルについているアンリエッタに微笑み、ようやく口を開いた。彼女はこの先もずっと着るであろう、黒い修道服を身にまとっていた。

「アンリエッタ様、本日はようこそおいでくださいました。あなたの用意してくれた、私の素敵な牢獄に。私もここに入ってまだ一週間ですけど」

 アンリエッタは口を開きかけて、閉じた。
 まだ挨拶と、ここの暮らしに不都合はないかという問いしかしていなかったが、もう言葉が詰まっていた。
 背後のアニエスが咳払いしたのが聞こえた。

 少女の青い瞳は、深い淵のように澄んで暗かった。

「ここはとっても快適な暮らしです、と言えばアンリエッタ様は満足でしょうか? 毎日変わらぬ祈りと労働はいずれ飽きがくるでしょうし、門の外に出ることは許されませんが……
 食べ物には事欠かず、お庭には空と風と花があります。歌をシスター達が教えてくれます。
 なにより、痛いことはもうありません。
 これでじゅうぶん、死ぬまでの長い長い時間を耐えていけますよ」

 狂人としてこの修道院に入れられた少女は、あくまで笑みを崩さぬまま、アンリエッタの落ちつかなげな様子を見ていた。そして、会話の主導権を握っていた。

「それにしても、女王陛下には見えない服装ですねえ、アンリエッタ様。
 ここに来たと村人に知られないためでしょうか?」

 図星ではある。今回は完全に私事であり、村を通ってくるときにあまり目立ちたくなかったのだった。
 どのみち、護衛として銃士隊や水精霊騎士隊が幾人か同行したため、村人の目は引きつけたであろうけれど。それでもなるべく目立たないようにできたと思う。

 アンリエッタはこわばった口をどうにか開いて、言葉を発した。

「なにか、必要なものはありますか」

「いいえ、何もありませんよ」

「何でもいいのです、望みがあるなら……」

「アンリエッタ様」

 隻眼の少女の声にこめられた拒絶の意思は、女王の舌をふたたび凍えさせるにじゅうぶんだった。アンリエッタがおろおろしながら黙ったのを見て、少女は続けた。



18 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:28:12 ID:Dj3xyU3d

「お帰りください、そして願わくばもう来られませんように。
 私があなたから受け取るのは、この終のすみかだけでじゅうぶんです。
 これ以上の厚意を、けっしてアンリエッタ様からは受け取りたくない」

 少女はゆっくり立ち上がってテーブルに背を向け、ふらふらとどこかおぼつかない足取りで庭を歩き出した。
 何も言えないまま座っているアンリエッタに、アニエスが背後から肩に手をかけた。苦い声でささやきかけられる。

「潮時です、陛下。行きましょう」

 アンリエッタは一瞬、泣きそうに顔をゆがめてからぎこちなく立ち上がった。
 救いを求めて来たわけではなかったけれども、どこかでそれを期待していたと今、気づいた。
 せめて彼女にできることをしたいという思いは、裏を返せば、自分がそれで少しでも楽になりたいということだったのだ。
 そしてそれは少女に、当然のように突き放された。

(わたくしはなんと醜い……)

 自己嫌悪を強く抱きつつ、アニエスに付き添われて歩み去るアンリエッタの背に、少女が草花の中を歩きながら静かに歌う声が、かすかに届いた。

  聖ナル聖ナル、聖ナル君、
  暗キハコノ世ヲ覆ウトモ、
  タダ君ノミハ、聖ナル方、
  栄耀栄華ヲ極メエン……


\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\


 丘を下り、田園の中を通る道を歩いていく。石壁にかこまれた村へ戻るのだ。
 借りてきた館の質素な馬車を、そちらに置いてあるのだった。

 麦の穂は金にかがやき、道端にはコスモスをはじめとした花が揺れる。
 麦畑の中の農夫たちが、汗をぬぐいつつちらちらと視線をなげてくる。
 のどかな秋の午後の風景だったが、アンリエッタの足取りは重かった。
 付き従っているアニエスと才人も、気分が沈鬱にならざるをえない。

『あの女王の娘っこ、なんだかひどくしょげてるぜ。相棒、なぐさめてくれば?』

「デルフ、デリカシーってもんを覚えような。なんでも首をつっこめばいいってもんじゃねえんだよ」



19 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:28:57 ID:Dj3xyU3d

 デルフリンガーが沈黙した。よりによって才人にしみじみした口調で諭され、なにやら深刻なショックを受けたらしい。
 才人は前を歩くアンリエッタを見やった。栗色の頭がわずかにうつむいていることといい、いつもより力のない歩き方といい、確かに気落ちしているのがはっきりとわかる。

 才人はアニエスと同じく、護衛として付いていったのだった。女子修道院は男子禁制のため、外で待っていたのだが。
 したがって、どんなことがあったのかわからず、推測するしかない。

 まあいちいち俺がなぐさめるわけにもいかねえしな、と彼にしては冷静に思う。
 姫さまにはアニエスさんだっている。宰相さんもいる。何よりも、たぶんこれは姫さま自身の問題なのだ。

 とはいえアンリエッタを見ていると感じる危なっかしさに、どうにも気をもんでしまうのも事実だった。デルフにはああ言ったが、何とかしてやりたくはある。

(どうしたもんかね。男だったら酒飲ませればなんとかなるんだけど。
 あ、でも姫さまも酒はたしなむんだよな。
 そういえば、あの村の裏門をくぐってすぐに居酒屋があったな……二日前、ギーシュたちと飲みにいったとこが)

 そんなことをつらつら考えているうちに村まで戻っていた。丸太を組み合わせた木の裏門をくぐると、つい、目で居酒屋のたぐいをさがす。
 それはすぐそばに建っていた。


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 〈禿げ〉は落ち葉をふみしめていらいらと歩き回っていた。常緑樹の杉林とはいえ、長い年月のうちに落ちた葉が積もっていた。踏むたびに足下で腐った葉が砕ける。
 〈山羊〉は杉の切り株に座って知らせを聞いていた。

 村はずれの森の中で待機している者は、〈禿げ〉と首領である〈山羊〉の二名だった。〈鉤犬〉およびその他、村を探りにいっている者が六名。
 そして今ここに、館を偵察してから知らせを持って戻ってきた〈ねずみ〉で最後。
 総勢九名の、ささやかな一団といえた……だが、〈鉤犬〉以外の八人全員がトライアングル級の強力なメイジであり、さらに風系統の〈禿げ〉以外は、攻撃に向いた火系統。

「女王が? 館から出た?」

 〈山羊〉の声は〈禿げ〉にも届いていた。〈禿げ〉は足をとめて、首領のほうを見た。

「本当か? 女王のような、たとえ多くの護衛がいなくとも目立たざるをえない者が近くにいれば、村人が騒ぐはずだが。
 それとも村には来ず、そのまま森にでも入ったというのか」

 知らせを持ってきた〈ねずみ〉に、〈山羊〉が繰り返したずねている。
 〈ねずみ〉が答えた。

「確かなことはわからん。俺は館で召使たちの話を盗み聞きしてきただけだ。
 その話だと、午後から館では女王の姿が見えないらしい。御付きの者も何人か。
 そして有名なマザリーニ枢機卿が館の主にこぼしていたという」



20 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:29:37 ID:Dj3xyU3d

 〈禿げ〉は口をはさんだ。

「あの女王は、庶民の娘に変装することがあると軍でも囁かれていた。今度もそうしたかもしれない、内密に出かけたならとくに。
 もし本当にそうだとするなら、これは絶好のチャンスではないか?」

 それを聞いて〈山羊〉と〈ねずみ〉が顔を見合わせた。〈山羊〉が何か言うまえに、〈ねずみ〉が口を開いた。

「〈山羊〉、さらに付け加えておくことがある。先ほど村中で、〈鉤犬〉たちと接触してきた。
 〈鉤犬〉は、村中で見つけたある街娘姿の少女に注目している。もしかすると女王ではないか、と」

 〈山羊〉は顔をしかめ、〈禿げ〉は我しらず身をのりだして、異口同音に「どういうことだ?」とたずねた。〈ねずみ〉は肩をすくめた。

「さあね。だが、〈鉤犬〉にはわかるんだ、知ってのとおり。
 そしてほかの五人も口をそろえて言うことには、その少女のしぐさの端々からは、高貴な者のふるまいが現れている、と」

「その娘はどこにいるのだ?」

「村はずれの酒屋、村外の修道院につながる道に面した店に」

「……その娘に護衛らしきものは?」

「いる。村にいた水精霊騎士隊隊員が集まっている。多くはない、三人ほどか」

 〈禿げ〉は沸騰するような興奮をおさえられなくなった。〈山羊〉をふりかえる。

「どうやら当たったようではないか、行こう」

 〈山羊〉はむっつりと〈禿げ〉を見つめ、ふってわいたこの機会に不満をしめした。

「あまりにも早すぎる。この村に訪れたとたん、女王に手をかける機会が来た? 俺としては、当初の予定通りに確実に物事を進めたいのだがね」

「〈山羊〉、あんた悠長なことを言うな。そばにいる護衛は三人、それも未熟な子供なのだぞ。女王自身はたしかに優れたメイジだが、一人では問題にもなるまい。
 これは間違いなく、願ってもない好機だぞ!」

 〈山羊〉は冷たい目で彼をにらみ、それからしぶしぶのように座っていた切り株から腰をあげた。

「まあ、それならば行ってみよう。〈鉤犬〉たちはそこにいるのだな? 〈時計〉、案内しろ。もし本当に容易に手をだせる状況であれば、すみやかにこれを捕らえよう。
 そうでなければ、いったん逃げるべきだな……あらためて待ちに徹する」

 〈禿げ〉はその尻込みした様子に、我慢ならなくなるところだった。
 ゲルマニア生まれの『火』系統のメイジのくせに、この男は臆病なほど慎重すぎる。『風』である自分のほうが今よほど、血が燃えているというのに。
 まあいい。とにかく、アンリエッタ陛下にようやく拝謁がかないそうだ。
 〈禿げ〉は目深にかぶった黒フードをぐっと下に引っ張った。



21 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:30:33 ID:Dj3xyU3d

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 最近はあやしい連中が多すぎる、と村の居酒屋の主はためいきをついた。
 まだ昼であるにもかかわらず、せまい店内には人間が詰まってきている。それも、多くが一見の客だった。
 領主様の館に女王陛下が滞在していることと、なにか関係があるのだろうか。

 テーブルに座ってちびちび飲んでいる少女。田舎娘では断じてない。黒いワンピースを身につけた街娘の格好だが、旅行に来た街娘でもないだろう。
 あれは身分の高い者の変装にちがいない。自分でさえわかる。最近、村をうろつく水精霊騎士隊という連中が、そのテーブルに同席している。護衛だろう。
 それにしても、美しい少女ではある。

 六人組の旅芸人らしき一座。こいつらもあやしい。たしかにこのような連中が、たまにこのような酒屋に集まって芸を披露し、おひねりをもらうために来ることはある。
 しかし、それは普通は夜だ。純粋に客として来たにしては、彼らは酒を頼んでいない。料理は注文したが、見たところほとんど食べていなかった。
 そして六人組は、どうやら少女に注意をはらっているようだった。

 と、六人組の一人、左手に鉄の鉤をつけたものが立ち上がった。仲間たちが驚いたように引き止めようとするのを無視して少女のテーブルに近寄る。
 その男は「相席いいかね」と言うと、返事もまたずに少女の向かい側に腰をおろした。

 少女は戸惑ったように、その小男を見ている。護衛たちも同様の反応だった。
 警戒の視線を突き刺されながら、平然とした様子で、その鉤の男は口をひらいた。
 居酒屋の主人はついつい耳をすませた。

「あんたはやんごとなき身分の出だね、違うか?」

 その指摘に、主人は思わずおいおい、とつぶやいた。
 そういうことは、薄々わかっていても面と向かって切り出すことではない。
 自分だって興味津々ではあるが、まさかそこまで大胆なことはしない。

 少女は驚きに目を見開いていた。ややあって、「……何の根拠で」と鉤の男に訊きかえす。その態度だけですでに、図星を突かれたのは明らかではあったが。
 居酒屋内にいるすべての人間の注目をあつめ、気をよくしたように左手の鉤をふって、男はとうとうと語りはじめた。

「あんたからは高貴な者のにおいがする。
 最上質の香水の匂い、ごくわずかにつけてほのかに香らせたものが。
 シーツの糊の匂い、おそらく毎日洗って糊づけしてあるらしきものが。
 贅をこらした料理の匂い、香辛料をふんだんに使ったものが。
 石鹸と薬草の匂いは、湯を満たしてハーブを入れた風呂のものだ」

 小男が口をとざすと、店内がしんと静まった。主人はひそかに手に汗をにぎった。
 と、少女が口をひらいた。

「……それで?」

「いや、どうということもない……ただね、確認したかったのさ。もっと当ててみせよう。
 あんた、トリステイン王家の縁者だな? それも、とても中心に近い。おや、図星を突かれた顔だな、それは。あんたひょっとしてアンリエッタ女王か?」



22 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:31:05 ID:Dj3xyU3d

 いまや少女は完全に、固まった顔をしていた。
 鉤の男が女王陛下の名を呼び捨てにしたことに、居酒屋の主人と同じく衝撃を受けたのであろう。

「……無礼者!」

 少女は鋭く声高に叫んで、杖を引きぬいた。
 その瞬間、椅子を蹴たてて六人組が立ち上がり、同じくさっと杖を引きぬいた。鉤の男がけッけッと笑った。

「アンリエッタ陛下、われわれと一緒に来てもらいたいね。彼らは全員が『火』のメイジで、かなりの使い手だよ……おとなしくしたほうがいいと思うがね?」

 そう言った瞬間に、鉤の男はテーブル越しに胸ぐらを、少女の手につかまれて引き寄せられた。
 目を白黒させる鉤の男の体が邪魔になり、六人組はとっさに呪文を放てず固まったようだった。その隙に、少女が朗々と呪文をとなえだす。
 胸ぐらをつかまれたままの男が、背後の六人組に向けて叫んだ。

「落ち着け! 女王の系統は『水』だ、直接攻撃に向いてはいないぞ! ゆっくり対処……」

 店内で爆発が起こった。

 冗談のような威力で、店の扉のあたりの壁が粉みじんに吹き飛んだ。
 六人組はあるいは爆風で床に叩きふせられ、あるいは扉ごと外に吹っ飛ばされ、直撃をまぬがれた二名ほどが理解不能の目で壊された壁をふりむいている。
 起こった絶叫は、おのれの店が損壊するのを見た主人のものである。

 胸ぐらをつかまれたまま凍りついている鉤の男に、少女が杖をつきつけて不機嫌そうに言った。

「まずそこが間違ってんのよ。たしかにわたし、畏れ多くも、王位継承権なんてものをいただいてるけどね。姫さま本人だなんて勘違いもいいとこだわ」

「あ……あんたは?」

 その桃色の髪をした少女は、面白くもなさそうに名乗った。

「ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール」



23 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:31:35 ID:Dj3xyU3d


 〈ねずみ〉が先に立って居酒屋のほうに歩いていく。その二十メイルほど後方から、〈禿げ〉と〈山羊〉は肩をならべてついていった。
 〈ねずみ〉と距離をあけたのは無関係をよそおうためである。
 前を見たまま〈山羊〉が言葉を発してきた。

「〈禿げ〉、アンリエッタ女王はどのような人となりだ? 俺が知っているのは広く知られた話だけだ。
 タルブの戦のとき女王は結婚式の途中だったが、みずから走って戦場にかけつけた。アルビオン遠征では終始積極的に攻めることを主張した。
 この話をきくかぎり、烈女という印象になるがね。
 たとえば、民を人質にとるとすれば、彼女にはどれだけ効果があると思うか?」

 〈禿げ〉は一瞬、人質をとる? と顔をしかめかけた。下級とはいえ貴族出身であり、軍人でもあった彼には、そのような行為は下劣に思われたが……しかし考えなおす。
 どのような手段も選んでいられない事態になるかもしれない。それに、かつての主君を害すると固く決意した時点で、自分はいまさら誇りを云々できる立場にない。
 しかし答える必要はなくなった。「まあそれはいいか」とつぶやくと、〈山羊〉が別の質問をしてきたので。

「トリステイン人であるお前だけが、まがりなりにも女王の顔を見たことがある。見分けはつくだろうな?」

 その確認に、〈禿げ〉は記憶をさぐった。過去の閲兵式で、タルブの戦で、アルビオン遠征の折で、あの純白の衣装を身につけた女王の姿を見た。
 いずれもやや遠目からであったが、そう簡単には忘れない。
 あのころは彼も、女王に忠誠を誓った軍人の一人であり、周囲の同僚とともに熱狂して「ヴィヴラ・アンリエッタ」を叫んだのだった。
 あの栗色の髪、幼さの残る美貌は、強く印象に残っている。

 感慨をこめて「ああ」と〈禿げ〉が首肯すると、〈山羊〉はそれならよしとばかりにうなずいて続けた。

「お前の復讐ももうじき成るわけだが……お前、あの女王をどうしたいんだ? 自分の手で殺すつもりでもあるのか?」

「さあ、自分でもわからないな。ただ何かせずにはいられないのだ。言いたいことをすべてぶつけてしまえば、案外それですっきりするかもな」

 おいおい、とでも言いたそうな顔で〈山羊〉が横を見てくる。〈禿げ〉は暗い笑みを唇のはしに浮かばせた。

「冗談だ。最後まできちんとやるさ。捕らえる、それができなければその場で陛下を弑したてまつる、だろう?」

 それを聞き、〈山羊〉が自分のあごひげをいじりながら、目をすがめた。

「いいのか、〈禿げ〉? お前以外、俺たちは平民の〈鉤犬〉も含めて、みなゲルマニア出身で……まあ、元よりまっとうな連中でもない。
 だがお前はトリステイン人だ。しかも、元軍人だろう。女王を害することにためらいはないか?」

 〈禿げ〉はその言葉に、少し考えた。
(あるかもしれない。俺の心をおおっている火を吹き消せば、その下から見つかるだろう。だが、この憎悪という火は燃え盛っている)
 結局、彼は言った。

「あのような年若い小娘であろうとも、至尊の頂にいる者であろうとも……俺は、あの女が憎いのだ。
 だから〈山羊〉、これ以上心配するな。俺がかつて持っていたような女王への畏れや忠誠心をふたたび抱いて、あんたらを裏切るようなことは……」



24 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:32:10 ID:Dj3xyU3d

 〈禿げ〉が言い終えないうちに轟音がひびき、前方に見えてきていた居酒屋の扉が、内側から吹き飛んだ。
 目と鼻の先で起きたことに絶句して立ち尽くしたらしい〈ねずみ〉の後方で、〈禿げ〉と〈山羊〉もあぜんと口をあけて吹き飛んだ扉を見つめた。

 居酒屋の爆発に、村人、銃士隊、水精霊騎士隊のだれもが目を向けた。すでに一部は、そろそろと近寄りだしている。

「あの馬鹿ども――何をやった!」

 〈山羊〉がうめき、様子を見ようとしてか、止めていた足を動かして野次馬の中にはいっていく。
 〈禿げ〉はその後につづこうとして……既視感を覚えた。
 横を見る。

 家々の窓や戸から見ている村人……仲間と一緒に駆けてくる杖をもった少年たち……彼らと合流して居酒屋に近寄る銃士隊の少女たち……足を止めて騒ぎを見つめる銃士隊隊員……
 雷に打たれたように、〈禿げ〉は一点を見て動きを止めた。記憶が、瞬時によみがえる。

 あの少女。
 彼女が歩くと王冠が輝いた。栗色の髪が風にほどけた。処女雪のような白のドレスがひるがえった。レースの裳裾で白百合の紋がはためいた。

 いま見ている彼女は変装していた。王冠はなく、髪を結っており、身に着けているものはドレスではなく、ただひとつ同じ白百合の紋は胸につけられている。
 それでも〈禿げ〉には彼女がわかった。多くのトリステイン軍人が彼女の姿を覚えているのと同じで、彼もまた強く少女の印象を心に残していた。
 今では憎悪をこめて思い浮かべるとしても、やはりその姿は脳裏に強烈に焼きついている。

 見つけたぞ、アンリエッタ陛下。彼はそうつぶやくと、マントの下の杖をにぎりしめて女王のほうに歩き出した。
 
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 まさか、ほんとうに居酒屋に誘うわけにもいかない。
 才人は一瞥をなげたのみで、女王とアニエスの後ろにつきしたがって店の前を通りすぎた。向こうから歩いてきた者とすれちがう。

(ルイズもうすぐこっち来るとか言ってたよなぁ。あいつが話し相手になってやれば、姫さまも元気が出るだろう。
 俺もそろそろあいつと会いたいしな……ルイズが来たら来たで、いろいろと大変だけど。あいつ嫉妬深いし、そのせいでときどき変な行動するし)

 晴れて恋人関係になってから起きたあれこれの騒動を思い返すと、頭痛がしてくる。しかしそんな思いと裏腹に、才人の顔は勝手にニヤニヤゆるむのだった。



25 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:33:13 ID:Dj3xyU3d

 その笑みは、背後で起きた轟音によって瞬時に吹き飛んだ。
 居酒屋の扉がふっとび、二人ほどが外に投げ出されてきたのだった。
 さすがに度肝を抜かれたのは、前を歩いていた二人も同じらしく、ふりむいて目を丸くしている。

「な……なんだ?」

 アニエスがさりげなく腰の剣の柄に手を置きつつ、つぶやく。
 才人はぞぞっと背筋に冷たい虫がはったのを感じた。
 今の爆発は、激しく覚えがあった。
 アンリエッタも同じことを思ったのか、「あれはまさか?」と洩らす。

 たちまち人がよってきて、あたりは喧騒に包まれていく。
 才人はある予感から、野次馬を押分けて居酒屋の中に駆けこもうとして、ふと――本当にふと、アンリエッタのほうを見た。

 今の女王は、少年のような格好をしていた。まず髪を結いあげて普段と印象を変えてある。
 体に密着する、板金で補強された鎖かたびら。下は乗馬服のように動きやすく股下が分かれている。手と足に甲をつけ、腰には剣帯。

 つまり銃士隊員の服装であった。

 この一週間、暇つぶしに村中をうろついている銃士隊員は結構いるため、たしかに村人も今さらあまり目を向けないのである。

 しかし、才人はアンリエッタの、その凛々しく中性的な印象をあたえる姿に見とれていたわけではない。彼の目は、その背後に向いていた。
 騒ぎの中、杖を手にして女王にゆっくり歩み寄る男の姿を。それは黒いフード付きのマントをすっぽりと頭からかぶっていた。

 才人の視線に気づいたアニエスが体ごと振りかえる。
 次の動きは迅速だった。彼女は拳銃を抜き、アンリエッタと黒フードの男の間にたちふさがった。
 アンリエッタがふりむき、才人がデルフリンガーを肩から抜いて横に並ぶより先に、アニエスは銃を男につきつけて怒声を放った。

「なんだ、貴様は!」

「どけ、女。そして少年」
 その男は杖をつきつけ、短く言った。
「用があるのは女王だけだ」

「なんの用か言ってみろ」

 アニエスの詰問に、男は答えなかった。フードの奥に見える双眸が、暗い火をちらちらと燃やしている。
 敵意が膨れあがるのを肌で感じ、才人は先に打ちこむべきかどうか一瞬迷った。
 と、男が彼らの背後、アンリエッタのさらに後ろにむけて叫んだ。



26 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:33:59 ID:Dj3xyU3d

「〈山羊〉、この娘だ! 栗色の髪の、銃士隊の服を着た娘が女王だ!」

 才人は肩越しにふりかえる。
 居酒屋の中に踏みこみかけていた男が、振り向いて顔をゆがめた。

「そっちだと?」

 他に居酒屋の外に倒れていた、旅芸人のような服装をした男たちもよろめきつつ身を起こしている。彼らも一様に、フードの男の言葉をきいて愕然としたようだった。
 その一人が、うろたえた態で罵った。

「か……〈鉤犬〉の畜生めが、突っ走ってとんだどじを踏みやがった!」

 その罵声に答えたのは、彼らの頭上で巻き起こった再度の爆発だった。 
 直撃を避けようととっさに転がる男たち。それを見やりながら、才人は次にだれが出てくるかを確信した。
 アンリエッタも同様だったらしく、半壊した居酒屋から出てきた、桃色の髪で黒いワンピースの少女を見たとき、才人と声が重なった。

「「ルイズ」」

「え、サイト……って、姫さま!? その格好、いえ、まずこの連中……姫さま。こいつら、不逞の輩ですわ。姫さまを畏れ多くも拉致し奉らんとしていました」

「わたくしを……そう」

 アンリエッタが唇をかたく引き結び、視線を前にもどす。
 才人もそれで、フードの男に向けて顔をもどした。
 男は口の中で短く何かを唱え……アニエスが「貴様」と怒鳴って発砲するのとほぼ同時に、圧縮された空気の固まりが彼女と才人めがけてぶつかってきた。
 とっさに体の前でかまえたデルフリンガーで吸収したものの、才人は冷や汗を流した。

 エア・ハンマーを撃ち出しながらその男は、風弾の反動で飛びすさり、銃弾をかわしていた。
 しかし驚いていたのは、呪文をかき消されたその男のほうだったろう。彼はわずかに沈黙してから言った。

「なるほど……平民上がりでも女王の護衛ともなると、いささかならず変わっているようだな」

 アニエスが、一発きりの拳銃を投げ捨て、剣をシャッと抜く。語るつもりはもはやないらしく、無言で構えた。
 才人もまた、過去に腕のいいメイジと対したときに何度も抱いた緊張を、この場でも味わっていた。警戒をゆるめず、じりじりとすり足で距離をつめていく。



27 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:35:13 ID:Dj3xyU3d

 〈山羊〉と呼びかけられた黒衣の男が合図すると、頭をふって立ち上がった男たちが杖を手に詠唱を始めた。見る間に炎球が形づくられていく。
 しかし、横合いから飛んできた大量の氷の矢や石つぶて、銃の発砲に邪魔され、当たりはしなかったが炎球を放つことはできなかった。
 このとき、村中をぶらついていた水精霊騎士隊および銃士隊の面々がかなり集まってきており、男たちを半包囲しつつあった。周囲をぐるりと見まわして、〈山羊〉が痛烈に舌打ちした。

 アンリエッタはとっさに叫んだ。

「村の人は速やかにここから離れなさい!」

 アニエスもフードの男と向かい合ったまま、周囲へむけて鋭く一喝する。

「門を閉めろ!」 

 それに対する黒衣の男たちの反応も、いっそ見事なほど早かった。
 〈山羊〉が「逃げろ」と一声叫び、裏門のほうに身をひるがえす。
 アンリエッタは、五メイルほど前方で、フードの男がぎりっと歯噛みするのが聞こえたような気がした。

 だが男たちがそのまま遁走することはできなかった。
 間一髪、村の裏門は地響きをたてて外側から閉められ、彼らは内側に取り残された。
 が、その丸太を組み合わせた重量感のある門に、彼らの放った炎球が怒涛のように命中した。扉は見るまに高温で炭化し、火をふきあげた。

 フードの男がいきなり自らの起こした風に乗って前に突っこんだ。
 アニエスと才人、およびその後ろのアンリエッタを迂回して横を走りぬけ、仲間のもとに駆けよると、炎上する扉にむけて杖を振る。
 風竜の体当たりかと見まがうほどの威力で、エア・ハンマーの直撃を食らった炭化した扉が破砕された……
 ……が、そこまでだった。
 いくつもの銃声が響き、男たちの一人が絶叫をあげて肩をおさえた。
 扉は半分壊れたが、いまだ炎と高熱を放ち、とても生身では近づけない。もう一度何かの魔法を使わねば通れなかったが、すでに銃口や杖が彼らに向いていた。
 居酒屋の中からは、水精霊騎士隊の少年三人に両腕をつかまれて、手に鉤をつけた小男がひきずられて出てきた。

 剣を手にしたアニエスが、硝煙のにおいを払うように大声で警告した。

「たとえ回復魔法であれ、もう一度でも詠唱をとなえれば、その瞬間に一斉射撃させる。銃士隊、水精霊騎士隊も狙いをつけろ。ためらわず撃てよ。
 さてムッシュ、愚行はここらで幕引きだ。
 それともまさか、こちらの数の優位を無視するまでに愚かかな? この場に集まった三十人が銃と杖で狙いをつけているのだぞ」



28 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:36:24 ID:Dj3xyU3d

 男たちは答えなかった。
 やがて、〈山羊〉が杖をおさめた。アンリエッタは、これで終わったと思った。だが、その黒衣の男の表情を見て身をひきしめる。余裕を残した、またはよそおった顔。
 〈山羊〉は、アンリエッタに視線を向けていた。そして慇懃にお辞儀して言った。

「お初にお目にかかります、トリステインの女王アンリエッタ陛下。
 われわれはあなたを連れ去るつもりでしたが、このとおり惨めに失敗しました。あまりにひどいへまを打ったようなので、馬鹿らしくて自分たちを弁護する気にもなりません。
 そこでひたすら、女王の寛容にすがろうと思います――見逃していただけませんか?」

 その言葉に誰もが目をむいた。
 害しようとした本人に助けを求めるという、正気とも思えない言い草に、アンリエッタはどう反応したものかわからない。代わってアニエスがほとほと呆れたという声を出した。

「おまえたちが触れようとした人は、白百合の玉座の主なのだぞ。
 受けられる寛容は、裁判を受けさせてもらえることくらいだ。それも、ここですみやかに降って撃ち殺されなかった場合のことだな」

「あいにく、降服して死刑台をのぼらせてもらう気はありません。しかし、そうなると撃ち殺される運命のようですね。ならせめて、もう少し陛下と話させていただけませんか?
 なぜこのようなことを起こしたか、説明しようと思います」

 〈山羊〉に対し、なおも言葉を続けようとしたアニエスを制し、アンリエッタはきらめく目で黒衣の男を見つめた。

(『敵に対しては、剛毅に』)
 マザリーニの教えを、心でつぶやく。彼女は凛とした声で問いかけた。

「では言いなさい。なぜこのようなことを、誰のために起こしたのか」

「なぜなら、陛下は民の上にのしかかる者、旧弊の代表者であるからです。民を虐げる悪王は、裁かれるべきだと思いませんか?
 アルビオンのさる思想家は言いましたよ。強大な力を持つ王権が、人民をかえりみぬ統治をしたとき、詭計、暴力を含むもろもろの手段で抵抗することが許される、とね。
 誰のために? われわれは民の代弁者です、少なくともあなたを憎む民の」

 アンリエッタは表情を動かさなかった。ただ、静かに呼吸をととのえた。このような状況で、これほどまでに痛烈に、されど慇懃な罵倒を浴びたことはなかった。

(彼はわたくしを怒らせようとしているのかしら?)

 どう見ても、〈山羊〉は挑発していた――ただ、この場であえてそうする意図がわからない。
 このようなゲーム、対話による駆け引きを、アンリエッタは無論したことがあるが……それでも彼女はまだ少女の年齢であり、狡猾さにおいて彼女を上回る者はいくらでもいた。
 〈山羊〉の挑発に、けっきょく彼女は反論した。



29 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:37:11 ID:Dj3xyU3d

「わたくしが国を害し、多くの民が王権をくつがえすほどの憎しみを抱いたとするなら、たしかにこの身は滅ぼされてしかるべきでしょう。
 しかし、そうではないと思います。わたくしはたしかに未熟ですが、そのような王でさえ、まだこの国には必要です。
 しかも聞くところ、あなたの言葉はゲルマニア訛りがありますね。あなたがたはゲルマニア人ですか? 国境を勝手に越えてくるのは盗賊やならず者、と聞いております。
 外国からのご高説はありがたいものですが、わたくしはまずわたくしの民からの声を、優先して聞こうと思います」

「では陛下、あなたの民から聞きなさい。彼はかつてあなたの軍にいました。白百合の旗印の下で、あなたのために戦いました。この若者の話を聞きなさい」

 疑いなく〈山羊〉は女王の反論を待っていた。即座に、彼は名を呼んだ。

「前へ出て話せ――〈禿げ〉」

 フードの男が、〈山羊〉の横に進み出る。そのこっけいな呼び名を聞いて、半包囲した近衛兵の中から失笑がもれた。
 その笑いが、〈禿げ〉と呼ばれた男がフードを後ろに払い、顔をさらした瞬間に止んだ。
 〈禿げ〉はぐるりと見渡した。最後に、アンリエッタに目を合わせて、自らの顔を指さした。

「二目と見られぬほど、醜いだろう? 先の大遠征のときだった。俺は軍艦に乗っていた。アルビオン艦隊との激突の折に、敵の放った火球で、鼻から上を焼かれてフネから落ちたのだ。
 落ちる途中で無我夢中で自らにレビテーションをかけた。下が水でなければ、当然のように死んでいただろう。そして、意識を失ったまま岸に打ち上げられたのだ。
 ご覧のとおり、どれだけ治癒魔法をかけてもらっても、髪も眉ももとに戻りはしなかった。頭皮ごと焼けたからな。目玉が溶けなかったのがいっそ不思議だった……」

 アンリエッタは、いま自分がどんな表情をしているのかわからなくなった。
 アニエスがアンリエッタの顔を見て、我慢できなくなったように〈禿げ〉に向き直って怒鳴った。

「軍人ならその職についた瞬間、どのような戦傷も、死さえも覚悟するものだ! 陛下に恨み言を述べようとは貴様、恥を知らないのか」

「違う。まったく恨まなかったといえば嘘だが、この傷のことで復讐しようとは思わなかった。俺が陛下を恨むのは、仇だからだよ、わが恋人の」

 〈禿げ〉は暗く燃え盛る目で、アンリエッタを見つめた。

「俺はここから少し離れた領地にある、貧しい下級貴族の家の出だった……四男で、家を継げる余地はなかった。恋人がいたが、俺にはまだ結婚の甲斐性さえなかった。
 だから、軍に入ったのだ。アルビオン戦役の一年前にな。
 幼いころから一緒だった俺の恋人は、そのあたり一帯でも評判の、深い青い瞳とつややかな黒い髪を持った、美しい娘に育っていた。
 覚えがあるだろう、あんたに恨み言を述べたせいで、首をはねられた娘だよ」

 アンリエッタは固まっていた。最後の部分の言葉、その意味がわからなかった。
(彼は……彼は、何をいっているの? 青い瞳に、黒い髪? それは……)



30 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:38:05 ID:Dj3xyU3d

「俺はこの傷のために、故郷に帰れなくなった。こんな化け物のような面相で、彼女に会えというのか?
 悲嘆にくれながら、俺はすべてを諦めることにした。岸に流れついた俺を助けてくれた村にとどまった。
 俺は、炎に焼かれてフネから落ちた。戦死か、死者に限りなく近い行方不明者、として記録されただろう。
 すっかり変わったこの顔のため、たとえ知り合いが見ても俺だとわからないであろうこともまた、それまでの人生をすべて捨てて別人になるには都合がよかった」

 〈禿げ〉は急に声を高め、絶叫するように口を大きく開けた。

「だから――だからずっと知らなかった、彼女の父が貧窮し、彼女に目をつけたあの獣、あの領主に借金を返せない者として牢に入れられ、彼女は領主に奪われたなどということは。
 一週間前に、ある人が教えてくれるまで、俺はなにも知らなかった。知ってさえいたら、あの獣の皮をこの手ではいでやったのに!」

「その、領主は、」

「そうだ、あんたが遅まきながら十日前に断罪した領主だ! 王権が正義を体現するなら、なぜ、もっと早くしてくれなかったのか!?
 彼女はその後で、あんたに恨み言をぶつけただろう? 館の庭で、日の沈んだ後で。『その光景』を俺は映像として見せてもらったのだ、否定しようなどと思うな。
 そしてあんたはその後で、彼女の首をはねさせた。
 わかってるさ、女王陛下の誇りは尊く、それを傷つけようとした平民の命などとは比べ物にならない……だから、彼女は死なねばならなかった、そういうことだろう?
 だが、それが許せない者もいるんだ。
 俺は自分が、あの獣の領主が、そしてあんたが憎い! 彼女を不幸にしたすべての者が憎い。だが領主はすでに死んで、あんたと俺は生きている。
 だから、自分も死ぬつもりで、あんたに一矢報いようとした。それだけだ。
 そんな顔をして、どうした? 殺した娘のことを、いまさら悔いるのか?」

 アンリエッタは呆然としたまま〈禿げ〉に言った。

「その娘なら、生きています」
 
 〈禿げ〉の焼けただれた顔から表情が消えた。アンリエッタと同じように。

「……なんだって? なんと言った?」

「生きています――その娘は、生きているのです! わたくしは彼女を処刑などしておりません、彼女はここの近くの修道院に入れられています」

「――嘘だ! 俺は見た、火に照らされた夜の庭で、彼女があんたの爪を噛み、そこの銃士隊の女に押さえつけられるのを。
 彼女が拘束され、手を縛られて銃士隊に連れて行かれるのを。
 次の朝早く馬車に押しこめられて、そのまま人気の無いところで下ろされ、首をはねられるのを!
 すべて見た、念のために数日前に故郷に寄り、人々に話を聞いた。庭での騒ぎを遠目に見た者と、朝に彼女が馬車に乗せられるのを見た者がいた……俺の見せられた映像と、証言が一致したんだぞ」



31 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:38:43 ID:Dj3xyU3d

 アニエスが、これも唖然とした顔で指摘した。

「ああ、ほとんどの部分が真実だ。首をはねたこと以外が。疑うなら、その少女の生きた姿をみせてやる。
 どうやってそんなものを見ることが……いや、まずおまえにそれを見せた者は誰なんだ?」

 〈禿げ〉が、その問いに答えることは無かった。
 真横に立っていた〈山羊〉が、手首をひるがえしてその首を後ろから強打し、意識を奪った。
 とっさに撃とうとした者がいたかもしれない。しかし〈山羊〉は巧妙に、くずおれる〈禿げ〉の体を支えて盾にしていた。
 〈山羊〉はずるずるとその体を盾にしたまま、煙をあげる門のほうに後じさって行く。
 その男は、メイジのくせに帯剣していたが、今その剣をすらりと抜いた。そして〈禿げ〉の首にそれを当て、アンリエッタに向けて言った。

「女王陛下、彼の話を聞きましたね? ああ、そこの銃士隊長どのが、勝手に発砲命令を出さないようにしてください。でなければ彼の首を切り裂きますよ。
 この哀れな男の人生、あなたによって狂わされた人生を、あなたの部下の手によって終わらせたいのなら、どうぞわれわれを攻撃してください。
 そしてこの男の可哀想な恋人にこう言ってやりなさい、『あなたの恋人は生きていました、でもわたくしの命令でもう一度死にました』と」

「き……貴様……」

 アニエスが怒りに口も利けない有様で、一斉射撃の合図の手をあげかけていた。
 アンリエッタはそれを呆然と見ていた。見ていただけのはずなのに、悲鳴のような叫び声が口を開けて飛びだしていた。

「待って、アニエス……! 撃たないで!」

 待って。お願いだから。アンリエッタはそう口走っていた。
 近衛兵たちは女王のその言葉で動揺していた。忠実な彼らはこれで、アンリエッタ自身の「撃て」という命令か、アニエスが無理を通さないかぎり撃てなくなったはずである。
 ルイズと才人が問うようにアンリエッタを見ているのが、視界の端にうつった。しかし彼らも、とっさに手を出しかねているようだった。

 そのとき、両脇を固められていた手に鉤のある男が、身をよじって水精霊騎士隊の拘束をふりほどいて、地面に身を投げだした。
 間髪を入れず、その小男は這いつくばりながら懇願をはじめた。アンリエッタの心をさらに揺さぶるように。

「お願いです、陛下、どうかお慈悲を、王の寛容を……わたしはゲルマニアの小作農民の出でした、無理やり兵隊として戦争に連れて行かれたので、すべての王権を恨むようになったのです……
 ですがそれは過ちでした、あなたは優しい方だと一目見たらわかりました……これは愚行でした、このような方を傷つける意思などもうかけらもありません!
 ですからどうかこの哀れな命を助けてください、ああお願いです、そうだ、これを見てください」

 その男はひざまずいて顔を哀れっぽくゆがめ、涙を流しながら、右手で自分の左手首の鉤をとりはずし、アンリエッタに手渡そうとするように高々ともちあげた。

「見てください、わたしは障害者です、戦傷者です、戦争によってこの手を失ったので農民に戻れませんでした……どうか、どうか憐れみを……
 わたしの名はハンスです、生まれたところはゲルマニア北東でした……妻と三人の子供がいました、男が二人で女が一人です……お慈悲を、殺さないでください、陛下……」



32 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:39:24 ID:Dj3xyU3d

 黙れ、とだれかがその男に怒鳴っていた。
 アンリエッタはうつろな目で、その卑屈に泣いてすがっている小男を見た。
 名前など、彼女はけっして知りたくなかった。殺さないでくれと叫ぶ者が、彼女の中で、ただの罪人ではなく、名を持って死んでいく人間になってしまうから。
 〈山羊〉がたたみかけるように呼びかけた。

「陛下、われわれはその〈鉤犬〉の言うとおり、もうあなたを狙いはしないと誓います。この場を逃がしてくれさえすれば、悔い改め、二度と宸襟を騒がせますまい。
 あなたはすでに、われわれを屈服させ、妥協させているのですよ。われわれが欲しいのは今となっては、敗走するのを認めてほしいという慈悲だけなのです」

(『敵には剛毅に』でも、これはいったいどうすれば……攻撃すればあの若者は死ぬ、
 枢機卿は『しかし膝を屈した敵には寛容に』と続けていました……そして敵は敗北したと言っている、
 違う、こんな見え透いた嘘に乗ってはならない……でも、きっと本当にあの者らは彼を殺してしまう……)

 唇まで蒼白になりながら、彼女は必死に考えた。実際には考えているつもりで、思考がぐるぐる回っていた。
 頭が、ガンガン鳴っていた。

 その前で、男たちの一人が杖を振って門の残骸を今度こそ吹きとばした。
 その瞬間に「撃ちなさい」といえば、たぶん彼らを掃討できただろうが、混乱した思考の迷宮に入っているアンリエッタの反応は完全に遅れた。
 今まで地面に這いつくばっていた〈鉤犬〉と呼ばれた男が、驚くべき素早さで地面をけって走り出し、次々と壊れた門に飛びこんでいく男たちに続いた。
 その背中を撃てという命令さえ、アンリエッタは下せなかった。
 アニエスが門を歯噛みしながらにらみつけている。彼女は鎖を引きちぎって、逃げる敵に飛びかかりたいという猛犬のような表情をしていた。

 女王を害しようとした男たちは、全員が逃げおおせた。



33 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:40:14 ID:Dj3xyU3d

\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\

〈禿げ〉が目覚めたとき、すでに夕方になっていた。
 話し声が聞こえた。彼は寝かされていた地面で、ゆっくりと目をひらいた。夕暮れの空が赤く染まり、雲が穏やかに流れていた。
 何者かと話している〈山羊〉の、不機嫌そうな声が聞こえてくる。

「――最悪ではなくとも、非常に悪い幕開けでした。これで女王一行は警戒するでしょうな。
 加えて、他人のふりをして一人だけさっさと逃げてやがった〈ねずみ〉から新しく入った知らせだと、百人以上のメイジの近衛兵が、日没後にここに到着するという。もう間もなくです。
 女王が襲撃されたという連絡が行ったので、あと一日のところを強行軍で駆けつけることになったとみて間違いないでしょう。
 おい、〈鉤犬〉、お前が俺の部下だったなら、最低でもお前の残った右手を斬っているところだぞ」

「そう言うなよ。とにかく、みんな無事じゃないか」

「そのために貴重な『保険』まで使ってしまったんだぞ! この人質は二度とは通じまい、女王はともかく周囲の連中には特に」

 ここはどこだ、と〈禿げ〉は横になったままぼんやりと周囲をたしかめる。
 道端。それもかなり広い道の。国家が手を加えた、軍隊が通れる道。つまり街道だった。
 いさかいをしていた〈山羊〉と〈鉤犬〉の会話に、別人の声が加わった。小鳥の鳴き声とともに。

「もういい。お前たち、女王をどう思った?」

 覚えのある声。一気に覚醒し、〈禿げ〉は首をまわしてそちらのほうを見た。
 全身を紫のローブでおおった者がいた。緑色の小鳥がその肩に止まり、『rot(赤),rot!』と鳴いていた。
 しばらく沈黙していた〈山羊〉が、薄く笑った。

「助かりました。もっと冷徹に判断する、容赦ない性格かと思っていましたよ。
 怯まずまっすぐ俺を見て話していた。あの女王はたしかに勇敢で、利発で、美しい。
 そしてそれ以上に善良で優しく、甘く愚かな、かわいい子だった……」

 〈山羊〉の言葉に、〈鉤犬〉も笑みをこぼし、舌なめずりをした。

「ああ、邪悪なる王権に対するに手段を選んでいられないとはいえ、あのような少女に嘘をついたことは悔恨のきわみって奴でしたよ」

「まったくだ。『ハンス』という名前だの結婚して子供が三人いただの、よく言える。その左手にしても、戦争の傷とは知らなかったぞ。
 〈鉤犬〉の虚言の大罪はともかくとして、当初の予定通りにこうしてあなたと会えたのは不幸中の幸いです」



34 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:40:47 ID:Dj3xyU3d

 〈鉤犬〉を横からあざけった後、〈山羊〉は紫のローブの者に向きなおった。声を低める。

「百人以上のメイジの近衛兵。これがそのままだと、われわれに望みはありませんよ。例のものはありますか?」

 紫のローブはうなずいて、ふところから何かを取り出した。水晶のような小さな石を。それを足元に落として無造作に踏み砕く。
 それは乾いた音をたてて粉々になり、塵のようになって足の下から飛散し……紫のローブが足を上げると、跡形も無かった。その者は、くぐもった声でつぶやいた。

「〈解呪石(ディスペルストーン)〉は貴重なものだ。世界のほとんどの者は、存在さえ知らぬ。
 これはゲルマニアの山中で見つかった……始祖が残した宝で伝説の虚無の力が入っているとも、先住魔法の結晶したものとも言われるが、さて、真相はどうであろうか。
 この最大級の大きさがある解呪石の効力は、半径一万数千メイル、直径約三万メイルに及び、明日の朝までは続く。〈山羊〉、手駒は集めておいたか?」

 その問いに、〈山羊〉は街道をはずれた草深き原野を指さす。ちらちらと動く人影があった。

「そこらにいますよ。見えるところにいるのは一部ですがね。前日から手配して、総勢百四十名はあつめておきました。
 すでに街道の横にひそむようにして、配置についています。
 みな平民とはいえ、それなりに荒事に慣れた者です。半数はゲルマニアからひそかに呼んだ、〈鉤犬〉の同志の共和主義者たち。今回のことには命がけで戦うでしょう。
 残り半数は傭兵や、職にあぶれた私兵を集めました。こいつらは戦闘のプロですが、金に貪欲です。払えますね?」

 紫のローブは愚問というようにうなずき、ぼそぼそとささやく。

「〈鉤犬〉は理想のために、お前は金のために戦う。わたしがお前たちを使うように、彼らを使え。金のことは心配するな。
 これはわたしにとってはトリステイン王家を滅ぼすための、〈鉤犬〉にとっては共和主義の偉大なる勝利を示すための戦いであり、〈山羊〉、お前にとっては莫大な報酬がある仕事だ。
 成功した先のわれわれの目的はそれぞれ違っても、成功条件は同じ。
 つまり女王を消すことだと、手駒たちにもよく飲みこませよ」

 『rot』とその肩の小鳥が一声鳴いた。
 〈禿げ〉はよろよろと立ちあがった。
 会話していた三人の視線が集中した。〈禿げ〉は刺すような視線で彼らを射抜いた。

「お前ら……正気か? 精兵であろうとも百人の平民と、十人の近衛のメイジでさえ勝負にならんぞ。それが同数で、勝てるとでも思っているのか?」

 〈山羊〉が微笑した。

「おや、〈禿げ〉、まだ心配してくれるのかね?」 

 〈禿げ〉は黙って、紫のローブだけを凝視した。食いしばった歯の間から軋るような声を出す。



35 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:41:22 ID:Dj3xyU3d

「どういうことだ? あんたから見せられた映像、その肩にとまっている使い魔が見て、それをあんたが俺に伝えた映像は、あんたの捏造だったのか?
 女王は、彼女を殺していないと言った。思えばあれは、嘘を言っているようには見えなかった……」

 その者は答えなかった。〈禿げ〉を完全に無視して、顔を向けさえしなかった。
 かわりに〈鉤犬〉が横から口を出した。紫のローブの者に話しかける。

「こいつ、放っておくと間違いなく裏切りますよ」

 〈山羊〉もうなずいて、雇い主に向き直る。

「『保険』のために預かりましたが、さっそく使用してしまったのでもう使えません。惜しいことですが、そのおかげで虎口を脱しました。〈禿げ〉、礼を言っておくぞ」

 〈禿げ〉は自分のローブの中にある杖を、手が白くなるほど握りしめた。

「〈山羊〉、女王に人質は効果があるか、と貴様は村で訊きやがった……俺だったんだな?
 万一のときの人質として使うため、貴様らは嘘を教えて俺を仲間に引き入れたんだな」

 紫のローブが、このとき初めて〈禿げ〉に向けて言った。かすかに嘲笑が、その男とも女ともつかない声ににじんでいた。

「お前は生きる意味を見失っていた。故郷に戻って恋人に壊れた面を見せるくらいなら、死んだと思われるほうがましだ、と……ゆるやかに朽ちつつあったお前に、意味を与えてやったのだ。
 この九日間、生きていることを実感しただろう? 廃人であった状態から、泣き、わめき、怒りと憎悪の炎を燃やし続けてここまで来た。
 そして、嘘であったのは、女が死んだという一点のみだ。ほかはすべて真実を教えた。
 お前が故郷に帰らなかった間、暗黒の中で女が苦しみぬいたのも完全な事実だぞ。わたしを責めるより先に、自らそれを恥じて死ね」

 〈禿げ〉は杖をふところから取り出した。生きていようとどのみち、もう彼は恋人には会わないと以前に決めていた。澄んだ青い瞳を一瞬だけ思い浮かべて、杖を紫のローブに向ける。

(ここで、こいつと刺し違えてやる)

 素早く風刃の呪文を詠唱して、殺すつもりで杖を振った――が、何も起こらなかった。
 〈禿げ〉は愕然として、再度こころみた。同じく、魔法は出なかった。
 何度も繰り返す。魔力は高まる。だが、それが発される前に雲散霧消する。
 〈鉤犬〉がくすくすと笑った。

「近衛のメイジ百人! ところで、そいつら魔法が使えないなら、平民の精兵とくらべていったい何の役に立つんだね? 今夜は楽しくなりそうだなあ」

 〈禿げ〉は狂ったように杖を振るのをやめ、絶望と怒りをこめて紫のローブを見やった。
 〈山羊〉が、その前に立ちふさがった。
 彼は剣を抜いていた。それを、〈禿げ〉の胸に突き通してから言った。

「剣を習っておくといいと、言ってやっただろ? こういうときに役立ったのに」

 赤い夕日が街道を照らし、鮮血がたらたらと剣に貫かれた胸から流れた。
 あの緑色の小鳥が、とまっていた肩から飛びあがって道端のブナの枝にうつり、場を上から見下ろして『赤rot! rot! rot!』と哀れむように鳴いていた。



36 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:42:14 ID:Dj3xyU3d

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 日は落ちていた。
 こちらに向かっていた近衛兵たちは、連絡をうけて急行してくる。それを待って、明日にはすぐさま王都に向かうことになっていた。

 館に戻り、アンリエッタは自分に当てられた部屋の中で、暖炉の前に置いた椅子に座っていた。
 まだ銃士隊の服装のまま、着替えていない。
 すでに夜だが明かりもつけず、炉の中で燃える熾火を見つめている。
 重い疲労を感じていた。

(けっきょく誰も救えなかった。あのときためらったことは、最悪の結果を招いただけに終わった)

 〈禿げ〉と呼ばれていたあの若者は、夕方に死体になって発見された。街道から屋敷へ続く森の中の道に、見せつけるように投げ捨てられていたという。
 その報告を聞いたとき、アンリエッタは怒るよりも悲しむよりも衝撃に放心して、愚か者のように『なぜ?』と言ったまま口を閉じられなかった。

『なぜ、彼らはこうも堂々と、トリステインの王権を侮辱するの?』と。

 話をアニエスから聞いたマザリーニが答えた。容赦なく、アンリエッタを叱るように。

『王権の体現者たる陛下を恐れておらぬからです。そのような馬鹿者どもには、断固とした罰でもって応えねばなりませんでした。
 仮に死んでも治らぬような馬鹿であっても、死ねば逆らいません。そして、多くの人間は、死んだ愚者を見て利口になるでしょう』

 青い目の少女のことを考えた。
 彼の死を彼女に決して知られてはならない、それだけは確かだった。
 本音をいえば話したい。許して、と泣いて謝りたい。
 けれどそれは、まさしく自分の勝手というものだった。

(実は生きていた、けれどまた死んだと教えて、彼女の心をさらに傷つけるの? 彼が死んだのはアルビオンとの戦、せめて彼女には永遠にそう思わせなければならない……)

 そして、自分はこのことをも背負わねばならない。あの戦の後で、実感したのと似たようなことを、あらためてもう一度突きつけられた。
 アンリエッタは今、王冠を頭に載せていなかった。けれどそれは形なくともやはり載っていて、このときひどく重くなり、頭をうなだれさせた。

 秋の夜はさむい、とぼんやり思う。炉の火は赤々と燃えているのに。
 せめてワインが欲しかった。あるいは、手を握って、そして……



37 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:42:56 ID:Dj3xyU3d

「――ま、姫さま!」

 はっと気づいて、顔をあげた。正面から、誰かがかがみこんで自分の顔をのぞきこんでいる。
 黒い瞳に黒い髪。アンリエッタは誰が自分のそばに来て、呼びかけていたか知って、狼狽した。

「サイト殿、なんで……?」

「なんでって、その……部屋の前を通りかかってふと心配になっただけですけど、ノックして呼びかけても返事が無いから、つい……」

 普通は、女王から許しの言葉を得ない場合、臣下は勝手に入室などしない。
 けれど、才人は正確にはアンリエッタの臣下ではない。
 それに……彼はこういう少年だった。アンリエッタをそれなりに敬いはするが、ほかの貴族のように丁重を極めた接し方ではない。

 アンリエッタは「それは、ご心配をおかけしました。でも、わたくしなら大丈夫です」と微笑んで言うべきだった。そう自分でもわかっていた。
 なのに、次に出てきた言葉は、どろどろの弱音だった。

「また、失敗してしまいました……」

 才人はとても困った顔をしていた。それから、「そんな思いつめなくても」とこわごわと触れるように言ってくる。

「姫さま、しょうがねえって。あれはとっさに反応できないよ」

「いいえ、それでもわたくしは的確に反応するべきだったのです! あの男たちをけっして見逃してはならなかった、彼を、彼を救うべきでした!」

 突然感情が激した。
 それから、たかぶった精神が急降下していく。

「……わたくしの弱さは、部下の働きを裏切ったのです」

「だから、そんなこと言うなって」

 才人は、へどもどしながら必死になぐさめようとしている。
 震える肩にそっと彼の手が置かれた。
 疲れた心のどこかで、いや、『どこか』とさえ言えないほどはっきりと、アンリエッタはそれにすがりたくなった。

 突然、ルイズのことを思い出した。実家への帰省中だったが、半ば逃げ出すように出てきた彼女は、アンリエッタの留まるこの領地に来たのだった。
 街娘の姿でいたのは、まず村にひそんで水精霊騎士隊に才人を呼んでもらい、驚かせるつもりだったらしい。
 館に帰ってきてからつい一時間ほど前、気をつかったアンリエッタが、少し一人になりたいとルイズに言うまで、彼女はそばにいて懸命にアンリエッタを励ましてくれていた。



38 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:43:33 ID:Dj3xyU3d

(いけないわ、これは……)

 思わず、身を離すようにのけぞって顔をそむける。

「姫さま?」

「出て行ってくださいまし。これ以上、考えることを増やさないで」

 毅然として言えはしなかった。震えて、自分でもみっともないほど弱々しい声。
 たぶん、それがまずかった。
 気がつくと手を引かれて立たされ、抱きとめられていた。

「落ち着けって。俺、馬鹿だからこんなことしか言えねえけどさ。
 なあ、そんな震えないでくれよ」

 彼の声は、困惑と心配に満ちていた。壊れ物を扱うような、幼い子供をあやすような抱き方。ぎこちない優しさに満ちている。
 少年の体の温かさに、冷えていた体がじんわり温まっていくようだった。胸につかえていた重い息がごく自然にほう、ともれていった。
 振りほどく気にはどうしてもなれなかった。というより、このまま抱きしめられていたかった。少年の肩口に顔を埋めたまま、アンリエッタはぽつりと言った。

「それなら、もっと強く抱いてくださいまし。何も考えないですむほどに」

 才人が戸惑っていたのは短い間だった。彼の腕に力がこめられて、アンリエッタはぎゅっと息苦しいくらいに引き寄せられた。
 炉の火が、赤々と燃えている。
 互いに伝わる心臓の音が、ほんの少しだけ早い。だが、不思議なほど穏やかな気持ちだった。

 急にドンドン、と部屋の扉が激しい勢いでたたかれた。
 はっとして二人が身を離す。アンリエッタが「ど、どうぞ」と言うのとほぼ同時に、アニエスが飛びこんできた。
 尋常ではなく血相を変えていた。

「陛下、トリスタニアから来た増派の近衛兵が、ここから八千メイルの距離で襲撃され、壊滅しました! おそらく、われわれは包囲されつつあります」

 無音の雷が室内に落ちた。


39 名前:裏切りは赤〈上〉(白い百合の下で・2):2007/09/17(月) 02:44:31 ID:Dj3xyU3d

 アンリエッタは、頭をふった。まさに青天の霹靂だったが、先ほどよりずっと頭がすっきりしていた。
 比較的冷静に、状況を問う。

「……なぜ、そんなことになるのです? 近衛兵たちは軍の中でも最精鋭の兵です。襲撃を行ったものが、よほど多くの兵をそろえていたのですか?」

「陛下」
 アニエスが緊張した声で、仰天するようなことを告げた。
「敗残兵たちの一部がこの館に逃げこみました。彼らが言うには、戦いで魔法は一切使われなかったと。敵はメイジでも亜人でもなく、平民です。百人以上の。
 そしてなぜか、われわれは魔法を使えなくなったのだ、と近衛兵たちは言いました。
 彼らは惨敗しました。当然のことながら、敵にはほとんど被害がありません」

 アニエスの後ろから、ルイズまでが歩いてきた。彼女の声も、同じ程度にこわばっていた。

「試しましたが、わたしも虚無が使えませんわ。水精霊騎士隊の面々も、まったく魔法が撃てません。まともな戦力は、今のところ銃士隊五十名だけです」

 秋の月が空に光る。それでも暗い、そして長い夜が始まったばかりだった。


40 名前:ボルボX:2007/09/17(月) 02:48:05 ID:Dj3xyU3d
はい、これで〈上〉終わりです。
やーほんと、敵役とかオリジナルキャラ使いまくりですみません。
ルイズは少し成長した設定にしてあります。アンリエッタは……うん、
少なくとも〈上〉ではダメダメにしてありますw 
続きもなるべく早くUPします。

41 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 03:18:37 ID:gNYvUHQ1
いいところで終わるなー
待ちきれないじゃないか

42 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 04:54:07 ID:CEvWceRM
>>1


>>40
超長編キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!

43 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 06:21:08 ID:jI/mPomQ
まだ50レスもいかないのにこの容量はけしからんwwwwwwwwww

44 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 07:29:30 ID:myiYYosh
>>40
GJ!!といいたいとこだけど、説明が長かったなぁ
オリキャラ使うむずかしさは、そのへんにあると思う
前回の女の子、すっと入ってきてうまかったのに

後編期待

45 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 10:32:18 ID:wbsTtmLk
GJ!

最近シリアスの投下が多いな
エロよりこの流れが好きだ

46 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 12:42:08 ID:R5dXw2p4
GJ!

それにしても…
もう70kb超えてるwwww
まだ50レスも着てないんだが・・ww

47 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 13:16:23 ID:ZXdSgPkM
このスレの勢いは某乳エルフ並にけしからんですなwwww

48 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 17:49:25 ID:x1bA8Pm9
けしからんwwwwwけしからん位にGJ!
エロいらねwwwwおもしろかったよ。続き期待してます。
後前スレ205氏もGJ!

49 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 20:18:51 ID:SbdsU7Eq
甘い文章を投下できる雰囲気ではなさそうですね・・・

50 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 20:40:05 ID:emuVoueO
甘いものは別腹さ!

51 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 20:50:48 ID:myiYYosh
誰がうまいこと(ry

52 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 21:04:47 ID:iAkvAFl6
>>40
GJ!後編もwktk

>>49
カモーン

53 名前:おめざのキス〜サイト編(1/2) ◆LoUisePksU :2007/09/17(月) 21:37:25 ID:SbdsU7Eq
----トリスティンに朝がやってきた。

サイトはとても幸せな夢から覚めた。

ルイズがあのルイズが自分に夢中に口付けてくる夢。

はぁぁぁ。なんてしあわせなんだ〜。心の中でニンマリしつつ、
傍らにいるはずのルイズに目をやった。

んんん〜。おはよ。ルイズ〜。顔半分を毛布で覆っている
ご主人さまに朝のご挨拶をした。

なぜがルイズは頬を真っ赤にして頷くだけだった。

まいっか、でもいい夢だったなぁ。サイトが夢の回想をしていると、

「ね、ねぇサイト、おはよーの代わりにしてほしいことがあるの」

朝っぱらからご主人さまからのお願いだ。
一体なんだろ。

「なんでしょーか。ごしゅじんさま」
わざとらしくサイトは言った。

「あああのね。きききキス。して」
あまりのストレートの剛速球にサイトはくらっときた。
ゆ夢の続きですか。そうかまだ俺、夢の中だったのか。

試しに自分の頬を抓ってみた。
ってぇ〜。痛い。夢なのに痛い・・・待て、夢・・・じゃない?!

現実だと認識して思わず、ルイズに聞きなおそうかと思ったが、
やめた。ここはご主人さまの命令に従うべきなのだ。
しかし、顔半分が毛布で埋まっているため。口にはできない。
・・・とすると、おでこなのか。

サイトはルイズに顔を近づけて、額にそっとキスをした。

「おはよ。ルイズ」


54 名前:おめざのキス〜サイト編(2/2) ◆LoUisePksU :2007/09/17(月) 21:38:13 ID:SbdsU7Eq
しかと期待に答えたと思っていたのだが、ご主人さまルイズの
反応はイマイチだった。

「・・・ち違うの。ソコじゃないの」

じゃぁ、ドコなんだ。使い魔サイトは困ってしまった。

「では、ドコがよろしいのでしょうか。ご主人さま」
「『ご主人さま』は嫌なの。ちゃんと『ルイズ』でいいんだから。」

あまのじゃくなご主人さま、もといルイズなのであった。

「では、ドコがいいのでしょうか。ルイズ」
「・・・・・・・・ちがいいの」
毛布にかくれてもごもご言うので聞こえない。

「ち?ってドコのこと?」
サイトが聞き返すとルイズは耳まで真っ赤になった。

「お口・・・・・・・がいいの」
「毛布が邪魔で無理なんですが・・・」
そういわれたルイズはそろそろと毛布をあごの辺りまで下げた。

準備が整ったのを見計らって、サイトはゆっくりと顔を近づけて
そっとルイズと唇を重ねた。

「おはよ。ルイズ・・・」

-----------------------------------------------
すみません。前スレの終わりの方で投下したやつの
サイト編でした。


55 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 21:47:16 ID:SbdsU7Eq
確認するの忘れてすみません。
トリップは付けても良いのでしょうか・・・

56 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 21:56:11 ID:WS9M0T/s
良いんじゃね?保管庫もまとめやすいし
自己主張と馴れ合いが目的ならうざいと思うけど

57 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 22:14:50 ID:SbdsU7Eq
>>56
なるほど。保管庫というものもあるんですね。


58 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 22:16:48 ID:R5dXw2p4
>>57
ゼロの保管庫でググれば出てくると思う


59 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 22:25:45 ID:Dj3xyU3d
エロかろうとシリアスだろうと、ラブ甘だろうと陵辱だろうと遠慮せず載せるべし。
そのためのパロ版。

60 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 23:49:36 ID:ZH1FGu9s
作品の内容なんて気にせず投下しちまえばいいんだ
むしろ丁寧すぎる態度だと馴れ合いウゼーってなる奴が少なからず出る
このスレだと幸いほとんど見たこと無いけど、昔いたスレでは荒れに荒れ・・・

61 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 00:45:09 ID:uAMoGX10
大変だおまいら
保管庫の過去ログが業者に荒らされてんぞ

62 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 00:52:39 ID:dQ2OoWrN
>>61
違うよ。あれは前借りてたhptってとこが、9月の始め頃にサービス停止したせいなんだよ。
前スレにもちょっと書いたけどさ。
261氏が多忙なら、誰かが他のスペース借りて、そこで改めて過去ログ保存するしかないだろうね。

63 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 00:53:21 ID:fuXJ2uIK
うお、酷いことになってるな……
261氏に復旧してもらわねば。

64 名前:ティファニア式豊胸体操:2007/09/18(火) 01:33:43 ID:dQ2OoWrN

 最近、ルイズの視線は大抵一点で固定されている。
 転入生として魔法学院へやって来た、ティファニアの胸である。
 彼女のふざけたサイズの胸と自分の地平線を見比べつつ、哲学的な思考にふけるのが、最近のルイ
ズの日課であった。
(一体何なのかしらあれ。あんなの胸って呼んでいいのかしら。そもそも胸って何なのかしら。何で
 男はそんなの重要視するのかしら。あんなお肉の塊を。そうよあんなの邪魔なだけなんだし、わた
 しには必要ないし)
 などと毎回同じ結論を出すのだが、才人がティファニアの胸をデレーッと見ているところを目撃し
て、また思考が振り出しに戻ったりする。
(悔しいわ悔しいわ。あんな肉の塊に負けるなんて。わたしにはなんであの肉の塊がちょっとでいい
 からついてないのかしら。あの子からちょっと分けてもらえないものかしら)
 そんな風に考えて、ちょっと期待しながら始祖の祈祷書を捲ってみたりもするのだが、さすがの虚
無系統と言えども「他人の胸の肉を奪う魔法」は存在しないらしい。祈祷書に新たな記述が追加され
ることはなく、本を開くたびに落胆のため息を吐くことになるのである。
 ルイズは作戦を変えた。自分の胸に肉がなく、あの子の胸には肉がある。つまり二人のどこかに違
いがあるということである。ティファニアを一日中観察していれば、その違いも分かるだろう。同時
に、胸に肉をつける方法も分かるはずだ。
 そんな訳で、ルイズはその日以来暇があればティファニアを観察していた。朝起きた後も授業中も
食事中も大浴場に入っているときも、ずっと。
「なんかよー、テファが最近一日中誰かの視線感じるって言うんだよなー。俺の世界じゃストーカーって
 言うんだぜそういうの。お前も気をつけろよな、ルイズ」
 才人がそんなことを言い出したので、この作戦もそろそろ止めにしなければならなくなった。
(でも、まだあの子とわたしの違いなんて少しも分からないのに)
 この数日間観察したが、食事も入浴法も就寝時間も、二人の間にはそれほど差はなかった。
 では一体、この胸の肉の差はどこからくるのか。まさか彼女の体にエルフの血が混じっているのが
原因なのか。だとしたらもう手の打ちようがない。
 歯噛みしたとき、ルイズはふと、ティファニアが奇妙な行動を取っているのに気がついた。
 何やら、中庭の木の下で、奇声を上げながら妙な踊りを踊っているのである。不規則で乱雑な、見
たこともない踊りである。
(あれは一体……まさか、あれがあのふざけた胸の肉の秘密なの)
 どきどきしながらティファニアの踊りを見つめるルイズに、背後から静かな声がかけられた。
「あなたの推測どおり」
 振り返ると、タバサがいた。静かな瞳でティファニアを見据え、指で眼鏡を押し上げる。
「エルフに伝わる豊胸の踊りに違いない」
「ということは、あれをやればわたしも革命的な胸の肉を得ることが?」
「そう」
「イヤッフゥー!」
 喜びながらも、ルイズは怪訝に思う。何故このタバサが、自分にそんな情報を与えてくれるのか。
 その疑問が相手にも伝わったのか、タバサはこちらに右手を突き出すと、黙って親指を立ててみせた。
「貧乳同盟」
 ルイズは雷に打たれたような衝撃を受けた。貧乳同盟。なんと分かりやすい名前なのだろう。まっ
平らな自分とまっ平らなタバサ。目指すところは同じだったということか。
 ビバ、友情。ビバ、貧乳同盟。タバサの知恵と自分の努力が合わされば、恐れるものなどなにもな
い。目指すは山盛り胸の肉である。
「タバサ。わたしたち、頑張りましょうね」
 ルイズはタバサの両手を握ってぶんぶん上下に振り、足取りも軽くその場から立ち去った。

65 名前:ティファニア式豊胸体操:2007/09/18(火) 01:34:39 ID:dQ2OoWrN

 ティファニアは悲鳴を上げて、大きくすぎる胸をばいんばいんと揺らしながら、必死で背中に手を
伸ばしていた。
 しかし、届かない。あと少しのところで届かない。端から見れば奇声を上げながら踊っているよう
に見えるだろうが、そんなことは気にしていられなかった。
 そのとき、不意に背中に誰かの手が入り込み、すぐに抜き取られた。驚いて振り返ると、そこに見
知った小柄な少女が立っている。
 その指先には、先程自分の背中に落ち込んだ毛虫が握られていた。小柄な少女、タバサはその毛虫
を無感動に地面に放ると、黙って親指を立てた。
「グッジョブ」
 意味不明なまま、タバサは静かに立ち去った。

 翌日、才人は聞きなれぬ物音で目を覚ました。
 重い目蓋を押し上げると、ベッドから降りたルイズが奇声を上げながら変な踊りを踊っているのが見えた。
 数秒ほどもその奇怪な情景を眺めたあと、才人は深々と嘆息し、また布団を被った。
(いろいろあって疲れてるんだなあ、ルイズの奴。生温かい目で見守ってやろう)
 ルイズの奇声は、それからしばらく続いていた。

 朝焼けの空に浮かぶシルフィードの背中に跨って、タバサは「遠見」の魔法でルイズの踊りを眺め
ていた。もちろんいつもの無表情である。
「ねえねえお姉さま」
「なに」
「どうしてあんな嘘吐いて、ルイズに変な踊りを躍らせてるの。理由を教えてほしいのね」
 タバサは無表情のまま一言答えた。
「面白いから」
「きゅいきゅい。お姉さまってときどきすごくひどいのね」

 これが、数百年を経た今も旧ヴァリエール公爵領に伝わる奇怪な儀式の始まりであったと、歴史学
者のノーヴォル・ヤマグッティー氏は語っているが、真相は定かではない。
 なお、住民からこの逸話を聞き出したとき、同氏は
「とりあえず、おっぱいは大きい方がいいよね」
 というコメント残している。まことに業が深い話である。

66 名前:205:2007/09/18(火) 01:35:29 ID:dQ2OoWrN
ついでだから投下した。
俺は何が書きたかったんだろう。

67 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 01:38:41 ID:E5PfATeR
だが、それがいい

68 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 01:46:13 ID:Ci+WCgEq
ちょっとそこのエルフに実ってるけしからん果実を収穫してきます

69 名前:205:2007/09/18(火) 01:47:02 ID:O0YvrPj1
そうそう、歴史学者の名前はあんまり素敵だったので
前スレ570氏から勝手に拝借しました。ありがとうございます。
厨房でシルフィード(竜態)にファックされてもいいですよ。

70 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 01:51:12 ID:E5PfATeR
 血と汗と涙と、愛液ほとばしる努力と苦労と奇跡の末に、人並のおちちを手に入れたルイズ。

「見てっ!! サイトっ……これ、私っ」

「うーん……無い方がよかったかな」



 後の文献には、この出来事こそが大陸が5つに分かれた原因とされているが、真偽の程は定かではない。

71 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 02:05:02 ID:LpYWxZaV
ルイズ「ちいねえさま、なんだか胸がきりきり痛いの・・・・」
カトレア「ルイズ、それはね、胸が大きくなる前兆なのよ・・私もそうだったわ・・・」
ルイズ「ついでにお腹は気持ち悪いし、頭はガンガンするの」
カトレア「・・・ただの二日酔いね、横になりなさい」

72 名前:Soft-M ◆hjATC4NMLY :2007/09/18(火) 02:10:02 ID:PyJLZLj1
「ゼロの飼い犬」 12回目です。

前回までの話はここから読めます。
http://wikiwiki.jp/zero/?Soft-M

73 名前:水兵服とメイドの不安 1/13:2007/09/18(火) 02:10:45 ID:PyJLZLj1
「よしっ、出来上がり!」
 仕事が終わった後の夜半。自室で裁縫仕事を終えると、わたしは丈を直した服を
目の前に掲げました。白いラインが入った大きな襟の、半袖の上着。
サイトさんに言われたとおりの丈にしたのですが、わたしが着るには短すぎる印象です。
 さきほど丈を詰めたスカートに目をやると、そちらも今までわたしが穿いたことがないくらい
短い丈になっています。自分で直しておいていうもの何ですけど、本当にこれでいいのかな。
 
「変わった服ねぇ」
 ベッドに寝っ転がって本など読みつつ、時おりわたしの作業を眺めていた子……
ルームメイトのローラが、出来上がった上着とスカートを見て言いました。
「それ、あのサイトっていう子からプレゼントされたんでしょ?
変わった服装してると思ってたけど、女の子に着せる服の趣味まで変わってるのかしら」
 
「さぁ、そこまでは……」
「でも、彼の為なら着るわよね。何せ、あの”ひこうき”を飛ばしてあなたの村を救ってくれた
英雄なんだから。ホント、すごい子に目をつけてたものよね、シエスタも」
 ローラはベッドから身を起こすと、シーツの上にあぐらをかいてわたしに笑いかけました。
 その言葉を聞いて、わたしの胸に熱いものが灯る。サイトさんの姿を思い出して、
心臓が高鳴ります。
 
 サイトさんと一緒に宝探しに行って、その後の休暇でわたしがタルブの村に戻っていた時、
トリステインとアルビオンの間で戦争が始まりました。
 その時、村が竜騎士によって焼かれて、アルビオンの兵士が攻め入ってきて、
ただ逃げ隠れるしかなかったわたしたちを救ってくれたのが、
サイトさんとミス・ヴァリエール……それに、あの『竜の羽衣』でした。
 
 戦いの音がふいに途絶え、隠れていた森から恐る恐る出たわたしが空に舞う『竜の羽衣』の
姿を見たとき。草原に降りたその中から、サイトさんが降りてわたしに駆け寄ってくれたとき。
 思わず飛びついてしまったわたしを抱き留めて、「無事だったのか、良かった」って
ほっとした顔で笑いかけてくれたとき……。
 わたしが、どんなに嬉しかったか。どんなに安心したか。どんなに感謝したか。
 感激なんていう言葉じゃ済みません。言葉では収まらないくらいの感情が溢れました。
 
 今でもちょっと信じられません。前にもサイトさんに言ったみたいに、夢かおとぎ話みたい。
でも、現実。あの時、勢いでキスしてしまったわたしを抱きしめ返してくれたのも現実。
 わたしの実家で戦勝を祝っての宴会が開かれて、その時サイトさんが村の皆から勇者だ
英雄だと称えられたのも、本当にあったこと。酒の勢いのせいかわたしとサイトさんの仲が
家族や村の人たちの間では公認みたいになってしまったのも……。
 
「おーい、シエスタ? 聞いてる?」
「ふぇ?」
 いつのまにかすぐ近くまで来ていたローラに目の前で手を振られて、わたしは我に返りました。
「またあんたトリップしてたわよ。見てて恥ずかしいくらいに恋する乙女の顔になってたわ」
 溜息をつくローラ。慌てて頬に手を当てると、完全に緩んでる上に熱くなってます。
最近こんな風にサイトさんの事を思い出して惚けちゃう事が多いわ、気をつけないと。
 
「で、試着してみるんじゃないの? これ」
 ローラはわたしが直した上着を取り上げて言ってくる。サイトさんがわたしに
プレゼントしてくれたのは、船に乗る兵士の方が着る、水兵服というものです。
 いくらサイズを直したといっても、女の子が着る服としてはどうなんでしょう。
 
「も、もちろんよ。サイトさんから頂いたものだもの」
 わたしは部屋着を脱ぐと、ローラからその上着を受け取ります。改めて見てみると、
丈が短すぎてコルセットもつけられないし、下にシミーズも着られそうにありません。
仕方ないので、素肌の上にそのまま袖を通します。
「んー、いざ着てみるとそこまで不自然でもないわね。それで下は?」
 ローラが次に持ち上げたのは、これまたサイズを直した、学院の女子制服のスカート。
勝手に弄ってしまっていいものなのか不安でしたが、サイトさんがどうしてもと言うので
わたしが穿けるようにしてしまいました。けれど……。

74 名前:水兵服とメイドの不安 2/13:2007/09/18(火) 02:11:26 ID:PyJLZLj1
「……その長さじゃ、ドロワースが思いっきり見えるわよねぇ」
 ローラが眉をひそめて言う。そう、さっきから不安だったのはそこ。
このスカート、サイトさんの指示通りに太股が半分見えてしまうくらいの丈に詰めたので、
わたしの持っている下着と一緒に穿くことができません。
 
「一緒に小さな下着は貰ってないの?」
「うん……」
 頷きながら、とりあえずドロワースをつけたままスカートを身につける。
それから下穿きだけ脱ぎました。一応、これがサイトさんの望んだ格好のはずなんだけど。
 短いスカートの下でむき出しなお尻に落ち着かなさを感じながら、
ローラと共同で使っている姿見に格好を映してみます。
 
「わぁ……、な、なんだかいやらしい……」
 鏡に映った自分の頬がかあっと赤くなる。袖が短い服はときどき着ますけど、それに加えて
この格好だとお腹のあたりの肌もちらちら見え隠れして、何より足が太股の上まで見えてます。
 メイド服でも普段着でも、こんなに足を見せる格好はしません。
 
「そうだけど、男好きのする格好かもね。結構シエスタには似合ってるし」
「それ、誉めてるの?」
 複雑な気分でローラに聞く。
「誉めてるわよ。あなた、まだ自分の武器がわかってないみたいね」
「なに? わたしの武器って……わひゃ!?」
 急に背筋をぞぞぞっとした感覚が駆け上りました。いつの間にかローラがすぐ側まで来て、
わたしの足を指先で撫で上げたのです。
 
「これよこれ、シエスタのアピールポイント」
「あ、足?」
「足もそうだけど、この肌! シエスタの肌って綺麗なだけじゃなくて、
なんかわたしたちとは違うのよね。普段は長袖とスカートとブーツで
隠しちゃってるんだから、ここぞというときは見せつけて武器にするべきよ」
「そ、そうかな……」
 
 見せつけるっていうのはどうかと思うけど、誉められて悪い気はしません。
わたしは黒髪や黒い瞳が珍しいだけじゃなくて、肌の色や質感も回りの人とちょっと違うと
前から言われていましたが、たぶんひいおじいちゃんの血のせいなんでしょう。
 それは同時に、サイトさんやサイトさんの故郷の人と同じ血ということでもあります。
 
「それを計算した上でシエスタにこんな服着せようと思ったんだとしたら、サイトってば
実は意外と物が分かる男なのかもね。この肌、シエスタのモチモチ肌……ハァハァ……」
「ちょっと、いつまで触って……ひゃう!?」
「あ、下着つけてないんだっけ」
 その手がお尻にまで直接触れて、わたしは慌てて振り向いてローラを睨みつけました。
 
「いやー、でもお尻の感触はひときわ良かったわ。まさしく兵器ね」
 手をわきわき下品に動かしながら笑うローラ。わたしは呆れて溜息をつきます。
「でも、こんな短いスカートを下着無しで穿いてくなんて無理よ。風が吹いただけで
中が見えちゃう。サイトさん、わたしが小さな下着は持ってないって知らないのかな……」
 
 何度か一緒にお洗濯をしたから、知ってると思うんですけど。ミス・ヴァリエールの下着を
見慣れてるから、当然みんな持ってるものだと考えてるんでしょうか。
 わたしが悩んでると、ローラがいつになく真面目な顔になって口を開きました。
 
「シエスタ。その点なんだけど」
「なに?」
「サイトは、シエスタがドロワースしか持ってないってことを知った上で、
あえてスカートの丈を短く詰めろと言ってきたのかもしれないわ」
「へ?」
 理屈が通っていないローラの言葉に、思わず気の抜けた返事をしてしまいました。

75 名前:水兵服とメイドの不安 3/13:2007/09/18(火) 02:12:09 ID:PyJLZLj1
「どうしてそんな。だったら下着も一緒に貸して頂かないと」
「わかんない? つまり、サイトはその肌着もつけられない短い上着に短いスカートで、
下着もつけてない格好のあなたが見たいのよ」
 ローラは名探偵みたいな顔をして、人差し指をピンと立てる。
その言葉の意味を理解するのに、しばらく時間がかかりました。
 
「な、なんでそんな意地悪を!? サイトさんはそんなことしたがる人じゃ……!」
 あわあわと取り乱すわたしに、ローラはあくまで冷静に言います。
「自信を持ちなさい。彼はシエスタの身体が魅力的だと思ってるから、
そんな格好を見たがるのよ。それに、シエスタのことを好いてるからこそ、
意地悪してシエスタが困ったり恥ずかしがったりする姿を楽しみたいと思ってるのね」
 ローラの台詞に、開いた口が塞がりません。
 
「そ、そんなの普通じゃないわ!」
「……シエスタ、もしあなたの好きなサイトがその”普通じゃない”人だったらどうするの?
ついていけないからと諦めるわけ?」
 その言葉にわたしははっとしました。
「人の嗜好はそれぞれだし、愛情の形もそれぞれ異なるわ。もし彼が多少歪んだ性癖を
持っているのだとしても、それを受け入れてみせるのが愛ではなくて?」
「そんな……」
 体が勝手によろ、と後じさる。ローラの言葉とサイトさんの姿が頭の中でぐるぐる渦巻く。
 サイトさんがそんなことを望む人だとは思えません。だっていつも優しくて、
わたしを大事にしてくれて。それに、いつか帰らなければいけないから、気持ちに整理が
ついていないからと、わたしの身体は奪わない選択をするような人です。
 
「そういえばあなた、彼に手とか口で奉仕して喜んでもらえたとか言ってたわね。
なのに、最後までしてはもらっていない。あなたってば相当良いカラダしてるのに。
それって、彼はシエスタに対して普通とは異なった愛情を持ってるからとは言えないかしら?」
「う……!」
 わたしの思考の逃げ道を塞ぐようなローラの意見に、足下がぐらつきました。
 
「シエスタ、前にあなたに貸して、読んだわよねこの本」
 ローラは棚のところから本を一冊取り出して持ってきました。『メイドの午後』。
純朴で何も知らなかったメイドの少女が、旦那様の元で女として変えられてしまっていく……
要するに、オトナ向けの小説です。
 ローラはその本を開いてページをめくり、一点で止めました。
 
「この章が近いかしら。主人公の少女は旦那様の気まぐれによって
極端に露出の多い服を着ることを強要され、その格好で仕事をさせられてしまう。
少女は頬を染め、涙目で旦那様に助けを乞う視線を送るも、旦那様はいつも通りの態度で
静かに仕事を言いつけるだけ……」
 その章はわたしも印象に残ってます。その後、旦那様の要求は次第にエスカレート
していき、主人公の少女はその格好で旦那様と来客との会食の給仕をするのです。
そして、旦那様はわざと食器を落としたり、床を拭かせたり……。
 
「で、でもそれってあくまでお話でしょ? ホントにそんなことする人がいるわけじゃ……」
「まぁ誇張はあるかもしれないけど、いくらお話だっていっても現実にあり得ることを
参考にして作るものよね」
 ローラは『メイドの午後』をパタンと閉じる。わたしは腰が抜けたようにベッドの上に
座り込みました。
 
「もちろん、可能性の話に過ぎないわ。サイトの趣味はいたって普通ってこともあり得る。
けど、もし普通じゃなかったら。短いスカートに下着無しの格好をシエスタにさせたいと
思ってるなら……あなた、その期待を裏切って『こんなの着られません』なんて言える?」
「サイトさんは、そんなことでわたしを嫌うような人じゃ……」
 ローラの冷たい言葉に、わたしはぼそぼそと言い返します。
「そう思うなら、それでもいいんじゃない。でも、サイトが”シエスタに着てもらいたくて”
その服をプレゼントして加工して欲しいと言ったのは確かでしょう?」

76 名前:水兵服とメイドの不安 4/13:2007/09/18(火) 02:12:49 ID:PyJLZLj1
 襟の下に巻いたスカーフをぎゅっと握りしめる。そして、また姿見に目をやる。
露出は大きいけど、結構可愛いデザインで……よく見たら、ローラの言うとおり
わたしに似合ってる気もする水兵服。
 サイトさんはこれを目を輝かせた、興奮した様子でわたしにくれて。
わたしがプレゼントした手編みのマフラーをこれ以上ないほど嬉しそうに受け取ってくれて、
そのお返しだと言ってわたしにくれたこの服。
 
「……サイトさん……」
 不安でごちゃごちゃしていた胸に再び熱いものが膨らんでいくのを感じながら、
わたしは呟きました。
 
                      ∞ ∞ ∞
 
 消灯してわたしとシエスタはベッドの中に入った。結局、シエスタはサイトの要求通り、
明日あの服を着たところをサイトに見せるつもりみたい。
 彼女はまた恋する女の子みたいな顔になりながら、大事そうに水兵服とスカートを畳んで
机の上に置いてた。
 そんなシエスタの様子を思い出しながら……。
 
 わたしことローラは、布団を引っ被って笑いを堪えるのに必死だった。
 恋は盲目とはよく言ったもんだわ。面白くなりそ。
 
                      ∞ ∞ ∞
 
 
「それはぼくの世界ではセーラー服と呼ばれてますッ! 生まれてすいましぇエエンッ!」
 今まで見たことがないくらいに盛り上がって拳を握りしめている
サイトさんにちょっとおののきながら、わたしは自分の格好を改めて見直しました。
 
 この服……今サイトさんが教えたくれた呼び名で言うなら、セーラー服を仕立て直した翌朝、
アウストリの広場。わたしは意を決してそれを着て、サイトさんに見てもらっています。
 そこでようやく知ったのですが、この服装は、サイトさんの故郷ではサイトさんと同年代の
若い女性が学校の制服として着ているものなのだとか。それで、なぜこんな変わった服を
わたしに着せたがったのかはわかりました。
 
 やっぱり、サイトさんは、サイトさんと同じ血が入っているわたしに、故郷のことを
感じているんだわ。帰れない母国、否応なしに離されてしまった家族や友人のことを。
 そのことで、故郷に帰れないサイトさんを慰めてあげられるなら、こんな格好くらい、
何度だってしてあげたいと思います。
 
 ……それはそれで、いいんですけど。
 ちらりとサイトさんの方を見ると、サイトさんは半泣きになりながらわたしの方を
じっと見ています。体を震わせながら。ちょっと、喜びすぎじゃないのかな。
 それに、サイトさんの国の女の子は本当にこんなに極端に肌を見せてる格好を
してるんでしょうか。少なからずサイトさんの趣味が入ってるところもあるのでは……。
 
 少なからず湧き出てしまった猜疑心を振り払って、頭を切り換えます。
ダメよシエスタ。だって昨日、サイトさんにどんな趣味があるのだとしても、
出来る限り受け入れるって覚悟したじゃない。それに、サイトさんにはどんなことをしても
釣り合わないくらいのご恩を感じているし、何より、わたし自身がサイトさんのこと……。
 うん、とわたしは力強く頷いて、サイトさんの顔を見つめます。今のわたしは、
サイトさんのためにいるんです。サイトさんの望むことなら何だってしちゃいます。
 
「どうすれば、もっと喜んでもらえるんですか?
言って、サイトさん! どうすればわたし、もっとサイトさんの故郷に近づけるの!?」
 半ば自棄になってそう言うと、サイトさんは一瞬、難しそうな顔をして。
「回ってくれ」
「え?」
「くるりと、回転してくれ。そしてそのあと、『お待たせっ!』って、元気よく俺に言ってくれ」

77 名前:水兵服とメイドの不安 5/13:2007/09/18(火) 02:13:31 ID:PyJLZLj1
 お待たせって何? 何を待たせたの?
 いくらどんな趣味にも付き合うと決意したとはいえ、わたしの理解の
範疇外になりつつあるサイトさんの要求に、体じゃなくて頭の中がぐるぐる回転します。
 でも、サイトさんが望んでるんだから。わたしは混乱をぐっと堪えて、サイトさんに頷いて返す。
 そして、言われたとおりくるっと回ろうとして……。
 
 今、下着を穿いてないことを思い出しました。もし、スカートの裾が舞い上がったりしたら。
緊張に身がすくんで、回転するというより、ただ背中を見せてから前に向き直るみたいに
なってしまいました。
 
「お、お待たせっ」
 それでも要求されたとおりの台詞を呟くと。
「ちがーうッ!」
「ひっ」
「最後は指立てて、ネ。元気よく、もう一回」
 言葉は柔らかいけど、鬼気迫る雰囲気を放ちながらダメ出しするサイトさん。
 わたしはスカートの裾を抑えて、思わず少し後じさってしまいました。
 
 元気良く回る、って。つまり、スカートをひるがえして、中が見えるようにしろってこと?
 今まで忘れていた不安がよみがえります。サイトさんは、わたしに恥ずかしい格好を
させたくてスカートを短くしろって言ってきたんじゃないかっていう不安。
 
 昨日ローラに言われた、『メイドの午後』のワンシーンが脳裏に浮かびます。
 あの話でメイドに露出の激しい格好をさせた旦那様は、直接的に恥ずかしいポーズを
要求するのではなく、わざと遠回しに……脚立を使って高い所の掃除をさせるとか、
物を拾うために屈ませるとか、そういうことをさせて虐めるのです。
 
 今のサイトさんも、まさか。ぐらぐらと頭の中が沸騰してくる。
本当に何度も回転したみたいに、足下がおぼつかなくなってくる。
 でも、サイトさんはわたしに期待でいっぱいの視線を注いでいます。
 他でもない、このわたしにこんな格好をさせて……下着すら着けていない、
むき出しのスカートの下が見えてしまう”かもしれない”行為をを望んでいるのです。
 サイトさんはわたしを、虐めたがっている……。
 
 じわっ、と体の奥に熱いものが膨らみました。今にも倒れてしまいそうなのに、
サイトさんのお願いに応えなきゃいけないって気分だけがわたしの体を支配する。
 わたしはごくりと生唾を飲み込むと、自分じゃない誰かの意思で操られてるみたいに、
”元気よく”くるっと身を回転させました。
 
 ふわりとスカートが舞い上がるのが嫌に鮮烈に感じられる。
 ――見られた? ううん、真横からだったら見えるかもしれないけど、
サイトさんはわたしより背が高くて、すぐ近くにいるから……たぶんわからないはず。
 
「お待たせっ!」
 声が裏返りそうになりながら、言われたとおり指を立てて、サイトさんに笑いかけながら
言いました。とくん、小さく体が震える。腰が縮み上がる。
 はっとして、足をとじ合わせました。今、わたし、濡れてしまった。
下着をつけてないから、もしこのままこんなこと続けたら……。
 
「きき、き、君の勇気にありがとう」
 でも、サイトさんは喜んでる。熱のこもった視線でわたしを見てる。もしも足まで垂れて
しまったら、それを見られてしまったらなんて考えて、背筋に寒い物が走ったのに。
早くいつもの服に着替えたいと理性では思うのに。なのに、次にわたしの口から出たのは、
 
「……次はどうするの?」
 そんな、かすれた声。本当に、まるで自分の体が自分のものじゃないみたい。
「えっと、次は……」
 サイトさんがそう言って腕を組んだとき。

78 名前:水兵服とメイドの不安 6/13:2007/09/18(火) 02:14:13 ID:PyJLZLj1
「それは、なんだね? その服はなんだねッ!」
「けけ、けしからん! まったくもってけしからんッ! そうだなッ! ギーシュッ!」
 脇から急に男性の声が聞こえてきて、わたしはびくっと身をすくめました。
 見ると、ミスタ・グラモンとミスタ・グランドプレが鼻息を荒くして近付いてきます。
 
「ああ、こんなッ! こんなけしからん衣装は見たことがないぞッ! のののッ!」
「ののの脳髄をッ! 直撃するじゃないかッ!」
 サイトさんに詰め寄りつつも、わたしの格好を横目でじっと見ているお二人。
 わたしは愛想笑いを浮かべましたが……その視線に、サイトさんに見られたときとは
全く違う不安と恐怖を感じました。
 
 このお二人、まさか、さっきまでわたしがサイトさんの前でしていたことを、
見ていたのでしょうか。サイトさんに言われて回転して、スカートが舞い上がった所を。
 こちらから気付かないほど遠くにいたのなら、見えるはずない。わかるはずない。
でも、様子が尋常じゃない。わたしを舐めるような視線で見回してる。
 
 やだ……こんな格好なのに。サイトさんにだから見せてもいいって、見られてもいいって
思ってこの服を着たのに。他の人に見られるのは、絶対に嫌です。
 わたしは助けを乞うようにサイトさんに視線を送る。けど、サイトさんは満足そうに
わたしを見ていました。まるで、わたしの格好をこのお二人に自慢するみたいに……。
 
 顔から血の気が引くのがわかりました。サイトさんは、わたしがサイトさん以外の人に
見られても構わないと思っている……それどころか、誇らしげに見せつけようとさえ
しているのです。わたしのこんな、異常な格好を。
 
「……じゃ、仕事に戻りますっ!」
 ミスタ・グラモンとミスタ・グランドプレの視線が。それにサイトさんの様子が怖くなって。
わたしはとってつけたような言い訳をして、その場から走り去ってしまいました。
 
 
                      ∞ ∞ ∞
 
 
 なんだかシエスタの様子がおかしい。
 仕事が片づいた夜。シエスタは部屋のベッドの上で、自分で仕立て直した水兵服
――サイト的にはセーラー服とかいうらしいけど――を持って、「はぁ」とか「ふぅ」とか
溜息をつきつつ、時にはそれをぎゅっと抱きしめたり物思いに耽ったりしている。
 
 ある意味見てて面白いのでしばらく観察してたけど、こんな風になったのはわたしが
おとといの晩に変なことを吹き込んだせいもあると思うので、話を聞いてあげることにする。
 
「どうしたのよ、シエスタ。その服、サイトに喜んでもらえたんじゃないの?」
「うん……」
 シエスタは頷いて、思い詰めた顔をわたしの方に向けた。シエスタは昨日の朝、
サイトにそのセーラー服を着た姿を見てもらって、大層喜ばれたらしい。
 
 わたしが「彼はシエスタにミニスカートでノーパン姿の格好をさせたいんじゃないの?」と
言ったのは、はっきり言って冗談だ。わたしだってサイトの性格に詳しいわけじゃないけど、
いくらなんでも学内で露出羞恥プレイを敢行したがる子には見えない。
 見事に信じたシエスタが可愛いのでそのままにしておいたんだけど……サイトにセーラー服姿を
見てもらった翌日の、今日の夕方になってから急にシエスタが挙動不審になった。
 
「あのね、ローラ」
 シエスタは悩める少女の視線をわたしに向ける。う、ちょっとどきっとしてしまった。
この子って天然にいぢめてオーラ出すのよね、時々。
「うん?」
「今晩、サイトさんに呼び出されてるの」
「おぉ」

79 名前:水兵服とメイドの不安 7/13:2007/09/18(火) 02:15:06 ID:PyJLZLj1
 素直に感心した。シエスタってばあれだけ色々アタックした上、実家に招待して
家族に紹介までしたのに最後まではいってなかったらしいけど、
遂にオンナになる日が来たらしい。感慨深いような、少々寂しいような。
 
「良かったじゃん、頑張りなよ。それで、どうするの?
またわたし別の部屋に移って、ここ空けてあげてもいいよ?」
 以前にサイトを泊めるために、部屋を譲ってあげたことがある。
その時は一緒のベッドで寝たけど、キスとお触りまでだったとか言ってたっけ。
 
「それがね……火の塔の階段の踊り場に、このセーラー服で来てくれって……」
 シエスタは顔を伏せ、おずおずとそう言った。わたしは一瞬ぽかんとしてしまった。
 なにそれ、場所と服装指定? しかも、適度に人気がなさそうな場所?
 わたしの背中に嫌な汗が湧き出てきた。ちょっと待って、瓢箪から駒ってやつ?
 
「それ、間違いないの? 聞き違いとかじゃなくて?」
「たぶん……」
 シエスタははふぅ、と深い息をついた。その返事にわたしまで頭を抱えたくなる。
 
 サイトはミス・ヴァリエールの部屋に寝泊まりしているんだから、
シエスタと二人っきりになれるまともな場所はこの部屋くらいしかない。
 そんな中で、火の塔の前なんていう夜には人気が無い場所に、
自分がプレゼントした服装で来ることをはっきり要求したってことは……。
 
「ホントにサイトって、マニアックな趣味があったのかしらねぇ」
「そんな、他人事みたいな……!」
「だって他人事だし」
 ちょっと泣きそうになってるシエスタにそう返す。わたしだってびっくりだ。
 
 シエスタが抱えている、セーラー服とやら。確かに冷静に考えたら、
こんな服、ちゃんと下着をつけていたとしても日常的に着られるものじゃない。
 そんな格好のシエスタを夜の校舎前に呼び出して、一体どんなことを
させるつもりなんだろうか。ちょっと想像してみる。
 
                      ロ 口 □
 
「あの……サイトさん……」
 夜のアウストリ広場。小動物のように身を震わせながら、人目につかぬよう暗がりを通って
火の塔の階段までやってきたシエスタは、そこで待っているはずの人の名を呼ぶ。
 
「シエスタ。遅かったね」
 踊り場の上に立っていた少年……サイトの声を聞いて、シエスタの表情がいくらか和らぐ。
けれど、その顔にはまだいくらか不安の色が残っている。
 
「あの、ごめんなさい。待たせてしまいましたか?」
「大丈夫、気にしないよ」
 コツコツと階段を下りてくるサイト。月明かりの下の彼は、いつもシエスタを見るときと同じ
人懐っこい笑顔を浮かべている。けれど、それは今のシエスタには安心の材料にはならない。
「ちゃんと俺が送った服、着てきてくれたんだ」
「はい……」
 サイトはシエスタのすぐ前まで来て笑いかける。いくらいつもと様子が違うとはいえ、
目の前にいるのは自分の想い人。シエスタの胸が熱く高鳴る。
 
「それじゃ、始めようか」
 同じ調子でそう続けたサイトの言葉に、シエスタは息を飲む。
「え……、あの、ここでですか?」
「? ここじゃ、何か問題あるかな?」
 意外そうに聞き返すサイト。その顔には悪びれた所など何もなく、
そのことがいっそうシエスタを混乱させる。

80 名前:水兵服とメイドの不安 8/13:2007/09/18(火) 02:15:47 ID:PyJLZLj1
「あの、サイトさんが望むなら、いいんですけど……できたら、二人っきりになれる所……、
わたしのお部屋とか、そういう場所がいいかなって」
「変なこと言うね。部屋の中でできるわけないだろ?」
「へ?」
「だって、これから散歩をするんだから」
 苦笑しながらサイトはそう言う。シエスタは唖然として目を見開いた。
 
「さ、散歩ですか……?」
「そうだよ? 何だと思ったの?」
 シエスタの頬がかあっと茜に染まる。彼女はこの夜、サイトに奪われてしまうものと思って
ここへやってきたのだ。だからこそわざわざこの場所とこの服装を指定したサイトに対して
色んな邪推をしてしまった。
 それが全て自分の勘違いだと知り、シエスタの中に一気に羞恥が湧き上がってくる。
 
「な、何でもありませんっ! サイトさんとお散歩ですよね、そっかぁ……」
 シエスタは誤魔化し笑いを浮かべて目の前で手をぶんぶん振る。ちょっとした失望も
感じてしまっている自分に気付きながら、でも散歩といっても、言い方を変えれば
夜の逢い引きだわ、と考え直す。サイトさんからの逢い引きのお誘い。
それは十二分にシエスタの心を満たす響きだった。
 
「ああ、じゃあ行こうか」
 シエスタに笑いかけて、学院の裏手の方へ歩き始めるサイト。シエスタは小走りに
その背中を追う。と、数歩歩かないうちに、サイトが振り向いてシエスタを見る。
「違うだろ、シエスタ」
「え……?」
 急にそんなことを言われて、不思議そうな視線を返すシエスタ。
「両手、地面について」
 サイトはシエスタの頭にそっと手を置き、優しく撫でながらそう言った。
 
「え、あの、手……って?」
 言葉の意味がわからず、しどろもどろになるシエスタ。サイトは空いている手でシエスタの
手をとると、頭を撫でていた手でシエスタの頭を軽く押し下げる。
 強要するような力の入れ方ではなく、促すだけのような力なのに、シエスタは操り人形にでも
なってしまったかのように、ぺたんと地面に膝をついた。丈の短いスカートの外にある膝が
直接触れた草地の冷たさが、いやに生々しくシエスタの体に伝わる。
 そのまま、一緒に屈んだサイトに誘われるように、両手のひらも同様に地面につけてしまう。
 
「うん、その格好。立っちゃだめだよ?」
 サイトの方はあっさりと立ち上がり、シエスタを見下ろしながらそう言った。
「あの、サイトさん、なんでこんな……」
 シエスタはその顔を見上げながら、震える声で聞いた。まったく理解できない状況。
なのに、立ち上がることはできなかった。サイトの要求が、心より先に体を縛っている。
 
「こら、喋るのも駄目。今のシエスタは、犬なんだから」
「え……!?」
「シエスタは俺の飼い犬、だろ? じゃ、”シエスタの散歩”始めようか」
 サイトはにっこり笑ってシエスタの髪を撫で、再びシエスタに背を向けて歩き始めた。
 その背中を、シエスタはしばし呆然と見つめる。何が起きてるのか理解できない。
 犬と呼ばれて、こんな格好をさせられて……恥ずかしさや屈辱よりも、混乱が勝る。
 
「どうしたの? 散歩、嫌?」
 シエスタがついてこない事に気付いたサイトは、また振り向いて言った。
 その声に、表情に。シエスタの心臓が跳ねる。もし嫌だなんて言ったら。
ここで立ち上がって拒否したりしたら、それはサイトを失望させること。そして、
サイトとの繋がりを断ち切ることになるような気がしたから。
 
「い、嫌じゃありません! さ……散歩、してください……」
 シエスタは散歩を”しましょう”ではなく、散歩を”して”と言った。自分でも意識せずに。
「ほら、また喋った。駄目だろ、犬の返事は?」
 サイトの言葉に、シエスタははっとして考える。サイトの望むこと、言いたいこと。

81 名前:水兵服とメイドの不安 9/13:2007/09/18(火) 02:16:27 ID:PyJLZLj1
「……わ、わん」
 そして、何秒も迷わないうちに、シエスタは口を開いてそう言った……いや、鳴いた。
 サイトは「よくできました」とでも言わんばかりの笑顔を見せる。その笑顔を向けられて、
シエスタの顔は自然に輝き、体の奥には今までに感じたことが無いものが膨らんだ。
 
 
 学院の外壁の側を、サイトとシエスタは”散歩”する。サイトはごく普通に……、いや、
シエスタに合わせて普段よりもゆっくりと歩を進め、シエスタはその横を四つん這いになって
ついていく。
 シエスタが初めに考えた、逢い引きなどというものとはかけ離れている。
恋人同士のような会話などない。指や手を絡めて甘い雰囲気を作ることもない。
 
 けれど、シエスタの意識は隣を歩く”飼い主”の事を常に意識しており、その頬は赤らみ、
胸の鼓動は早まっている。四つ足で歩くという、人間の体には負担のかかる行動のためも
あるのだろうが、息も多少荒くなっている。時おり口を大きく開いて呼吸する姿は、
それこそ犬を連想させた。
 
 どうしてこんなことに。疑問に思うのは、なぜサイトがシエスタにこんな行為を
要求するのかということと、なぜ自分は理由も問わずにその要求に従っているのかということ。
 わからない。聞きたい。けれど、人間の言葉で喋るのは禁じられている。
 まともに考えれば、喋るのは駄目というのもサイトの理不尽な要求のうちなのだから
無視してしまえばいいとわかるのだが、今のシエスタにはわかっていても不可能なことだった。
 
 ただ……、シエスタ自身にも、後者の疑問の答えは薄々わかっていた。
 シエスタは、この状況を嫌がっていない。嫌がっていないどころか、
サイトの要求を黙って受け入れるということに、充足を得ているのだと。
「あぁ……」
 シエスタの口から吐息とも声ともとれないものが漏れた。その中に含まれている
艶のような物に気付いて、シエスタは思わず身を縮こませて震えた。
 
「どうしたのシエスタ? 寒い? 疲れた?」
「わ、わん……」
 シエスタはサイトの質問に鳴き声で応じた。意思が通じるかどうかは問題ではない。
ただ、彼女の心と体に、サイト……いや、”ご主人様”からの「喋るのも駄目」という
命令が鎖をかけていた。
 
「ひょっとして、おトイレかな?」
 あまりにも自然に出てきたサイトの言葉に、シエスタはびくりと体を震わせて
ご主人様を見上げる。今のシエスタには、彼の望んでいることが理解できてしまった。
あたかも飼い主の意思を察する忠犬のように。
 今の言葉は質問ではなく、飼い犬であるシエスタへの要求なのだと。
 
 シエスタは小さく腰を揺らした。本当は、少し前からその自覚があった。
 今のシエスタの格好だと、四つん這いになったことで丈の短い上着とお腹との間に
できた隙間に、夜の冷えた風が当たる。また、極めて短いスカートを穿き、
さらに腰を曲げているせいで、何もつけていない腰が外気に晒されている。
 つまり、この衣装のせいでシエスタの体は冷たくなり、尿意に襲われつつあった。
 
「我慢は良くないよ。それじゃ、ここでしてしまおうか」
 ご主人様は近くにあった塔の壁のすぐ側までシエスタを促した。
シエスタは熱に浮かされたような顔で、ふらふらとその足下へ歩いていく。
 そこで、気付いた。その塔は学院の女子寮であり、見上げればまだ灯りの漏れている
窓がちらほらあった。
 
 シエスタの頭の片隅に残った理性が、己の行動を批難する。自分が何をするつもりなのか
理解しているの? 正気の沙汰じゃないってこと、わかってる?
 シエスタは潤んだ瞳と微かな微笑みで、ご主人様を見上げた。
 わかってる。わたしは、ご主人様の望むことをするだけ。
前に誓ったとおり、彼の望むことを全て受け入れるだけ……。

82 名前:水兵服とメイドの不安 10/13:2007/09/18(火) 02:17:08 ID:PyJLZLj1
「ほら、シエスタ」
 サイトは遠慮無く……本当に何の躊躇もなく、シエスタのスカートを捲り上げた。
 ひっ、と小さく息を詰まらせるシエスタ。形の良いお尻が月明かりの下に、一切の隠す物が
無く露わになる。ルームメイトに武器だとまで誉められたところが、こんな歪んだ形で
初めてサイトの視線に晒される。
 
「片足、上げてもらおうかな。足にかかったら困るし」
 サイトは続けてそんなことを言った。シエスタの頭にぼうっと霞がかかる。
 わたしはご主人様にお尻を見られてしまったのに、こんなに恥ずかしいことなのに、
ご主人様は何も感じてない。飼い犬がすること、当然のこととして受け止めている。
 ……だったら、これは何も恥ずかしいことじゃないんだ。そう、犬が主人にどこを
見られたって、どんな行為を見られたって、恥ずかしい事でも何でもない。
 
 シエスタはサイトの言葉通り、片足……ご主人様の方に足の間を晒すことになる方の足を、
ゆっくりと持ち上げた。短いスカートは腰のところに捲られて、このままでも汚れることはない。
 そうか、この格好で下着を穿かないのって、飼い犬のわたしが外で用を足すときに
邪魔にならないためだったのね。嬉しい、サイトさん、わたしのためを思ってこの服を
見立ててくれたんですね。ありがとうございます、少し疑ってしまってごめんなさい。
 
 足が高く上がった。その間がご主人様に向かって開かれる。
 サイトは、そこをじっと見ていた。月明かりに逆光になって、シエスタからその表情は
よくわからない。わかるのは、自分が想い人に初めて、はっきりと見られてしまったことだけ。
 
 その太股を、きらりと光る雫が伝って落ちた。それが尿ではないことに、
彼女は気付いている。
 申し訳ありません、わたし、犬なのに。サイトさんの飼い犬なのに。
なのに、ご主人様に見られてしまっただけでこんな……。
今、わたしがするのは違いますよね。すぐに、すぐに済ませますから。
 
 シエスタは目をぎゅっと瞑り、下半身に力を込めた。恥ずかしいことだとか、
異常なことだとか、そんな常識はもう表出しない。ただ、ご主人様の望むことだから。
 高く上げた足がぶるりと震え、シエスタの足の間から、綺麗な放物線が溢れて零れた。
 
 まるで永遠に感じられるほど、長く……そして、身を焦がす時間だった。
水音が響くたび、開放感が体に走るたび、そしてご主人様の視線を感じるたび。
 シエスタの表情はどんどんとろけていく。僅かに残っていた人間の部分が
現在自分が排泄されているものと一緒に体から流れ出てしまうかのように、
彼女の纏う雰囲気が雌犬のそれになっていく。
 放出はやがて弱々しくなっていき、最後には地につけた膝や太股の方まで垂れて、
ようやく終わった。けれど、シエスタはその体勢を崩さない。
 
「随分たくさん出たね。足の方まで汚しちゃって。拭いてあげるから、じっとしてて」
 その言葉に、シエスタは瞳を輝かせた。期待していたことを、ご主人様が言ってくれたから。
 腰を小さく揺すってシエスタはおねだりする。サイトはポケットからハンカチを取り出すと、
まず足の方に垂れた分から拭きはじめた。
 シエスタの喉から、くぅん……、と犬そのものな声が漏れる。くすぐったさを我慢したのと、
ご主人様への甘えが混じった声。サイトのハンカチは太股を綺麗にした後、
上の方へ登っていき、ついに柔らかい丘に触れた。

83 名前:水兵服とメイドの不安 11/13:2007/09/18(火) 02:17:49 ID:PyJLZLj1
 シエスタの全身が痙攣する。地につけたれた手足にぎゅっと力が込められる。
体中を走り抜けるような甘い刺激に、シエスタの甘えるような鳴き声は一層大きくなる。
 けれど、サイトはそんなシエスタの反応に気付きもしないかのように、ただ丁寧に
その部分の湿り気を拭くだけの作業を続ける。優しく、静かに。敏感で大事な部分を
傷つけないように。飼い犬への愛情がたっぷり感じ取れる手つきで。
 
 けれど、駄目だった。シエスタは、完全な”飼い犬”にはなりきれなかった。
サイトも違和感に気付く。いくら拭いても、その部分の水気は取りきれない。いや、むしろ
さらにシエスタのそこは潤んでいく。
 
「シエスタ、どうしたの? これ」
 ご主人様の呆れた声。だが、その声には愉しむような色があった。
シエスタはとろとろになった顔でご主人様を見る。彼は、あくまでも優しい飼い主の
笑顔でシエスタを見返し、小さく首を傾げた。
 
 シエスタは上げた足を下ろし、再び四つん這いになった。そして、肘までを地面に
下ろし、お尻を高くご主人様の方へ掲げた。――捲り上げたスカートはそのままに。
「くぅん……」
 シエスタは首をめぐらせてご主人様を見つめ、ねだる。今度は、飼い主である
サイトの方がシエスタの望むことを理解し、受け入れる番だった。
 
 サイトはくすりと笑った。その顔が、”飼い主”のものだったのか、
そうではないものだったのか……その時のシエスタには、わからなかった。
 
                      ロ 口 □
 
「あぁ、なんてこと! なんとインモラルな、マニアックな、けどツボをついたことを……!
おのれサイト、なんという羨まし……じゃなくて美味し……でもなくてイケナイことを!」
 わたしは頭を抱えて膝をつく。シエスタの純潔がそんな形で奪われてしまうだなんて。
しかも、これはあくまでも始まりに過ぎない。これからサイトとシエスタの関係は
さらに歪んだ、爛れた、しかし濃密な愛情の詰まったものになっていくのでした。
 
「はぁ、はぁ、止めないと。でもそんなになっちゃうシエスタもそれはそれで……」
「あの、どんなこと考えたのかは知らないけど、もういい?」
 
 その言葉に我に返ると、シエスタがせつないものを見る目でわたしを見つめていた。
「あ、シエスタ。尻尾は? あと首輪は渡されてない?」
「ないわよ」
 冷めた声のシエスタに、わたしも冷静になってコホンと咳払いをする。
妄想はこれくらいにしておいて、真面目にシエスタの相談に乗ってあげないと。
 
「ま、まぁ、サイトだっていくらなんでも初めてのシエスタにそんな無茶なことは
しないと思うな。会って話せば何とかなると思うよ、うん」
 とってつけたように楽観的な意見を言ってあげると、シエスタは俯いた。
 
「……本当は、昨日の朝から気になってたんだけど……」
「うん?」
「サイトさん、その……わたしのあの格好を、他の人に見られてもいいみたいで。
むしろ、他の人に自慢するみたいな様子だったの」
 シエスタは大きく息をついて、すがるような目をわたしに向けてきた。
 
「なるほど……、そりゃ、確かに不安かもね」
 シエスタは好きになった相手にはとことん積極的になる性格のようだけど、
基本的には落ち着いていて、大胆とは言い難い。一途だと言い換えてもいいが、
好きでもない男の好奇の目に晒されることなんて嫌がるタイプだろう。

84 名前:水兵服とメイドの不安 12/13:2007/09/18(火) 02:18:31 ID:PyJLZLj1
「それで、ローラから貸してもらった本の中に、あったでしょ?
他の人の衆目があるところで女の子にいやらしいことして見せつけるとか、
それどころか、わざと他の男性に、だ、抱かせるとか……」
「い、いや、そこまで通好みな趣味は無いと思うけど」
 さすがに、今のシエスタの発言には引く。いや、わたしだって結構な妄想はしたけど。
 
 でも、シエスタの煮え切らない態度にちょっと疑問が生まれる。
 この子はサイトの事を信頼して、理解しているはずなのだ。まともに考えれば、
想い人がそんな自分を傷つけるような要求するわけないってことくらいわかるし、
不安に感じることだって無いはず。
 どうしてこんな、はっきり言っちゃえばくだらないことで悩んでいるんだろう。
 
「シエスタ、あなた、何か隠してることない?」
 真面目な声と表情をつくって、シエスタに聞く。シエスタはわたしの目を見た後、
少し間を置いてから、小さく口を開いた。
 
「……わたし、サイトさんのことが好きなの」
 
 小さく脱力する。肩ががくっと落ちた。
「知ってるよ、そんなこと」
 やれやれと言い返すと、シエスタはかぶりを振った。
「違うの。前より……、つい数週間前も、サイトさんの事は大好きだったけど、
その時よりずっと好きになってるの。自分でも怖いくらい。どうしようもないくらい」
 ただののろけ話じゃないらしい。姿勢を正して、続きを促す。
 
「サイトさんは凄い力を持った人で、貴族の方より強くて、魔法使いでもできないくらいの
手柄を立てていて、なのに全然いばったところがなくて、気さくで、
わたしにも優しく接してくれて、わたしを大事だと言ってくれて……」
 やっぱりただののろけな気がしてきた。
 
「大好きだし、憧れだったの。だからサイトさんに喜んで欲しかった。笑って欲しかった。
わたしのことを見て欲しかった。けど……」
 シエスタは、まだ手に抱いたままのセーラー服をぎゅうっと握りしめた。
「……サイトさん、わたしの村を救ってくださったでしょう?」
 話を急に切り替えると、シエスタはわたしに問いかける。わたしは頷いて返した。
「うん。あなたから聞いたんじゃない。あの子はまさしく勇者だ英雄だって」
 そう言ってやると、シエスタは寂しそうに笑った。
 
「そう。勇者で英雄。『竜の羽衣』を使って、戦争の優劣まで変えてしまうほどの人。
だから、そんなすごい人……サイトさんには、わたしなんて釣り合わないんじゃないかって……」
 シエスタの言葉に、わたしは唖然とした。今さらそんなことで悩んでいたんだろうか。
 
「何言ってるのよ、恋に釣り合う釣り合わないなんて関係ないでしょ。そんなので悩んでる
暇があったら、あなたのできる最大限の事でサイトにアタックするしかないのよ!」
 はっきり言ってやると、シエスタはまた顔を伏せてしまった。
 
「そう……それ」
「へ?」
「サイトさんと釣り合うかどうかなんて、関係ないの。それくらいサイトさんが好き。
サイトさんのためなら、何でもしてあげたいくらい。何をされてもいいくらい。
サイトさんの望むこと、全部受け入れてあげたいと思うくらい。……本当に、全部。
有り得ないことだとわかってるけど、例え、わたしに酷い事をして楽しみたいっていう
要求だったとしても……」
 
 そこまで聞いて、わたしはようやくシエスタの”不安”を理解した。
シエスタは、サイトが自分に無茶な要求をしてくるんじゃないかと不安だったわけじゃない。
むしろ逆。どんな無茶な要求をされても、それを受け入れてしまうであろう
自分の感情に対して、不安だったのだ。

85 名前:水兵服とメイドの不安 13/13:2007/09/18(火) 02:19:11 ID:PyJLZLj1
「それって、媚びてるっていうことよね。なりふり構わないってこと。
そんな浅ましい女の子なんて、サイトさんが喜ぶわけない。好きになってくれるわけない。
それが怖くて……、でも、わたしに他にできることなんて無くて……」
 
 シエスタの瞳から涙が零れた。頬をつたって顎から落ちた雫は、
胸に抱えたサイトからのプレゼントの服に落ちる。
 その様を見て、胸が締め付けられる。かけてやれる言葉が見つからなくなる。
 シエスタが抱えているのは……何のことはない、恋煩いだ。この世界にいくらでもある、
処方箋の無い病のひとつ。
 けれど、シエスタの病は深い。今まで身近で見たことがないくらいの、重い恋。
今まで恋愛に関しては先輩面して助言なんかをしてきたわたしだけど、
このシエスタを助けてやれる明確な言葉なんて、わたしは持っていない。
 
「……シエスタ」
 わたしは彼女の側に行って、その体を抱きしめてやった。抱きしめて、彼女が恋している
男の子と同じ、夜の闇のように黒い髪を撫でる。
 
「シエスタはいい子よ。その気持ちも、自分の気持ちに不安になって悩んでしまうのも……
いい子だから生まれてくるもの。だから、不安になることなんてないわ」
 いい子、いい子と繰り返しながら、本当に子供をあやすみたいに頭と背中を撫でる。
 
「いい子だなんて……、そんなの、何にもならないわ」
「ううん、そんなことない。いい子だっていうのは、これ以上無いほどの武器よ。
それだけで男の人に選ばれることができるくらい。望んでも得られない最強の魅力。
何せ、燃え上がるような恋が冷めた後だって、”いい子”はまだ好かれるんだから」
 
 顔を離して、ウインクして見せてやる。シエスタは泣き笑いみたいな表情を浮かべた。
「あんまり誉められた気がしないんだけど……」
「そう? 最後に笑えるのはあなたみたいなタイプって言いたかったんだけど」
 シエスタは涙を拭くと、今度こそ素直に微笑んで身を離した。
 
「ありがとう、ローラ。ごめんね、泣き言聞かせちゃって……」
 ぺこりと頭を下げるシエスタ。
「何言ってんのよ、困ったときはお互い様。それに、あなたとわたしの仲じゃない」
 わたしは目の前の親友と目を合わせて、笑い合った。
 
 
 それから、シエスタは吹っ切れた顔をしてセーラー服を着込み、
サイトとの待ち合わせ場所に向かった。あの様子なら、悪いようにはされないだろう。
 その時のわたしはそう満足して就寝したのだけど、シエスタはサイトとの密会を
ミス・ヴァリエールに目撃され、さらにその後色々とややっこしい事態になったらしい。
 まぁ、それはわたしとは関係ない話なんだけどね。
 
 
つづく

86 名前:Soft-M ◆hjATC4NMLY :2007/09/18(火) 02:20:41 ID:PyJLZLj1
続きます。

次回は『お医者様でも草津の湯でも』
ルイズの話です。

87 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 02:26:03 ID:E5PfATeR
それにしてもこの脳内シエスタ、ノリノ(ry



セーラー服で舞い上がるサイトは何時見ても微笑ましい

88 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 02:38:56 ID:4BAoprSp
>>86
GJ!
ちょwwwwwローラ妄想自重してくれwww途中までシコシコしてたのにぃッ

89 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 02:58:05 ID:iZK/SouC
暴走してるシエス子かわいいよシエス子ーーー!!!


90 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 03:38:45 ID:OAbpqbcx
このうpのペースは異常www
御馳走様でした

91 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 04:11:12 ID:m/LqADgn
レスが100まで行ってないのに、もう100KB超えてるよw

92 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 04:14:15 ID:nvLX/5Ix
これが生きてるジャンルのエロパロというものか……
死にジャンルしか回った事ないからびっくりしたぜ

93 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 04:31:56 ID:prx8+FUR
ローラ色んな意味で濃すぎるw
これは是非レギュラー化して欲しい逸材

94 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 04:45:00 ID:E5PfATeR
それ以上に、ノーヴォル・ヤマグッティーが準レギュラー化しそうな予感

95 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 04:55:43 ID:nvLX/5Ix
>厨房でシルフィード(竜態)にファックされてもいいですよ
羨ましい
竜態シルフィの権威から許可が出るとは

96 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 11:01:31 ID:+4B3CPxh
とりあえず19埋めようぜ

97 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 11:08:42 ID:ITukS+6a
埋め立て用。
「初恋」by島崎藤村


まだあげ初(そ)めし前髪(まへがみ)の
林檎(りんご)のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛(はなぐし)の
花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅(うすくれなゐ)の秋の実に
人こひ初めしはじめなり

わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情(なさけ)に酌(く)みしかな

林檎畑の樹(こ)の下(した)に
おのづからなる細道は
誰(た)が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ


98 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 11:10:07 ID:ITukS+6a
って間違えたッ! 前スレのつもりだったんだ、スマソ!

99 名前:トリスティン夜の睦言(1/3):2007/09/18(火) 20:59:51 ID:LquK4zfb
夜。
いつものようにルイズは自分のベットにサイトを招きいれた。

最近、このエロ使い魔の人気が上がってしまった。
やめとけばいいのにシュヴァリエなんかになって平民から貴族
になってしまったのだ。

今までは、いくつもの武勇伝があるものの、貴族という立場から
平民であるサイトにはあからさまな好意は表されなかった。

しかし、貴族となったサイトへの好意は一気に噴出する形と
なっていたのだ。

デルフにいくらサイトがルイズに首っ丈と言われても、不安なキモチ
は膨らむ一方である。

このままじゃ、ダメ。なんとかわたしだけを見つめてもらうんだから。

そう心に誓ったルイズは、とっておきの秘策をサイトにぶつけてみることに
したのである。

「サ、サイト。あ、あのね。」
緊張の余りうまく言葉が出てこない。

「どした?ルイズ」
サイトが心配そうに見つめてきた。

「!!!」
その瞳にルイズは赤面してしまい、ますます言葉に詰まってしまった。

100 名前:トリスティン夜の睦言(2/3):2007/09/18(火) 21:00:27 ID:LquK4zfb
ルイズの顔が真っ赤になった。熱でもあるんじゃないだろうか。
心配になったサイトは、じっとしてろ。と言って、ルイズの前髪を
左手でたくし上げておでことおでこをくっつけた。

「・・・熱はないみたいだな。でも大丈夫か?」

かはぁ。ルイズは声にならない声でうめいた。

「んとね。サイト。おおお落ちついて聞いてね」
「ルイズ、おまえがちょっと落ちつけって」

こんなに取り乱してしまう自分が許せない。
しかし秘策は最後まで実行しないといけないの。
「今日はね、ご主人さまからお願いがあるの」
「なんだよ」
「・・・だから、あの、今夜は・・・」
「今夜は・・・?」
サイトは首をかしげながら言った。

ルイズは意を決したようにその秘策を言い放った。

「やさしくして」

サイトは後頭部に激しい衝撃を受けたような気がした。
ヤサシクシテ。惚れた女の子からのOKサイン。
いーんですか。ほんとにいーんですか!!?

「い、いいの?」

ルイズはもうまっすぐサイトをみることができなくなって
しまい、うつむいて言った。
「そ、そんなこと聞かないでよ、バカ」

きた。夢にまでみた、ルイズと今夜一線を越えることができる。
心の中で男泣きするサイト。

「ルイズッ」

がばっとルイズを押し倒した。
頭の中が真っ白になりそうだ。
俺は、ルイズが好き。ルイズもたぶん俺が好き。

---たぶん?
はたと、サイトの右手がルイズのだいじなところの直前でとまった。
ルイズをみるとぎゅっと目を閉じて、唇もきゅっと噛んでいた。

このかわいいご主人さまの口からまだ好きという一言を聞けていない。
でも、こいつはがんばって俺を受入れようとしてくれている。
いいのか?それ。なんかちょっとちがうだろ。

そう悩み始めると少しずつ、興奮が冷めてきた。

101 名前:トリスティン夜の睦言(3/3):2007/09/18(火) 21:01:15 ID:LquK4zfb
わたし、ついに使い魔に食べられちゃうのね。
でも食べられるって、わたしってばどうなっちゃうのかしら---

ルイズは目をぎゅっと閉じ、唇をきゅっとかみしめた。
ほんとは、そこはダメ。結婚しても三ヶ月はダメなの、でも今夜だけ。
今夜だけはいいの。

サイトの手が"そこ"に触れるか触れないかのところでぴたりと止まった。

ルイズは薄目をあけてサイトを見た。
サイトはじっとルイズをみていた。

何?わたしどっかおかしい!?
戸惑っていると、サイトは予想外な言葉をルイズに投げかけた。

「ルイズ、おまえ俺のこと好き?」

え---ルイズは言葉に詰まった。

「俺は、おまえのこと好き。大好きだ。
好きだから護ってやりたいし、抱きしめたい」

サイトはもはやまっすぐルイズを見ることができずに目線を
そらした。
「き、キスもしたい。それに・・・ごにょごにょ」

ルイズはサイトを見つめたまま固まっていた。
どしたらいいの。わたし。サイトはこんなわたしでもスキって
言ってくれている。サイトの気持ちに答えなければいけない。

でも、ルイズほんとに言っちゃっていいの。ほんとの自分の気持ち
を言っちゃったら、ますますサイトはわたしのことを護ろうとするだろう。
それも命をかけて。

そして、たぶん・・・あんなに願っていたサイトのもといた世界への道を
探すのをあきらめてしまうのだろう---

そんなのはダメなの。サイトは元いた場所に帰してあげなきゃいけないの・・・
帰っちゃったら・・・もう逢えないかもしれない。
それもヤダ。サイトがいなくなるなんて、絶対ヤダ。

帰してあげなきゃいけないの・・・だけどいなくなっちゃうのはもっとやなの・・・
どうしたらいいの。わたしどうしたら---

ルイズの鳶色の瞳から一筋の涙が頬へ伝っていった。

(つづく)

102 名前: ◆LoUisePksU :2007/09/18(火) 21:02:33 ID:LquK4zfb
今回も糖度は高め。
たぶんつづく。

103 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 21:04:08 ID:NVgtAJcM
シエスタ大好きな俺には勃起もののSSが。ハァハァ

もう23で嫁も子供もいるんですがね。
隠れてこんなとこで勃起する俺を許せ、嫁よ。

104 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 21:07:08 ID:LquK4zfb
>>103
だいじょぶだ。こんなSS書きのおいらにも嫁がいる。
でも反省はしていない。今は満足してる。

105 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 21:07:41 ID:Ci+WCgEq
早く子供もう一人作って昼寝という名前をつける作業に戻るんだ

106 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 21:18:20 ID:ftz6I9Fi
>>102
こんな甘甘なもので、糖尿になったらどうしてくれるんだw
責任とって、さらに甘めにs(ry


107 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 21:41:41 ID:vNNg+0oR
>>102
ちょ〜っと向こうのスレで褒めたら調子に乗りやがってからに。
……いいぞもっとやれw

108 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 23:37:16 ID:2Eaz59od
>>103
俺とタメで妻子餅ってか……

死ね
死にたくなった

109 名前:205:2007/09/18(火) 23:38:47 ID:7aEWOAAy
>>103-104
そして俺は文句なしに童貞。

……嫉妬で気が狂いそうなので、意味不明なSSを投下してスレを荒らすことにしました。

110 名前:ぷちぷち:2007/09/18(火) 23:40:08 ID:7aEWOAAy

「おいルイズ、見てくれよ!」
 叫びながら、才人は扉を蹴破ってルイズの部屋に入った。興奮の絶頂である。
「なによあんた、扉が壊れたらどうすんのよ」
「そんなのどうでもいいよ、見ろよこれ」
 ルイズの文句は無視して、才人は抱えていた物を部屋の床に下ろした。
「なに、この箱」
 怪訝そうな顔をして、ルイズがその物体に手で触れる。
「あれ、木の箱かと思ったら、なんかずいぶん柔らかいわね。紙よりは固いみたいだけど」
 不思議そうな顔をで、ルイズが箱をぺたぺた触る。才人は得意げな顔で頷いた。
「見慣れねえのは当然だろ。それは俺の世界の素材で出来てるんだ」
「そうなの」
「そう。ダンボールってんだ」
 一抱え程度の大きさのダンボール箱に手を触れていたルイズが、首を傾げる。
「そんなもの、どっから持ってきたの」
「前に、破壊の杖ってのあったろ。あれも俺の世界の武器だったから、ひょっとしたら他にも
 俺の世界の品があるんじゃないかと思って、特別に宝物庫の中見せてもらったんだよ」
「で、これが出てきた訳ね」
「そう。まあまだ中は開けてねえんだけどさ。せっかくだから一緒に見てみようぜ」
 言いながら、才人は開かないように重ねあわされたダンボールの蓋を開け、中を見る。何枚もの梱包材が重ねられて入っており、それらを取り去った先から出てきたのは、
「壷、だな」
「壷、みたいね」
 才人が持ち上げた壷を見て、ルイズは眉をひそめる。
「しかも、あんまり出来がよくないわね。なんかボロっちいというか、汚いというか」
「いや、違うぜルイズ」
 手の中で壷を回転させながら、才人は目を細めて頷いた。
「こういうの、『渋い』ってんだ。いいねえ、ワビサビってやつだ。お前には分からんか」
「全然分かんない」
 つまらなそうに言うルイズを「このお子様めが」と心の中で笑いながら、才人はじっくりと壷を観賞する。
(いいねえ、このツヤ、この曲線。役には立たないだろうけど、目の保養にはなるな……ん?)
 ふと才人が壷から目を外すと、床に座り込んだルイズが、ダンボール箱の中をじーっと見つめていた。
「何やってんの、お前」
「え。いや、なんか、これが気になって」
 そう言って持ち上げたのは、先程取り去った梱包材だった。俗にプチプチ君などと呼ばれている、アレである。
「あー、それはそれで懐かしいな」
「なにこれ」
「梱包材って言ってさ。荷物の中身を保護する役目があるんだよ。
 ほら、そのつぶつぶに空気が入ってるだろ。それで衝撃を和らげてさ」
「つぶつぶって、これ」
 呟いたルイズが、ごく自然に、梱包材の粒の一つを指で押す。すると、ぷちっという音と共に粒が一つ潰れた。
「わ、びっくりした」
「ははは、そうそう、そうやって暇つぶしっつーか、遊ぶ用途もあるっちゃーあるな」
「ふーん」
 ぷちっ
「ま、別にそんなのは珍しくもなんともないんだよ。それよりほら、もっとこっちの壷をだな」
 ぷちっ、ぷちっ
「……ルイズ?」
「んー?」
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
「……はまってやがる」
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ……

 そうやってプチプチ君潰しに夢中になったルイズは、夕食の時間になるまでずっと熱中してプチプチ君を潰していた。
「なんだかなー。ま、お前って一度熱中すると周りが見えなくなるタイプだもんなー」
「うっさいわね。あー、でも、一枚丸まる潰したときはちょっと気持ちよかったかもー」
(しかも努力家だから、達成感の味も知ってやがる……気をつけねえとプチプチ君ジャンキーになるな)
 なーんてな、と、才人もこのときは心の中で笑っていたのだが。

111 名前:ぷちぷち:2007/09/18(火) 23:40:45 ID:7aEWOAAy

 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ……
「……あの、サイトさん」
「……なんだ、シエスタ」
 夜、薄ぼんやりと明るい部屋の中。ベッドの中で寝ていた才人は、シエスタの声に目を開けた。
「ミス・ヴァリエール、何してらっしゃるんですか」
 困惑顔で聞かれて、才人はため息混じりに寝返りを打つ。
 部屋の真ん中で椅子に腰掛けたルイズが、一心不乱にプチプチ君を潰していた。
(マジでジャンキーになりやがった)
 うんざりである。先程からずっと、暗がりの中でぷちっ、ぷちっ、と音が響いており、気になって寝られやしない。
「おいルイズ」
「んー?」
「いい加減寝ろよ。その音気になるんだよ」
「もうちょっとー」
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ……
(この野郎)
 才人の怒りに火がついた。ベッドから飛び降り、ルイズのそばに歩み寄ると、その手に握られていたプチプチ君を力づくで奪い取る。
「あーっ、なにすんのよ、あと一列だったのに!」
「あと一列、じゃない! お前、こんな遊びになに夢中になってんだ」
「そうですよミス・ヴァリエール。大体なんなんですかこれ」
 と、起き出して来たシエスタが、ぷりぷり怒りながら、プチプチ君を手に取る。
「こんなのの何がそんなに楽しいって」
 ぷちっ
「……あら」
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
「……あらあらあら」
「……シエスタ?」
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
「……」
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
「ちょ、お前まではまっちまったのかよ!」
「あーっ、ちょっと、ずるいわよシエスタ! それわたしのだったのに!」
「いいじゃないですか、ちょっとぐらい」
 ぷちっ、ぷちっ……
「キーッ! わたしだって、新しいの出しちゃうもんね!」
「おい、止めろよお前ら」
 と、止める才人の声も空しく、部屋にはぷちぷちとプチプチ君を潰す音が響き渡るのであった。
「あー、もう、俺、寝るからな!」
 そう怒鳴って才人が布団に飛び込んでも、ぷちぷちという音は止まることなく響き続ける。
(……梱包材に女の子取られる俺って一体)
 ちょっとだけ切なくなってしまった。

112 名前:ぷちぷち:2007/09/18(火) 23:43:32 ID:7aEWOAAy

 翌朝。
「ちょっと、渡しなさいよ!」
「いいえ、これはわたしのです!」
「まだやってんのかよお前ら!」
 言い争う声に驚いて跳ね起きる。ルイズとシエスタは、床に散乱した無数のプチプチ君の上で、最
後の一枚を取り合っている最中であった。
「わたしのーっ!」
「わたしのですーっ!」
「……何がそこまでお前らを駆り立てるんだ……」
 朝っぱらからうんざりする才人の声も聞かず、二人は醜い取り合いを続ける。
 イライラゲージがじょじょに高まってきて、才人はついにキレた。
「いい加減にしろやコラァッ!」
 怒鳴りつつ最後の梱包材を奪い去ると、それを手早く折りたたみ、両端を手で握って力いっぱい捻
る。途端に、
 ぶちぶちぶちぶちぃっ!
「……フ。これぞ秘技、雑巾絞り」
 梱包材を床に捨てつつ、カッコよく決めたのも束の間、
「あーっ!」
「ひ、ひどいです!」
 悲鳴を上げたルイズとシエスタが、才人そっちのけで「雑巾絞り」をかけられた梱包材を拾い上げる。
 そして、わずかに残った空気入りの粒を必死な顔でぷちぷち潰し始めた。ここまでいくと、さすが
に不気味である。
「なんかの病気みてえだなお前ら」
「ちょっと、サイト!」
「すぐなくなっちゃったじゃないですか!」
 どうしてくれるんだと言わんばかりに、ルイズとシエスタが目を血走らせて詰め寄ってくる。徹夜
明けのせいでハイになっているらしい。その勢いに身を引きつつ、才人は頭を掻いた。
「って言ってもなあ……こんな物、この世界にもうある訳ないし」
「はぁ!?」
「そんなぁ!」
「いや、そんな悲鳴を上げるほどのことでは」
「シエスタ」
「ミス・ヴァリエール」
 二人はギラギラ光る瞳を見合わせたあと、こちらを睨みつけながら親指を立てて迫ってきた。
「ちょ、何すんだお前ら!?」
「黙りなさい!」
「あの愉快な粒々の代わりに、サイトさんを潰してあげますわ……!」
「怖ぇーっ!」
 もはや完全にジャンキーの目である。才人は二人の指が自分の体に触れる前に悲鳴を上げた。
「分かった、何とかする、何とかするから!」

 という訳で、朝っぱらからコルベールの研究室の扉を叩くことになったのである。
「ほほう、なるほど、ここに空気を詰めて衝撃を吸収して、と……興味深いな」
 梱包材の残骸を見て、禿頭の教師はやたらと感心した様子で頷いている。才人は背後でこちらを睨
んでいる中毒者二人のことを気にしながら、小声でコルベールに問いかけた。
「なんとかなりますか、先生。早くしないと、俺マジで二人にぷちぷちされちまうよ」
「安心したまえ、おそらくなんとかなるだろう。いやしかし、実に興味深い」
 コルベールはぶつぶつと呟きながら、何やら作業を開始する。才人はプチプチジャンキーたちを必
死になだめつつ、その場を退散した。
 で、その日の夕方に再び訪れてみると、コルベールの研究室はプチプチ君で埋もれんばかりの勢い
であった。
「ちょ、先生作りすぎっ!」
「いやすまないね、ついつい張り切りすぎてしまったようだ」
 コルベールは照れたように頭を掻く。その隣で呆然としていたルイズとシエスタが、少しずつ狂喜
に顔を染め始めた。
「わたしの!」
「プチプチ君!」
 叫びながら、むしゃぶりつくように手近なプチプチ君を手に取り、一心不乱にプチプチやり始める。
才人はなんだか泣きたくなってきた。

113 名前:ぷちぷち:2007/09/18(火) 23:44:15 ID:7aEWOAAy

「全く、なんだってこんなことに」
「そうだねえ」
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
「って先生までハマってる!?」
「ん? ははは、すまないね。だが実際、なかなか熱中するなこれは」
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、とコルベールが三粒潰したところで、
「ハァイ、わたしのジャン。遊びにきましたわよ……って、何やってんのあんたたち」
 と、高笑いしながら入ってきたキュルケが、床に座り込んでプチプチ君を潰しているルイズとシエ
スタを見て、ぎょっとしたように足を止める。
「おおキュルケ、助けてくれよ。お前ならこんな物にはまらないだろうし」
「こんな物って、これのこと?」
 キュルケは梱包材の山から一枚抜き取り、爪の長い指で何気なく一粒プチッと潰した。すると、
「あ」
「あ?」
「……いいわね、これ」
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
「そんな、お前まで!」
「いやん、わたし、実はこういう細かい手作業もちょっと好きなのよね」
「さすが、趣味・ジグソーパズルだな……!」
 戦慄する才人。
 こうして、プチプチ君ブームはじょじょに学院中に広がっていったのである。

 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
「やあ、何やってるんだいマリコルヌ」
「……」
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
「なんだかよく分からないが暗いことをしているね」
「放っといてくれよギーシュ。もうちょっとで一枚全部潰せそうなんだ」
「何を言っているんだか……どれ、それじゃ僕も試しに」
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
「……おおう」

 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
「ちょっとギーシュ、そんなのやってないで、少しはわたしの話聞きなさいよ」
「おお少し待ってくれたまえ愛しのモンモランシー。このけしからん粒々が、僕を誘惑して止まないのだよ」
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
「何訳の分かんないこと言ってんの! こんなものの何が」
 ぷちっ
「……あら」
 ぷちっ、ぷちっ
「ちょっとギーシュ、ここの粒が上手く潰れないんだけど」
「ああ、そういうのはちょっと力の加減を変えてだね」
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ

 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
「おねーさまおねーさま」
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
「……」
「無視しないでほしいのね、シルフィとお話してほしいのね」
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
「……」
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
「ぶー、こんなのの何が楽しいのー!?」
 ぶちぃっ!
「シルフィの爪だと一気に潰しちゃって何にも楽しくないのねー!」


114 名前:ぷちぷち:2007/09/18(火) 23:44:55 ID:7aEWOAAy

「ああ、ひどいことになっちまった……」
 そこら中からプチプチと音が響き渡る中、才人は暗澹たる気分で中庭を歩いていた。
 美男子もブ男も美女も美少女も醜女も、果ては使い魔の一部までもがみんなそろってプチプチプチプチ。
(頭がおかしくなりそうだぜ)
 頭痛で足がふらつき、思わずその場に蹲ったとき、頭上から誰かが声をかけてきた。
「大丈夫、サイト」
 久々に他人のまともな声を聞いたような気がする。才人が顔を上げると、長い金髪と尖った耳、そ
して大きすぎる胸を持った娘が、心配そうな顔でこちらをのぞきこんでいた。
「テファ」
「どうしたの。具合悪いなら、部屋まで送っていきましょうか」
 才人は注意深くティファニアを観察する。だが、彼女は間違いなく、梱包材らしきものは一切持っ
ていなかった。
「テファは、あれやらないのか」
「あれ、っていうと」
 ティファニアは、近くの木陰で一生懸命プチプチやっている少女を見やったあと、薄らと頬を染めた。
「実は、わたしも誘われたんだけど。その、うまく潰せなくて」
 恥じるように言うティファニアに、才人の胸がときめいた。彼女の手をガシッとつかんで、涙なが
らに顔をこすりつける。
「よかった、よくやった。よくまともでいてくれた。ありがとう、テファ」
「ちょ、サイト、あの、手……」
 ティファニアの顔が見る見るうちに赤く染まる。そんなうぶなところがいつも以上に魅力的に映る。
「最近皆ぷちぷちやってばっかりだから、こういう反応に飢えていたのかもしれない……!」
「え、なに? こういう反応って?」
「そういう反応だよ。ああ、テファ、俺あんなビニールの塊をぷちぷちするんじゃなくて、大きくて
 柔らかい肉の塊をぷにぷにしてえよ」
「ごめんね、サイトの言ってること、よく分からないんだけど。大きくて柔らかい肉の塊って何のこと?」
 その胸にぶら下がってる肉のことだよぉぉぉぉぉぉぉっ! と叫ぼうとしたとき、突然、才人の背
中に悪寒が走った。
 嫌な予感を覚えて後ろを振り返ると、そこには予想通りルイズとシエスタがいた。
 二人とも、極限までつりあがった恐ろしい目つきで、才人のことを睨みつけている。
 それでも手の中にはプチプチ君があって、それがなおさら不気味さを引き立てる。
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
「ひっ」
 才人は小さく悲鳴を上げた。いくら女に飢えていたとは言え、この二人にあんな頭のおかしな発言
を聞かれたとしたら、一体どんなお仕置きが待っているのか。
 トッ   トッ   トッ
 ぷちっ ぷちっ ぷちっ
 一歩、一歩と足を踏み出すたびに、ぷちっ、ぷちっ、と一つずつ梱包材の粒を潰しながら、ルイズ
とシエスタが迫る。
 ホラー映画顔負けの、意味不明な迫力に満ちた光景である。才人はずりずりと後ろに下がったが、
やがて壁に背中がついてそれ以上動けなくなった。
 トッ   トッ   トッ
 ぷちっ ぷちっ ぷちっ
「ひぃっ!」
 才人は情けない悲鳴を上げて、頭をかばいながらその場に蹲った。足音とプチプチ君を潰す音が
じょじょに近づき、才人の頭上で止まる。
「ふ、二人とも、俺が悪かった! 許してくれ!」
 本当に自分が悪かったのかどうかは関係なしに、才人はとりあえず平謝りする。すると、頭上から
プチプチ君を潰す音がしなくなった。
(許してくれたのか)
 ほんの少しだけ期待しながら、恐る恐る顔を上げる。その途端、

115 名前:ぷちぷち:2007/09/18(火) 23:46:17 ID:7aEWOAAy

「サイトの親指」
 と呟きながら、ルイズが手元のプチプチ君の粒を一つ、
 ぷちっ
「ひっ!?」
 続いて、
「サイトさんの人差し指」
 と呟きながら、シエスタが手元のプチプチ君の粒を一つ、
 ぷちっ
「ひぃぃっ!?」
 才人は悲鳴を上げながら、再び頭を抱えて蹲った。そんな彼の頭上から、声と音は容赦なく降り注ぐ。
「サイトの右手」
 ぷちっ
「サイトさんの左足」
 ぷちっ
「サイトの右肩」
 ぷちっ
「サイトさんの右耳」
 ぷちっ
「サイトの鼻」
 ぷちっ
「サイトさんの右目」
 ぷちっ
 そして最後に、二人の声が重なった。
「「やらしいことを考える脳味噌」」
 ぷちぃっ!
 才人は絶叫を上げて気絶した。

 こうして、プチプチ君を潰す音は才人のトラウマになった。
 彼はこのブームが過ぎ去り、誰もがプチプチ君つぶしに飽きてしまうまで、ずっとルイズの部屋の
ベッドに隠れて、震えながら過ごしたそうである。
 また、ブームが過ぎ去ったあとも、ルイズは自分の机の中にプチプチ君を一枚隠し持ち続けた。
 それで、才人が何か気に入らないことをやらかすたびにそのプチプチ君を取り出しては、
 ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ
 と、容赦なく潰してみせるので、そのたび彼は震え上がってベッドの中に逃げ込んでいたそうである。

 これが、数百年を経た今も旧ヴァリエール公爵領に伝わる奇妙なまじないの起源であると、歴史学
者のノーヴォル・ヤマグッティー氏は語っているが、真相は定かではない。
 なお、住民からこの逸話を聞き出したとき、同氏は
「美少女にだったらチンコぷちぷちされてもいいよ」
 というコメント残している。まことに業が深い話である。


116 名前:205:2007/09/18(火) 23:47:04 ID:7aEWOAAy
僕らの春はこれからだ!

……いや、こんなん書いてる内は限りなく遠そうですが。

117 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 23:47:36 ID:fuXJ2uIK
なんというものを書くんだw

118 名前:せんたいさん ◆mQKcT9WQPM :2007/09/18(火) 23:48:24 ID:LDkAvjHO
>>205
春なのはアンタのアタマん中だwww
とかいう突っ込みをしてみる。

ひさびさにエロ抜き投下。
ttp://wikiwiki.jp/zero/?17-853
の続きです

119 名前:使い魔の寝床 ◆mQKcT9WQPM :2007/09/18(火) 23:49:21 ID:LDkAvjHO
ぶるっ。

真夜中。
生徒たちはおろか使用人たちすら全て寝静まり、起きているのは夜警の者のみ、といった時間。
蒼い月明かりに照らされて、青い髪の少女は布団の中で身震いした。
そして、身震いの原因をぽそりと言い放つ。

「…おしっこ…」

ぼんやりとした顔で眼鏡をかけ、いつもの大きな杖を手に取り、寝巻きのままゆらりゆらりとタバサは歩き出す。
一階の、共同トイレに行くために。

魔法学院のトイレはトリステインでも珍しい、水洗式である。
用を済ませたタバサが個室の上から延びる紐を引くと、便器の中にタンクから水が流れ込み、タバサの尿を押し流す。

じゃぁぁぁーっ。

タバサはしばらくぼーっとその渦を眺めた後、やっぱり寝ぼけ眼でぽてりぽてりと廊下を歩いていく。
自分の部屋に戻るために。

丁度その頃。

ぶるっ。

真夜中。
使い魔はおろか使用人たちすら全て寝静まり、起きているのは夜警の者のみ、といった時間。
蒼い月明かりに照らされて、桃色の髪の少女は布団の中で身震いした。
そして、身震いの原因をぽそりと言い放つ。

「…おひっこ…」

ぼんやりとした顔で使い魔の腕枕から起き上がり、寝巻きのままもそりもそりとルイズは歩き出す。
一階の、共同トイレに行くために。

魔法学院のトイレには、当然の事ながら手洗い場がある。
しかしその手洗い場は普通のソレではなく、竜の首を象った蛇口の上に手をかざすと、水が流れる仕組みだった。
用を済ませたルイズが手を洗うためにその竜の口に手をかざす。

じゃぁぁぁーっ。

水が流れ、ルイズはその水で手を洗い、そしてそのままぽけーっと水の流れるのを見ていた。
ルイズはしばらくぼーっとその小さな滝を眺めた後、やっぱり寝ぼけ眼でもう一度手をかざして水を止め、ぺたぺたと廊下を歩いていく。
自分の部屋に戻るために。

120 名前:使い魔の寝床 ◆mQKcT9WQPM :2007/09/18(火) 23:49:59 ID:LDkAvjHO
丁度その頃。

タバサは今にも落ちそうな瞼と必死に戦いながら、温かいベッドを目指していた。
大きな杖と三角形のナイトキャップが、その歩みに合わせてへにょへにょと揺れる。
タバサは目的地の扉に辿り着く。
…そう、ここ。
一番、安心して眠れる場所。自分の居場所。
タバサは音もなく扉を開けると、てちてちと寝ぼけ眼でベッドに寄って行く。
ベッド脇に杖を立てかけ、脇の円卓に眼鏡を置いて、シーツをめくって潜り込む。
もそもそとベッドの中央まで登り、ちょっと硬いベッドの上で大きく深呼吸。
…うん、すごく、落ち着く…。
タバサはちょっと硬いその枕に顔を埋め、そのまますぴすぴと眠りに着いた。

そのちょっと後。

ルイズは今にも襲い掛かってきそうな睡魔と必死に戦いながら、才人の居るベッドを目指していた。
長いウェーブのかかった桃色の髪が、その歩みに合わせてふわふわと左右に揺れる。
ルイズは自室の扉に辿り着く。
…ねむー。早くねよー…。
だいすきな人の腕の中で。いちばんたいせつな場所で。
ルイズは軽い音を立てて扉を開けると、寝ぼけ眼でよろよろとベッドに寄って行く。
ベッド脇に何か長いものが立てかけてあったけど眠いからパス。
脇の円卓にあるのは昨夜才人と飲んだワインとなんか丸いもの。
ルイズはシーツをめくって目的のものを発見する。
そこにあったのは、ルイズ専用の腕枕。才人の左腕だった。
ルイズはとベッドに登り、才人の左腕を枕に決め込むと、大きく深呼吸。
…さいとのにおいだぁ…。
ルイズはちょっと硬いその枕に顔を埋め、才人のにおいに満足しながら、そのままふがふがと眠りに着いた。

121 名前:使い魔の寝床 ◆mQKcT9WQPM :2007/09/18(火) 23:50:54 ID:LDkAvjHO
そして次の朝。

目を醒ますと、シエスタが目の前で固まっていた。
ルイズは差し込む朝日に目を擦りながら、才人を挟んで反対側で固まるシエスタに尋ねる。

「どしたのシエスタぁ?」

シエスタは応えない。
その代わりに、目の前の大きく膨らんだシーツを指差している。
ルイズはなんじゃらほい、と思ってシーツをめくる。

「な」

ルイズも固まった。
そこにいたのは。
青いナイトキャップに青い寝巻きを着込んだ、タバサがいた。
才人の胸板の上で、まるで才人に抱きつくようにうつ伏せになって、すぴょすぴょ寝息を立てている。
先に、その衝撃から立ち直ったのはルイズだった。

「なにやってんのよチビっこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

問答無用でタバサを踏み潰…せなかった。
タバサは半ば反射行動のようにがばっ!と起き上がり、ルイズの蹴り、というかフットスタンプを避ける。

ぼぐ!

「たわば!」

妙な声をあげて才人が眠りから気絶に突入したがそんなことはどうでもいい。
タバサはそのまま流れるような動きで杖を手にして眼鏡をかけ、杖を構える。
ナイトキャップと寝巻きが妙にラブリーだ。

「…いきなり何するの」
「それはこっちのセリフよっ!人の部屋で人の使い魔に何さらしてんのよアンタわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「そうですよ、どこから入ったんですか!」

ルイズはどこから取り出したのか、杖をすでに構えていた。
シエスタもどこから取り出したのかフライパンを取り出して臨戦態勢だ。
二人ともネグリジェじゃいまいちサマにならないが。
タバサは二人の言葉に、辺りをきょときょとと見渡す。
そして。

「サイト!?」

心の声と同時に呼びかけるが、才人は応えない。
全力で気絶していた。
そして気付く。

「ここは…サイトの部屋?」
「私の部屋だってば」
「そうですね」

別々の答えが返ってきたが、その意味するところは同じ。
どうしてこうなったのかタバサは理論的に考えてみる。
自分は、サイトの使い魔になった。
使い魔は、自分の主人の下が一番安心できるという。
だから、寝ぼけた状態の自分は、一番安心できる場所…才人のところへ、やってきた。
ならば。

122 名前:使い魔の寝床 ◆mQKcT9WQPM :2007/09/18(火) 23:52:27 ID:LDkAvjHO
「…これは、当然の帰結」
「はい?」
「どういう意味ですか?」

首を傾げる二人に、タバサは淡々とありのままを説明した。
二人の目が点になったのは言うまでもない。
そして、証拠の使い魔の印である、額の雪の結晶を見せた瞬間、ルイズがキレた。

「くぉら犬、何主人の許しもなしに使い魔作ってんのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

とんでもない言いがかりだが。
その言葉と同時に発された魔法は、才人をボロ雑巾のごとく吹っ飛ばしたわけで…。

123 名前:使い魔の寝床 ◆mQKcT9WQPM :2007/09/18(火) 23:53:16 ID:LDkAvjHO
目を醒ますと、どこかで見たようなベッドの上にいた。
そして起きようとした。

ずっきぃん!

うわっだだだだだだだだだだだだ!
な、なんだ?身体中いてえぞ?
よく見ると、俺は身体中包帯でぐるぐる巻きにされて、ベッドに寝かされている。

…あ、目、さめた?

不意に、頭の中に心配そうな声が響く。
え?シャルロット?
俺がベッドの脇をなんとか向くと、そこにはシャルロットがいた。

…うん。身体大丈夫?

…大丈夫じゃないし、この状況は何?
俺の心の質問に、シャルロットはしばらく考え、そして、声で応えた。

「…ルイズに、契約のことがバレた」

…………………………………………。
………………………………………………。
な、なんだってー!(AAry
る、ルイズに使い魔の契約のことがバレたってー?
そ、それで俺殺されかけたんか!なるほどなっとく!
じゃなくて!
そこまで考えて、そこにシャルロットの心の声が割り込む。
どうやら、心の声をだだ漏れにしていたらしい。

…心配しなくていい。

ゑ?
どういう意味なんだ?
そう思った俺に、シャルロットは応えた。

…ほとぼりが冷めるまで、私のトコロにいればいい。

その声には、なんだか嬉しそうな感情が篭っていた。
…あの、シャルロットサン?そういう問題では

…それまで。

うを?な、なんじゃこのメガ嬉しい感情の奔流は?
戸惑う俺に、シャルロットは声と一緒に言った。

「サイトは、私だけのご主人様、だから…」

その言葉と一緒に、シャルロットの感情が一気に俺の中に流れ込んでくる。
………本当に、心の底から幸せなんだな。
ったく、しゃあねーなぁ。

「じゃ、シャルロット、まず一個お願いしていい?」
「なに?」
「お腹すいたから、なんか食べさせて」
「うん♪」

とりあえず、しばらくの間。そう、とりあえず怪我が治るくらいの間。
俺は、この小さな青い髪の使い魔のところに、世話になることに決めた。〜fin

124 名前:せんたいさん ◆mQKcT9WQPM :2007/09/18(火) 23:55:18 ID:LDkAvjHO
さて、ルイシエにバレてしまった二人の今後やいかに!
次回、「サイトの使い魔」第3話『死 ぬ が よ い』(仮)
ご期待ください!

半分冗談でつ。

んじゃまたねーノシ

125 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 23:56:43 ID:ITukS+6a
205さんおよびせんたいさんGJ!

つーかなんだこの非エロSSの嵐www

126 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 00:15:37 ID:xYFdAjcs
すげえ、このペースだと500レス付く前に容量が500超える。

127 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 00:45:25 ID:ogm/Dtyu
も、悶え死ぬ……
タバサの魅力で悶え死ぬ……
がふっ……

128 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 00:56:08 ID:uoPVa/7g
なるほど、危険だなタバサは
シルフィと一緒にオレの元で管理しておく

おや?こんな夜中に誰か来たようだ

129 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 03:26:52 ID:G9wiAXW0
205氏とへんたいさんのコンボ。
最高すぎる。GJ!という言葉じゃ足りねえ。
知ってるかい?今無限プチプチなるものがあるんだぜ?


130 名前:261のひと:2007/09/19(水) 03:43:33 ID:V6NdQuWM
ご無沙汰してます。
ログは持っているので、保管庫の方はそのうちスペース借り直してどうにかしますね。

業務連絡だけだとアレなので、短いのか居てみました……


ちょっと黒いので注意です。

131 名前:1/5:2007/09/19(水) 03:44:08 ID:V6NdQuWM
 誰かに愛されて、誰かを愛して、人は自分を形作ってゆく。
 一人で生きていくとは出来ない人間が、ごく自然に身に付ける周りとの繋がり。

「さあベアトリス、今日もお話しましょうか?」
「……はい……ミス・ウェストウッド」

 ほんの数週間前まで溢れていた覇気が微塵も感じられなくなった少女がそこに居た。
 ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフ
 かつて誇りを持って語られた彼女の名前。

「お友達だから、テファでいいよ? ベアトリス」
「は……い……テファ……」

 何かがおかしい、つい先日までそんな事で悩んだりもした。
 それでも最早……

「おいで、ベアトリス」

 ティファニアの抱擁から、その暖かさから逃れる事は出来ない。
 自分が壊れ始めているのが分かっているのに、理性は逃げろと囁くのに。

 彼女の望みを叶える度に、また一つ自分は自分じゃなくなってしまうのに。

「ベアトリスを好きになってくれた人の話しをしようね」
「…………はい」

 思い出が、また一つ消えていくというのに。
 テファニア以外の自分を愛してくれた人の記憶が失われ、
 ベアトリスはまた一歩、ティファニアから離れられなくなる。

『お友達だから、一度ゆっくりお話しましょう』

 ティファニアの無知を嘲笑おうと、あわよくば弱みに一つも握ろうと、
 その誘いに乗った翌日から、ベアトリスは自分が保てなくなっていった。

 昼過ぎから話していた筈なのに気付くと日が落ちていた事。
 胸の奥で何かが欠けてしまった、不思議な感覚。

 ――そんな”些細”な事が気にならなくなるほどの衝撃。

『またね』

 優しく回されたテファニアの腕の中。

 ”記憶に残る限り、生まれて始めて”優しくされたベアトリスは……

「ひっ……あっ……うああぁぁぁぁぁぁ」


 泣き崩れながら……ティファニアの腕の中に絡め取られてしまった。

132 名前:2/5:2007/09/19(水) 03:44:51 ID:V6NdQuWM
 サイトを馬鹿にした。きっかけはそれだけの事。

『みんなに迷惑が掛かるから』

 サイトは本当は強いのに、黙って頭を下げてくれた。
 それが本当にうれしかったのに、皆はあれからサイトの事を馬鹿にした。

 腰抜けだって噂して、
 嘘吐きだって見下した。
 臆病者だと、サイトに聞こえる様に笑ってた。

 ――それでもサイトは平気だった。

『テファが無事でよかったな』

 そう言ってくれたから……他の子が馬鹿にしても、
 サイトは<一番大切な>お友達。

 それに変わりは無かったのに、

「ミス・ウェストウッド、貴方のお抱えの騎士は頼りに成りますわね」

 他の子が教えてくれるまで、ベアトリスのその言葉が嫌味だって気付かなかった。
 だってサイトは本当に頼りに成るから。

「うん、サイトは凄いんだよ」

 そう言った時の周りのざわめきが理解できなかった。
 不思議そうな顔をしていると、ベアトリスが気持ち良さそうに笑っていて……

 それは何度も繰り返されて、
 見かねたお友達が教えてくれるまで、
 わたしはサイトを傷付ける手伝いをしていた。

 ――わたしを使ってサイトを馬鹿にしていると教わった時、

 ベアトリスがどうしても理解できなかった。

 どうして?
 どうして平気で人を傷付ける事が出来るの?

 どうすればあんな風に育つのか、わたしにはどうしても理解出来なくて……
 だから……

「あの子達みたいに、優しくなってもらおう」

 そう……思った。
 
 わたしが育てていたあの子達みたいに。
 いろんな子が居たけれど、あんなに自信に溢れた子は居なかった。
 でも……真逆の子なら居た。

 お父さんも、お母さんも、わたしの事が嫌いなんだ、そう言って、泣いていた子。
 優しい記憶を何も持っていなくて、無数の痣を抱えていた子。

 あの子はとても素直で……優しかった。

「……ベアトリス、貴方の優しい記憶……貰うね」

 それは復讐でもなんでもなく、ただ……不器用な親切。

133 名前:3/5:2007/09/19(水) 03:45:24 ID:V6NdQuWM
「あ……の……あの……あのね、テファ」
「なあに? ベアトリス、お話はまだかな?」

 更に数日がたって、ベアトリスの記憶の限りの愛された記憶をティファニアは消滅させてゆく。

 ――愛された記憶を持たない少女は、すっかり別の性格へと変貌を遂げ、
 ティファニアと言う名の麻薬に溺れきっていた。

「あ……の……え……と……」
「お話が無いなら、今日はもうこれまでかな?」
「いやっ! いやだっ……テファ、待って……お、思い出すからっ
 頑張って思い出すから、ベアトリスを部屋に追い返さないでっ!」

 今のベアトリスはティファニアの側に居るためになら何でもした。
 誰ひとり信じるものの居なくなった少女にとって、唯一残された聖域。

「あ、……そ、そうだ……あのね、3歳の時、おじいさまがプレゼントをくれて……」
「……本当よね? ベアトリス、嘘だったら……」
「ほ、本当だよ、テファ、本当だから……もう嘘つかないから……
 ア、アレは……嫌……アレだけは……許して……」

 彼女がここまで恐れる罰の正体は、単に数時間彼女を無視する。
 それだけ。

 ベアトリスの世界はティファニアを中心に回っていて、
 冷たい視線一つで、何もかもを崩壊させた。
 
 授業中にワザと視線を一度も合わせなかった時等は、
 休み時間と共に泣きながらティファニアにすがったし、
 就寝時間で部屋に送られる度に、毎日抗った。

「そう……じゃあ、目を瞑っててね、ベアトリス」
「はい、テファ」


 短い呪文が部屋に流れると、また一つベアトリスが壊れた。

134 名前:4/5:2007/09/19(水) 03:45:56 ID:V6NdQuWM
 ――シュヴァリエ・サイトが居る。

 あの人の事を話す度にテファが笑う。
 弱い騎士だと言ったら、口を聞いてくれなくなって、
 優しい人だと誉めたら、抱きしめてくれた。

『サイトが居なかったら、わたしは学院に来てなかったわ』

 テファがそう言ったから、ベアトリスはサイトを凄い人だと思う。

 だって、テファがそう言うんだから間違いない。
 生まれて始めてわたしに優しくしてくれた人。
 
 皆に嫌われて、誰にも愛されないわたしを包んでくれる天使。

 わたしは知ってる。
 わたしの居ない所で、皆がわたしを何て呼んでいるか。
 わたしの騎士達も、我侭娘のお守りなんてごめんだって言っている事を。

 テファだけがわたしに嘘をつかない。

 そのテファが信じる人。
 もうすぐ授業だと言うのに、広場の隅で昼寝している変な人。

 テファが居る教室に、わたしも早く帰らなきゃ。

 あ……でも……

『そのうちサイトにちゃんと、お詫びしようね?』

 テファがそう言っていた。
 一人でお話できたら、テファはベアトリスの事誉めてくれるかな?

 そんな事を考えてしまうと、その場から離れられなくなる。
 
 でも……

(し、知らない人に話しかけるのいやだなぁ……)

 昔は平気だったはずなのに、最近のわたしは人間が怖い。
 信じられるのはテファだけだ。

 騎士とかクラスメイトになら、どう『命令』すれば良いのか分かるのに。
 テファの大切なお友達相手に、『命令』なんて出来ないし。

 そうやって悩んでいると、相手のほうがわたしに気付いた。

「ん? あーお前は……」

(お、お前……お前って言われた……)

「テファ苛めてた、馬鹿か?」

 …………心の深い所に、鋭い何かが刺さる。
 そう、わたしはほんの少し前までテファを……あの素晴らしい人を苛めていた。

 忘れたいのに忘れられない事実、その事を思うたびに辛くて、悲しくて……

 ――涙が……溢れる。

135 名前:5/5:2007/09/19(水) 03:46:31 ID:V6NdQuWM
 声も立てずに泣くわたしの頭に、ごつごつした手がポンと乗せられた。

「悪いな、泣くほど反省してるんなら、もう言わない、ごめん」

 びっくりして……涙が止まる。
 テファが……誉めるのが分かる。

 『始めて』男の人に優しくされた。

 わたしの胸が高鳴る。

「泣き止んだか?」

 そう言いながらわたしの顔を覗き込もうとするけれど、泣いている顔を見られるのが恥ずかしくてつい俯いてしまう。
 多分、まだ泣いていると思われたんだと思う。

「言い過ぎたか? ごめんな」

 優しい言葉と一緒に、人目の無い木陰まで連れて行ってくれた。
 無骨だけど優しい腕が、宥めるように背中を叩く。

「年下の女の子だもんな、俺、もうちょっと気を使わないといけないんだろーなぁ」

 この人の事……悪く言ってたんだ……
 わたし、皆に嫌われて当然だ……

 また……涙が溢れる。

 なかなか泣き止まないわたしを、シュヴァリエ・サイトがおろおろと慰めるのが楽しくて……
 つい……いつまでも……いつまでも泣き続けてしまう。

 いつの間にか授業が始まっていたけれど、気が付くと始まっていたシュヴァリエ・サイトとのお話が楽しくて、
 その時間はずっとお外でお話をした。

 ――凄く凄く楽しい時間だった。










 わたしは知らなかった。
 そんな事をしたら、噂になるなんて。

 大切な思い出だから、テファにも話さなかったこの事が、
 皆の口からテファに伝わっているなんて……


 ――その時は……まったく知らなかったんだ。

136 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 03:49:54 ID:V6NdQuWM
テファ苛めたから、ベアトリス嫌い。
とかゆーのは置いといて、

テファの魔法とルイズ・アンリエッタの人脈が有れば、
あの世界の征服、数年単位で実行可能ですよね……
若しくは、鉄の忠誠心の騎士団の構築とか……

ではまたそのうちにー、フリースペースは土日にでも借ります。

137 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 05:47:33 ID:IVdzkBeO
>>136
GJ!
黒テファかわいいよ黒テファ

138 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 07:16:55 ID:KKLW/Uer
ネットすら使えない国から成田に戻って無線LAN繋いでみたら…

ナ ニ よ ! こ の ク オ リ テ ィ の 高 い 投 稿 ラ ッ シ ュ ! ?

おかげ様で寝ずに出勤ですよorz

139 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 17:05:49 ID:YtMe8ZFy
黒いテファがここまで萌えるとは思わなかった
これからも黒テファ作品をお願いしますGJ!

140 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 17:51:53 ID:CT4A0kzk
ベア様可愛いよベア様w

141 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 19:19:14 ID:UQtvsgus
怖ぇwww

142 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 20:18:01 ID:jsIGTdmN
テファが黒化したらあらゆるキャラをぶっちぎってヤバいと良くわかったぜ…

143 名前:純愛センター:2007/09/19(水) 20:36:52 ID:DzgO0N+T
なんとかこのスレを400台で終わらせるため気合いで書いてきた。
かなりやっつけになっていると思うので勘弁です…

ちなみにまだ終わりません。
次回で終わるかな(汗

144 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 20:37:51 ID:DzgO0N+T
「はあああああああああああああああああああああああああ!!」
敵を一声で粉砕せんと轟き敵陣に突っ込む。その声に委縮したのかアルヴィーたちの出足が遅れる。
(守るんだ。オレが!!)
目の前の敵を一刀のもとに切り伏せ、走る速度を落とさずに目標への最短距離を突っ切る。
剣が槍が矢が数瞬前の自分を切り殺す。彼は走る走る走る。
(誓ったんだ!ルイズに!!)
前に二人のガーゴイル。
「どぉけええええええええええええええええええええええええ!!」
走りながらデルフリンガーを横なぎに払い、一体を胴から切り裂く。
しかしもう一体は仕留められない。剣の切っ先が少しずつ、停止した時間のなかで迫ってくる。それを返しの刀で受け止める。そのまま鍔迫り合い持ち込もうとするが
「ダメだ相棒!止まるな!!」
突き抜けてきた敵達が集まってくる。
ここは敵陣、サイトからしてみれば死が生を侵食している場所である。すなわち停止は自らの生を諦める行為に他ならない。
だがここで剣を離せば間違いなく目の前のガーゴイルが自分を殺す。八方塞がり、絶体絶命である。どんな戦士であってもここから無傷で離脱することはできないであろう。それはサイトにとっても同義。彼の身は背から放たれた矢に確実に貫かれる。
サイトの持つ剣が普通の剣であったならば。


145 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 20:39:29 ID:DzgO0N+T
迫りくる凶器の渦
(くそ!だめかよ…かっこわりぃ…)
痛みへの恐怖で体を強張らせたそのとき。にまるで羽根になったような、そしてあの時の、ルイズの使い魔であったときのような懐かしい感覚が全身を駆け抜ける。
(これ、なら!!)
相手の剣を巻き込み地面へ叩きつけ、上段回し蹴りを叩き込む。
「そのまま走んな!」
デルフリンガーが檄を飛ばす。
彼の体が軽くなったのはこの剣の「魔法を吸い込めば吸い込んだだけ持ち主の体を動かすことができる」のおかげである。
しかしここには普通の魔法使いはいない。ルイズは虚無の使い手であり、サイトとミョズニトニルンなどは魔法使いですらない。ではどこからサイトの体を動かすだけの魔力を蓄えていたというのか。
答えは敵であるアルヴィー。
アルヴィーはマジックアイテムである。メイジが人形の魔力を込め、込めた分だけそれを動かすことが出来るというもの。
デルフリンガーはその込められた魔力を吸い込み、彼を体を動かす補助を行っているということである。あくまで補助なのは彼の体を操り切るだけの魔力が足りないから。
また、切りあっている最中に魔力を吸い込めないのか。これは出来ない。
いくら切りあっているとはいえアルヴィーとの距離がある。
デルフリンガーが吸い込めるのはむき出しの魔力だけ。つまり魔力がそのまま顕現したウインディアイシクルやエアーハンマーなどなら吸い込める。
しかし間に魔力ではないものが挟まっていたり覆われていたりすると、たちまちその効力は力をなくす。彼がアルヴィーの魔力を吸い込むことができたのはサイトが剣を振るい、敵に刃を刺すことができたため、剣と魔力の間に仕切りがなくなったためである。

「ちぃい!」
女は急に速度、力、正確さが段違いにあがった敵にたじろく。
そして心の中で笑う。


146 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 20:40:11 ID:DzgO0N+T
はああああああああああああああああ!!」
昔と同じような力があるのなら。
これまで数多の敵を撃退してきたこの力があるのなら。
7万の大軍すら止めて見せた力があるのなら。
数百の戦士の集まりなど紙屑に等しい。
「そのまま突っ切れ!相棒!」
残り10M程度。目標は目と鼻の先。残るアルヴィーは三体。
先の瞬間までは死と隣り合わせ、敵がまさに悪魔であった。
しかし今は違う。こんな愚鈍な奴らに負けるはずがない。

一人目は剣を振り降ろす…いや、剣を振り上げたところで頭が飛んだ。
二人目は一人目がやられたことを気にもせず槍を突き出す。目標は舞い落ちる葉や柳のようにそれをすり抜ける。そのまま横を通り過ぎたかと思うと既に足がついていなかった。
三人目は少し離れた位置から弓を構える。この距離からならば一息の間に殺されることはない。一本目の矢が外れても相手の体勢が崩れた所に二本目の矢を放てる。つまりここからなら殺せる。そして弓を撃とうとしたとき…
「いっけええええええええ!!」
大きな砲孔と共にまったく予期していなかった攻撃が…というより剣が鳩尾に突き刺さる。
残りは一人!!

三人目のガーゴイルを倒した。残りはあの女のみ。
デルフは投げてしまったが相手は女一人、アニエスと無手の場合の訓練もしている自分が負けるわけがない。
サイトは思い切り右の拳を叩きつけた。


「さすがはガンダールヴ。主を守るためならば力を失っても盾となるか」
殴られた女はそう呟きこう続けた。
「ぜひ欲しい。その力、私のために使ってもらうぞ」

すると教会の出入り口が開く。
中に入ってきた女の指輪が青く鈍く光りサイトの意志は消えた。


147 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 20:44:41 ID:DzgO0N+T
あらためてここの職人さんはすごい…
あんなシリアスな雰囲気だせませんよ。ギャグなんか無理っすよ。っていうかここなんて本編??


ではでは…

目指せ400スレ以内!!

148 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 20:59:36 ID:M9u3NKza
純愛さんGJ。確かにこのスレはしょっぱなから容量ハンパないなww

149 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 21:01:23 ID:xYFdAjcs
>>147
GJ!
しかし、一つだけツッコムことを許してくれ。
スレじゃなくてレスだよ。

150 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 21:32:21 ID:Z819k90V
職人さん達お疲れ様です!ハルケギニアより一言↓

    | .| | | .| | |
    ‖‖‖‖‖‖‖ /⌒ヽ
  / 二二二二二二二二. ・ ・ ) < 古代より愛を込めてGJ!
=イ ┃┃┃┃┃┃┃ ヽ ∀ノ
    ┃┃┃ ┃┃┃┃.   ̄



151 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 21:38:46 ID:M9u3NKza
>150 帰れカンブリア紀にw

152 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 21:51:15 ID:blg+NaOI
AAで無駄な容量使うんじゃないwww

153 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 21:57:03 ID:6NFBl/7w
GJ!続ききになる・・・

短いレスで申し訳ない
400スレバロスwww
どんだけ長寿なんだwww

154 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 21:57:47 ID:b1UREzCW
本気で400スレ以内に埋まっちまいそうだなwww

155 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 22:12:07 ID:4d0g/wmE
もう2ch史上最速目指すつもりでやってもいいんじゃね?

156 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 22:14:18 ID:UQtvsgus
俺が見たスレの中で最速は225レスで500kbだった

157 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 23:15:50 ID:pbX279hx
それはもうある種の(ry

158 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 23:26:13 ID:kVF7kXiH
>>153-154
400…スレ…?


159 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 23:30:47 ID:xF/qRYYS
400レス以内だとかくだらないことにこだわるよりも、
どんどんレスつけた方が職人さん的には嬉しいんじゃないかと思うんだが・・・

160 名前:寝る前に:2007/09/20(木) 01:11:45 ID:PRUWUfI5
 夜。
 サイトが完全に寝てから、ルイズは日記を読んでいた。
 日記を読み返すたびに、ルイズは昔を思い出す。
 サイトとはじめて出会った時の事。サイトにゴーレムから守られた時の事。サイトに激しい折檻をした時の事。
 それは、サイトと出会う前からは考えられないような非日常の出来事。サイトと出会ってから日常になった出来事。
 その出来事の連続の中で、いつの間にか生まれていった自分の気持ち。
 まさか、わたしがこんな奴を好きになるなんて。
 隣で寝ている愛しい使い魔の寝顔を見る。幸せそうな寝顔ではあるが、少々間抜けな寝顔。
 でも、それも愛しい。
「はぁ……」
 思わずため息を漏らしてしまう。こんな間抜けで色ボケで変態な使い魔の何処がいいのかしら。
 そう思ってしまうものの、時は既に遅すぎた。ルイズは自分の気持ちを自覚していた。
 好きなんだからしょうがないもん。
 さっきの心の声への返答は、これだった。
 何処がいいのかと自らに問いかけても、意味の無いことだ。答えではない答えが、既に自分の中にあるのだから。
 わたしも染まってきてるわね。
 そんな自分に少し呆れつつ、悪くないと思うルイズ。愛しい使い魔の寝息をBGMに、ルイズは日記を読み進めていく。
「あっ……」
 読み進めると、一行の文が目についた。

161 名前:寝る前に:2007/09/20(木) 01:12:22 ID:PRUWUfI5

 使い魔をクビにしてしまった。

 こんなこともあったわね、とまたルイズは懐かしく思う。
 サイトと大喧嘩をして、サイトに首を通告してしまった日のこと。よく覚えている。
 ううん、大喧嘩って言うのは正しくない。原因はわたしの早とちり。
 はぁ、とまたため息をつくルイズ。あの頃のわたしは何をしてたんだろう、と情けなくなってくる。
 チラリとサイトの寝顔を見て、もしもサイトをクビにしたらと考えてみる。
 サイトは行くところがなくなる。でも、シエスタがいる。シエスタのことだから、村に帰って一緒に暮らそうと言うに決まってる。わたしは……惨めな思いをする。使い魔がいなくなって、寂しい思いをする。帰ってきて欲しいと思っても、たぶんサイトは帰ってこない。
 そんなの耐えられない。考えただけで、胸が締め付けられる。考えただけなのに、涙が出そうになってくる。
 離れて欲しくない。サイトに、離れて欲しくない。
 離れて欲しくないから、サイトと離れたくないから、わたしは日記を放り投げてサイトに抱きついた。こうしてると、安心できる。サイトがいるって実感できる。
「ん……なんだよ?」
 サイトの眠そうな声が聞こえてきた。ルイズが抱きついたせいで、サイトが起きたようだ。
 寝惚け眼をこすりながら、サイトはルイズを見る。目にうっすらを涙を溜めて、幸せそうな表情でこちらを見つめているルイズがいる。一体何があったのだろう。
「何かあったのか?」
「な、何でもないわよ。少し眠いだけ」
 言えない。妄想して泣きそうになったなんてみっともないこと、サイトには言えない。知られたくない。
「あ、そう」
 納得したのか、サイトはそう返事をして、再び目を瞑った。そしてすぐに寝息を立て始める。
 ルイズもサイトの様子を見て安心したのか、眠くなってきた。サイトに抱きついたまま、そのままウトウトとし始める。
 絶対に、離さないから。
 そんなことを思いながら、ルイズは幸せな夢へと落ちていった。

162 名前:29Q:2007/09/20(木) 01:13:17 ID:PRUWUfI5
なんとなく書いた駄文を投下。
寝る前にとか書いたけど、本当に寝る前に投下。
寝る。

163 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 01:22:46 ID:HFXqQ0PB
>>162
GJ!!!!なんか和むwwこういうのすきだわぁw

164 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 01:56:52 ID:T1tXQTRh
ルイズの日記は色々妄想できるね。実質怨み帳だけどw
GJですた。

あと、レス数を少ないまま容量いっぱいにするっていうのは
SS以外の書き込み(感想とか)を少なくするって事で、
本気で馬鹿馬鹿しいから考えない方がいい。

165 名前:205:2007/09/20(木) 02:02:16 ID:0yA3EzQo
年中脳内ピンク色のせんたいさんに頭の中が春だとか言われてくやしいのうw
とかなんとかのたまいつつ投下。
http://wikiwiki.jp/zero/?19-667の続きです。

166 名前:不幸せな友人たち:2007/09/20(木) 02:04:21 ID:0yA3EzQo

 深夜にも関わらず明りを灯された執務室に立ち、アンリエッタはアニエスが来るのを今か今かと
待っていた。
 東方探検隊が帰還したらしいという報告を受けたのは、ほんの数十分ほど前の話である。
 既に就寝中だったアンリエッタだが、報告を受けるや否や跳ね起き、服を着替えつつ執務室の明り
を灯させた。
 もうすぐ、アニエスが、彼女の屋敷を訪れたという探検隊の人間を伴ってやってくるはずである。
 深夜、急な話ということもあって、部屋の中はまだ少し寒い。だが、そんな寒気など気にならない
ほどに、体が興奮で火照っていた。
(サイト殿が、帰ってきてくださった)
 そう思うだけで鼓動が激しくなり、アンリエッタはたまらず胸を強く抑える。
 彼女にとって、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガというのは、他には誰一人としていないという
ぐらい、特別な存在である。
 過ちを犯しかけた自分を、体を張って何度も止めてくれた人。
 自分のことを「アン」と呼んで、優しく肩を抱いてくれた人。
 世界でただ一人だけ、自分のことを女王ではなく、アンリエッタという一人の少女として扱ってくれる人。
 才人がいてくれれば、ほんの一時とはいえ、女王でもなんでもないただの少女に戻ることができるのだ。
 今や一日のほとんどを政務に費やすことになったアンリエッタにとって、それは他の何よりも得難
く、幸福な時間だった。
 そのほんのわずかな幸せすらも、アンリエッタは手にすることができなかった。愛しい彼のそばに、
一人の少女の姿があったからだ。
 ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。アンリエッタにとっては幼馴染であり、今や殺しても足りないほ
どに憎い恋敵ともなった少女である。
 才人を束縛し、独占しているルイズ。
 才人が与えてくれる幸せを、欠片も残さず奪っていくルイズ。
 才人を無理矢理引っ張って、自分から引き離してしまったルイズ。
(今回の東方行きの件だってそう。きっと、ルイズが無理を言ってサイト殿を連れて行ってしまった
 んだわ)
 アンリエッタはほとんど確信に近い気持ちで、そう信じていた。
 彼女は才人のことを覚えている。あの優しい眼差し、弱い自分を受け止め、支えてくれた彼の体の
温もりを、今でも忘れてはいない。
 そんな彼が、今、苦境に立たされているアンリエッタを放っていくはずがない。
 そう、彼は無理矢理ルイズに引っ張られていっただけであって、決してアンリエッタが苦しんでい
ることを忘れてしまった訳ではないのだと、彼女はよく自分の心に言い聞かせていた。
(そうよ。サイト殿が悪いんじゃないの。ルイズよ。全部、あの子がいけないんだわ)
 もちろん、ルイズがいなければ、そもそも才人はアンリエッタの前に現れることすらなかっただろ
う。そんなことぐらいは、彼女にもよく分かっている。分かっていてもなお、ルイズに嫉妬する気持
ちが止められないのだ。偽物だと知りつつ、蘇ったウェールズ王子についていってしまったときのよ
うに。あのときは抑えがたい愛情が体を突き動かしていたが、今は身を焦がさんばかりに激しく燃え
上がる嫉妬の念が、胸の中で渦を巻いているようだ。
(でも、もういいの。サイト殿さえ戻ってきてくだされば、私は全てを許すことができる)
 もしも東方を旅している間に、サイトの心が完全にルイズに捕われてしまったのだとしても、それ
はそれで構わない。
 それでも、彼は自分のことを覚えていてくれるはずだ。女王としてのアンリエッタではなく、一人
の少女としてのアンリエッタを覚えていてくれるはずだ。
 自分には、その現実だけがあればいい。女王という立場に振り回されて疲れきった自分を、一時だ
けでもただの少女として扱ってくれる、彼さえいてくれれば。
 ただのアンリエッタを知っている才人がいてさえくれれば、それだけでルイズのことも許せるし、
この後も女王としての責務に耐えていける気がするのだ。
 そのとき、不意に執務室の扉がノックされた。

167 名前:不幸せな友人たち:2007/09/20(木) 02:05:30 ID:0yA3EzQo

「アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン、参りました」
 また、心臓が早鐘を打ち始める。アンリエッタは声が震えないように注意しながら返事をした。
「お入りなさい」
 扉がゆっくりと開けられ、制服姿のアニエスが部屋に入ってくる。その後ろに、見たことのある少
年が付き従っていた。
(サイト殿ではないのね)
 少し気持ちが落ち込んだが、その少年も、記憶する限りでは東方探検隊の一員だったはずだ。つま
り、彼らが帰還したのは間違いないということである。
「ギーシュ・ド・グラモン殿をお連れしました」
「ご苦労様です、アニエス。彼の報告は、今後の政情にも関わってくるかもしれません。あなたもこ
 こにいて、共に話を聞いてください」
「はっ」
 アニエスが隣に立つ。アンリエッタは、跪いて頭を垂れているギーシュに声をかけた。
「お久しぶりですね、ギーシュ・ド・グラモン殿」
「はっ。このような夜分に申し訳ございません。女王陛下につきましては」
 緊張して固くなっているギーシュの声を、アンリエッタはもどかしい気持ちで遮った。
「口上は不要です。顔を上げてください」
「はっ」
 若干困惑したように、ギーシュが躊躇いがちに顔を上げた。
「まずは報告を聞きましょう。このような夜分に参ったのですから、急いで話さなければならないこ
 とがあるのでしょう」
「はい。仰る通りです。至急陛下のお耳に入れ、また、恐れながら陛下のご助力をお借りしたい儀が
 ございます」
 硬い声で話すギーシュは眉間に皺を寄せており、何か非常に苦悶しているような様子だった。こん
な風に緊張した表情を浮かべるような少年だっただろうか、と少し疑問に思いながら、アンリエッタ
は話の先を促す。
「分かりました。私に出来ることであれば、力になりましょう」
 それは偽らざる本心だった。東方探検隊のギーシュが力を借りたいというのは、才人が力を借りた
いと言っているのと同じである。たとえ誰が何を言おうが、必ずや才人の窮地を救おうという気持ち
だった。
(そうよ。私は今度こそ守ってみせる。私の愛しい人、私の小さな幸せを)
 強く心に言い聞かせるアンリエッタの前で、ギーシュは何か決心がつきかねるように、しばらく目
を閉じて唇を真一文字に引き結んでいた。次に目蓋を上げたとき、その目には痛々しく感じられるほ
ど力がこもっていた。
「では、お話いたします。ですが、その前に一つだけ、どうしてもお伝えせねばならないことがございます」
「なんでしょうか」
「陛下は、サイトのことを覚えておられますか」
 心臓が大きく脈を打つ。それを悟られないよう、アンリエッタは平静を装って頷いた。
「ええ、もちろんです。サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ殿ですね」
「そうです。陛下、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガは」
 ギーシュはそこで言葉を切って、大きく一度、呼吸をした。そして、絞り出すような声で続けた。
「東方の地にて、命を落としました」


168 名前:不幸せな友人たち:2007/09/20(木) 02:06:31 ID:0yA3EzQo

 一瞬、ギーシュが何を言っているのか分からなかった。
(サイトが、死んだ?)
 心の中で反芻してみても、やはり信じられない。
 ほんの少しだけ、悪質な冗談なのではないかと思ってもみた。しかし、ギーシュの顔はこれ以上な
いぐらいの苦痛に歪んでいるように見え、とても嘘をついているようには思えなかった。
(それは本当ですか)
 と、思わず質問しそうになって、寸でのところで踏みとどまった。主君であるアンリエッタを差し
置いて、自分が言葉を発する訳にはいかない。
(そうだ、陛下は)
 アニエスは慌ててアンリエッタの顔を窺う。彼女の顔には、何の表情も浮かんでいなかった。ただ
目を見開いて、瞬きもせずに硬直している。無反応ではなく、あまりに衝撃的な事実に反応すること
ができないといった様子である。
(サイトが、死んだ)
 アンリエッタの様子を伺いながら、アニエスはもう一度心の中で繰り返してみる。
 だが、やはりどうにも信じられなかった。
 七万の大軍に突撃して満身創痍になりながら、それでも死ななかったような男である。見かけこそ
頼りない少年だったが、彼が死ぬなどとは想像もしていなかった。前人未到の東方に旅立ったとは
言っても、死にかけながらも生き延びて、いつかは平気な顔で帰ってくるだろうと、信じて疑わな
かったのだ。
(だが、そうか。サイトは、死んだのか)
 考えてみれば、別段おかしな話ではない。何せ、東方は人間を敵視する危険なエルフの支配地であ
る。並の人間ならば、足を踏み入れただけでも殺されてもおかしくはないのだ。
(そうだ、おかしな話ではない。サイトは、死んだのだ)
 心に無理矢理言い聞かせて、アニエスは何とか納得した。
 彼女自身彼とは友好があったが、職業柄と過去の出来事から、他人の死には慣れている。悲しみに
胸が痛まないと言えば嘘になるが、正気を失ってしまうほど動揺することはなかった。
(しかし、陛下はどうか)
 改めて、アニエスはアンリエッタの様子を窺った。年若き女王は、まだ呆然としたままだったが、
やがてぎこちない口調で呟くように言った。
「死んだ。サイト殿が」
「はい」
「間違いないのですか」
「間違いようがありません。わたしたちは、オストラント号に彼の亡骸を乗せて、この地に帰ってき
 たのですから」
「そう、ですか。サイト殿が、死んだ」
 アンリエッタはもう一度呟いたあと、顔を伏せて押し黙ってしまった。
 執務室内に、重い沈黙が満ちる。アンリエッタは何も言わないし、そうすると続きを話すことも憚
られるらしく、ギーシュもまた床に視線を落として押し黙っている。止むを得ず、アニエスは話の続
きを促した。
「ギーシュ殿。そのことについて、もう少し詳しくお聞かせ願えないだろうか」
「詳しく、ですか。そうですね」
 ギーシュは困惑しながら、才人が命を落とすに至った経緯を話し始めた。
 俯いていたアンリエッタが反応を示したのは、才人が命を落としたその瞬間について、ギーシュが
語ったときだった。

169 名前:不幸せな友人たち:2007/09/20(木) 02:07:20 ID:0yA3EzQo

「それで、わたしたちが止める間もなくルイズが飛び出して、それを追ったサイトが、彼女の盾になり」
「ルイズですって?」
 不意に、アンリエッタが顔を上げた。呆然と見開かれていた瞳が、急に焦点を結び、強くギーシュを見据えた。
「では、サイト殿は、ルイズを庇って命を落とされたのですか」
 その部分がとても重要だとでも言わんばかりに、アンリエッタは念を押すような強い口調で問う。
やや気圧されながら、ギーシュは躊躇いがちに頷いた。
「そういうことに、なると思います」
「そうですか」
 そう言ったきり、アンリエッタはまた俯いてしまった。垂れた前髪に隠れて目元は窺えないが、閉
じられた口元からは何の感情もうかがい知ることが出来ない。
 また沈黙が訪れるかと思いきや、アンリエッタが不意に静かな口調で呼びかけた。
「ギーシュ殿」
「はい」
「サイト殿は、最後に何と言い残されましたか」
 その声はとても静かだったが、底冷えがするほどに深い響きを持っていた。まるで、その質問に自
分の全存在を賭けてでもいるかのような、背筋が震えるほどの凄みを感じさせる声音だった。
 ギーシュもそれを感じ取ったらしく、答えるまでには若干間があった。
「ルイズを、幸せに……と。それが、サイトの最後の言葉です」
「それだけですか。他には、何か」
 何かにひどく恋焦がれるように、アンリエッタが食い下がる。ギーシュはゆっくりと首を横に振った。
「他には、何も。船に連れ戻したときには、もう完全に手遅れの状態でしたから」
 そのときのことを思い出したのか、ギーシュは少し、唇を噛んだ。
「本当に、最後の力を振り絞って、言い残したのだと思います」
「そうですか。ルイズを幸せに、と……そうですか」
 小さく呟き、アンリエッタはまた顔を伏せてしまった。先程才人の遺言を問うたときの奇妙な迫力
が、見る見る内に消えていく。それと同時にアンリエッタ自身の体も小さくなっていくように思えて、
アニエスは居た堪れない気持ちになった。
 そのとき、アンリエッタがゆっくりと顔を上げた。驚くべきことに、その表情はとても静かなもの
だった。と言っても、ここ最近アニエスが見慣れていた、自暴自棄を窺わせるような冷めた表情では
ない。特にその瞳は、奥深くに氷河の存在を感じさせるほどに、冷たく澄んだ光を放っている。
(お変わりになられた)
 アニエスは瞬時に確信した。今この瞬間、アンリエッタの中で何かが変わったのだと。怖気を覚え
させるほどの何かが、この年若い女王の中で生まれ落ちたのだ。
「話してくださって、ありがとうございました」
 労うような慈愛に満ちた口調にも関わらず、どこか相手をぞっとさせるような声音で、アンリエッ
タが言った。
「大変な旅路だったようですね。ギーシュ殿、よく無事に帰還なさいました」
「はっ、いえ、わたしは」
 喜びを表す気にはなれないらしく、ギーシュは曖昧に言いよどむ。
「ところで、私の助力が必要だという件に関してですが。それはもしかして」
 アンリエッタの口元に微笑が浮かぶ。
「ルイズに関すること、ではありませんか」
 その微笑の裏に言葉では言い表し難い何かが潜んでいるような気がして、アニエスは背筋を震わせた。

170 名前:205:2007/09/20(木) 02:09:01 ID:0yA3EzQo
短いですが。
確か9巻発売当初ぐらいに書き始めたので、アン様が普通に才人に惚れてる設定です。

171 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 02:16:21 ID:fQOLD1rV
>>170
リアルタイムGJ!
シリアスな展開にwktk

172 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 02:37:40 ID:ZZcv/7UX
>>170
GJ
やっぱ原作の一線引いた(と見える)姫様よりこういう姫様のほうが好きだなぁ

173 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 03:36:59 ID:9rWXyS4l
>>170
GJ!です

うわっ、おもいっきり黒いほうへころがっていきそうなヨカン (((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル 

174 名前:サイトが魔法を使えたら(1/3):2007/09/20(木) 05:59:39 ID:WhvF/s4m
サイトは、図書館に呼び出された。

ルイズとコルベールの火の魔法の授業中、後ろからタバサに誘われたのだ。
タバサをガリアから救出して以来、サイトはタバサに話しかけられるようになった。

なんでこんなとこに・・・サイトが首をかしげていると、巨大な本棚からタバサが
レビテーションで降りてきた。

「来た。」
タバサは、そう言うと、一冊の本をサイトに手渡してきた。
「これ、読んで。」

何の本かしら・・・とサイトはタイトルを見ると、

系統魔法の基本の手引き。と書いてあるようだ。

「タバサ、俺魔法の本なんて読んでもわかんないぞ。第一使い魔だし。
魔法の勉強はルイズの仕事だろが」

すこしタバサは眉をひそめた。
「使い魔かどうかは関係ない。ルイズは系統魔法は使えない。
だから、あなたが魔法使えたら助かるはず・・・・・・それにあなた自身が
危険な目にあったときにわたしがいなかったとしても安心。」

「そんなもんなのかな・・・でもさ、ホントにこの世界の人間じゃねぇし。
魔法なんかできんのか?」
この世界で、シュヴァリエとなったとはいえ元平民で、さらに地球という
異世界から来たふつーの高校生なのである。いくらタバサにできると
言われたとしても、サイトは全くできるようには思えてこない。

「ガンダールヴ。」
「そりゃこの世界じゃ、伝説の使い魔かもしれないよ。だけど
それだけだ。」
「違う、ガンダールヴは魔法使いこなせる。これも伝説のひとつ。」
タバサはサイトをまっすぐ見つめてそう言った。

175 名前:サイトが魔法を使えたら(2/3):2007/09/20(木) 06:00:09 ID:WhvF/s4m
ほんとかよ。俺に魔法の素質があると、タバサは言っているのだ。

「大丈夫、ちゃんと教える。だから、読んで」

ぐいっとタバサは、その魔法の本をサイトに突き出した。
そして、サイトに顔を近づけてさらに言った。
「読んで」

近くでみると、なるほどルイズと違う気品を漂わせるタバサに
サイトは頬を赤らめた。
タバサ意外とかわいいじゃないか・・・

「わ、わかった、読む、読んでみるよ。」

ちょっとどきまぎしながらサイトは本を受け取ったのである。

「じゃ、教える。系統魔法には、火・水・土・風、そして虚無があるのーーー」

日も暮れかかった頃、ルイズはサイトを探していた。

昼過ぎのコルベールの授業のあとから姿が見えないのだ。
どこいっちゃったのよ。あのバカ使い魔・・・ひとりにしちゃやだって言ったのに、
ひとりにしないって言ったのに。う〜っとルイズは唇を噛んだ。

この季節の日暮れ時は、何か物悲しいものがあるのだ。
ルイズは、こんな時間が苦手だった。
サイトがアルビオンの森で消息を絶って、ひとりぼっちになってしまったときを
思い出してしまうからである。

「サイトぉ・・・」
ルイズは、ちょっと泣きそうな声でつぶやいていた。

176 名前:サイトが魔法を使えたら(3/3):2007/09/20(木) 06:00:45 ID:WhvF/s4m
どのくらい時間がたったんだ。もう図書館の外は黄昏時を迎えていた。

「---今日は、ここまで。」

タバサ先生の初めての授業がようやく終わった。

もちろん見るも聞くも初めての経験だったが、なんとなくだができそう
な気がしてきた。これもタバサの教え方がうまいからだとおもう。

「タバサ、いろいろありがとな。俺がんばってみるよ」

「ん・・・」

珍しく、タバサがほほえんだ。
なんだかサイトはその微笑に照れてしまった。

そろそろ図書館の閉館時間も迫ってきていたので、サイトとタバサは
図書館の出口へと向かった。

図書館から出て、エントランスの階段を降りようとしたとき、
桃色がかったブロンズ髪の後姿が見えた。

「ル、ルイズ・・・どうしたんだ、おまえこんなとこで・・・」
サイトは慌ててルイズへと駆け寄っていった。

そのサイトの後姿をタバサは少しつまらなそうな表情で見つめていた。

177 名前: ◆LoUisePksU :2007/09/20(木) 06:02:36 ID:WhvF/s4m
タバサフラグ立てます。
つづく。

178 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 06:05:35 ID:fQOLD1rV
>>177
リアルタイムGJ!
続き待ってます。
タバサかわいいよタバサ

179 名前:トリスティン夜の睦言:2007/09/20(木) 06:07:09 ID:WhvF/s4m
「ルイズ?!」

いきなり泣き出したルイズにサイトは戸惑った。

「わたしね。サイトのこと・・・サイトのこと・・・」

あふれ出す涙のなか、ルイズは懸命にサイトに想いを伝えようとしていた。

「いいよ。無理しなくていい。おまえが俺のこと
そんな好きだなんて思ってないこと、わかってる」

それを聞いてルイズはますます悲しくなった。

「ち、違うもん。嫌いじゃないもん。」

「嫌いじゃないってことは、好きってことか?」

かぁぁ---ルイズは顔全体を真っ赤に染めた。

「すすす好きなんかじゃないんだもんっ」

おいおい。どっちなんだよ、困ったご主人さま。

「ルイズずるいぞ。『好き』か『嫌い』か、どっちかにしなさい」

う〜。瞳に涙をためながらルイズは唇を噛んだ。

『スキ』って言っちゃったらもう後戻りできなくなっちゃう。
だけど『キライ』って言っちゃうとウソになっちゃうの。
ウソはやなの。今夜くらいは正直になるんだもん。
今夜は・・・・サイトにやさしくしてもらうんだから。

ルイズは、決心してサイトに告白した。

「あんたのこと・・・・サイトのこと・・・・好き・・・・・・・・・・・・・かも」
ルイズはがんばった。これ以上、今の自分の本心に肉薄した言葉は
なかった。

「そか。好き、かも、ね・・・」
サイトはにっこり微笑んで。ゆっくりルイズを抱き寄せた。

180 名前: ◆LoUisePksU :2007/09/20(木) 06:07:46 ID:WhvF/s4m
>>101のつづき。
連投スマソ。

181 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 13:27:14 ID:48x8+Iso
>>180
大歓迎♪
がんばって書いてくれ!

182 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 13:36:53 ID:NWbzXEor
>>180
続きは?続きはどうし(ry

183 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 13:53:27 ID:sQHFdIA2
>>180
wktk

184 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 20:16:08 ID:kjFfNjh/
>>180
タバサの目の前でなんて会話してんだwww

場所を考えろwww

185 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 20:17:32 ID:70aru1Aa
>>184
>>176>>179は別の話では?

186 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 20:52:48 ID:w9AbI4vx
>>184
これでも飲んで落ち着くといい
(´・ω・)つ[茶]

187 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 22:46:26 ID:CCW+rkx/

(´・ω・`)つ[タバ茶]

188 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 22:51:52 ID:VsTL27bK
(´・ω・`)つ【ギー酒】

189 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 22:59:20 ID:gfobY/5c
(´・ω・`)つ[ルイ酢]

190 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 23:01:24 ID:PRUWUfI5
(´・ω・`)つ[マザリー煮]

191 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 23:03:37 ID:pZbh87c6
(´・ω・`)つ[モンモラン水]

192 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 23:05:19 ID:ZN7ib+qq
(´・ω・`)つ[汁フィ……いや、この流れは俺が断ち切る

193 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 23:07:51 ID:V/PjSyfr
(´・ω・`)つ[ウェール酢]

194 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 23:10:03 ID:pd44+jm2
(´・ω・`)つ[酢カロン]

195 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 23:16:12 ID:1hho7xJa
さっきこのスレ一時的にぶっ壊れてたんだが俺だけ?

196 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 23:23:36 ID:JmZe+XdZ
>>195
これを飲めば直るさ(´・ω・`)つ[元祖アバ茶]
つうかそろそろガチでエロイの来んかねえ

197 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 23:32:36 ID:9pJUeDl/
(´-`).。o0(>>192 つ鱗)

198 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 23:36:37 ID:dYklejBj




              汁フィード













                 それ何て(ry

199 名前:205:2007/09/21(金) 00:03:45 ID:4G4284YU
(´・ω・`)つ黒酢ウェル
一度スレタイを思い出して、エロいのを書こうとしてみた。

200 名前:ロマン飛行:2007/09/21(金) 00:04:49 ID:4G4284YU

 ティファニアがアンリエッタの計らいによって魔法学院に通うようになって、早三ヶ月ほど。
 あれこれと困難な出来事に遭遇したりもしたが、友人達の助けもあって、ようやくここでの生活に
馴染み始めてきた今日この頃である。
(特に、サイトにはたくさんお世話になっちゃったな)
 中庭の木陰で涼みながら、ティファニアは友人の少年の顔を思い浮かべる。
「なにか、お礼が出来ればいいんだけど」
「そんなあなたにオススメ」
 急に後ろから声をかけられた。ティファニアは小さく悲鳴を上げて飛び上がる。息を整えながら振
り向くと、木の反対側から小柄な少女がこちらを覗き込んでいた。
「タバサさん?」
「サイトにお礼をしたいのなら、いい方法がある」
 前置きなしに、タバサは単刀直入に言った。その唐突さに少々困惑しつつも、読書家で知識豊かな
タバサの言うことなので、ティファニアは少々興味を惹きつけられた。
「いい方法、っていうのは、どんなものなんですか?」
「あなたにしか出来ないこと。サイトも大喜びする」
「わたしにしか出来ないこと、ですか」
 それが具体的に何なのか想像もつかず、ティファニアは首を傾げた。少し考えてみたが、おいしい
料理を作るとか、冬にそなえてマフラーなどを編んであげるとか、そういったことしか思いつかない。
(でも、そんなのわたしじゃなくても出来るし、サイトが大喜びするとは限らないよね)
 結局、答えは分からなかった。それを察してくれたらしく、タバサはおもむろに腕を上げて、こち
らの体を指差してきた。
「それを使う」
「それ、って」
 タバサの指が示している方向を目で追うと、自分の胸に行き着いた。出会った当初から才人がちら
ちらと見ていたり、この学院に来てからは露骨に好奇の視線を浴びるようになった、彼女にとって
少々大きすぎる荷物である。それを真っ向から指差されたものだから、途端に顔に熱が上ってくる。
「か、からかわないでください!」
「からかってない」
 静かに否定しながら、タバサは無表情のまま、自分の真っ平らな胸の前でぐるぐると大きく腕を回
してみせた。
「男の人は大きな胸が好き。あなたの胸は憎たらし……過剰なぐらいに大きい。よって、サイトはあ
 なたの胸が大好き。これを利用しない手はない」
「で、でも」
 タバサの言葉は一部を除いていちいち断定的で淀みがなかったが、ティファニアは素直に肯定する
ことが出来なかった。
 大体にして、この胸を使って何をするというのだろう。こんなもの肩こりの原因になる重い荷物と
しか認識していなかったから、何かに使おうなどとは考えたこともなかった。
(も、もしかして、じゅ、授乳、とか……)
 世間知らずなティファニアだが、母の胸から赤子を育てるためのお乳が出るという知識ぐらいはあ
る。
 逆に言えば、胸の使い方などそれしか思いつかない。アルビオンで暮らしていた頃、かなり年少
の子供がぐずって乳に吸いついてきたことも何度かあるので、なおさらそういう想像が強まってくる。
(でも、サイトは子供じゃないし! それにそもそも、わたし赤ちゃんいないから、おっぱいなんか
 出ないし。いやいや、仮に出たとしても、大人の男の人にそういうことさせようとしたら、『子供
 扱いするな!』って怒るんじゃないのかしら)
 ティファニアが悶々と考え込んでいると、タバサが不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの」
「あ、いえ。あの、タバサさん。多分、タバサさんの言ってる方法って、わたしには無理なんじゃな
 いかなあって」
「どうして」
「だって、あの、これは確かに大きいけれども、ここからは何も出ないし」
「……別に何も出さなくてもいい」
「そ、そうなんですか?」
 ほっとするのと同時に、また不思議になった。授乳でないとすれば、胸の他の使い方なんてあるの
だろうか。

201 名前:ロマン飛行:2007/09/21(金) 00:06:02 ID:4G4284YU

「耳を貸して」
 タバサの言葉に従って彼女の口元に耳を寄せると、その方法について懇切丁寧に説明された。顔か
ら火が出そうになった。
「そそそそそ、そんなこと無理です、絶対出来ません!」
「授乳よりは恥ずかしくないし、変態的でもない」
「え、授乳って変態的なんですか」
「あなたの発想に従うなら」
 そうなんだ、母親って皆変態だったんだ、と新たな知識を身につけたティファニアだったが、思考
の混乱は収まらない。それだけ、タバサが言った方法は実行困難というか、有り体に言って恥ずかし
かった。
「自信を持って」
「で、でも」
「大丈夫。サイトは必ず喜んでくれる。と言うか、それ以外の方法であなたがサイトを喜ばせるのは無理」
 何気にひどいことを言う少女である。胸の痛みと恥ずかしさで泣きそうになりながら、ティファニ
アは「でも、あの」とあうあう反論しようとする。すると、タバサが小さく頷いた。
「分かった。どうしても決心がつかないなら」
 と、制服のポケットから、何かの液体が入った小瓶を取り出してみせる。
「一本いっとけ」
「は、ええと、これは?」
「飲めば分かる」
 手の中に小瓶を押し付けられる。さすがのティファニアも、正体不明の液体に口をつける気にはな
れず、タバサと小瓶を交互に見比べて困惑を露わにする。それを見て、タバサが静かに言った。
「本当にサイトを喜ばせたいという気持ちがあるのなら」
「え?」
「自分が恥ずかしいだとか、そういう感情は捨てるべき」
 ティファニアは雷に打たれたような衝撃を受けた。確かにタバサの言うとおりだ。感謝の念を表し
たい、御礼をしたいと言いつつ自分の都合を優先するのは、人間として間違っている。
「そうですね。ごめんなさい、わたし、目が覚めました」
「ちょろい」
「え? 今なんて?」
「なんでもない。さあ、ぐいっと一発」
「は、はい」
 ティファニアは小瓶の蓋を取った。中の液体は緑と黒が混じったような、不快かつ実に印象的な色
をしていた。一度大きく深呼吸してから、一気に中身を呷る。どろりとした苦味のある液体が喉を通
過し、体内をゆっくりと滑り降りていく。
(これで、どうなるんだろう……)
 しばらくの間は、特に何の効果もないように思えたが、その内に腹の底が妙に熱くなってきて、そ
の熱は見る間に全身に広がって言った。
「あ、熱い……!?」
「漲る力。百万馬力。今ならきっと、何でも出来る。空も飛べるはず」
「いや、さすがに空は飛べる気がしませんけど」
 だが、体中に力が漲ってくるのは事実である。次から次へと沸いてくる熱が、行き場を求めて全身
を縦横無尽に駆け巡っているようで、何かをせずにはいられないような高揚感がある。今まで体験し
たこともないほどに頭の芯がカーッと熱くなっていて、恥とかそういった類の感情が一切気にならない。

202 名前:ロマン飛行:2007/09/21(金) 00:07:07 ID:4G4284YU

(こ、これなら、さっきタバサさんが教えてくれたことも実行できるかも……! サイトに、大喜び
 してもらえる……!)
「ティファニア」
 と、タバサが無表情で親指を突きたてた。
「健闘を祈る」
「あ、ありがとうございます……!」
 ここまでしてくれたタバサの友情に煮えた頭で感謝しつつ、ティファニアは体を突き破らんばかり
のエネルギーに任せて大股で走り出した。

「うわー、すっごいのね、ばいんばいん揺れてるのね」
「暴力的乳革命」
 空から降りてきたシルフィードに答えつつ、タバサは満足して頷いた。
「作戦は順調に進行中」
「ねーねーお姉さま」
 きゅいきゅい鳴きながら、シルフィードが首を傾げた。
「さっき渡してた薬、一体何なの」
「恥を捨て去るための薬」
「よく分かんない。お姉さまが作ったの?」
「ううん。モンモランシーから譲ってもらった」
 そのとき、ちょうど近くを通りかかったモンモランシーが、こちらに気付いて声をかけてきた。
「ねえタバサ、これぐらいの小瓶を探してるんだけど、見なかった?」
「知らない」
 即答すると、モンモランシーは困った様子で小さく唸った。
「おかしいのよねえ。確かに机の上に上げておいたはずなのに。ちょっと調合に失敗して、元気が出
 すぎる薬作っちゃったのよ。恥も節度も完全に吹っ飛んじゃって、ほぼ確実に社会的地位がドブに
 沈むことになるぐらいハイになっちゃう、例のアレ。この学院の人間であれの効果と見た目を知ら
 ない人間がいるはずもないし、誰かが盗むとも思えないんだけど。見かけたら教えてね」
 モンモランシーはそう言い残して立ち去った。何か言いたげなシルフィードの視線を受けて、タバ
サは重々しく頷いた。
「訂正。モンモランシーから無断で譲ってもらった」
「お姉さま、世間ではそれを泥棒というのね」
 こういうときだけ妙に常識的である。
「使えない子」
「ひどいのね!?」

 走って寮に飛び込んだティファニアは、ルイズの部屋目指して一段飛ばしに階段を駆け上がった。
いつもは重く感じる胸の荷物も、今は全く気にならない。全力で走っているものだから思う存分揺れ
まくっていて、通りすがった生徒がぎょっとしたようにこちらを見ているが、それも全く気にならな
かった。
(サイトにお礼、サイトにお礼……!)
 頭の中でただそれだけを念じながら、走る、走る、走る。
「サイト!」
 ティファニアは、ノックするのも忘れてルイズの部屋に飛び込んだ。
 掃除中だったと思しき才人が、ホウキ片手にぽかんとした顔でこちらを見つめてくる。
「テファ。どうした、そんなに赤い顔して」
「そんなことはどうでもいいのです」
 扉を勢いよく締めながら、ティファニアは真っ直ぐ才人のそばに直行した。部屋の中に、彼以外の
人間は見当たらない。実に好都合な状況である。
「サイト。今からわたしは、あなたにお礼をします」
「お礼って、なんだ、そんなに改まって」
「いいから、黙ってちょっと屈みなさい」
「なんか今日はやけに強引だな」

203 名前:ロマン飛行:2007/09/21(金) 00:08:56 ID:4G4284YU

 怪訝そうな顔をしつつも、才人は素直に軽く屈んだ。
「これでいいのか」
「もうちょっと頭を下に」
「注文細かいな。えーと、この辺か、って……」
 こちらの指示に従って頭を下げたり上げたりしていた才人が、不意に息を呑んだ。
「どうしたの」
「いや、さ。なんつーか、ここだとテファの胸が真正面に……いや、別に、なんでもねえよ」
 才人は慌てて目をそらす。ティファニアが胸のことを気にしているのを知っているから、気を遣っ
ていてくれるらしい。才人に対する感謝の念が、ティファニアの中で爆発的に膨れ上がった。
(よし、わたしも張り切ってお礼してあげなくちゃ)
 ティファニアは先程タバサに教えてもらったことを頭の中で反芻しながら、目の前にある才人の頭
を両手でつかんだ。
「え、テファ、一体何を」
「えいっ」
 ティファニアは、両手でつかんだ才人の頭を思いっきり引き寄せ、躊躇いなく自分の胸の間に挟み
こんだ。大きすぎる胸は、才人の頭を挟んでなお余りあるサイズである。才人が何かもがもが言いな
がらじたばた腕を動かしているが、今のティファニアは百万馬力。ちょっとやそっとの力で、この胸
の中から逃れることは出来ない。
(ええと、次は、こね回すように……)
 ティファニアは、才人の頭を包み込んでいる自分の乳房を両脇から手で押した。そのまま腕に力を
込めて、ぐにゅぐにゅと胸のお肉をこね回す。才人がさらに大きくじたばたし始めた。ティファニア
は、その動作を喜びの表現として受け取った。タバサがこれで男は大喜びすると教えてくれたのだか
ら、間違いないはずである。
(でも、これだけじゃまだお礼には足りないわ。もっと、もっと……!)
 ティファニアは片手を乳房から離すと、才人の後頭部に持っていき、力をこめてさらに深く自分の
胸に押し付けた。もう片方の手は乳房につけたまま、才人の頭に向けて抉りこむ。今、彼は顔面全体
で胸の柔肉の感触を堪能しているはずである。
 そのとき、才人が震える腕を伸ばして、ティファニアの腕をぱしぱしと叩いた。もっと強くしてくれ、の合図に違いない。
(サイトのためなら)
 意を決して、満身の力を腕に込める。才人はさらに激しくティファニアの腕を叩く。もっと強くと
いうことか。だが、ティファニアの方もさすがに限界が近い。
(ううん、感謝の心は滅私の心。わたしの限界なんか、気にしちゃいけないわ)
 腕に血管が浮き出るぐらいの力を込めて、ティファニアは才人の顔面と己の乳房を極限まで密着さ
せ、なおかつぐにぐにとこね回す。才人はさらに激しく腕を叩いていたが、やがてじょじょに力を抜
き、最後にはだらりと腕を下げた。
(もういい、ってことよね)
 そう判断して、ティファニアは長く息を吐き出した。なかなか大変な仕事だったが、これで自分の
感謝の念は伝わり、才人は大喜びしてくれたに違いない。
(そうよね、サイト)
 心の中で呼びかけながら、ティファニアが自分の胸から才人を解放すると、彼の体はゆっくりと傾
いで床に倒れ伏した。
「……あれ? サイト?」
 不審に思ってしゃがみ込み、彼の顔を覗き込む。
 顔は真っ青目は白目、開いた口からぶくぶく泡が垂れ流し。
(どう見ても失神状態です。本当にありがとうございました)
 ティファニアは悲鳴を上げた。

204 名前:ロマン飛行:2007/09/21(金) 00:09:54 ID:4G4284YU

 そんな様子を、シルフィードに乗って戸外から「遠見」の魔法で眺めつつ、タバサは何度もうんう
んと頷いた。
「これで完璧。作戦は大成功」
「お姉さまが何をなさりたいのか、シルフィにはさっぱり分からないのね」
「サイトは巨乳で窒息した。これで巨乳がトラウマになるはず。巨乳がトラウマになれば逆方向の無
 乳に興味が向く」
 淡々と説明したあと、タバサはぐっと握りしめた拳を掲げた。
「つまり、わたしの勝利」
「脳味噌が沸いてるとしか思えませんわ」
 批判的な意見である。このアホ竜は何も分かっていない。
「役立たず」
「ひどすぎるのね!?」

 その夜、中庭の片隅。ティファニアは顔面が焼け落ちるのではないかと思うほどの勢いで、激しく
煩悶していた。
(ああ、わたしったら、何だってあんなことを……!)
 薬の効果はとっくに切れているので、今は漲る力の代わりに即刻自殺してしまいたいほどの恥ずか
しさが全身を駆け巡っている。
 いっそ自分で自分の記憶を消してしまおうかとも考えたが、そんなことをしたら、あんな真似をし
たあと平気で才人の前に出て行くことになってしまう。
(その方がよっぽど終わってるわ……!)
 ああ、うう、と意味不明に呻きながら、ティファニアはごろごろと地面を転げまわる。全身が草だ
らけになる頃、ようやくほんの少しだけ気分が落ち着いた。
 地面に座り込んで、ため息を吐く。あの後、気絶した才人を寝台に寝かせて、速攻で部屋を逃げ出
してきた。今頃は彼も目覚めているはずである。
(サイトは優しい人だから、今日のことはきっと秘密にしておいてくれると思うけど)
 ため息を吐いたとき、背後から無数の足音が聞こえてきた。
「いたぞ!」
「例の女だ!」
 口々にそんなことを叫ぶ声に驚いて振り向くと、ティファニアを取り囲むようにして、大勢の人間
が立っていた。男もいれば、女もいる。
(な、なに、一体なんなの!? あ、そうか)
 ティファニアは気がついた。これは、おそらく先程の破廉恥な行為がもう学院中に広まってしまっ
たということなのだろう。才人が話してしまったのか、それとも誰かに見られていたのかは分からないが。
(それで、そんなはしたない娘はこの学院にはふさわしくないって、わたしのことを追い出しにきたんだわ)
 だが、仕方がない。全ては自分の責任である。ティファニアは観念して、全身についた雑草を払い
ながら立ち上がり、深々と頭を下げた。
「皆さん、申し訳ありませんでした。わたし、とても破廉恥なことを」
「そんなことはどうでもいいんだよ!」
 突然、ティファニアの謝罪が遮られた。驚いて顔を上げると、先程の台詞を叫んだと思しき男子生
徒が、ギラギラと目を光らせながらこちらを見ていた。
 いや、彼だけではない。周囲の人間全員が、異様な目つきでこちらを見つめている。
(違うわ。わたしを、と言うよりも)
 嫌な予感を覚えながら、ティファニアは彼らの視線を辿る。そして、予想通り自分の胸に行き着いた。
「ききき、君は、そのけしからん胸で僕らを桃源郷へと誘ってくれるそうじゃないか!」
「けけけけけ、けしからん! まことにもって、けしからん!」
「どどどどどど、どうやったんだ! そんなけしからん行為は、是非とも詳細かつ明確に記録しなけ
 ればならない! という訳で、僕にも同じことをやってみせてくれたまえ!」
「オイ、抜け駆けするんじゃねえよ」
「そうだそうだ、ここは俺が」
「いいえわたしが」
「お姉さまのおっぱいで溺れるのはわたしですぅ」
「一緒にニャンニャンしましょぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 訳の分からないことを口々に叫びつつ、数え切れないほどの人間が一斉にティファニアに向かって
走ってくる。彼女はまたも悲鳴を上げて逃げ出すことになった。


205 名前:ロマン飛行:2007/09/21(金) 00:10:38 ID:4G4284YU

「だからな、俺はそのとき思った訳だよ。ああ、これが全ての男たちが夢見る桃源郷、約束の地って
 やつなんだなって」
 ルイズの部屋に集まった男たちに向かって、才人は夢見心地で昼間の体験を語っていた。
「いや、凄かったねホント。顔面全体で感じるあの素晴らしい柔らかさ、その中でじょじょに意識が
 遠のいていく感覚。何の枷もなく自由に空を飛ぶような感じさ。そう、まさにロマン飛行ってやつ
 だ。俺はヤバい薬なんてキメたことねえけど、それでも間違いなく断言できる。あんなもん、おっ
 ぱいで溺れるときの気持ちよさに比べたら、子供のお遊びみたいなもんだぜ。あれを凌駕する心地
 よさは、この世にはない。間違いなくな」
 そして才人は、ふーっと長く息を吐き出して、どこか遠くを見るように目を細めた。
「願わくば、またあの感覚を味わってみたいもんさ。と言うか、次はもっと上を目指さなくちゃな。
 要するに、ぶっちゃけアレだ」
 才人は集まった男たちをそっと見回したあと、恍惚の表情で両腕を広げてみせた。
「次は、おっぱいの海で溺れたい」
 拳を突き上げる男たちの大音声が、ルイズの部屋のみならず学院寮全体を揺り動かした。

「……何故」
「きゅいきゅい。お姉さま、こういうの、策士策に溺れるって言うのね」
「死んでしまえ」
「ひどいってレベルじゃないのねー!?」

 この日誕生した「乳海溺死教」は、悟りを開いたかのような才人の語り口のおかげもあって、瞬時
にして爆発的な広がりを見せた。最終的にはロマリアの教皇を追い落として、ハルケギニアで最も信
仰される宗教となったのである。
 初代教祖となったサイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガは、革命的巨乳の持ち主であるティファニア
を生き神として祭り上げた。その乳の革命的な豊満さに、見る者は誰もが涙を禁じえなかったという
ことである。
 なお、当のティファニア本人もこのことが相当嬉しかったらしく、自分のために集まった大勢の信
者の前で、涙を流しながら
「もう存在ごと消えてしまいたい」
 と発言したそうだ。感極まった喜びの表現としては多少オーバーな感じもするが、いかがだろうか。
 また、この日を期に、男を桃源郷へと導く能力のない貧乳女たちは次第に迫害されるようになり、
集団で東方に逃れて「貧乳解放戦線」を結成。以後、「虚乳(ゼロ)」のルイズを頭に頂き、巨乳至
上主義の乳海溺死教徒と激しい戦いを繰り広げていくこととなる。

 以上が、歴史学者ノーヴォル・ヤマグッティ氏が提唱した、中世ハルケギニア史の新たな歴史観で
ある。学会に提出されたこの論文を一瞥したスァン・スェンタイ変態紳士(尊称)は、呆れ顔で
「頭がおかしいとしか思えない」
 と批判。これに対してノーヴォル・ヤマグッティ氏は
「だが、おっぱいの海で溺れるのは間違いなく男のロマンであるはずだ」
 という反論を展開している。まことに業の深い話である。

206 名前:205:2007/09/21(金) 00:13:46 ID:4G4284YU
そして予想通り盛大に失敗した。今後はサムさの限界に挑戦することにしよう。
なお、聞き覚えのあるような名前が作中で出てきていてもそれは気のせいです。信じる心が足りません。

汁フィードに関しては、ただ一言「啜りたい」とだけ言っておきます。

207 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 00:16:59 ID:UIdwSZIz
GJ!
どうでもいいがシルフィがなんとなくマキバオーと重なる

208 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 00:19:10 ID:PfaMgTTG
>>205
なんという頭の悪い小説だww 吹いちまったじゃねーか
お陰でPCのモニターに唾がww

209 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 00:25:32 ID:sdn8oSOa
GJ!!
俺のシルフィ(ぉw)がカワイソ過ぎるwww

210 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 00:44:49 ID:LEB5bNhL
>>206
GJ!!

>>186-199
ちょwww俺の勘違いで妙な流れがwwwおまえらGJwww

211 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 00:56:19 ID:1mmAgafT
タバサ壊れすぎだろw

>そうなんだ、母親って皆変態だったんだ、と新たな知識を身につけたティファニアだったが、
ま、待ってー!w

212 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 00:58:53 ID:SXtf9RBk
ば、ばかすぎて笑いが止まらない・・・www
最高!GJ!

213 名前:29Q:2007/09/21(金) 01:03:48 ID:FITj371Q
 晴れ晴れとした気持ちのいい日。透き通るような大空に、気持ちのいい日差しを降り注いでくれている太陽の下、マリコルヌは隠れていた。
「ああ、ルイズかわいいよ」
 ハァハァと気持ちの悪い息を吐きながら、マリコルヌはルイズを見つめている。ルイズはその視線に気づかずに、楽しそうにサイトと談笑している。
「サイト。僕は君が羨ましくない。なぜなら僕には僕だけのルイズがいるからね」
 寂しい発言である。そのルイズというのも、結局は脳内での妄想にすぎず、さらにマリコルヌを寂しい存在にしている。
 だが、マリコルヌはそんなことには気にしない。なぜなら、彼には脳内ルイズがいるのだから。
「ああ、ルイズかわいいよルイズ。どうして君はそんなにかわいいんだい。タバサもいいけど、やはりルイズが一番だ!」
 木の陰に隠れながら怪しいことを呟いているマリコルヌ。何処からどう見ても怪しい人である。通りかかる人も『うわなにこいつ死ねばいいんじゃね?』という素敵な感想を持ちながら、マリコルヌを見ないようにして足早に通り過ぎていく。
 哀れなマリコルヌであるが、彼はそんなこと気にしない。なぜなら、彼には脳内ルイズがいるのだから。
 脳内ルイズは彼にとって最高の存在である。彼を優しく包み、彼を激しく罵倒し、彼を優しく導き、彼を激しく責め立てる。そんなギャップを彼はたまらなく恋し、ますます脳内ルイズへの思いを深めていくことになる。
『信じられない! わたしを見てハァハァしてるなんて! 生きる価値無いわね! 死になさい!』
「ああ、もっとだ! 僕をもっと罵倒してくれ!」
 このドMが! と思ったのは、偶然通りかかったギーシュである。同じ水精霊騎士隊として、これほどの屈辱を感じたことは無かった。
 僕は自分が恥ずかしい。
 そう思ったギーシュは、本気で水精霊騎士隊を抜けようかと考えながら、自分の部屋へと去っていった。
 当の本人であるマリコルヌは、そんなギーシュのことなどお構いなしにルイズの観察を続けている。
 笑うルイズ。怒るルイズ。眠そうなルイズ。拗ねるルイズ。様々なルイズの表情が彼の記憶に残っている。
 しかし、彼は思う。記憶だけではなく、この芸術を実際に残したいと。
 そして、彼は思い出す。サイトが言っていた言葉を。
『俺の世界にはカメラってのがあってな。風景を残すことが出来るんだ』
 どうして風景を残すことが出来るのだろう。もしもそんなものが実在したら、いつまでもルイズの表情を残すことが出来るのに。
『自分で作れば?』
 脳内ルイズがマリコルヌに語りかける。
『ありがとう、僕のルイズ。目が覚めたよ。そうだよ! 作ればいいんだよ! 本当に君は素敵だ!』
『素敵だなんて……褒めても何も出ないわよ!』
 あはははは、とお花畑の中(空想)で笑うマリコルヌ。突然響いてきた笑い声を、ルイズ(本人)は気持ち悪そうに見ていたが、既に旅立っているマリコルヌは気づきもしなかった。
 そして、人間は時にとてつもない力を発揮するものである。そう、マリコルヌはとてつもない偉業をやってのけたのである。
 その時のことを、友人の一人であるヒラガサイトはこう語る。
「マリコルヌが一晩でやってくれました(事実)」
 その日、ハルケギニアにカメラというものが誕生した。

 追記。
 カメラが作られた夜、学院には『待っててねルイズたん!』という怪しい声と怪しい笑い声が響いていたという。

214 名前:29Q:2007/09/21(金) 01:05:32 ID:FITj371Q
題名は「変態パワー」で。
何を思って書いたか自分にもわからない。
とりあえず一時間ほどで書いた駄文。見直しも何もしてない。
寝る。

215 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 05:16:14 ID:shLV/V76
>>206
馬鹿すぎるwwwwwwwwwwww

だがそれが良い!GJでしたw

216 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 15:00:01 ID:aTNZ+ylK
サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ
そう書かれたお墓があった
私のお父さんのお墓、珍しい黒髪に黒い瞳を私にくれたお父さん
「・・・帰ろうか」
そう私のお母さんは言った
ルイズ・ド・ヴァリエール、綺麗な桃色の髪に鳶色の瞳
私はよくその色が欲しかったとお母さんに言う
「サイトの色だから、貴女がサイトの血を受け継いでくれた何よりの証拠」
お母さんはそう言って嬉しそうに私をなでてくれる
「・・・黒髪はサイトの色だけどいろいろと苦汁を舐めさせられた事もあるのよ」
と少し悲しそうに言った事もある

次にお爺ちゃんに聞いてみた
お父さんはお爺ちゃんとお婆ちゃんをかばって死んじゃったらしい
二人でいた所を暗殺者に襲われそれを撃退した時に深手を負ってしまいお爺ちゃんと
お婆ちゃんは無事だったけどお父さんは手遅れだったらしい
その時カトレアお姉ちゃん(おばちゃんだけど私はそう呼ぶのが好き)はルイズが自殺
するんじゃないかと思うくらい悲しんだらしい
それでもお腹に私がいて、サイトさんが生きた証を生みたいと言って私を産んだ
「認めてやるべきだったよ、本当に」
悲しそうにお爺ちゃんは言った
聞けばお父さんは魔法を使えない人だったらしい
それでもとても強い人で必死にお爺ちゃんを守ってくれたと言っていた
もちろんお母さんとお父さんの仲をお爺ちゃんは認めていなかったらしくはっきり言って
お爺ちゃんはお父さんの事は嫌いだったらしい
「それでもお前のお父さんは私を守ってくれた、だからお前は私達が絶対に守らなければ
ならないんだ」
結果的にはお爺ちゃんはお父さんを手厚く葬った。お父さんのお墓にはいつもお花がある
毎朝お爺ちゃんとお婆ちゃんが二人でお花を供えるのだ
お父さんはなんでお母さんととの仲を認めてくれなかったお爺ちゃんを助けたのだろう?
私にはそれがわからなかった

「お久しぶりね、ルイズ」
そう言ったのはこの国の王女様、アンリエッタ様
私はアンリエッタ様に挨拶をするとまぁと嬉しそうに
「本当にサイトさんの色ね」
と言った
「顔は小さい時のルイズにそっくりなのに髪と瞳だけはサイトさん」
とも言われた
「私のお父さんはどんな人だったんですか?」
そう尋ねた事がある
「そうね、とても魅力的な人だったわよ。本当に騎士の名前に相応しい人。主を守る、この場
合ルイズがそうなんだけど・・・あの人は目に写る全てを守ってくれた」
「お人好しですね」
私は冷たくそう言った
「確かにそうですね」
笑って王女様はそう言った


217 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 15:01:30 ID:aTNZ+ylK
私はお父さんが嫌いだった
会った事もないのだけど・・・お母さんのお友達に会うと絶対にお父さんを引き合いに出される
会った事もない父親に・・・私は嫉妬している
魔術が使えないくせにお母様を愛して、お爺ちゃんを守ってそして死んでいった
・・・娘の事はほったらかしにして何が騎士だ
私はお父さんなんて、そしてこの黒髪も黒い瞳も大嫌いだ

「フィア様、余所見しながら歩くとこけますよ」
そう言ったのは私の護衛兼召使兼父親代行
「・・・」
きっと私は護衛を睨みつける
白い髪に黒い瞳の東方から来たお爺ちゃんが私とお母さんに付けた護衛だ
確かお母さんと同い年で確かもう三十代の初めか二十台の終わりの男の人
大きな大剣を背負い黒いスーツを着ている人で私は勝手にこの人を父親代わりにしている
「うるさい」
と言った瞬間私は壁に激突した
「ほら、だから言ったのに・・・」
「うるさい!」
召使とは思えないような口調である
でもそれが私は好きだった
もしお父さんが生きていればこのくらいの歳だっただろう
まるで身分を気にせずに優しい口調で話しかけてくれる、この男の人を
仕事と言う関係ではなくほかのメイドや召使では考えられないような本当に楽しそうに生活している
この人が私は好き
・・・もちろん恋人にはしたくないが
「鼻血出てますよ」
そう言いハンカチを手渡してくれる
「・・・魔法くらい使えないの?」
私は鼻にハンカチを当て尋ねる
「俺は剣しか強くないです」
えっへんと胸を張りながら召使は言った
ちなみに私は水の系統の魔法は使えない、一応もうトライアングルクラスだが・・・水は使えない
その事を話したらきっとお母様の性格に似たんですよとこの男はお母さんと私に言いお母さんの爆発
を喰らっていた
この関係が私は好きだった
この身分を軽く無視して気軽に話してくれて楽しい男を
この男とお母さんと私は一緒にいたい
でもそれは叶わない
お母さんはサイトを愛しているから
この男はちっとも好きじゃないから
だから・・・私の願いは叶わない
それが・・・ほんのちょっとだけ悲しかった



218 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 15:02:05 ID:aTNZ+ylK
夜、フィアを寝かしつけたルイズは部屋を出ると男が待っていた
「寝た?」
「もう寝てるわよ、寝付きはいいのよ?」
「そう・・・」
悲しそうに男は言った
「しかし酷い嫌われようねサイトは」
「確かに凄く嫌ってるね」
「でも貴方は好きみたいね」
「それはとても嬉しい」
男はそう言った
「ところでその白髪・・・治らないの?」
「どうも病気みたいでね、もう治らないらしい。でも都合はいいだろ?」
「今は気付いていないみたいだけど・・・いつ気付くか・・・」
「鈍いから大丈夫さ」
そう男はそうきっぱりと言った
「そう?」
ルイズはサイトに尋ね
「俺にそっくりだから」
白髪になったサイトははっきりとそう言った

219 名前:fell:2007/09/21(金) 15:03:23 ID:aTNZ+ylK
初投稿です
もの凄く適当に書いたので面白くないと思いますが・・・
読んでくれると嬉しいです
誤字脱字は見逃してください

220 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 15:05:13 ID:1mmAgafT
物凄く駄洒落を言いたい
けどやめとくw

221 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 15:08:03 ID:r4Nl5F0i
>>219
GJだべさぁ。

222 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 16:11:14 ID:BewntM41
>>219
俺は好きだなぁ、こう言うまったりした話。
がんばって、じゃんじゃん投下して下さいね(´▽`)b


223 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 16:32:58 ID:rlaCX9ue
>>220
いいや、限界だ!言うね!

白髪サイト

224 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 16:36:05 ID:kn4pkKo7
>>219
まずsageてくれ

ちょっと厳しいことを言うようだけど、前半部と後半部に矛盾がありすぎる。
思いついた面白そうな設定を端から書きたしてったらある程度の長さになったみたいな
本当に適当な文章だと思った。
あとオチで読者にあっといわせたいんだったらもっとプロットを練って書いてくれ。
こういう展開でこういう終わり方されると物凄くモヤモヤした気分になる。

225 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 17:11:34 ID:WdxRI8tE
これが噂のツンデレか

226 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 17:14:18 ID:1mmAgafT
>>223
て、てめえw

227 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 18:06:35 ID:h/LNLJ1x
>>219
…確かに唐突な展開だわな。これを成立させるには、かな〜り強引だが、
1:二人は相思相愛だが、親二人は認めなかった。
2:『中った』事が露見。親は怒り大爆発! 間引きと(実力行使を含む)強制別離を実行せんとする。
3:そこへ刺客襲来。身体張って守り、気概を見せた事で態度を軟化させる親共だが、
家門だ面子だののしがらみで、(今のこの、私生児ってのも相当不名誉だが)承認は不可。
4:…妥協案。名前を変える、父親と名乗らず、自ら認めない他、の約束で側に残るor出産を赦す…。
――んな感じなら、辻褄合わせも出来るか?
まあ、文全体の雰囲気は悪かぁ無いな。また別ネタ練ってで書いたら、読ませて貰うよ。

228 名前:サイトが魔法を使えたら(1/2):2007/09/21(金) 19:19:13 ID:5xWNNU95
ルイズはとてつもなくせつなくなってしまった。
いない、サイトがいない-----
またいなくなっちゃった。また夢の中でしか会えないの?

そんなのやだ。ぜったいにやだ。
バカで、胸のおっきな子にすぐに鼻の下伸ばしちゃう
どーしよーもないエロ犬。だけど、そんなんだけど、
わたしの側からいなくなるのはさみしいの。せつないの。

どうしてせつなくなるのかは、自分の心の奥底では、わかってるの。
だけど、やっぱりプライドが・・・ううん。ほんとは違うの。
ほんとのキモチを表に出しちゃうと・・・サイトが帰れなくなっちゃうから。

だから我慢するの。

でももー暗いし冷えてきちゃったし、もーだめ、探しつかれちゃったよ。

「どこにいるのよ。バカ・・・サイトのバカ」

ちょこんとルイズは、階段に座り込んだ。
そこは、図書館の階段であった。

ルイズは肌寒いので、図書館の中に入りたかったが、タイミングが
悪く、もうすぐ閉館の時刻。しょんぼりと階段に座ったのだ。

図書館から帰る生徒たちがちらほらと階段を降りてきた。

「ル、ルイズ・・・どうしたんだ、おまえこんなとこで・・・」

ふいに捜し求めていた使い魔の声がした。
ルイズはぴくりと体を震わせた。

229 名前:サイトが魔法を使えたら(2/2):2007/09/21(金) 19:20:09 ID:5xWNNU95
「どこいたのよ。バカ。わたしがどんだけ探したかわかってんの」

「ご、ごめんよ。タバサにちょっと教えてもらうことがあってさ」

「あによ。そんなのわたしが教えたげるわ。なんでタバサなのよ」

ルイズの怒りのボルテージが上がってきた。
この犬。こともあろうに小さいタバサにも手を伸ばしてきたか。
このわたしの特権をおびかやす存在。タバサ。
なによ、わたしのほうがかわいいにきまってるんだから。

すると二人の背後からぼそりとタバサがつぶやいた。
「魔法。教えてた」

「まま魔法ですって〜」
ルイズはきゅっと唇をかんだ。
「魔法ならわたしもできるんだからっ、わたしに聞きなさいよ」

「あなたは伝説はできても、系統魔法はできない」
タバサはルイズを見据えて言い放った。

「---な、なんですってぇ、ゆゆ許さないんだから」
ルイズは今にも虚無(エクスプロージョン)を爆発させそうな勢いになった。

「あなたはサイトがなぜ魔法をやろうとしているかわかってない」
一歩、タバサはルイズに近づいていった。

「わ、わかるわけないでしょー。貴族になってさらにメイジになってどーするのよ。
これ以上もてるつもりなの!」

ぶんぶんサイトは首を振った。
「わかってない。」
「サイト、あなたを護るため」

うっとルイズは後ずさった。
「そ、そんなの当然じゃない。こいつはわたしの使い魔なんだから
ご主人さまを護るの当然だもん」

「本心?」
タバサは一言ルイズに投げかけた。
「ほ、ほ本当だもん。うそじゃないもん」
ルイズはこれ以上言い返せない。

「わたしには言葉と想いのベクトルが反対なようにみえる。
あなたの言葉と想いは裏腹---」
見透かしたようなタバサの言葉にだんだんルイズの旗色が悪くなる。

「あなたはサイトをわかっていない」
タバサは止めの一言をルイズに放った。

230 名前: ◆LoUisePksU :2007/09/21(金) 19:22:02 ID:5xWNNU95
>>176のつづき。
タバサvsルイズです。
次回、ついにタバサが・・・


231 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 19:38:36 ID:kNOhHgBi
うーむ、俺は主筆幹事のヌィーマリーゴ氏より
韻竜ファック(「される」笑)の権利を付与されたのだが
正直どうすればいい??www

232 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 19:42:10 ID:kNOhHgBi
◆LoUise氏、乙

233 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 20:01:18 ID:BewntM41
>>230
あなたは、いじめっこですか・・・
こんな良い所で、お預けなんて・・・
早めにうpキボン

234 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 20:16:50 ID:5xWNNU95
>>233
いまは「睦言」をどうしようか思案中。
なので、しばし待ってくだされ。


235 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 20:19:29 ID:L1mou3Vp
初めてSS書いたがガクブルだからスレが450kbになったら投下するわ

236 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 20:45:44 ID:aeQ8U9qE
>>235
投下しちまえば・・・気持ちいいもんだぜ・・・ヘヘッ

237 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 21:16:34 ID:ewBQMng5
>>235
断言してやろう、その内堪え切れなくなると…………オマイさんは450kbを待たずして投下してしまうと
フフフ…………遂に我慢の限界がきて勢いで書き込んじまったオマイさんが、
容量オーバーです!のページでストップをかけられ身悶える様が眼に浮かぶようだZE!!

238 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 21:22:21 ID:xujNdmBW
レス数とこのスレの容量がほぼ同じ件
約237kB

239 名前:シルフィのファックto231:2007/09/21(金) 21:26:56 ID:ywp/V/sH

「ちょっとちょっと、そこの人」
 魔法学院の中庭を歩いていた一般生徒231は、不意に呼び止められて足を止めた。
 周りを見回してみると、校舎の陰に見慣れない女性が立っていた。
 青く長い髪の持ち主で、美しい顔立ちとどこか能天気な表情のアンバランスさが印象的な女性である。
 外見から判断すると、年は20代前半といったところか。だが、見かけない顔である。
「僕に何か用ですか」
 ひょっとしたら自分の知らない教師かもしれない、と思い、231は念のため敬語で答える。
 すると、女性は人懐こそうな笑みを浮かべて、手招きしてきた。
「ちょっと、お願いしたいことがあるからこっちに来てくださらないかしら」
 そう言いつつ、女性は校舎の陰のさらに奥の暗がりに姿を消した。
 見知らぬ女性にそんな風に誘われたので少々警戒しつつも、231はそろそろと校舎の陰に足を踏み入れる。
 美人のお姉さんから誘われた、というので、ほんの少し助平な期待が膨らんだのも事実ではある。
 が、女性が姿を隠していると思われた暗がりに足を踏み入れたとき、彼は信じられないものを目にすることになった。
「きゅいきゅい。来てくれてありがとうなのね」
 嬉しそうな声で言うのは、見上げるほどに巨大な風竜である。校舎の陰の窪みに、少々窮屈そうに収まっている。
(なにこれ。なんでこんなところに風竜が。っつーか、なんで喋ってんの?)
 思考は混乱を極めたが、それでも「何かまずい事態に巻き込まれつつあるらしい」ということは理
解できたので、231は「じゃ、そういうことで」と片手を挙げて逃げ出そうとした。
「風よ、宙を駆ける息吹よ。彼の者を捕え、我の元に引き寄せよ」
 背中を向けて走り出そうとした途端、突然強い風が渦を巻いて、231の体を捕えた。抵抗する間
もなく宙に舞い上げられ、あの風竜のそばに引きずり込まれる。
「く、食われるーっ! だ、誰か助け、むぐ、むぐ!」
 悲鳴を上げて助けを求めようとしたが、途中で遮られてしまった。先程と同じく、空気が力を持っ
たように唇を閉じさせたのだ。
「きゅいきゅい。心配しなくてもいいの。食べたりなんかしないのよ」
 じゃあどうするつもりなんだ、と涙目で問いかけると、風竜は舌なめずりしながら答えた。
「あのね、シルフィ、サイトを気持ちよくさせてあげたいのよ。だから人間の男の子の体を研究中な
 のね。そういう訳だから、ちょっと黙って体を弄らせてほしいのね」
 言うが早いか、風竜は長い舌や前脚を起用に使って、231のズボンを下着ごとずり下ろした。下
半身を露出させたまま空中に浮かんでいるという実に恥ずかしい態勢に、231の顔が見る間に熱くなる。
「それじゃ、やっちゃうのね」
 風竜はまた短く呪文らしきものを詠唱した。再び空気が塊になって、231の体に絡み付いてくる。
しかも今度は、陰茎や胸の辺りを這いずり回るような感触だ。
(ちょ、何これ)
 体に密着する空気が、人間の手や指先のような形を持っているのが肌で感じられた。空気の手は
231の陰茎を柔らかく包み込み、ゆっくりと上下にしごき始める。胸の辺りを覆っていた空気からも
細い指先が伸びてきて、執拗に乳首を弄り始めた。
 空気の手は絶え間なく231の体を攻め、脳髄に未知の刺激を送り込んでくる。231とて健全な男
子であり、なおかつ貴族の子息だから、性交の経験が皆無ということはない。だが、空気の手がもた
らす快楽は、それまで経験してきたどんなものよりも悩ましく、半ば暴力的ですらあった。見る間に
頭の芯がじんとしてきて、意識がぼんやりし始める。
「気持ち良さそうで何よりなの。それじゃ、今度は後ろの穴で楽しんでいただくのね」
 痺れたような意識の隅で、そんな声を聞いた。
(後ろの穴? なんだそれ)
 231は聞きなれない単語の意味をぼんやりと考える。回答は即座に、直接提示された。

240 名前:シルフィのファックto231:2007/09/21(金) 21:27:43 ID:ywp/V/sH

(……!? い、痛っつ!?)
 肛門に慣れない痛み。一時的に意識が現実に引き戻され、231は慌てて後ろを振り返る。風竜が、
その巨大な尻尾を自分の尻の穴に挿入しようとしていた。尾は先端が細く、付け根に向かうにつれて
太くなっている。そんな形状の物体が容赦なく己の直腸に侵入し、じょじょに肛門が押し広げられて
いく感触に、231は心の中で悲鳴を上げた。
(や、やめてくれ! そんなことをされたら、僕のお尻が壊れてしまう!)
「大丈夫なのよ」
 と、231の心の悲鳴を聞いたように、風竜が能天気な声で答えた。
「ちゃんと涎で尻尾を濡らしておいたから、スムーズに入っちゃうのね。それに、痛いのは最初だけ
 なの。すぐにとっても気持ちよくなりますわ」
 そういう問題じゃない、と答えることも出来ない231の前で、風竜の尻尾は直腸の奥深くまで押
し入ってきた。限界まで広げられた肛門が凄まじい痛みを伝えてきて、231は思わず涙ぐむ。
 だが、次の瞬間、その痛みは不思議な快楽に変わった。
(ん、んおぉっ!?)
 直腸深くまで押し入った風竜の尻尾が、腸壁を擦りながらゆっくりと引き抜かれ、また突き入れら
れる。そんな動きが何度も繰り返される内に、快楽を伴った震えが背筋を駆け上った。同時に陰茎を
しごく空気の手の上下運動も激しくなり、乳首を弄る見えない指先もまた、絶え間なく形を変えて新
たな刺激をもたらしてくる。
 次々と脳髄に叩きつけられる凄まじい快楽の波が、圧倒的な速度で231の正気を奪っていく。
「じゃ、そろそろイッちゃうのね」
 真っ白になった意識の片隅で誰かが囁くのと同時に、陰茎が一際強く締め付けられ、尻尾が一息に
直腸の奥まで突き入れられる。
 慣れ親しんだ射精感と同時に、空高く吹き飛ばされるような未知の快楽を感じながら、231は意
識を失った。

「このアホ竜」
「いたい、いたいのねお姉さま!」
「こんなことしたら正体ダダ漏れ」
「だって、サイトに喜んでほしかったんですもの! きゅいきゅい」
「サイトはこんなので喜ぶような変態じゃない」
「きゅいきゅい。お姉さまったら、いくらサイトが勇者さまみたいに自分を救ってくれたからって、
 あんまり美化しすぎなのね。男は狼なのよいたたたたた、いーたーいー!」
「あのー、タバサさん。それで、この人はどうしたら……」
「記憶を奪ってくれると助かる」
「そうですね、この人も、こんな体験覚えていたくないでしょうし」
「このアホ竜のせいで迷惑かけてごめんなさい」
「ぶー。シルフィ悪いことなんかしてないのねいたいいたいいたいですぅ」
「三日ぐらい食事抜き」
「ひ、ひどいのねお姉さま!」
「……えーと、それじゃ、サクッとやっちゃいますね?」

 気付けば、231は一人ぼんやりと広場の真ん中に突っ立っているのであった。
 自分が一体何をしていたのか、全く覚えていない。何か衝撃的な体験をしたような気がするのだが。
(……何か尻が痛いな)
 肛門にじんじんする痛みとほのかな気持ちよさを感じながら、231は一人首を傾げるのであった。

 彼はこの後、竜を見かけるたびに奇妙な胸のときめきを感じるようになった。
 そんな奇抜な性癖に目覚めてしまった彼の行く末がどうなったのか、それは誰にも分からないのである。

241 名前:ヌィーマリーゴ:2007/09/21(金) 21:28:58 ID:ywp/V/sH
>>231の野郎が物欲しそうな顔をしていたので、遠慮なくぶち込んでやりました。

ワタシ、205ッテヒトトハナンノカンケイモアリマセンデスヨ?

242 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 21:43:39 ID:/tmceBwz
wwwwwwwww!

243 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 21:50:42 ID:kNOhHgBi
7万の諸兄がこれを見て、自分の穴を確認しはじめたと云ふw

244 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 21:55:30 ID:5xWNNU95
>>219
乙です。
ちょっとミステリアスな雰囲気だった。

>>239
ちょ、お尻がむずむずする。
シルフィ女の子じゃ・・・

245 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 21:57:06 ID:VDraqWoJ
>>241
読んでるこっちが恥ずかしいww
>>231はさぞ喜んでるであろう( ^∀^)ゲラ

246 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 22:01:46 ID:FchJ/qhP
とうとう205さんの竜態エロを見る日が……!!
あ、205さんじゃなくてヌィーマリーゴさんでしたね! 失敬失敬!!

247 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 23:16:33 ID:fnbRudW8
オセロ(コインに隠された真実)やプチプチ潰し(プチプチ)の様に「地球の遊びルイズ達がハマる」というSRがあるけど、他にもなにかないものか。
折り紙とかあやとりなんかはハルキゲニアにあるのかな。

248 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 23:18:42 ID:fnbRudW8
×SR
○SS
すいません。携帯ならではのミスでした。

249 名前:無題で… ◆CSTs7hoBww :2007/09/21(金) 23:27:31 ID:aeQ8U9qE
嬉しい。

そんな感情を自分が汲み取るのは一体何時以来だったろう。

数少ない友人であるキュルケに言われた言葉よりも強く感じた。
いや、もっと別の感情であったのかもしれない。
母が心を乱したあの日から自分で押さえ込んできた感情。
キュルケのそれは優しく溶かすように私の心に入り込んできた。

だけど、この人のそれは違った。ような気がする。
言葉で言い表そうとしてもとても難しい。
ただ一つはっきりしていることと言えば

彼は、私に感情を沸かせてくれた。
彼は、私に命をまた与えてくれた。
彼は、私に目標を抱かせてくれた。

目標、というのはもちろんこの命を彼にささげる事。
彼は私が命に代えても守ると決めた。
彼はきっとそんな事を承諾しないだろうが、それは関係無い。

彼は……私が……



「……夢」

起き上がった拍子、頭に被った三角帽子の先っちょの丸いのが揺れる。
雪風の名に相応しいかのように、部屋は青色で統一されている。
寝なおす為、もう一度青色の毛布をかけなおす。

静まり返り、真っ暗な部屋の一角は双月の柔らかな光受け
昼間とは違った表情を伺えさせた。
先ほどの夢の意味を頭の中で反芻する。
映像は彼の胸で泣きじゃくる自分。
彼とは使い魔として召還された人間、平賀才人である。

あの時、母と自分をあの城から助け出してくれなかったらと思うと…

…もぞもぞ…
…もぞもぞ…

「……寝れない」

先ほどよりは早めに動いた為か、三角帽子の先っちょが暴れた。
のそっとベッドから降り杖を手に用を足しに扉を開ける。

ぽてぽてぽてぽて……

歩くたびに帽子の先っちょは細かく揺れ動く。
用を足し終え、軽く口を濯ぎ来た道を戻る。

ぽてぽてぽてぽて……

ふと、足を止め窓から覗く双月をじっと見つめるタバサ。
雲が全く無い日の月見は何となく心が洗われるような気がするからだ。


250 名前:無題で… ◆CSTs7hoBww :2007/09/21(金) 23:28:03 ID:aeQ8U9qE
「よぉタバサ。」

彼、平賀才人は全く悪気は無い。
ただ、ただほんの少しだけ驚かしてやろうと思っただけなのだ。
ちょっとビックリしたようなリアクションを期待した才人だったが
タバサからのリアクションは無い。

もう一度、次は名前だけで呼びかけてみると
ほんの少しだけ、タバサの首が動いた。

…その目には安堵と恐怖が入り混じっていた。

「…サイト?」
「おお、どうしたんだ。こんな時間に。」
「……」
「…どうした?」
「…腰が…抜けた…」


一瞬の静寂の後、才人はただただタバサに平謝りしつつ
動けない彼女をお姫様抱っこし、部屋へと連れて行く。

「いや…そのスマン。まさかダメだなんて思わなくてさ…」
「……」
「た、タバサさーん…?…怒ってる?」

目と目が合う。
タバサの目は確かに怒気も含んでいた。
が、大半は「才人の胸に抱かれている」事による嬉しさで占められていた。
しかし、鈍感大王の才人はただ怒っている目としか認識出来ない訳で……

扉の前でアンロックを唱え、才人にベッドまで連れていって貰う。
至福の時だった時間が終わってしまう。
そう考えたタバサだったが、良い案が思いつかない。
青色の毛布がかけられ、才人が声をかけ帰ろうとする間際
考える前に手が才人のパーカーを掴んでいた。
驚いた才人の表情で、良い案が思い浮かんだ。

「…驚かせた罰として、一緒に寝る…」
「あぁ…ってえぇ!?いやいや、それはマズくないか?」
「?、私は何もまずい事は無い。」
「いやまぁ、お前はそうかもしれないけどさ…」
「ルイズには、私から言っておく。」


251 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 23:28:43 ID:aeQ8U9qE
これから先にも押し問答があったが、結果として
今彼女の隣には背中合わせで彼が寝ている事となる。

彼女とて、何もこの先何が起こるか考えていない訳ではない。
少しだけ、ほんの少しだけ期待しそっと才人の方を向くと
彼は既に夢の中へと旅立ってしまったらしい…

少々ムっとしたが、逆に自分の好きな事が出来る。
そう思ったタバサは、才人の体を仰向けにし
右腕を枕にそっと、右手を体に這わせた。
自分とは全く違う体つき、その違和感に少しだけ心拍数が上がる。

そこまできて、という言い方も変かもしれない。
彼女は薄々気づいていたのだが、たった今確信した。
自分はこの男が好きなのだと。

そう確信し、頭を上げ少しだけ高い位置にある彼の顔を覗き見た。
徐々に上がる心拍数は冷静な彼女の頭をほんの少し熱くさせた。
その頭が取った行動は、ルーンを紡がない「コントラクト・サーヴァント」

ゆっくり、ただ唇をあわせるだけのコントラクト・サーヴァント
それだけでも良かった。彼とこうしていられるだけでも。
その行為に満足し、ゆっくりと頭を腕枕に戻そうとしたとき
「コントラクト・サーヴァントを終えたなら、その印が欲しい」

そう思いまた少しだけ頭を上げ、首筋に唇を這わして強く吸った。

「…これで完了…この痕が消えるまで…あなたは…」

思ったことを言い終える前に、彼女の瞼は閉じられてしまった。
今夜は良い夢を見られそうだ。と意識を手放す前にそう思った。

後は…嵐が待っているだけ… 〜終わり〜

252 名前: ◆CSTs7hoBww :2007/09/21(金) 23:31:34 ID:aeQ8U9qE
おひさし振りです。と言っても誰も待っておられる方がいるのか不思議ですがw

ずっと前から書いてるルイズ物が全く先に進まなくなってしまったので
タバサ物でエロ無しを・・・
エロ無しはエロ無しでムズいって事がよっっく分かりました。
ただただ、過去に投下された作品に目を通して力量に愕然とするだけです・・・

それでは次はルイズ物が投下できるように頑張ります。

253 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 23:36:45 ID:Im8VGvzp
>>231のために!なんて男だ205……じゃなかった
ヌィーマリゴーさん!

つーかこのスレ職人的な意味で恵まれてるなんてレベルじゃねー。

254 名前:せんたいさん ◆mQKcT9WQPM :2007/09/21(金) 23:38:15 ID:++iDMQJT
やっぱ、残暑にはシエスタ分が必要だっぜ!
というわけで久々のシエスタSS投下でごじゃいます。


あ、途中で『つづく』なんでそこんとこヨロシク。

255 名前:キミが主で使い魔が俺で ◆mQKcT9WQPM :2007/09/21(金) 23:39:57 ID:++iDMQJT
昼を少し回った時間。
厨房の手伝いを終えて、シエスタは部屋に戻ってきた。

「ただいま戻りました〜」

そう言いながらノックをしてみるが、返事はない。
当然の事ながら、部屋の主人もシエスタの主人も、この時間帯に部屋にいるはずもない。
ていうか、食堂で必死に才人に『あーん』しようとして手が動かないルイズを見てきたばかりだ。
シエスタは部屋に誰も居ないのを確認し、メイド服のポケットから合鍵を取り出す。
才人のメイドであるシエスタが、才人の常駐するルイズの部屋の合鍵を持っているのは道理である。のだが。
実はこの合鍵、才人がルイズに渡され、それをコピーしてこっそりシエスタに渡したものだった。
そのことは当然バレて才人はルイズにボコられ、鍵を奪われた。
しかし。ルイズとシエスタが和解した時に。
『あ、あんたが先に帰ってくること多いでしょ!だから持ってなさい!』
と、ルイズから直接、合鍵を渡されたのだった。
そう言う紆余曲折もあって、今やシエスタはルイズの部屋に自由に出入りできるのだが。

「…あー、洗濯物出しておいてくださいってお願いしたのにぃー…」

部屋の隅にある洗濯籠の中には、洗濯物が溜まっていた。
シエスタは今朝早くから、人手の足りない厨房の手伝いに出ていた。
だから、今朝『お洗濯ものがあったら、籠に入れて洗い場に出しておいてください』と、ルイズに頼んでおいた。
少し前ならそんなお願い事などしようものなら『そんなのメイドの仕事でしょー!』とルイズは激昂しただろう。
しかし今朝は。
『しょうがないわねー。じゃ、出しとくからちゃんと洗っておいてね』と、快く了承してくれたのだった。
ま、しょうがないかぁ、とシエスタは明日洗濯しておこう、と籠の中身を確認する。
ルイズの制服が一そろいと、下着が二着。才人の下着が二着分。
それほど多くはなく、すぐ片付く分量ではあった。
広げたそれらを片付けるシエスタの手が、ふと止まる。
…この制服…。
よくよく見てみると、すっごく可愛いかも。
ちょっと広げて、自分の身体に合わせてみる。
胸の部分はかなり足りないカンジだが、その他のサイズは、あんまり差がないような気がする。
…ちょっと、試しに着てみようかな…。
シエスタの頭の中に、そんな誘惑の声が響く。
ちらり、と窓の外を見る。
日は中天にあり、ルイズの授業が終わる時間はまだまだ先だ。

「ちょっとだけ、なら…」

シエスタは結局、誘惑に勝てなかった。

256 名前:キミが主で使い魔が俺で ◆mQKcT9WQPM :2007/09/21(金) 23:42:29 ID:++iDMQJT
結構、似合ってるかも。
私は姿見の前でくるりと回ってみる。
ミス・ヴァリエールの制服は、ちょっとあちこち足りなかったけど、着れないほどじゃなかった。
…まあ、かーなーり、胸の部分は足りませんから、ぱっと見ミス・ツェルプストーみたいになってますケド。
もう一度、私は姿見の中の私を覗き込む。
真っ白なシャツに、黒いプリーツスカート。私の黒髪と、結構いい感じのコントラストになっている。
でも、なんか足りない感じがします…。
あ、そっか。
私はある事に気付いて、ミス・ヴァリエールのクローゼットから、予備のアレを出す。
そう、マントだ。
マントを羽織って、もう一度、姿見の前で回ってみる。
くるり。
…。
……い、意外と似合うかも?
そこでふと、私は考える。
もし、私が貴族で。
ミス・ヴァリエールじゃなく、私がサイトさんを召喚してたら、どうなっただろう。

『ほらサイト、ちゃんと言う事聞かないとゴハン抜きだからね?』

…なんか、どっかの誰かさんと一緒のような…。
そうじゃなくて。
もし、私が貴族だったら、きっと優しくて物分りがよくて、平民にも寛大なはずだから…。

『サイト、遠慮しなくていいから一緒のベッドで寝ましょ?』
『え、でもそんな』
『私と一緒のベッドはイヤ?』

なんて、なったりして!
で、で、で。

『使い魔とか平民とか、そんなのどうでもいいの。サイトが好きなの』
『ご主人様…いや、シエスタ…』
「抱いて…」
「……なにやってんのシエスタ?」

私が妄想を繰り広げながら姿見の前で自分を抱き締めていると。
そう言って、サイトさんが帰ってきた。

「っっっっきゃーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

驚いた私は、思いっきり大声で叫んでしまった…。

257 名前:せんたいさん ◆mQKcT9WQPM :2007/09/21(金) 23:43:21 ID:++iDMQJT
つうわけで短いけどここで一旦〆。
続きはまた後日ーノシ

258 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 23:45:16 ID:Im8VGvzp
うほ、せんたいさんまできやがったぜ!
GJ!毎度毎度途中で切るんだよねせんたいさんwwww
続きまってるぜ

259 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 23:45:17 ID:aeQ8U9qE
>>257
せんたいさんには適わない。
お疲れ様です。

260 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 23:45:56 ID:a3aAAYOr
初リアルタイムktkr!


お疲れ様っす。

261 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 23:46:12 ID:Lf26D6xO
>>257
GJ!
そして再びタイトルがw

262 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 23:48:31 ID:rlaCX9ue
gj!
またエロゲかよw

263 名前:トリスティン夜の睦言(1/2):2007/09/21(金) 23:48:47 ID:5xWNNU95
サイトにやさしく抱きしめられちゃった---
なんだかとっても気持ちがいいの。
好き(かも)な男の子と触れ合うことが
こんなにドキドキしちゃうなんて…

こんな風に毎日してもらえたら幸せかも。
もちろんサイトじゃなきゃダメなの。

サイトってば、他の女の子にもこんなこと
しちゃうのかしら。たとえばあのメイド。
いつもは気になってもプライドが邪魔をして
聞けない。でも今夜は聞いちゃうんだから。

「ね、ねぇ、サイト。今わたしにしてること、
ほ他の女の子にもしたことあるの?」

上目遣いでルイズはサイトを見つめて言った。
もしそんなことしてたら許さないんだから。

「そんな経験あるわけないよ。こんなことが
できるのも、ルイズだけだ」

「そそそうなんだ。ちょっとうれしい・・・かも」

サイトににこりと微笑みかえされて目線をそらし
ちゃうルイズ。
サイトってやっぱりわたしにメロメロなんだ。
なんだか少しほっとしちゃうのであった。

264 名前:トリスティン夜の睦言(2/2):2007/09/21(金) 23:49:17 ID:5xWNNU95
「もひとつ聞いていい?」
「なに?」
サイトはルイズの頭をなでながら聞きかえす。
ルイズは一番気になってることをついに口にだした。
「もし、サイトの世界に帰れる方法が見つかっちゃたら・・・・
どうするの。やっぱり・・・帰っちゃう?」

正直迷う。帰りたい。でもルイズとは離れたくない。

黙り込んでしまったサイトに少し寂しげな目をしたルイズは
さらに言った。
「わたし・・・・・・また・・・ひとりぼっちになっちゃう?」

ガンダールヴの呪縛から解き放たれた今でもルイズへの想い
は変わっていない、いやむしろ強くなっていた。

「今この幸せがずっと続いてくれるなら・・・帰らない。
そりゃたまには地球が恋しくなるかもしれないけど、
それはそれ。ルイズ、おまえのそばにいたいんだ。」

その言葉にルイズは再び涙を流した。
「ほ、ほんと?」

ぽろぽろと真珠のような涙がこぼれてしまう。
そんなルイズをサイトは優しい眼差しで見つめた。
「おまえに誓うよ。もう二度とそばを離れたりしない」

「サイト・・・・・・・・・好き・・・好きなんだもん・・・・
今度ひとりにしたら許さないんだから・・・」
今度はルイズから唇を合わせてきた。
熱い気持ちのこもったキス---

二人はメイジと使い魔という関係を踏み越えていった。

265 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 23:49:43 ID:YgvcUyjj
お前らさっきのヌーなんとかっていうのの正体わかっちまった
このスレでお馴染の
ん?今な時間に誰か来たみたいだ
ちょっと待っててね

266 名前: ◆LoUisePksU :2007/09/21(金) 23:52:25 ID:5xWNNU95
>>179 のつづき
三連休は私用により投下できないので、
連投しますた。


267 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 23:54:44 ID:Im8VGvzp
乙&GJ!小刻みに投稿される話がみんな甘い話ですね。

そして>>265は後ろの貞操を奪われて路上に倒れているところを阿部さんに見つかってしまうのでした♪

268 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 00:13:11 ID:JOdDJNNR
>>241
竜はshock! 愛で空が落ちてくる
竜はshock! 俺の尻に落ちてくる
熱い鱗 鎖でつないでも 今は無駄だよ
邪魔する奴は呪文ひとつで きゅいきゅいさ


269 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 00:18:08 ID:U6NVtofc
甘党の俺に、連投ラッシュはうれしいねえ(・∀・)

ん?倒れている>>265が、何か手がかりになる物を握り締めてるようだ、な??



つ蒼鱗

270 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 00:29:32 ID:kYRQ2QoS
せんたいが来るまで耐久勃起持続レースでもやってようかな。

271 名前: ◆CSTs7hoBww :2007/09/22(土) 00:37:47 ID:sVyoGn95
言い忘れてましたが、私の作品?と読んでいいものか分かりませんが
投下したものをまとめサイトに載せてくれた方ありがとうございます。
ところで、あれってセルフでやったほうがいいんですかねぇ?

後、先ほど書いたのは短時間で書き上げてしまったので
無理な場面とか意味わかんねーとかあるかもしれませんが脳内補完でお願いします・・・orz

272 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 01:04:33 ID:w3MuIflj
>>271
ばかばか!!
腰が抜けたタバサさんだけでおっきしちゃったじゃない!! GJ!!

273 名前:あの子は遠くへ飛んでった:2007/09/22(土) 02:28:05 ID:6Bw8rCJw

「ただいま」
 声をかけながら居間に入ると、妻がアルバムらしきものをテーブルの上に広げているのが見えた。
「おかえり」
「何を読んでたんだ」
 スーツの上着を脱ぎながら聞く。妻は近くにきて上着をハンガーにかけながら、微笑んで答えた。
「才人の卒園アルバムだよ」
「卒園、ね。ずいぶん昔の話だな」
 言いながら、時計を見る。時刻は午後七時を回ったところだ。
「才人はまだ帰ってないのか」
「うん。いつも通り、朝から図書館に行ってるよ。どうしたのかね、勉強嫌いのあの子が」
 妻は苦笑混じりにそう言って、またテーブルの前に座りなおす。夫は無言で妻の向側に腰掛けた。
 彼らの息子は、数ヶ月前まで、二年間ほどの間姿を消していた。行方不明だったのである。さした
る理由もなくある日突然いなくなり、警察に捜索願を出しても全く行方が知れなかった。そうして二
年ほどの月日が過ぎ去り、半ば諦めかけていた頃に、ひょっこり戻ってきたのである。
「ただいま、って言ったときの、あの子の気まずそうな顔ったら。あんまり申し訳なさそうだったか
 ら、怒る気も失せちゃったわ」
 そう語る妻は、息子が帰ってきたとき、何も言わずに泣きながら彼のことを抱きしめていた。夫の
ほうも特に怒ることなく、帰ってきた息子を受け入れた。
 二年もの間どこで何をしていたのか、息子は未だに何も語らない。彼ら夫妻も、あえてそのことは
聞かなかった。気にならない訳ではなかったが、どことなく大人びた息子の顔つきを見る限り、何か
大変なことがあったらしいことだけは自然と察せられたからだ。
「それに、あいつはすぐ顔に出るからな。あれは、何か悪いことをやってきたような顔じゃない」
「そうね。むしろ、なんか大人っぽくなっちゃって。誇りに思えるようなことをしてきたって顔だわ、あれは」
 だが、息子の変化は必ずしもいいことばかりではなかった。行方不明になる前は大抵いつも能天気
でヘラヘラ笑っていた子が、帰ってきてからは何か思い悩んでいるような表情を浮かべることが多く
なっていた。
「本当に、どうしちゃったのかねえ」
「さて、な」
 そっとため息を吐く妻に、夫は何も答えてやることが出来なかった。
 妻はまたアルバムに目を落として、息子が幼かった頃の姿を辿り始める。息子の写真を見つけるた
びに、おかしそうに笑った。
「なんか、あの子って木に上ってたり夢中で走ってたり、やたらと元気よね」
「そうだな」
「いっつも泥だらけになるまで遊んできてさ。好奇心旺盛って言うんだか、やたらと知らない場所に
 行きたがってたわよね。ホント、誰に似たんだか」
 妻がまたアルバムのページを捲り、笑って紙面を指差した。
「あ、ほら、このページ」
 見ると、そこは将来の夢を書くコーナーだった。子供らしく伸び伸びとした、悪く言えば汚い字で、
幼稚園の頃の息子の夢が書いてある。
「『うちゅうひこうし』だって。子供にしちゃ、難しい言葉を覚えてたもんね」
「宇宙飛行士、ね。最近はそこまで大きなことは言わなくなってたな」
「でも、そうやって遠いところに憧れる冒険心だけは、ずっと変わってないわね。知らない内に行動
 範囲広げてて、わたしが知らないような場所にも平気で出かけてるんだもの。男の子よね、やっぱり」
 妻は懐かしむように呟いたあと、不意に思いつめたように顔を伏せた。
「ねえ、あなた」
「なんだ」
「あの子、さ。きっと、また出て行くつもりよね」
 夫は、どこか諦観を漂わせている妻の顔を、じっと見つめた。
「どうして、そう思うんだ」
「だって、あの左手の妙な刺青、いつまで経っても消さないもの。あれ、あの二年間の間いた場所に、
 何か心残りになるようなことを残してきた証拠よ。必ずまたそこに行くんだって決めてるから、消
 さないのよ」
 確信しているような、静かな声音だった。夫は目を伏せて頷いた。
「そうだな。そうだろうな、きっと。そういう子だからな」
 二人はしばらくの間そうやって俯きながら、「うちゅうひこうし」という息子の昔の夢を、ただ
じっと見つめていた。

274 名前:あの子は遠くへ飛んでった:2007/09/22(土) 02:28:41 ID:6Bw8rCJw

 闇の中、才人はぱっちりと目を開けた。時計を見ると、表示は午前三時。両親は間違いなく眠って
いるはずである。
(行くか)
 そろそろとベッドから抜け出し、この数ヶ月間で準備したものをあれこれと詰め込んだリュック
サックを、音も立てずに背負う。
 地球に帰ってきてからの数ヶ月、他のことは何もやらずに、図書館で本ばかり読んでいた。古本屋
街に赴いて、怪しげな古文書を漁ったりもした。おかげで、思いのほか早く、ハルケギニアに帰る方
法が見つかったのである。
(ハルケギニアに帰る、か)
 自然と「帰る」という言葉を使っていることに気付いて、才人はため息を吐いた。やはり、自分の
心は間違いなくあの異世界にある。
 両親には、置手紙だけ残して去るつもりだった。会えば別れが辛くなるし、どう説明したものか分
からない。何よりも、引き留められたら決心が鈍ってしまうかもしれない。
 才人とて、決して平気で両親を置いていく訳ではないのだから。
(仕方ないんだよな。こうするしか、ないんだ)
 才人は胸の痛みを無視して、そっと自室のドアを開けた。暗闇の中、電気もつけずに忍び足で歩く。
家の中は完全に真っ暗だった。間違いなく両親が寝ていることを確認し、内心ほっと息を吐く。
 だが、一階に下りて居間を通り抜けようとしたとき、不意に明りが灯された。驚いて照明のスイッ
チがある部屋の出入り口を見ると、そこに母と父が立っていた。
「行くのかい」
 才人が何をしているのか大方は理解しているらしく、母は寂しげな笑みを浮かべながら、ただ一言
そう言った。
 その母の表情に耐えられず、才人は顔を背けてしまった。すると、父が静かに歩み寄ってきて、
「才人」
 と呼びかけたかと思うと、前置きなしに思いっきり才人の頬を殴った。体がよろけて倒れそうにな
るが、寸でのところで踏みとどまる。姿勢を直して顔を上げると、父は静かな瞳でこちらを見下ろしていた。
「何故殴ったのか、分かるか」
「俺が、勝手にどこかへ行っちまうから」
「違う」
 父は静かに首を振った。予想と違う答えに、才人は困惑する。
「じゃあ、どうして」
「お前が、何も言わずに出て行こうとしたからだ。俺は、何ヶ月か前にお前が帰ってきたとき、二年
 間もどこに行っていた、なんて怒りはしなかっただろう」
「ああ」
「あれは、お前の顔を見て、お前が自分の意思で行方をくらましていた訳じゃなかったことや、二年
 間過ごしていたところで、何か悪いことをしてきたんじゃないってことが、すぐに分かったからだ。
 お前の瞳は、昔と変わらず真っ直ぐだった。だから俺は、何も言わなかった。だが、今回は違う」
 父の瞳の奥で、静かな怒りが燃え上がった。
「お前は、間違いなく自分の意思で出て行こうとしている。なのに、俺達に何も告げずに行こうとし
 た。それは卑怯なことだ。お前だって、それは分かっているだろう」
 普段無口な父だが、口を開けばいつも言葉はとても率直で、分かりやすかった。今回もそうだ。才
人は無言で頷いた。
「ごめん。止められると思ったから、言い出せなくてさ」
「分かればいい。それで、今夜、行くんだな?」
 それだけしか聞かない父に、才人は驚いた。
「止めないのか」
「止めやしないよ」
 母が笑って答える。
「帰ってきたあんたの顔を見て、すぐに分かったんだよ。ああ、この子は大人になったんだな、って。
 大人は自分の意思で考えて、決めて、行動するもんだ。それにね」
 母は、またあの寂しそうな笑みを浮かべた。だがそれは、同時にとても嬉しそうな笑みでもあった。
「子供って、いつかは親の許から離れていくものだろ。それが自然なんだよ。あんたが一生賭けて守
 りたいと思うぐらい大切なものを見つけたのなら、わたしらのことなんか気にせず、堂々と胸張っ
 て旅立てばいいのさ。それが、一人前の人間ってものなんだからね」
「お前は、二年間ほど過ごしたその場所で、そのぐらい大切なものを見つけたんだろう」
 父が問いかけてくる。才人は迷いなく頷いた。

275 名前:あの子は遠くへ飛んでった:2007/09/22(土) 02:29:12 ID:6Bw8rCJw

「ああ。父ちゃんの言うとおりだ。俺、ひょっとしたら自分の命よりも大切だって思えるものを、そ
 こに残してきたんだ。だから、どうしても行かなくちゃならない」
 才人が淀みなくそう告げると、両親は顔を見合わせて、そっと微笑を交し合った。
「そうか。なら、何も言わん。いや、何も言えんさ」
「ホント、大人になったね、才人」
 暖かい声音だった。胸一杯に何かが溢れてきてたまらなくなり、才人は自然と頭を下げかけていた。
「ごめん、二人とも」
「謝るな」
 強い口調で、父が才人の謝罪を制止した。驚いて顔を上げると、父は真っ直ぐにこちらを見据えていた。
「お前は、悪いことをしに行くんじゃないんだろう。正しいと信じることをしに行くんだろう」
「ああ」
「なら、謝るな。悪いことをしてもいないのに、下げたくない頭は下げない。それがお前だろ、才人」
「ああ、そうだ。そうだよ、父ちゃん」
 才人は父の視線を真っ向から受け止めて、深く、大きく頷いた。

 玄関から出て空を見上げると、満月が高い位置に上っていた。
「それで、どうやってその場所に行くんだい」
 後ろから、母が声をかけてくる。才人は振り向いて答えた。
「方法はもう分かってんだ。ここからでも飛べるから、ここから行くよ」
「そう。そうかい」
 母が近づいてきて、ぎゅっと強く才人を抱きしめた。母の温もりが、服を通して肌に伝わってくる。
「才人、体には気をつけるんだよ。風邪、ひかないようにね」
「うん。ありがとう、母ちゃん」
「元気で頑張るんだよ。いいね」
 母がそっと体を離し、才人の体はその温もりから永遠に切り離された。
「才人」
 父が呼ぶ。その瞳は、今もなおただただ静かに才人を見つめている。
「間違ったことをするなよ。自分が正しいと信じたことをするんだ」
「ああ、分かってるよ」
 ありったけの決意を込めて、才人は頷いた。
「俺は、下げたくない頭は下げない。だから、絶対に間違ったことはやらねえ。それでいいんだよな、父ちゃん」
「そうだ。それさえ分かっているなら、どこでだってやっていけるさ。元気でな」
 父が励ますように微笑んだ。おそらく、この暖かみのある微笑を見るのは、これが最後になることだろう。
「父ちゃん、母ちゃん」
 玄関のドアのそばに佇む両親に向かって、才人は力強く呼びかけた。
「本当に、ありがとう。俺、二人の息子でよかったよ。どこに行っても、絶対忘れたりしないからさ」
「わたしらだってそうさ」
「どこに行こうが関係ない。お前は、ずっと俺達の息子だよ」
 父が母の肩を抱く。才人は二人と微笑を交し合ったあと、目を閉じて静かに詠唱を始めた。
 ハルケギニアへの扉を開くための、魔法の呪文である。左手のルーンはまだ残っている。必ず、
ゲートは開くはずだった。
 詠唱を終えた才人は、ゆっくりと目を開く。目の前の空間に、見覚えのある魔方陣が出現していた。
「じゃあ、二人とも」
「うん」
「ああ」
 才人は、笑顔で告げた。
「さよなら、な」
 ゲートに向かって、大きく一歩踏み込む。眩い光が視界を覆い、両親の姿はすぐに見えなくなってしまった。


276 名前:あの子は遠くへ飛んでった:2007/09/22(土) 02:31:13 ID:6Bw8rCJw

 息子の姿が消えた後も、夫と妻はしばらく無言でその場に立ち尽くしていた。
「あの子はさ」
 妻がぽつりと呟く。
「きっと、夢を叶えたんだね」
「夢?」
「そう」
 妻は空を仰いだ。満月を囲むように、無数の星が煌く夜空。
「宇宙飛行士になって、遠いところを目指して飛んでいっちゃったんだ。だからもう、帰ってこない」
「そうか。そうだな」
 夫もまた、空を見上げる。星はとても小さく、遠くにあるが、それは確かにそこにある光だ。
「ね、あの子、大切なもののところへちゃんとたどり着けたかな」
「大丈夫さ。勝手に遠くに行っちまうが、いつだって、自分がどこに行きたいのかは分かってる奴
 だったからな」
「そうよね。大丈夫だよね。わたしたちがいなくても、ちゃんと元気にやっていけるよね」
「心配いらないさ。あの子なら、どこでだって生きていける。信じよう、あの子を。俺達のたった一人の息子を」
 妻が夫の肩に顔を押し付けて、静かに嗚咽を漏らし始めた。
 夫はそっと妻の肩を抱き寄せ、彼女の気が済むまで、ただじっとそこに立って、静かに夜空を見上げ続けた。

277 名前:205:2007/09/22(土) 02:31:44 ID:6Bw8rCJw
親孝行しなよ!

278 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 02:47:27 ID:sVyoGn95
>>277
良いもん書きますねぇ・・・

279 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 02:49:26 ID:UsG7oIGx
これはグレイト

280 名前: ◆CSTs7hoBww :2007/09/22(土) 02:50:26 ID:sVyoGn95
返し忘れていたorz
SS書きがおしゃべりでスレ潰すのもアレだとは思いますが・・・

>>272
どうもありがとうございます。

まだ数品しか書いてないですが
どんな状態の物を投下しても貴方のようにGJと言ってくれるおかげで
まだまだ続きが書けそうです。
批判レスがほとんど無い寛容なこのスレに感謝。

281 名前:fell:2007/09/22(土) 04:41:35 ID:8XtXkbrX
婚約の儀

何故こんな事になったのだろう
俺が何か悪い事をしたか?
しかしむこうにとってはそれだけの理由で十分なのだろう
「なあ、デルフ。今までで一番最悪な戦いじゃないか?」
相手はルイズのパパとママ
しかもママの方はやる気はあまり無い様だが・・・パパのやる気は尋常じゃない
目は殺気立ちオーラが漂っている。この辺りは怒った時のルイズにそっくりだが・・・
今のルイズパパのオーラはルイズのそれとは密度が違う
まるで悪魔だ、長い髪は逆立ち目が妖しく光っている。一応杖を持っているが鎌を持
たせた方がしっくりくるぞ
小鳥なら近づくだけで殺せる?いやいや人間すらも危ういんじゃないか?
・・・あれなら七万を蹴散らせる
サイトは確信していた
「怒った父親は怖いね〜」
デルフがそう言い
「・・・俺は父親になったらあんなのには絶対にならない」
サイトはそう言った、軽口を叩いていないと気が滅入りそうだった
しかし今までの父親・・・と言ってもシエスタとルイズの二人の父親しか見ていないの
だが二人とも異常に危険なオーラを持っていた
父親は強いのだ、大事な娘を守るために命だって投げ出せる
その宝を頂こうとするのだから・・・これくらいの危険はしかたない
どうも危険に慣れてしまった自分に苦笑しながらサイトはしっかりとデルフを握りなおした
ルイズの為に、結婚したいと言った自分の主の為に二人には悪いが俺は戦おう
勝てる気は全くしない。しかし簡単に諦めるつもりも無い
自分にとっての最高の宝をあの二人から奪ってやる・・・!
ガンダールヴのルーンが強く光りサイトはあの二人と向き合った

282 名前:fell:2007/09/22(土) 04:46:08 ID:8XtXkbrX
まだ続きますが・・・前のが滅茶苦茶だったので丁寧に
書いてきます・・・

283 名前: ◆LoUisePksU :2007/09/22(土) 05:52:18 ID:0yGk6WQl
>>228のつづきできた。
投下開始。

284 名前:サイトが魔法を使えたら(1/5):2007/09/22(土) 05:52:54 ID:0yGk6WQl
一瞬目の前が真っ白になった。

「な、わたしがサイトのことわかってないですって・・・」
わなわなとルイズは怒りに震えた。

「そう。わかっていない」
タバサはルイズをしかと見据えて言い放つ。

「なななんであんたなんかに言われなきゃいけないのよ
タバサにわたしの使い魔の何がわかるとゆうのよっ」

「あなたこそ、都合が悪くなるとすぐに”使い魔”扱いする。
あなたはサイトに隠していることがある。それはサイトにとっても
あなたにとっても大切なコトバなはず。どうして言わないのか
わたしには理解できない」

サイトはタバサが何を言っているのか全く分かっていなかった。
ルイズはタバサが何を言いたいのかはすぐに分かった。
でも言えない。いま言ってはならないのだ。

タバサはサイトに向きなおしてこう言った。
「わたしなら言える。わたしはサイトのことが---」

「やめてぇッ!!!!!!それ以上、言っちゃダメ。ダメなのよ。
タバサやめて。おねがい、おねがいだから---」
今にも泣き出しそうなルイズが絶叫した。

タバサはルイズを一瞥した。
「なぜわたしがサイトへ気持ちを打ち明けたらいけないの?
どうして?サイトはあなただけのモノじゃない」

三人の周りの空気が凍りついた。
再びタバサはサイトに向いて告げた。
「わたしはサイトのことが好き」

うわぁぁぁ・・・ルイズはその場で泣き崩れた。

285 名前:サイトが魔法を使えたら(2/5):2007/09/22(土) 05:54:15 ID:0yGk6WQl
ルイズは泣き崩れてしまった。
タバサはルイズを見据えたままだ。

サイトはルイズとタバサを交互にみた。
どうしたらいいんだ。
タバサが何を言ったのかすぐには飲み込めなかった。

たしかに好きと言ったよな。俺に?なんで?
いや、今はそんなことで混乱してる暇はない。
ルイズをなんとか慰めてやらないと・・・

「ルイズ、なぁルイズ。泣くな。な、泣くなよ---」

そんなサイトを見てタバサは一瞬眉をゆがませた。
しかし、またいつもの感情の消えた表情に戻った。

「また、図書館で。待ってる」

そういい残すとタバサはサイトたちから去っていた。

ルイズはまだ泣いていた。

「ルイズ。ごめん。だまってタバサと会って、ごめんよ」
サイトはだんだん切なくなっていったが、ルイズをなだめ続けた。

「うっ、うぇ、ぶぁか、サイトのバカぁ・・・」

ポスポスポスと弱弱しくサイトの胸をたたいた。

「バカ、バカ、バカバカ・・・サイトのバカ・・・」

ポスポスポスポス---ルイズに叩かれながらもサイトは
ルイズの頭をやさしく抱えて胸に埋めるように抱き寄せた。

286 名前:サイトが魔法を使えたら(3/5):2007/09/22(土) 05:54:58 ID:0yGk6WQl
「・・・・ごめん。ごめんな・・・・」

「バカ、わたしの気持ちもわかんないくせに・・・
タバサと会っちゃうなんて・・・・バカバカ・・・」

「・・・・」
サイトは無言でルイズを抱いたまま、頭をなでてなぐさめた。

「・・・魔法の勉強はしてもいいわ・・・でも、タバサとはダメ。
ダメなんだから・・・・・」

とめどなく流れる涙をサイトはそっと指でぬぐってやり、ルイズを
見つめた。

「おまえを護るため、俺は魔法をおぼえるよ。タバサはただの先生だ。
俺が好きなのは・・・・・ルイズ。おまえ一人なんだ」
「信じてくれ。ルイズ。」

ルイズは涙を自分でくしくしぬぐい、じっとサイトを見つめて問いただす。
「ほんとに?わたしのこと。好き?」
「ああ、好きだ」
「ほんとに、ほんと?好き?」
「ほんとにほんとだよ」

ルイズは少し頬を赤らめると眉を寄せて言った。
「もしタバサと何かあったら、コロスわよ」

サイトはやれやれといった表情でルイズに告げた。
「わかった。約束する。タバサには何もしない」

「口だけじゃ信じらんないもん・・・・
誓いの・・・・キスして。してくんなきゃ信じてあげないんだから!」

サイトはやさしく微笑んだ。
わかったよ。かわいい俺のご主人さま---
二つの月に見守られる中、二人は誓いのキスを交わすのだった。

287 名前:サイトが魔法を使えたら(4/5):2007/09/22(土) 05:57:18 ID:0yGk6WQl
二人を照らす二つの月のそばで風竜をかる青髪の少女がいた。

サイトとルイズの元を去ってから使い魔である風竜シルフィードを召喚した。
一気に学院の空高く舞い上がると図書館のあたりで旋回させた。

まだ、あの二人の姿がある。
月明かりなのではっきりとは見えない。しかし柔らかいその光が描く影が二人の
存在を示していた。

どうやらまだなだめているようだった。
タバサは無意識のうちに唇をかみしめていた。
そして、胸の奥から沸き立ってくる魔力とは違う、何かに戸惑いを覚えた。

「きゅいきゅい、おねーさま。どうしたの?」
いつもの調子でシルフィードは聞いた。
「---わからない。なんだか胸の奥がもやもやする」

「いつもたくさんの本を読んでいるのに、おねーさまにも分からないことあるのね、きゅい」

その言葉にタバサの右の眉がきっ、と引きつった。
「本には感情を沸き立たせることはあっても、感情そのものについては書いてない」

「きゅいきゅい、おねーさま。たぶんそれジェラシーなのねん」

「嫉妬(ジェラシー)---」
タバサは目をきゅっとつぶって、自分の胸のあたりを左手でぎゅっと絞るように握った。

288 名前:サイトが魔法を使えたら(5/5):2007/09/22(土) 05:57:54 ID:0yGk6WQl
「---誰に嫉妬してるのだろう」
ぼそりと胸からあふれた言葉がこぼれおちた。

「たーぶーんー。ルイズなのね、のね」
シルフィードが主人の心を見透かすように言葉を投げかけた。

ルイズ。我侭で傲慢なサイトの主人。その使い魔に使い魔以上の感情
を持っているのに、使い魔本人には真逆の言葉を突き立てている。

「なぜ---」
そうつぶやくと目を開き、眼下にある嫉妬の対象を見下ろした。

二つの影が寄り添うように重なっていた。

タバサは重なり合う影に目がけて魔法ーウィンディ・アイシクル(氷矢)ーを放った。
このまま壊れてしまえばいい--しかし、その影の一つは先刻想いを打ち明けた人物だ。

「だめ」

風竜を急降下させ、その勢いにエア・ハンマーを乗せた。
パァァァーーーーン
氷の矢は瞬く間に粉々になって闇へと消えていった。

しかし、タバサの中には嫉妬と言う名の氷の矢が何本もつき刺さっていた。

289 名前: ◆LoUisePksU :2007/09/22(土) 05:59:37 ID:0yGk6WQl
サイトが魔法を使えたら--つづく。

次回は、後日。

290 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 06:31:05 ID:BpCtWmf4
>>282
GJ!でも、まずはsageよう
>>289
GJ!嫉妬してるタバサ可愛いよ嫉妬してるタバサ

291 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 07:38:26 ID:0yGk6WQl
>>277

205氏GJ!
サイトと父、母エピソード。感動したぞ。

292 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 08:44:11 ID:GLmnUTQf
205さんGJ!!
「感動したッ!! 尻の痛みを忘れるくらい!!」

◆LoUise氏の続き、wktk

293 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 08:58:46 ID:Tm4nexNX
205先生・・・犬竜騒動の続きが読みたいです・・・

294 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 10:56:46 ID:JOdDJNNR
>>277
GJ!

>あの子は遠くへ飛んでった
このタイトルを見て、シルフィの子供が巣立ってどこかに飛んでいく話だと
勝手に思いこんでた俺はアフォ。

295 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 11:04:23 ID:6lYBvxQ2
最近はまったく嬉しいSSラッシュだなw
職人の皆様GJ。

296 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 11:56:20 ID:+0vZEzAK
なんだこの投下ラッシュは。GJが追いつかないじゃないかどうしてくれる。

297 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 14:44:00 ID:U5LuRTGH
>>240
ちょっと気になったんで尻の穴イジってみた。


!!!

298 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 14:44:53 ID:o2tR8PVW
ようこそ『男の世界』へ

299 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 14:48:53 ID:bBsCYPsj
(´・ω・`)つ「フリスク」

300 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 14:57:52 ID:SzafWsRt
他所のゼロ魔SSスレからやってくる人もいるのかな。
俺もそうだが。

301 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 15:17:20 ID:y8Q1uQv0
学会への公式発表が目前に迫る今、
歴史学者ノーヴォル・ヤマグッティ氏と
写実画家エイジス・ウー・ツァッカー氏が潜入調査をしてるに違いないw

(´・ω・`)つ鱗

302 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 15:24:30 ID:6lYBvxQ2
>>300
ほかにもあったのか!?

303 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 15:26:41 ID:o2tR8PVW
>>302
オレ、奇妙な使い魔スレ出身な世界だ

304 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 15:29:40 ID:SzafWsRt
>>302
クロスSSスレであの作品のキャラがルイズに〜ってのがある

>>303
やはり同郷か。

305 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 15:31:04 ID:6lYBvxQ2
サンクスなんだぜ。調べてみるわ。

306 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 15:34:18 ID:JOdDJNNR
獣姦スレから飛んできましたノシ

307 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 16:31:36 ID:VmAH8Z5g
>>302
俺はベイダーが召喚されたスレから

308 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 17:07:33 ID:Sugw1Qqg
ジョジョスレやクロススレやベイダーに傭兵。その他もろもろ。
そしてここのエロパロスレ。ゼロ魔充実しすぎwww
最近作品ラッシュでみんなほんとにGJ!

最近お尻がむずむずするぜ。

309 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 17:09:14 ID:VmAH8Z5g
>>308
そんなあなたには
http://wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1190387011/l50


310 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 17:11:36 ID:o2tR8PVW
今日は結構雑談で伸びたなぁ
何も書き込まれないのも寂しいもんだが

311 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 17:59:54 ID:SzafWsRt
上に挙げたクロススレ職人の方々が出張とかしてくれないかなあ
個人的に仮面の人は上手そうだとオモw

312 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 19:32:34 ID:Tm4nexNX
>>311
逆に考えるんだ、こっちから出張しちゃえばいいんだ、と
そうすれば出張したさきのスレの職人さんが興味を持ってきてくれるかもしれない

313 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 21:30:25 ID:SZZz+55n
フランス書院読んで勉強したが一向にエロ書けない…ムリポ

314 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 21:34:38 ID:NIneiTFq
正直他スレの話は他所でやってほしい

315 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 22:43:52 ID:SzafWsRt
>>314
吊ってくるわ…スマソ

316 名前:ボルボX:2007/09/22(土) 23:55:28 ID:6lYBvxQ2
以前の続き、まだ全部書いてないんですけど、とりあえず書いた分だけUPしまっさー。


317 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/22(土) 23:57:36 ID:6lYBvxQ2

「守らねばならん場所が、広すぎる」

 大広間。作戦会議は早急にはじまった。今は、アニエスが卓の上にのった館の地図を指し示して説明している。

「この館をかこむ塀は、長すぎるのだ。そのうえ高さはせいぜい人の上背くらいだ。無いよりははるかにましだが」

 集っているのはアンリエッタ、館の主である老領主、先刻に敗北を喫した近衛メイジたちの指揮官。そしてルイズと才人、ギーシュ。

「館からあまりに離れているのだ。館から約100メイルの距離でぐるりと取り囲み、ややひらけた森の中にめぐらされている状態で、その全長は700メイルに達する壁。
 これを、銃士隊五十二名、水精霊騎士隊三十一名、新たに来て館にたどり着けた近衛兵四十八名、その他の随行員および館の人間三十八名の総勢百六十九名で守る。
 一人当たり4メイル以上の壁を担当せねばならない計算になる。
 戦力が分散しすぎる」

 アニエスはそう言ってから、面々を見渡した。

「言っておくが、『その他』の三十八名は、治療士、料理人、召使、侍女のたぐいが含まれ、マザリーニ様や領主どののように老境にあるものもいれば、銃士隊とちがい武器など手にしたこともない女性もいる。
 そして水精霊騎士隊および近衛兵については、メイジとしての能力を奪われている以上、その戦闘力はいちじるしく低下している。
 なぜ魔法が使えなくなったかは、今考えてもしかたがないので後回しにする。まともな戦力を保有しているといえるのは実質上、銃士隊五十二名のみだ。
 これで、どこから来るかわからぬ敵をしりぞけねばならぬ」

 集まった者たちは、少しのあいだ誰も何も言わなかった。重いため息さえ出なかった。
 ややあってから、館の主が白くなった頭をかいて言った。痩せた人柄のよい老貴族である。

「まいったの。森中の塀については、はるか昔の先祖が築いたものじゃが、実はもっと内側にもう一つ、館を囲む石壁があったんじゃ。
 数代前、館の改築のとき、内側の壁を壊してしまったらしい。
 街道に大規模な盗賊の横行する時代は過ぎ去っておったし、もう一つあるならよいと思ったんじゃろうが……」

 その慨嘆は、残念ながら現状を乗り越える役にはたたないようだった。

「それならいっそ敵には壁を乗りこえるにまかせ、館にこもって戦うってのはどうだろう?」

 才人の提案に、アニエスと近衛の指揮官が同時に「駄目だ」と首をふった。アニエスが説明する。

「館にこもれば包囲され、火を放たれる。突撃してこられれば、魔法なき白兵戦では向こうがずっと有利だ。銃士隊とて女の力だからな、一対一でさえ危ない。
 壁で撃退するしかない」

 近衛メイジの指揮官がいまいましそうに床をけりつけた。もともと副官だが先刻の戦で、派遣された指揮官が斧で首をはねられたので、自動的に昇進したのだった。
 軍人らしい精悍な顔だちをゆがめて、その青年は罵声をはなった。

「ちくしょう! 竜さえ残っていれば、包囲の上を飛び越えて近隣の領地に速やかな援兵をたのむことも、陛下をお逃がしすることもできたのに!」

 アンリエッタが彼に問う。

「竜は全滅したのですか?」



318 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/22(土) 23:58:17 ID:6lYBvxQ2

「……はい、投網や矢を使われて。真っ先に、敵は数匹いた竜を狙ったのです。われわれのほとんどは、魔法を放とうとしてそれが出ないことに狼狽し、まともな対応ができませんでした」

 アニエスが彼に向き直った。

「竜はもう仕方がない。貴君には、今夜の作戦でわたしの指揮下に入ってもらう」

 指揮官の顔がどす黒くなった。
 ありありとその顔には、「メイジが、平民上がりの女の下に?」と書いてあった。
 が、それでも現状の自分たちは平民に劣る戦闘力しかない、とわきまえてはいたようで、渋々とうなずく。アニエスが、全員に顔をめぐらせながら声をはりあげて言った。

「今夜だけだ。おそらく潰走した近衛兵たちの一部は、来た道を必死に戻って連絡をつけるはずだ。早ければ今夜中には援軍が来る。遅くともきっと、明日の昼までには。
 耐えてほしい、さまざまなことに。メイジには屈辱かもしれないが、平民の武器を手にして戦わねばならないぞ」

 アニエスは最後にアンリエッタを見た。まだ銃士隊服のままの女王が、こくりとうなずいて後押しした。

「銃士隊長に采配をあずけます。ただ勝利のことを考えてください」

 アンリエッタの発言をうけて、そこでマザリーニが手をあげた。黒衣の宰相は、冷たい目でアニエスを見た。

「言っておこう。われわれの勝利とは敵を破ることではない。陛下の御身を守ることだけが目的とこころえよ」

 アンリエッタが眉をひそめ、枢機卿に向けて口をひらいた――が、その前にアニエスが頭を下げた。

「近衛兵とは、そのために存在するのです。無論、陛下の身の安全が最優先です」

 なにかを言いたそうなアンリエッタの様子に気がつかないふりで、アニエスは締めくくりに入った。

「大まかな方針は、壁で敵を防いでひたすら時間をかせぐ。銃士隊をできるかぎり無駄なく使いまわして、防備の薄さをおぎなう。
 細かいところは、現場に出る兵たちと一緒に伝える」
 
「ひたすら防戦、ですね」

 緊張で顔色をやや青くしているギーシュが、ごくりと固唾を飲みながら言った。
 メイジの指揮官が、うなずいて彼に説明した。

「敵は弩(いしゆみ)を持っていた。銃もいくつか。壁からうって出て攻撃しようとすれば、われわれは飛び道具の雨に相対するだろう。
 実質的な戦力に勝る相手には、防壁に拠って援軍を待つしかない」



319 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/22(土) 23:58:50 ID:6lYBvxQ2

 最後に、ルイズが提案した。

「アニエス、村はどう? あの村の石壁は、この館に来るとき見た壁よりも高く、頑丈そうだったわ。それに、村人の協力が得られるはずよ」

「ラ・ヴァリエール殿、それは考えたが不可能だ。ああ、確かにここより守りやすかっただろう。しかし、この館と村とのあいだは街道をはさんで離れている。
 村まで移動しようとすれば、街道を押さえた敵に見つからないではすまない。全員で館を出たとしても、敵の戦力のほうが勝っているのだ。
 ……逆にきわめて少人数なら、見つからないですむかもしれないが……」


\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\


 〈山羊〉は、近衛のメイジを奇襲したあとの死体転がる街道で、あらためて兵の編成をしていた。かがり火のそばに立つロマリアから来た傭兵隊を見る。
 たった今駆けつけたその傭兵隊は、総勢三十名、全員が騎馬である。その代表を目にしたとき、〈山羊〉は片眉をあげた。

「あんたはたしか副隊長じゃなかったか? 数日前に俺が話をつけた隊長どのはどうした」

「前の隊長なら、まあ、いろいろあってね。そのおかげで来るのが遅れちまったよ。今は俺が傭兵隊をひきいてる」

 そのひげ面でがっちりした体格の男がにやりと笑った。全身にごてごてと金の装飾具を飾っており、悪趣味なほどである。

「……まあ、仕事さえしてくれるなら誰が代表だろうと構わんが」

 傭兵隊という集団は、内部でさえときには血みどろなのである。細かいことをつっこんで訊く気は〈山羊〉にはなかった。

「できればもう少し早く来てほしかったところだがな。すでに緒戦は終わったところだぞ」

「だからいろいろあったんだって。まあ、もういいじゃねえか、勝ったんならよ。それより、あらためて訊くが、金のほうはどれだけいただけるかね?
 いやさ、前の隊長しか聞いていなかったんでな」

 悪びれもせず金の交渉に入る傭兵隊長に、〈山羊〉は金額を告げた。普通なら目をむく額だったが、その傭兵隊長はうなずいてから言った。

「まあ、なかなかの額じゃねえか。しかし、相手はトリステインの女王とか。さすがに一国の王権を相手にするとなると、もう少し色をつけてもらわんと割にあわんね。
 後がこわそうだからな、ロマリアの南端まで逃げても」

 〈山羊〉はぐるりと眼球をまわし、肩をすくめる。傭兵の貪欲さは、自分自身が金でやとわれた身である〈山羊〉にとっては理解可能であるが、だからといって愉快ではない。
 とはいえ、「金を惜しむことはない」と雇い主である紫のローブから言われているのも確かだった。
 その者は、とっくにこの場から去っており、代わって自分が全権をあずけられている。 
 「成功したら報酬に上乗せしよう、大幅に」と約束すると、傭兵隊長はにやりと笑った。

「結構、結構」

 それから、その男は笑みを消して鼻をこすり、腰にさした剣のつかを手のひらで撫でた。

「じつは個人的にも悪い話ではないと思ってる。よくある話だが、貴顕の者ってやつが俺は大嫌いでね。金をもらってそれを相手取れるってのが心地よい」



320 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/22(土) 23:59:26 ID:6lYBvxQ2

 傭兵隊長の言葉に適当に相槌を打ちながら、〈山羊〉は思考する。
 これで、兵力は百七十名を越した。もっと集めたかったが、そうもいかなかった。
 トリステインやゲルマニアの当局に気づかれず、国境を越えさせたり武器を運ばせたりするのは至難の業だったのだ。武器も重火器や攻城やぐらなどもちろん無い。
 それでも、敵よりは準備がととのっているはずだ。

 敵はおもに銃士隊になるだろう。事前に調べたところ、今回の女王の巡幸に付きしたがっているのは五十名ほどである。
 武器でもこちらには銃と剣のほかに弓、弩(いしゆみ)があり、銃と剣しかない敵よりはるかに有利だろう。マスケット銃は大音響と破壊力があるが、命中率は弓のほうが高いくらいだ。
 しかし、向こう側には低いとはいえ石壁がある。おそらく、その壁を最大限に利用した戦闘をするはずだ。
 実質戦力に劣る以上、やつらがこちらの攻撃を耐え切る方法は、ほかにないのだから。

 こちらは壁さえ突破すれば、勝てるだろう。
 ……いや、あるいは、それ以外でも決着がつくかもしれない。
 〈山羊〉は目の前の傭兵隊長に指示をくだした。

「騎馬隊でわざわざ来てくれたのに悪いが、戦場は森になりそうでな。馬は向かん。あんたには、ほかにやってもらいたいことがある」


\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\


 館。水精霊騎士隊・隊長および副隊長にあてられた一室。
 今の状況は、作戦前の最後の猶予、ということになる。
 気をきかせたのかギーシュが出て行ったため、才人は久々にルイズと二人きりだった。
 しかし残念ながら、そう色っぽい状況とは言いがたい。才人は床に正座して弁明しているのである。

「始祖に誓います。今までの道中、誰が相手であろうと、他の女性に下心を抱き、やましいことをしたりはしませんでした。本当デスヨ?」

「語尾が震えてるわよ」

 勘弁してくれ、と才人はげっそりしたため息をついた。
 ベッドに腰掛けて足をぶらぶらさせている桃髪のご主人さまは、おだやかな表情だった。ただし、この見せかけの平穏にだまされてはならない。

 恋人関係になってから、ルイズは成長したと思う。心に余裕らしきものが出来たのだ。
 少し人当たりがよくなった。
 少しヤキモチゆえの使い魔への暴力を抑えられるようになった。
 少し笑顔が多くなった。
 少し素直になった。



321 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/22(土) 23:59:57 ID:6lYBvxQ2

 まあ、そこまではいい。カトレア方面への成長である。
 しかし。
 精神的な重圧をかけるのがうまくなった。
 簡単に衝動的な暴力をふるわなくなった分、やると決めたら鬼も泣くまでやる。

(そのへんはどう考えても、こいつの母ちゃんに似てきてるんだよな……)

 烈風カリンことカリーヌから、「殿方の手綱の握り方」をあの冷厳かつ淡々とした語り口で伝授されているとかいないとか。気がつけばルイズは鎧までオーダーメイドしている。
 あと暴力が減っただけで、ヤキモチ癖は変わってない。むしろ悪化していた。

(今日いきなり電撃訪問してきたのだって、ほんとに驚かせるためだけか? って思っちまうよ、ったく。
 ……さて、問題は……俺が無実じゃねえってことで……)

 耳の後ろにつっと冷や汗が流れた。
 先ほどルイズに「誰にも下心からやましいことはしていない」と言ったのは本心だ。いや、少なくとも自分の意識している範囲ではそうだ。

(そう、姫さまとちょっともやもやしたが、あの一連は下心でやったことじゃない! 今思い返したってそんなこと考えも……)

 軽くキス→落ち着いて安らかにお眠りなさい、的なもの。放っとけなくなっただけである。あれを見捨てたら人じゃねえ。

 手をにぎる→上におなじ。そうだこの感情、いわゆる父性愛というものではなかろうか。ほら姫さまときどき弱々しいし、庇護欲をそそるんだよね。

 抱き合う→弱々しいつーか姫さまほんとに可憐って感じだよなあ。腕の中でちょっと震えてて、銃士隊の鎖かたびらつけてても、不思議と抱き心地が柔らか……

「って違う! 最後がおかしい!」

 青ざめてつい口走った才人に対し、ルイズは「……なんだかよくわからないけど、あんた不気味よ」とちょっと引いていた。

「まあ、何もないならいいわ。……わ、わたしだって本当は、あんたを信頼してるわよ。でもね、あの、その、長く離れてると心配で……
 だからつい、問い詰めるようなことになっちゃって悪かったわ。ほら、ここ来てベッドにすわんなさいよ」

 頬をちょっと染めたルイズに隣を示され、才人は罪悪感と感激に満ちた顔を上げた。やはりルイズに隠し事をするのは耐えられない。きっぱりしゃべってしまおう。

「実は姫さまが、」

「ヨシ、死刑ニ処ス」

「早いぞ!?」

 一瞬で下った判決に涙をこらえきれない。信頼はどこへ行った。



322 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:00:27 ID:6lYBvxQ2

「ふ、ふふ、姫さまが何かしら? 焼けぼっくいに火がついたとか言うのかしら? 笑える。あれだけ釘を刺したのにあんた本気で何かしたとかなら、それはもう最高の冗談ね。殺スワヨ」

「聞け! 聞いてくれ!」

 とりあえず、才人は大まかなところを話した。
 ただしさすがに命の危険を感じ、具体的に何をしたかとかは省いてある。というか、「手を握った」くらいしか伝えていない。
 ただ、「今の姫さまはちょっと放っておけない」と本心を伝えた。

 そして才人の心の動きとは別のところで、否応なしに重い話にならざるを得なかった。巡幸途中で起きた、青い目の少女に関わる二つの事件。十日前と今日の。
 今日の事件についてはかなりの程度ルイズも当事者だが、十日前の話は初耳である。ルイズは沈黙して聞いていた。それが終わると、悲しそうにため息をついた。

「悲惨な話ではあるけれど、どうしようもないと思うわ。姫さまにはできることなら自力で乗り越えていただかないと」

「……意外だな。お前なら、姫さまをなぐさめにすっとんで行くかと思ったんだけど」

「ええ、昔ならそうしたわ。でも今は……サイト、この問題は微妙なところにあるの。
 父さまが言ってらしたわ、誰もが満足する施政はおこなえない、ならばなるべく多くの者が納得する道を選ぶしかないと。
 きっと、これから先も姫さまが何かを決断するたびに、あるいは大臣たちが決めたことを女王の名において裁可するたびに、だれかの運命が左右されるわ。
 それが為政者なのよ。そして、形だけであれ王がまつりごとの頂上で決断を下すかぎり、愛も憎悪もそこに向かう。それを、姫さまは当然のことと受け止めなければならない」

 ルイズは一呼吸おいて、しんみりした声で続けた。

「女王の名において下された施政よ。それで起きた一部の民の不幸に傷ついたからといって、そのたびに誰かに許してもらわないと駄目なの? 女王としての権威は、ご自身にさえおとしめる権利はないわ。
 ここで周りが下手になぐさめるばかりだと、姫さまは女王として自分で立てなくなるわ。なぐさめ役の臣下にべったりで、頼りっぱなしになってしまう。
 わたしは侫臣にはなりたくないし、姫さまを君主として惰弱にしてしまいたくもない」

「……つまり、姫さまに頼り癖をつけさせるなってことか? 政治にかかわる心の問題は自分で吹っ切らせろと」

「そう。まったく他人の声を気にしないほうが困るけどね、憎まれないことだけを考えて政治をすることはできないわ。
 姫さまにはちゃんと、為政者としてやっていける素養はあると信じてるし、ある程度までは、そばで見ておいたほうがいいと思う。冷たいようだけどね……」

 ほろ苦いルイズの口調に、才人は首をふった。心から言う。

「お前は、本当に成長したよ」

 王位継承権を与えられている以上、ラ・ヴァリエール家でそのために恥ずかしくない程度の教育もほどこされるようになったと聞く。
 あの公爵と奥方ならば、人の上に立つ者としての心得もりっぱに教えられるだろう。それ以上に、臣下として一線を引かなければならない部分を叩き込まれたにちがいない。
 ルイズは、何かを考える表情になっていた。ベッドの上で腕と足を組んで考えこむ。才人はその真剣な様子に何もいえなくなる。時間にして数分、ルイズは顔を上げた。



323 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:00:56 ID:6lYBvxQ2

「サイト、わたしは姫さまに忠誠を誓っているわ。臣下としての範囲なら、あの方のためになんでもする。
 ところで、あんたも姫さまの臣下よね?」

「え? うーん……まあ、水精霊騎士団の幹部だし、形はそうだな」

「形ってなに? 形ってなに? それまさか『内実は臣下じゃないから自分はおなぐさめしても何の問題もないな』とか言いたいのかしら? あら曲解ですって? ほーお。
 うやむやになるところだったけど、さっきの話は後でもう少しゆっくりと……いけない、激しく脱線してるわ。
 とにかく、あんたは女王陛下の臣下。わたしと同じく。だから、これから言うとおりにしなさい」


\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\


 アンリエッタは赤いじゅうたんの敷かれた廊下を、静寂を壊さぬようにして歩いた。燭台が等間隔ですえつけられ、暗い廊下に揺れる火の赤い光をもたらしている。
 この先には、才人の部屋がある。
 さきほど、ギーシュが水精霊騎士隊の隊員達と外に出て行くのを見た。ならば、才人は一人……いや、きっとルイズと一緒なのだろう。

 自分が、なんでそこに行こうとしているのか、実のところアンリエッタ本人にもわからないのだった。
 ルイズと話したいのか。才人の顔を見たいのか。それとも、単に自分が不安になっていて、二人のもとに行きたいだけなのか。
 全部当てはまるようにも思える。
 襲撃が来るまでおそらく間もない。肌がひりつくような張りつめた空気が館の内外に満ちていて、多かれ少なかれ誰もが緊張し、心細さを覚えている。
 アンリエッタも同様であった。

 大広間の会議のあと、マザリーニと館の主は二人してどこかに消えてしまい、アニエスと近衛メイジの指揮官、およびギーシュは、それぞれの部下たちを連れて外へ。
 館の召使たちの中に一人取り残されたアンリエッタは、どうにも落ち着かなくなってこうして才人たちの部屋を目指しているのだった。

 ルイズと一緒にいるのに無粋かしら、と歩きながら悩むが、いつのまにか才人のほうを中心に考えていることに気づいて、ぱっと顔を赤くする。
 先ほど炉の前で抱きしめられた感触は、まだ鮮烈に体に残っていた。

(いやだわ……はしたない)

 ルイズもいるのである。いくらなんでも親友の前で、つい先刻その恋人の腕の中にいたことを意識するのはどうかと思われた。
 つとめて忘れようとする。昔に決着がついたことなのだ、と首をふる。
 そうやって自分に言い聞かせなければならないほど危ないところに来ている、とアンリエッタ自身うすうす気づいていたが。



324 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:01:40 ID:DIjGLQvc

 決して、昼間の村での出来事を吹っ切れたわけではない。ともすればまた、終わりのない懊悩に入ってしまいそうになる。答えなど出ないと、自分でもわかっているのに。

 それを断って、沈鬱の沼から引き上げてくれたのが、あの抱擁だった。人肌の温かさは、本能的な安らぎを与えてくれた。
 あの瞬間を思い返すだけで、救われる気がする。忘れなければならないにしても、本心ではもう少しくらいこの記憶を留めておきたい。
 だから……どれだけ自戒しようとしても、ここしばらくのように、才人の顔を見ただけでまた鼓動が速くなってしまいそうだった。それでも、歩みは止まらなかった。
 気がつくと扉が前にある。心の準備はできていないのに、手が勝手に動いてノックしようとしていた。

「……嫌だ、それなら言ってやる! やっぱり、俺は姫さまの臣下じゃねえよ! 俺はお前の使い魔で、お前ほうってまで王家に仕えたいわけじゃねえ!」

 手が止まった。ドアの向こうで、二人が争う声が聞こえる。
 才人の声は完全に激しており、ルイズの声もまた大きいながら、彼女の言葉はどこか言い聞かせるような口調だった。

「子供みたいなこと言わないでよ! わたしは姫さまの臣下なのよ。あんたはわたしの使い魔で、それならわたしの言うことを聞くべきでしょ」

「ちがう、俺はお前の身を守るのが役目だよ! くそっ、賛成しねえからな、こんなの……!」

「サイト。あんた、ガンダールヴの力、使える? 左手のルーン、消えてないけど薄くなってるでしょ。
 いつもの力が出せないなら、護衛としての能力的にはアニエスたち銃士隊と変わらないわね」

「関係ねーだろ! ……使えねーよ。お前らが魔法を使えなくなったのと同じあたりから。けどそれが何なんだ? 剣を使える俺は、お前ら杖以外を持ったこともないメイジよりずっと戦力になる。
 ルイズ、俺はお前を守るからな。ふざけたことを言うんじゃない」

「サイト。あんたがわたしを守りたいと言ってくれるように、わたしは姫さまを守りたい。主君のために身を投げだすのは臣下の義務だわ。
 そんな怒らないでよ、死ぬ気なんかないわよ。うまくやるつもりだから。
 虚無が使えない今のわたしは、あんたの言うとおり本物の役立たずなのよ。戦いでは歯がゆい思いをしているしかない。でもこれなら、役に立てるわ」

「じゃ、俺はおまえと一緒にいくぞ。死ぬ気無いんだろ? 俺も死なないさ」

「サイト、冷静になって」

 ルイズの声が、樫の板でできたドアを通して、廊下に立ち尽くすアンリエッタの耳に入る。情愛がこもって、かすかに哀しい声だった。
 
「ラ・ヴァリエール家は名門だわ。賊徒だって、わたしにそう簡単に危害は加えないはずよ。身代金だってたっぷりとれるもの。でもあんたは違うのよ、ついてきたら危険なの」

「わかるかよ! 王家に手を出そうって連中だぞ、どれだけ名門でも安全ってこたねえよ!」



325 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:02:44 ID:DIjGLQvc

「……とにかく、敵の目標は姫さまで、わたしたちの第一に守るべきも姫さまだわ。
 敵が姫さまに万が一にも触れるようなことがあってはならない。それは、みんなが了解してるわ。枢機卿さまも、アニエスも。
 今言ったことを、これから彼らの誰かに話してみる。理解してよ……姫さまはわたしのたいせつな主君なのよ」

 そのルイズの言葉を最後に、ドアに伸ばしたまま固まっていた手を下ろす。
 アンリエッタは、身を返して静かにその場を離れた。


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 館の外。壁にかこまれた異様に広い『庭』。
 誰もがてんてこ舞いで防戦の準備に取り掛かっていた。
 あきれるほど長い壁ぞいには、かがり火が数メイルおきに燃やされて夜を照らしている。
 アニエスは壁ぞいを歩いて見てまわる。近衛隊すべてと館の男手を集めたところで、一通り説明はしていた。

「もっとも弱いのはやはり、壁がとぎれて門がある、村へと続く小道の部分だ。あの鉄格子の門が突破されれば、一気に敵がなだれこむ。
 そこで、最大の戦力を保有する銃士隊は、まず一部が門の守りについておき、残りは攻撃の激しい箇所につねに移動して戦う。馬は離れた距離への移動用に使う。
 長大な壁のほかの部分にそれ以外の近衛兵たちを貼りつけておく。武器は持ってもらうが、基本的には見張りと足止めだ。
 敵は壁を乗り越えようとするだろう。それを叩き、同時に合図するんだ。合図のためのドラを持たせておく。手に余る数が一部分に殺到したら、銃士隊が駆けつけて攻撃に加わる」

(とは、言ったものの……うまくいくだろうか?)

 アニエスは自信があるように振舞いはしたが、たぶん誰よりも冷や汗をかいていた。
 石を積みあげて粘土でかため、固定しただけの『壁』は老朽化しており、少し時間をかければ体当たりでさえ壊せそうだった。
 それに、あまりに低すぎた。二メイル足らず、人の上背程度しかない。壁というより正確には塀である。かぎ縄やはしごがなくとも、乗り越えるのは体ひとつあれば出来てしまう。
 不安をふり払うように、彼女は声をはりあげた。

「敵の総数は、われわれと同じ程度だ。こちらは防げばよい、奴らを壁の内側に入れないだけでよいのだ。明日には援軍がきっと来る、それまで持ちこたえればよいのだ」

 大声で、自分自身さえごまかす。
 たしかに通常、城壁に拠って守るほうは、攻めるほうより数が少なくても目的を達することが容易である、と言われる。

 ……それは守る必要のある箇所が広すぎず、また敵の接近を即座に知ることが出来る状況での話だった。

 壁の外をにらみつける。壁から五メイルほど距離をあけて、うっそうと針葉樹の森が茂っていた。
 間伐がされているようで、木々の間隔は二〜四メイルほどだが、闇夜となるとさすがに森の中は暗い、外から見えないほどに。



326 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:03:19 ID:DIjGLQvc

(森だ。この森が忌々しい、これのせいでどこから敵が来るかわからない!)

 それでもまだ壁の内側、庭の中の木が大幅に間引かれているのは救いだった。
 おかげで馬を使い、庭を突っ切って反対側の壁に移動することができる。合図も容易なはずだ。

(敵はどうやって攻めてくる? 通常なら、兵力を分散させるのは愚の骨頂だが、われわれは敵陣の具体的な様子を知ることができない。かといって壁を離れるわけにはいかない。
 となるとおそらく、敵は大胆に兵力をさいて壁を多方面から攻めるだろう。まず一方を叩いてわれわれの兵を集中させ、その隙にほかの場所で乗り越えようとする……厄介だな)

 アニエスの思考を才人が読めれば、「モグラ叩きのようだな」と表現したかもしれない。

(どちらにしても一度数名での突破を許せば、そいつらを片付けるのに手間がかかる。その隙にもっと多くの敵が乗り越えてくる。そうなれば終わりだ)

 そのときにはこの庭で、決死の白兵戦をするしかない。
 その混乱のうちに、どうにか陛下に脱出していただき、馬で彼女が逃げる間、最後の一兵まで死兵となって足止めする。
 あるいは今日で死ぬかな、と自然に覚悟を決めてから、アニエスは怒鳴るように指示を飛ばした。
 見張りについたメイジ達に向けてである。彼らの一部は館の剣や槍を持たされていたが、多くはスコップや薪割りの鉈や木の太枝の棍棒で武装していた。

「レンガや石を集めて足元に積んでおけ! 銃は訓練していないお前らではまともに扱えん、だから持たさん。物を投げて攻撃するんだ。
 壁と森の間は5メイル、この間にいる相手にはじゅうぶん有効だ」

 壁の内側ぞいのほうが、外側よりも若干地面が高い。つまり、こちら側は壁に立てば首から上が出て、見るにも攻撃するにも敵より容易だ。
 土一段の差だが、これは存外に有利な部分だった。

 暗い森。狼の遠吠え。杉のこずえが白い月をさし、冷たい長い壁を燃えるかがり火が照らす。

 アニエスの身が総毛だった――周囲の者たちが反応しているのと同じ方向に、彼女は向き直った。

 ある場所で、ドラが連続して鳴らされている。興奮気味に、狂ったように。
 もう一つの音がそれに続いた。陰惨に長く引き伸ばされて。それは角笛の音だった。敵の鳴らす音だった。
 アニエスの前に飛んできた伝令役の銃士隊員が、馬に乗ったまま叫んだ。

「門です、門に来ました! 大挙して隊列を組んで、小道をのぼってきます!」

 なるほど。序盤は正攻法か。壁の最も弱い部分に、人数をぶつける気らしい。
 アニエスは舌打ちして、ひかれてきた馬に自らもとびのった。


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 館の古い物置部屋。館の主である老貴族が、苦労して床の一部の板を持ち上げると、階段があった。湿った土臭い空気がのぼってくる。
 抜け道だった。



327 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:03:50 ID:DIjGLQvc

「この秘密の道は、街道近くの森の中に通じております。
 いざというときの脱出のために先祖が作ったものですが、いつからあるのか、わたしも知らないのですよ」

 老貴族の説明をうけて、ルイズはうなずいた。

(これなら、姫様の脱出も本当にできるわ)

 ぐっと手をにぎる。館の主がさらに説明した。

「地下道は、気をつければ馬でさえ通れます。馬をひいていき、すみやかに陛下をお逃がしするのが良いでしょう」

「ありがとう! あとは馬車ね。わたしが乗ってきたラ・ヴァリエール家の馬車を用意していただけませんか?」

「ば、馬車? 馬車はさすがに通れません」

「地下道じゃないわ。馬車のほうは正面から出て行くのよ」

 館の主は首をひねりながら物置部屋から出て行った。
 それを見送りながら、マザリーニがぼそりと言う。

「陛下への忠誠、まことに礼をいくら述べても足りない」

「いいえ、当然ですもの」

「なるほど、忠実な臣下としては当然かもしれません」

 ルイズに向けられたマザリーニの声と目には、単なる感謝ではなく、どこか皮肉なものがあった。

「ですが、『友人』としてならどうでしょうな? これは陛下の許しをえて進めていることですか。それとも、話してさえおられないのですかな?」

 一瞬、言葉を失う。ルイズは眉根をよせた。

「……友人としても、陛下には逃げのびてほしいですわ。
 なんだか、うちの使い魔と同じようなことを言うんですね」

「いや、失敬。たわごとと思って聞き流されよ。
 では、すみやかに陛下を……」



328 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:04:51 ID:DIjGLQvc

 そこまで話したとき、出て行ったばかりの老貴族があわただしく戻ってきた。
 悲鳴のように告げる。

「門が攻撃されております! だめです、正面からはもう出られません」

 ルイズと枢機卿は顔を見合わせた。
 遅かった、と互いの目に書いてあるのを読み取る。枢機卿がため息をついた。

「いきなり策が狂いましたな」

 自分が囮となって正面から馬車を走らせ、敵の目をひきつける間、アンリエッタを逃がす。どこまで行けば安全なのかわからないが、ラ・ヴァリエール領まで行けばまず確実に助かる。
 それが、ルイズの提案した計画だった。
 考える。たしかに序盤からつまずいたが、取り返しがつかないわけではない。

「いえ、それなら、わたしも馬をひいてこの道から抜け出ます。そこから囮になって、街道を反対に走ればいいんだわ。捕らわれるとしてもなるべく長く逃げてみせる」

「結構。では、急いだほうがよいでしょうな。さっそく陛下を呼んでまいりましょう」

 マザリーニが物置部屋から出かけたとき、三人もの人間が入ってきた。
 先頭にいるギーシュの後ろに才人を見つける。どうにかこうにか言い聞かせ、ギーシュかアニエスに伝えるよう言っておいたのだった。
 「サイト」と言いかけて、最後に入ってきたアンリエッタに気づいて口をつぐむ。

 そのアンリエッタが、淡々と言った。

「サイト殿から、すべて聞きました。わたくしを逃がすと」

 ルイズは才人をにらみつけた。いや、どのみち言わなければならなかったのだが。才人はそっぽを向いている。

 マザリーニがこほんと咳払いした。『午後の予定は要人との謁見となっております』と言うのと変わらない調子で、宰相は言った。

「陛下、話が早そうですな。ではルイズ殿に従い、すみやかにお逃げください。
 玉体に万が一のことがあってはなりません。あなたの無事のために、外のすべての者が戦っているのですよ。陛下が危地を脱することこそ、みなの望みなのです」

 アンリエッタは無言だった。水面のような静かな瞳で枢機卿を見、ルイズを見、床に暗い入り口をさらした抜け道を見た。
 彼女のこぶしが白くなるまで握りしめられるのをルイズは見た――固唾をのんだが、決して引くわけにはいかなかった。
 ややあってアンリエッタは顔を上げた。その瞳に、悲しそうな色がたゆたっていた。
 苦渋の念がこもった声で、彼女はつぶやいた。

「ルイズ、ごめんなさい。わたくしのために、こんなことまでさせて」



329 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:05:24 ID:DIjGLQvc

「姫さま」
 ルイズは声を出して女王の前に歩み寄り、その手を押し包むようににぎった。
「勝手なことをして申し訳ありません。臣としての立場で僭越のきわみ、後からどのようなお叱りも受けます。でも、これだけは譲れません。国には姫さまが必要なのです。
 ですからどうか、ここから離れてください」

 臣としての立場。そう言いながら、「姫さま」と呼んでいることに、ルイズは自分で気づいていなかった。気づいたのは、アンリエッタの方だったろう。
 彼女はルイズの手をにぎり返して、ためらいはしたがうなずいた。
 マザリーニがふたたび咳払いして、館の主にうながした。

「馬を連れてきてくれないでしょうかね」

 館の主が再度出て行った。召使たちに指図する声が聞こえる。
 姫さま、とルイズはささやいた。

「申し訳ありません。これだけは我がままですが、サイトを護衛として連れて行ってもらえないでしょうか。ギーシュだけでは不安です。
 こんな馬鹿ですけど、剣の腕はいいから、役に立たせてやってください」

 使い魔が怒りに満ちた形相で、ぐるんとこちらに顔を向けるのが視界の端に映った。

「ルイズ、おまえ……!」

「サイト、落ち着けよ! 陛下の御前だぞ」

 ギーシュがうろたえて彼を引き止めている。
 そちらを向きたいという思いをこらえて、ルイズはできるだけ茶化すようにアンリエッタにささやいた。

「すぐ自分で引き取りにいくつもりですから。あずかっててくださいね?」

 女王は、やわらかく微笑んだ。やはり、どこか悲しげに。

「わかっているわ、ルイズ。彼はあなたの騎士だもの、すぐあなたのところに戻ります」

 才人がまた、何か言おうとしていた――それをギーシュも察したらしく、慌てて割りこんだ。

「ま、まあまあ。こんなときまで喧嘩することはないと思うが。再会の約束でもしておいたらどうだね、ルイズ?」

「……そんなの、必要ないわよ。どうせすぐその顔見るもん」

「ルイズ、意地をはってはなりませんよ」
 アンリエッタが首をふった。
「彼と誓っておいたほうがいいわ。こういうことは、おろそかにしては駄目。ギーシュ殿?」



330 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:05:56 ID:DIjGLQvc

 女王に呼びかけられたギーシュが、「あ、はい」とあわてて飛び出していき、すぐ戻ってきた。手にワインボトルとグラスを人数分抱えている。
 受け取り、そばの小さな卓に置いて、アンリエッタは手ずからそそいだ。四杯注いだあとでふと、マザリーニに目を向ける。

「あなたはどうなさるの、枢機卿? とどまるのですか?」

「そうですな。見てのとおり老体ですからな、街道をひた走るのは疲れそうです。足手まといになるのは恥ですので、ゆっくりこの館で休ませてもらいましょう」

 飄々とうそぶく宰相に、「……そう。では、あなたとも杯を乾して誓いましょう」とアンリエッタは目を伏せて五杯目を注いだ。

 ルイズはちらりと才人を見た。
 才人が自分を心配してくれるのは、わかっていた。この計画を聞いて激怒することも。始末におえないことに自分は、拗ねながらもそれを嬉しく感じている。
 ワインをそそぐ音が、ほこりっぽい物置に響く。

 彼女の脳裏に、なぜか幼い日に父公爵のもとを訪れた吟遊詩人の声がひびいた。
 愛のために王を裏切った騎士が、王の追っ手と戦って傷つき、主君を裏切ってまで手に入れた王女と杯を交わして愛を誓い、死んでゆきながら詠んだ詩だった。

(『今宵、別れの杯に、こぼるるものはわが血潮……かくてぞわれは呑みほしき、君がなさけを汲みし酒……裏切りは赤、死は来たり、杯に満ちわれを呼ぶ……』
 やだ、これ、死別の詩よ。
 そんなつもりはないわ。彼らはきっとわたしを人質にするはずよ、戦でも大貴族の捕虜はめったに殺されないって話だもの。絶対また会えるもの)
  
「誓いましょう。再会に」

 アンリエッタがグラスをルイズとマザリーニに手渡してくる。残りをギーシュと、渋々の様子ながら才人が手に取り、アンリエッタ自身が最後の一個を持ち上げて、くっとかたむけた。
 ルイズも、目をつぶってそれを飲みほした。下戸に近いため、一杯だけでくらりとくる。

「ルイズ?」

 アンリエッタが心配そうにのぞきこんできていた。

「大丈夫ですわ……姫さま。わたしお酒だって、少しは強くなっれ、て、あれ、れ?」

 いきなり、ろれつが回らない。
 心配をかけまいと、心を落ち着けてからもう一度ちゃんとしゃべろうとした。



331 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:06:31 ID:DIjGLQvc

「ルイズ。本当に……ごめんなさいね」

 姫さま、なんでそんなことを言うんですか。そう言おうとして、おかしいと気がついた。舌が痺れている。
 視界がぐにゃりと歪んだ。その歪みの中で、枢機卿がよろめいて倒れふしていった。
 気がつくと自分も床に倒れている。最後の意識で、『ワインに薬』と認識した。
 あとは暗転。


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 館の主とアンリエッタ自身が、鳴かぬよう板を噛ませた馬をひいた。才人とギーシュがルイズ、それにマザリーニのぐったりした体を背負って運んでいる。
 手燭を手に、暗い地下道を無言で三十分も歩いただろうか。やがて出てきた物置部屋と同じような階段に行き当たった。館の主が階段を上がり、慎重に上をまさぐる。
 土が上にのって重いのか、顔を真っ赤にして力んでも持ち上がらなかったが、才人とギーシュが代わって持ち上げると、土がぱらぱらと落ちてふたが開いた。

 夜の森の中に出る。
 馬に階段をのぼらせながら、アンリエッタは思い返した。

(眠り薬が効いてよかったわ)

 魔法は出ないのだが、ポーションはまだ効くらしい。
 あの口論をドアの外で聞いたとき、ルイズが何をする気か予想はついた。
 それで、明らかに不満げな才人から話を聞きだし、ギーシュを丸めこんでこうすることにしたのだった。袖の中にすべらせた薬を、ワインを注ぐときに二人のグラスに入れるのはたやすかった。

 才人とギーシュが馬を受け取り、意識のないルイズとマザリーニをそれぞれ体にくくりつける。
 アンリエッタは、馬に乗った才人を見上げた。
 手燭の火は地下道の中に置いてきていたが、木立からもれる月の光で、かろうじて表情がわかる。
 才人は黙りこくっている。むっつりと女王の顔を見るだけである。アンリエッタは、次にギーシュの馬のもとに歩み寄った。

「ギーシュ殿、枢機卿をよろしく頼みます。ルイズとこの人がいれば、トリステインは大丈夫」

 ギーシュも無言だった。何か言おうと口を開きかけて、彼はけっきょく黙った。
 かわりに横で口を開いたのは、才人だった。

「これはやっぱり正しくない。あんたら二人は話し合うべきだった。姫さま、あんたもルイズも互いのことを考えて行動したんだと思う。でも、善意が独りよがりすぎる」

 その言葉にアンリエッタが答える前に、館のほうで角笛とドラの音、銃声とどよめきが起こった。
 意識のない者以外、誰もがさっとそちらを見る。
 ギーシュが震える声でつぶやいた。



332 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:07:05 ID:DIjGLQvc

「始まったみたいだ」

 アンリエッタは顔をもどして才人を見た。彼の腕の中にいるルイズを見た。うずく胸を我知らず押さえたが、そっと手を下ろす。
 女王としての姿を、意識してよそおう。
 わずかに微笑んで、彼に答えた。

「でも、やはりこうするしかないのです。望むと望まざるとにかかわらず、わたくしは女王です。
 ルイズはわたくしの安全を考えてくれましたが、王家の義務と名誉をわたくしは選ばねばなりません。
 あなたは王家の騎士ではありません。もともと、女王のために戦う義務はないのですから、わたくしもあなたの手は必要としません。
 夜陰にまぎれ、ルイズを守って遠くへ逃げてください。ラ・ヴァリエール領まで駆けてしまえば、だれも手出しはできません。
 これ以上言うことはありません。急いでください。
 ルイズをよろしく頼みます。その子が、白百合の玉座の後継者ですから」

 それが、別れの言葉だった。「ルイズとお幸せに」と付け加えようかと一瞬考えたが、やめておく。涙声になっては、台無しである。
 アンリエッタは優雅に一礼すると、彼の表情を見ないようにして、身を返して地下道への階段を下りる。
 館の主が、出入り口のふたをかぶせて、後ろにつき従った。

 帰りは行きより早かった。館に戻ってすぐ、アンリエッタは館の侍女に命じて着替えを手伝わせた。

(玉座は一人で座るしかない、父祖たちがずっとそうしてきたように。戦いからも玉座からも、逃げられない)

 処女雪のような純白のドレス。
 シルクの袖は手の甲までぴったり包む。胸元に大きな緑の石のブローチ。
 宝石をあしらった王冠を栗色の髪に載せる。

 大広間に入り、肘掛け椅子に座す。
 外からは銃声と叫びとドラの喧騒が届く。
 しゃちほこばって直立していた館の主が、「陛下……よろしかったのですか? その、脱出せずに」とためらいがちに訊いてきた。

 アンリエッタは柔らかい椅子に身を沈めながら、彼に答えた。

「部下が戦っているときに、わたくしが真っ先に逃げれば、トリステイン王家の名誉はおおいに傷つくでしょう。
 臣下らがわたくしの無事を優先していたとて、世人の口は残酷なものです」

(重要なのは王家であってわたくし個人ではない。そして王家はルイズが継いでくれる。
 わたくしは愚かな女王だった、今度のこれも愚行かもしれない。そうだとしても、最後の愚行になるでしょう)



333 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:07:38 ID:DIjGLQvc

「わたくしが座るところがトリステインの玉座、今夜ここから逃げる気はありません。逃げるとしてもそれは、部下たちが敗れ、矢折れ力つきる前ではない。
 戦いの序盤から逃げる王が、名誉を全うできますか?
 敵がわたくしの膝元で舞踏会を開いています。わたくしは彼らと踊りましょう」


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 夜の森で馬を走らせるのは気ちがい沙汰である。ましてや山になど踏み込めない。
 平原に出て、速やかに逃げる必要があった。街道は、どのみち通らざるを得ない。当たりまえのことだが、街道がもっとも馬が走りやすい。
 才人はルイズを抱えて乗ったまま、慎重に馬を歩かせていた。後ろでは、背中に枢機卿をロープでくくりつけたギーシュが黙りこくってついてくる。同じく騎馬。

(馬が疲れるな……だけど、何かあってもすぐ走り出せるようにしないと。二人だと乗るのに手間がかかるし)

 逃避ぎみの思考で、そう判断する。
 実のところ、この先の行動を、自分でも決めかねていた。

(姫さまはラ・ヴァリエール領まで逃げろと言った……けれど、そう簡単にはいかないはずだ。十中八九街道は見張られてるな。
 ルイズが自分が囮になると言い出したのも、元はといえばそのためだった)

 アンリエッタはときどき詰めが甘い。とはいえ、まさか責められもしない。
 彼女は残り、自分たちはこうして逃がしてもらったのだから。

(それで……いいのか? 俺?)

 最後に見た、木漏れたおぼろな月明かりに照らされるアンリエッタの表情が思い浮かぶ。
 女王として凛と立とうとする顔。
 けれど、うるんだ目がどこか切なげで、哀しい微笑をたたえていた。思い返すと胸が痛くなる、誰かに似たような表情。

(ああ、そうか……さっき『俺もついていく』と言ったとき、ルイズが俺に向けて浮かべた表情と似てるんだ)

「……サイト」

 押し殺した声で、後ろのギーシュがささやいてくる。彼はおさえかねるように才人の背中に激情のこもった声をぶつけてきた。

「ぼくは戻りたい。みんな、陛下を守るために戦ってる」

 才人は振り向かなかった。ギーシュがさらに言いつのる。



334 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:08:12 ID:DIjGLQvc

「陛下の言われたとおり、きみは王家に使える騎士ではないかもしれない。
 でも、ぼくには陛下を守る義務があるんだ、わが先祖が王家に忠誠を誓い、貴族として取り立てられたときから。水精霊騎士隊の隊長なんてものを引き受けているし……」

「……マザリーニ様を逃がせという命令を、たった今女王陛下から受けただろ、お前。戦いが怖くて逃げるわけじゃねえんだから、」

「いや、怖いよ。怖いがね、ぼくにはこのまま去るほうが耐えられない。陛下の命令に背いてでも、別の義務を全うしたいんだ。
 貴族としての、友人としての、隊長としての義務だ。
 いや、きみだってどうなんだ? あえて義務を離れたところで訊くが、ほんとうに戻りたくないのかね? 後悔せずにいられるかね?」

 お前ってやつはときどき凄いよ、と才人は背を向けたままため息をついた。
 その質問を受けたとき、悩む必要があったのかと思うほどあっさりと、方針が決まった。たぶん、本心ではとっくに決まっていたのだろうけれど。

「……ギーシュ、そろそろ街道に出るぞ。全速力で馬を走らせる」

「いいのか!? それで……!」

「聞けって。村へ行く。あんな頑丈な石壁だったんだ、たぶん門をぴっちり閉ざしていれば敵は入れねえ。宰相さまとルイズを預かってもらおう」

「ということは……戻るのだね!?」

 ギーシュの声が明るくなる。そういえば自分もすっきりしてるな、と才人は苦笑して断言した。

「ああ、放っておけるわけねえだろ。戻る」

 街道は月の下、ある程度見渡すことができた。
 見る限り、誰もいなかった。後方からかすかに響く戦闘の音を別にして、静寂でさえある。
 二人は必死に馬を飛ばす。一瞬でも早く、村に着いて中に入ってしまわなければならなかった。

 街道をたちまち横切り、村へと続く小道を駆けさせる。
 ほどなく、村をかこむ石の壁が見えてきた。
 まさに『城壁』といえるほどの堅牢なつくりで、館の壁よりはるかに立派である。
 壁の内側からは赤々と光がもれており、村も夜通しで警戒していることがはっきりとわかった。

「あれなら、大丈夫そうだな……」

 そう洩らしたとき、ギーシュが恐怖に満ちた声で呼びかけた。

「おいサイト、き、来た!」



335 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:08:49 ID:DIjGLQvc

 何ぃ、とうめいて肩越しに振り向く。
 背後から疾駆する者が二名。小道だけではなく、アザミやヒースの生い茂る野を突っ切って追いすがる騎影は、少なく見ても十名はいた。
 反応が早い。騎馬隊を惜しみなく使って斥候に当てていたのだろう。

(大丈夫だ、まだ離れてる! 先に門の中に入ってしまえば……)

 そこで気づき、真っ青になった。
 村の表門。昼間に壊された丸太づくりの裏門と違い、重厚で頑丈な石の門。
 もちろん、がっちりと閉まっているはずだ。

「じょ――冗談じゃねえ!」

 門の前にたどりつき、村人に呼びかけて、自分たちが女王の臣下で追われている者だと説明し、納得させ、門を開けさせる。……いくらなんでも、手間がかかる。
 敵が追いつくまでにそれらの全てが電光石火で終わるとはまったく思えない。

 表門が近づいてくるにつれ、その確信はますます強まっていった。
 月とかがり火に照らされた石の門は、冷たく無慈悲にそびえたっている。
 過酷な現実に、つねは底抜けに明るいギーシュでさえ言葉が出ないようだった。
 才人は舌打ちして、馬からおりた。
 デルフリンガーを抜いて、構える。馬の上から振り回すような器用な芸当は、ガンダールヴの力を失った才人が、両手持ちの大剣であるデルフリンガーでやれる技ではない。

(こうなれば、あがいてやらあ)

 続々と周囲に集まってくる騎馬の集団は、そんな才人を見て忍び笑いをもらした。彼らは簡易な甲冑をつけ、手に手に弩(いしゆみ。ボウガン)を持っていた。
 中でも一人、ひときわ大きく、派手な服を着た男が馬からおりて前に出てきた。

「俺たちはロマリアの騎馬傭兵隊……で、今夜は斥候役なんだ。逃げる者がいたら捕らえろとも言われたが、まさかほんとにいるとはね。
 小僧、構えを見たらそれなりに使えるようだが、平民同士なら数の差ってのは大きいぞ。やめとくんだな。
 おれが一応、この傭兵隊の長さ。どうしても戦うつもりなら、おれを狙うんだな。もっとも、部下どもが矢を放たないとは約束できないがね。
 で、そこの娘っこを引き渡してくれないかね? 見たところ平民には見えんのでね」

 なあに心配するな、おれたちロマリア人はレディには優しいから、とその傭兵隊長が笑う。
 うなる才人の前に馬でたちふさがるようにして、ギーシュが「待った、待った!」と割り込む。

「おまえたち、大貴族に手をかけようっていうのか? 考えてもみろよ、今夜がすぎたらきっと恐ろしい目に合うぞ。ああ、きっとそうなるとも!
 いっとくけど、この娘は女王陛下じゃないぞ。ぼくらのことなんて忘れてどっか行ったほうがいいと思うがね」

「あいにく、おれは共和主義者ではないが、王侯貴族のたぐいは大嫌いでね。
 ちょうどいいことに、そこの娘っこと、ああ、お前もか。貴族は人質にすれば金がでてくる。それを受け取ったらさっさと逃げることにする。お前らは国境で解放してやるよ」

 身をかざる金銀の装飾具をヂャラヂャラ鳴らしながら、その傭兵隊長はせせら笑った。



336 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:09:22 ID:DIjGLQvc

「ま、待てよ、唐突に貴族嫌いとはこれいかに」

「なぜって? おれたち傭兵隊を見ろ。力量(Virtu)の世界、才覚だけでのし上がる世界だ。失敗すれば死に、成功してもいつ蹴落とされるかわからない。
 飯の種が戦なので、まさに命を賭けて食いつなぎ、そのくせ敗戦でも生き延びたら『こすっからい傭兵め、命を惜しんで必死で戦わない』と言われる。
 で、その一方、お前ら貴族は生まれたときから銀のさじで人にものを食べさせてもらい、教養とかのお遊びをつめこみ、名誉だの誇りだので戦をしやがる……それがたまらなく不愉快なんだよ」

 一息で言ってから、剣をかまえている才人を見やる。

「そこの小僧みたいに、貴族に尻尾を振る平民は、貴族以上に好きじゃない。
 人質になる貴族でもなく、レディでもない。殺してもかまわんところだが、今すぐ剣を捨てるなら縛って放置するだけで許してやる」

「サイトは元平民だが、今じゃ貴族だぞ」

 ギーシュが、うっかり口をすべらせた。
 才人はげ、と内心でうめく。シュヴァリエになったときから体験してきたことだが、マルトー親父がそうだったように「同じ平民が貴族になった」ことに拒否感を示される場合があった。
 だから、平民相手になるべく身分を申告しないようにしていたのだが……

 傭兵隊長の目が、すっと細まった。
 表情を消し、「いま何といったね?」とたずねる。
 その男は銀の打ち出しがあるベルトから、差していたナイフを抜いた。


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 戦闘開始一時間後。


 敵の攻撃は分散しだしている。開始前の予想通り、壁にとりつこうとする敵を片端から落としていく戦いになっていた。

 最初に門に来た敵は撃退していた。今は門につながる小道をのぼってくる敵の姿は見えない。
 あのときはマスケット銃の一斉射撃を急ぎすぎた、とアニエスはほぞを噛んだ。
 有効射程を見誤るという痛恨のミスをした。十名ばかりの敵先鋒の、小道を駆け上ってくるあまりの勢いに驚いたのも事実だ。正気とも思えない勢いで彼らは門に突進してきた。
 一斉射撃で打ち倒せたのはせいぜい二、三名、のこりは門わきの壁まで達することに成功し、乗り越えようとした。格子の間から手を突っこんで直接、錠をはずそうとした者もいる。
 それらは、壁際で大勢待っていた銃士隊が剣で突き刺し、追い返した。



337 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:10:05 ID:DIjGLQvc

(おかしい。あの突撃は明らかにあちらの失策だ。常識なら、あんな無謀な突撃で銃の前に出てくるはずがない。
それだけじゃない、壁に無我夢中で取りつこうとする奴らは、あきらかにタイミングが読めていない。勇気……というか狂気じみたエネルギーはあるが。
奴ら、度をこした興奮状態にある) 

 おそらく、血気にはやりすぎて、指揮官の手に余る狂躁状態になっていたのだ。見てみれば、門の外に転がるいくつかの死体は全てが若者だ。

(戦闘慣れしていない新兵のような連中か? なら、逆に幸いかもしれん。敵の指揮官と兵の連結がうまくできていないのは喜ぶべきだ)

 マスケット銃に弾を押しこめつつ、敵の次の手と、こちらの対策を考える。
 遊撃の銃士隊以外で、数人が先ほど攻撃された場所に集まりすぎていたのを、怒鳴って持ち場に追い返す。

(……こっちだって事実上の新兵だらけだな。水精霊騎士隊だけでなくほかの近衛メイジたちも、魔法を奪われて勝手が狂ってる)

 ドラが館の裏手のほうで鳴った。それはすぐに止む。壁ぎわで阻止したらしい。
 横手で鳴る。これも止む。見たところ、石を投げて追い払っている。
 反対側の横手――ドラが鳴り止まない。距離は直線で百五十メイルか。

 アニエスは立ち上がり、「馬に乗れ。行くぞ」と銃士隊員に声をかけた。
 遊撃担当の銃士隊三十名が駆けつければ、もし壁を乗り越えられていても数名までなら即座に始末できる。門には銃士隊二十名と副官を残してある。

(まだ滑り出しだが、この対策は有効のようだな)

 そう思ってすばやく馬にまたがろうとした瞬間だった。
 風を切る音とともに、アニエスの頭をかすめて矢が飛んでいった。勢いの鋭さからして弩の矢だ。恐怖の声をあげた銃士隊員たちにふりむき、ぼそりと言う。

「……壁にあまり騎馬で近寄らないほうがいいな。体が高い位置に来るため、壁の外から上体が見えて、飛び道具の格好の餌食だ」

 そうとだけ言ってあらためて馬に飛び乗る。
 駆けだした後から、どっと冷たい汗が出た。



338 名前:裏切りは赤〈下〉:2007/09/23(日) 00:10:46 ID:DIjGLQvc

 戦闘開始二時間後。


「……違う!」

 アニエスはぎりっと歯噛みして地面を蹴りつけた。
 敵の戦術が変わった。
 飛び道具の雨を降らせてくるようになった。こちらは壁にはりついてやり過ごすしかない。
 それから突撃してくる。いっせいに壁に取りついて乗り越えようとしてくるが、抵抗が激しいと執着せず、銃士隊が駆けつける前に、波が引くように森に逃げ込んでいく。
 これも正攻法だ。正攻法ゆえに、厄介きわまる。銃士隊が駆けつける前に、乗り越えた敵と乱闘になって深手を負う者もいた。
 壁ぞいの内側は、地面が外側より高いぶん、乗り越えてきた敵が森めがけて脱出するのは容易なのだ。

 どんどん、敵の動きがスムーズになっている。

(練達した兵、おそらく傭兵が混じっている! とくに飛び道具を操る連中に。
 若く慣れていない兵の狂熱が冷め、動かしやすくなってきたんだ)

 二種類の敵。老練な傭兵と、命知らずで狂信的な兵。
 壁の内側で、剣に突き刺されて瀕死だった敵兵の上にかがみこんで、尋問していた銃士隊員が先ほど報告をもたらしていた。

「こいつら、共和主義者です! その……陛下を狙うのは、すべての邪悪なる王権を打倒するためだと寝言を言っております」

(共和主義者。ゲルマニア人。革新の国では、さまざまな思想がるつぼのように渦巻いていると聞くが、よりによってブラックリストの筆頭にあたる思想までか)

 さすがにゲルマニア帝室と関係はあるまい。
 ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世はアルビオン遠征の後、ハヴィランド宮殿でアンリエッタとともに、共和主義の勃興をおさえる『王権同盟』を結んでいる。【8巻】
 では、何者がこのような大掛かりな襲撃を画策したのか?

(今夜死なずにいたら、必ず調べあげてやる)

 剣を抜いたまま壁にはりつき、敵の雨あられと降らせる矢をやりすごしながらアニエスは誓った。
 夜には音が満ちている。かがり火の燃えるパチパチという音。矢が風を切る音。もちろんドラや角笛の音も。

 弩や銃の攻撃を受けるたびに、壁は砕けそうなほど震えがはしる。いや、実際に当たった箇所は少しずつ砕けているはずだ。
 この古くもろい壁が、アニエス達の命綱なのだった。
 遠くの壁で、乗り越えようとしてくる敵に打ちかかるメイジたちに、怒号をとばす。

「でき得るかぎり一人に対して複数であたれ!
 乗り越えられたら前後から襲いかかって速やかに決着をつけろ、一人片づけたら仲間の支援にまわれ、でなければたちまち貴様らのほうが数が少ない局面になるぞ!
 貴族の誇りとかは全部忘れてしまえ!」



339 名前:ボルボX:2007/09/23(日) 00:14:25 ID:DIjGLQvc
はい、見てのとおり途中までのUPです。続きも早いとこ書きます。
結末に予想がついた方もいるでしょうが、
すみません、展開全部当てられたら困るので予想できてもレスで書かないでくだすぃー。

340 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 00:18:14 ID:5EHeTcLk
GJすぎる……
これは期待せざるを得ない

341 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 00:18:54 ID:DIjGLQvc
補足。マスケット銃は基本、火縄銃と同じ扱いで書いています。
一発撃ったら弾込めに時間がかかり、命中率が低くて有効射程が短いアレ。

342 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 01:41:38 ID:o7NO3R6t
続きwktk

343 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 02:26:11 ID:KJyTRqyK
GJ!!!
続きマジ楽しみです

344 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 02:38:46 ID:68rY9XuU
正直、今全部見るのしんどいから完結したら保管庫でみるわ
長編ものは一気に見るタイプなんで

345 名前:205:2007/09/23(日) 03:02:00 ID:IZ5rpxWG
枯れ木も山の賑わい。

346 名前::2007/09/23(日) 03:03:43 ID:IZ5rpxWG

(そう言えば、ノートパソコンってどうしたんだったっけな)
 ふとそんなことを思いついて、才人はルイズの部屋の中を探し回った。今や懐かしき代物である
ノートパソコンは、ルイズのベッドの下で埃を被っていた。
 引っ張り出して起動スイッチを押すと、ノートパソコンは何の問題もなく起動した。バッテリーも
いくらか残量がある。
(どれ、ちょっと思い出に浸るとしようかな)
 才人は床に座ってノートパソコンを弄り始めた。大したアプリケーションは入っていないし、イン
ターネットに繋ぐこともできないから、やれることは少ない。
(どうせなら、デジカメとか写メで撮った写真とかでも入れておくべきだったなあ)
 少々後悔したとき、才人はふと、デスクトップに見慣れないフォルダが置いてあるのに気がついた。
(hizou……? ひぞう、ヒゾウ……秘蔵、か。何だっけかな、これ)
 首を傾げながらフォルダを展開してみると、中は大量の画像ファイルで埋め尽くされていた。試し
に一つ開いてみると、女が大股を開いて恍惚の表情を浮かべている画像が表示された。才人は思わず
周囲を見回す。ルイズもシエスタも出かけていて、今ここにはいない。
(危ねー危ねー、こんなん見られたらいろいろまずいからな。にしても、こいつは……)
 他の画像も何枚か開いてみたが、どうやら全てエロ画像らしかった。そこで、地球にいたころの友
人の一人の顔を思い出す。
(そういや、やたらともったいぶって、『俺が苦労して集めた画像をくれてやるよ』とか何とか言っ
 てたっけ。一応もらったけど、暇なときに見ようと思って、結局中身は確認してなかったんだよな)
 何とはなしに次々と画像ファイルを開いていく。自然と苦笑が浮かんできた。画像はどうやら
1000枚以上はあるようだ。よくもまあこれほど収拾したものである。
(しかも種類豊富だなあ。エロい写真もあるけど、アニメみたいな絵もあるし)
 もちろん全てエロ画像である。中にはかなりマニアックなシチュエーションのものもあって、興奮
するどころか逆に引いてしまいそうだ。
(特に絵の方は、自由に描ける分ヤベえやつが多いな。複乳やらふたなりやら触手やら……うわ、グ
 ロ絵まであるぞ)
 友人の性癖が少し心配になってきたとき、才人は不意にある一枚の画像で指を止めた。
(この女キャラ、なんかルイズに似てるな)
 ピンク色の髪の少女が描かれた画像である。実写ではなくアニメ絵の方で「ルイズに似てる」など
と思ってしまうのは、やはり地球ではありえなかった髪の色や、アイドル顔負けの美貌のせいだろうか。
(まあ、それ以上に)
 才人は画像を見て苦笑いを浮かべる。そのキャラがルイズに似ている、と思ったのは、髪の色や小
柄な体型以上に、絵の中で行われている行為と、彼女が浮かべている表情が原因だろうか。
 ピンク色の軽く波打つ長い髪を持つつり目の少女は、嗜虐的な笑みを浮かべて、画像の下から突き
出した陰茎を足でいじっているのである。
(いわゆる足コキってやつね。こういうので興奮する心情は、どうも俺には理解できねえんだけど)
 そのとき、背後から何かしゅうしゅうという音が聞こえてきた。嫌な予感を覚えて振り向くと、そ
こに目を血走らせて荒い呼吸をする豚が一頭。
「マリコルヌ。てめえ、こんなところで何やってやがる」
「うん。実は、さっきまで遠見の魔法を使ってルイズの着替えを覗こうとしていたんだが」
「お前最近悪い方向に開き直ってるよな」
「だが、君が何か素晴らしいことをやっているのに気付いて、こうして直接出向いたんだよ」
 荒い口調で説明する間も、マリコルヌは食い入るようにノートパソコンのモニター……正確に言え
ばそこに映し出されている、ピンク色の髪の少女の足コキ画像を見つめ続けていた。
「おお、サイト、おお」
「気持ち悪ぃな。なんだ、そんなに息荒げて」
「ぼぼ、僕は今猛烈に感動している! こ、この発想はなかった! ああ、こんな可愛い女の子の細
 い足で、僕の汚い部分をこねこねしてもらえるなんて! 実際にやってもらえたらどんなに素敵だろうか!」
「どんだけ変態だお前は」
 若干引きつつ才人が言うと、マリコルヌは真面目くさった顔で唐突に立ち上がった。


347 名前::2007/09/23(日) 03:04:26 ID:IZ5rpxWG

「サイト、僕はやるよ」
「何をだ」
「今日、必ずや未知の世界への扉を開いてみせる」
 にっこり笑ったマリコルヌの顔は、どこか狂気じみたものを漂わせている。嫌な予感が際限なく膨れ上がる。
「お前、まさか」
「誰かぁぁぁぁぁっ! 僕の汚い部分を君の足でこねこねしておくれぇぇぇぇぇっ!」
 大声で叫びながら、マリコルヌが小太りな体型に似合わぬ俊敏さで走り去る。
「ちょ、おまっ、それはいろんな意味でヤバすぎるだろうが!」
 才人は慌てて豚の後を追う。本当に慌てきっていたので、ノートパソコンに例の画像が表示された
ままになっていることには、気付かずじまいであった。

 ルイズが部屋に帰ってくると、シエスタが床に座り込んでいた。何かをじっと見つめているらしく、
ぴくりとも動かない。不審に思って、彼女の肩を叩く。
「ねえ」
「うひゃあっ!?」
 聞きなれない悲鳴を上げながら、シエスタが慌てて振り返り、何かを隠すように両腕を大きく広げた。
「みみ、見ちゃダメです、ミス・ヴァリエール!」
「そう言われると余計見たくなるわよ。ほら、どいたどいた」
 シエスタを無理矢理どかすと、そこにかすかに見覚えのある物体が鎮座していた。
「サイトが持ってた変なマジックアイテムじゃない。これが、一体……」
 言葉の途中で絶句する。そこには、少々奇妙なタッチではあるが、明らかに卑猥なことをしている
少女の絵が映し出されていたのである。
「な、何よこれ!?」
「ああ、見ちゃいましたか」
 シエスタがため息を吐く。ルイズは彼女をにらみつけた。
「これ、あんたがやったの?」
「まさか。帰ってきたら、この状態だったんですよ。びっくりして固まってるところに、ミス・ヴァ
 リエールが来たんです」
「ってことは、これはあいつがやった訳ね」
 自分の頬が引きつるのが分かった。
「一体、何のつもりでこんなことしたんだか。って言うか、これってあいつが自分で描いたの?」
「さあ、分かりませんけど。少なくともわたしはこんな、目の大きな人間を描いた絵なんて見たこと
 ありません」
「じゃあやっぱり、あいつが描いたんだわ。こんな絵、前にこの変なマジックアイテム見せてもらっ
 たときは影も形もなかったもの」
「サイトさんって絵もお上手だったんですね」
 シエスタは感心しているようだった。ルイズはたまらず彼女を怒鳴りつける。
「そんな上等なもんじゃないわよ! よくもこのわたしに隠れて、こんないやらしい絵を……!」

348 名前::2007/09/23(日) 03:05:16 ID:IZ5rpxWG

「っていうか」
 怒り狂うルイズの横で、シエスタが冷静に呟いた。
「これ、ミス・ヴァリエールじゃないですか」
「え?」
「髪の色とか体型とか、ほら、このつり目とか、どう見てもミス・ヴァリエールをモデルにしている
 としか思えませんよ」
「そ、そう……?」
 言われて初めて、ルイズはその絵に描かれた少女をじっくりと観察した。確かに、瞳が人間離れし
た大きさではあるものの、体のパーツは自分と似通ったところが多いように思われる。
「で、でも、わたし、あいつにこんな変なことした経験なんてないわよ?」
「ということは、この絵は……」
「彼の内なる願望」
 唐突に後ろから冷静な声が聞こえてきて、二人は悲鳴を上げる。いつの間に現れたのか、青い髪の
少女が、ルイズとシエスタの肩の間から、例の絵をじっと覗き込んでいた。
「タバサ。あんた、何でこんなとこに」
「気にしなくてもいい」
「いえ、そういう問題では」
「そんなことより、今考えるべきはこの絵のこと。多分、サイトはルイズにこういうことをしてもら
 いたがっているんだと思う」
「えー」
 ルイズは顔をしかめた。
「じゃ、あの犬、いっつもわたしに、この部分をぐりぐり踏んで欲しいと思って興奮してるっての?
 なんか、すごく気色悪いんだけど」
「性癖は人それぞれ。本人も好きでそうなった場合ではないことも多い」
「そうですよミス・ヴァリエール。それに、隠れてこんな風にされたがっているサイトさんも、わたし……」
 シエスタが両頬に手を添えて悩ましく身をよじる。相変わらずこの娘の病気は健在だな、と思いな
がら、ルイズは複雑な気分で絵を見る。興奮した表情を浮かべて、顔の見えない男の陰茎を容赦なく
足で踏みつけている少女。
(なによ、こんなのどう考えたって異常じゃないの。あんた、こんなので喜ぶの?)
 スカートとソックスで隠された自分の細い足を見下ろしながら、ルイズは唇をむずむずと動かした。

 結局、変態ブーストが全開になったマリコルヌを追い詰めて叩きのめすのにはかなり時間がかかっ
た。もう日が暮れてかなり経っている。辺りは真っ暗で、夜空は月と星で優しく彩られている。
(ったく。テファに無理言って記憶消してもらったから、もう同じ問題は起こらんと思うが)
 それにしても、今日のマリコルヌはいつも以上にひどかった。下手をすれば道行く女の子を片端か
ら捕まえて、「僕のチンコ踏んでぇぇぇぇぇっ!」と叫びだしかねない勢いだった。
(そんなことにならなくて、本当に良かった。よく頑張ったぞ、俺)
 とは言え、心身共にボロボロの状態である。夕飯を食べている暇もなかったが、体があまりにも疲
れているために、空腹ですら今は気にならない。疲労の極みにある頭ではまともな思考も出来ず、浮
かんでくるのはただただ「もう寝たい」という睡眠への渇望のみ。
(ああ、やっと戻ってきたよ)
 才人はルイズの部屋のドアをそっと押し開く。中は真っ暗で、寝息が聞こえてくる辺り、ルイズと
シエスタはもう寝ているようだった。
(あれ、ノートパソコンは……)
 才人は暗がりの中に目を凝らす。ノートパソコンがどこにも見当たらない。
(豚野郎追いかける前に隠していったんだったかな。どうもよく覚えてねえや。ま、どうでもいいわな)
 才人は欠伸をしながらベッドに潜り込む。疲労のしみこんだ体は、すぐさま深い眠りに引きずり込
まれていった。

 才人が寝息を立て始めたのを確認して、ルイズはベッドの上でそっと上半身を起こした。彼の顔を
見つめながら、何となく自分の足をさする。
(まあ、こいつもいろいろ頑張ってるし。わたしは気が進まないけど、そのご褒美、ぐらいはあげて
 もいいんじゃないかしら)
 そんなことを思いつつ、ベッドの上で危なっかしく立ち上がる。そのとき、不意に背後で窓が開き、
掛け布団が勢いよく跳ね除けられた。

349 名前::2007/09/23(日) 03:06:18 ID:IZ5rpxWG

「ダメですよ、ミス・ヴァリエール」
「抜け駆けはなし」
 シエスタがルイズと同じくベッドの上に立ち、タバサが当然のような顔をして窓から入ってきて、
ベッドの上に降り立った。
「まあ、タバサに対する文句は後回しにするとして」
「やっぱり、考えることは皆同じみたいですね」
「とりあえず、脱がす」
 ベッドの上でしゃがみ込んだタバサは、実に器用に才人のズボンを下着ごと半ばまでずり下ろした。
そのやたらと手馴れている手つきに、ルイズとシエスタは少々恐れおののく。
「タバサ、あんた」
「どうしてそんなに手際がいいんですか」
「人生経験の差」
 タバサは端的に答えると、再びベッドの上で立ち上がった。三者三様、暗がりの中で下を見下ろす。
ズボンと下着をずり下ろされ、下半身が半ば露出しているというのに、才人は目を覚ます気配を見せ
ない。よほど疲れているらしい。
 才人とは主人と使い魔という関係であるルイズだが、さすがに彼の大切な部分まで見たことはな
かった。というより、男の性器を見ること自体が初めてである。はしたない行為をしているという自
覚に、顔が瞬時に熱くなる。横を見ると、シエスタも才人の股間を凝視したまま、真っ赤な顔で硬直
している。
 一方タバサは相変わらず涼しい顔であった。あまりにも冷静なので、こういう状況に慣れているの
ではないかと邪推してしまう。
「タバサ。あんた、よくこういうことするの」
「ううん。これが初めて」
 だというのにこの落ち着き様である。
(この子、やっぱり只者じゃないわ……!)
 背筋を震わせながら、ルイズは再び才人の股間に目を落とす。ここまで来たら、もう後には引けな
い。才人の望みを叶えてやるだけである。
「ええと、ど、どうするんだっけ」
「どうする、と言われても……と、とりあえず、あの絵の通りに」
「踏んでみればいい」
 三人は顔を見合わせ、お互いに何度か頷きあった。深く呼吸をして、ベッドの上で片足を上げた。
「それじゃ」
「とりあえず」
「せーの、で」
『せーの!』
 ぐぢゅぅ!

 哀れな使い魔の長い長い絶叫が、夜の学院寮に響き渡った。

 これが後に護身術として世に知れ渡ることになる、「ラ・ヴァリエール流金的粉砕術」の起源であ
ると、歴史学者ノーヴォル・ヤマグッティ氏は主張している。
 これは長年の調査の結果であると胸を張る同氏は、その苦難の歳月を顧みて、
「蒸れ蒸れニーソでねっとり足コキ、これ最強」
 というコメントを残している。まことに業の深い話である。

350 名前:205:2007/09/23(日) 03:09:19 ID:IZ5rpxWG
枯れ木も山の賑わい?

351 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 03:10:35 ID:lX3RkggS
>>350
なんでこんな面白く書けるのかが不思議で仕方ない・・・

352 名前:205:2007/09/23(日) 03:11:59 ID:IZ5rpxWG
あ、それと、過去に名無しで投下SSも、保管庫で適当にまとめておきました。

353 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 03:14:41 ID:eaxht45I
>>350
GJ!

「こんな、目の大きな人間を描いた絵なんて見たことありません」
吹いた www

354 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 04:01:35 ID:VLSIqtw2
                     /!                    ヾ`ー──┐
               / │         -――――――‐- 、  ̄  ̄O |
              /   .|:    /               `ヽ、  °|
               /     |: . . /                   \  |
                 /    /: : /                          \/
            ,′   /:./ /                 /            ヽ
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            l        |:   / / /   //'::.  /  /:!:.  .:::.     ヘ
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              l         !::::厶f≦テ千ト<  //xz≠< /::::/::::  ..::/.::::/
      , ‐<⌒ヽ   l:.   :|    l::W {:ヘ__,ィ/      ´7ヘ _,ハ/:/:::::. _/:::/
    /   \ \  i::.  ::l   :::ハ 弋_:少'       r'托/ ' ァー‐<{ /::/
   く      ヽ  ヽ___}!:. ハ   .::::::/>ヘ、.:.::::::       `ー'  /::::::::...:::| '´
    >  >―‐- 〉  .ヾ∧::..::::ヽ.::::/  ___ヽ      ' .:.:::::::: /:::_::::::::::::l-、
/'⌒く/: : : : : : : {     }∧:: :::: f'´  ´ ̄ _}  r―-,     //  ̄`l:::::Vヘ
   /: : : : : : : : : ゝ   l_∧:::::::|     '´   ヽ_` ー'´   __イ⌒ヽ   |::::::Vヘ
  /: : : : : : : : : : : : : : :ヽ  lヽ∧ :::|       / l_   r<⌒l \  ヽ  |:::::::∨
. /: : : : : : : : : : : : : : : : :|  l | ヽ:l          ノ/ / {  { .l   `    ハ::::::::l
/: : : : : : : : : : : : : : : : : :|  l |   |      r'_//  ∧  !        / \:::|\

「こんな、目の大きな人間を描いた絵なんて見たことありません」

355 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 05:01:09 ID:WzgZgRoT
題材はぶっちゃけありきたりなのにマジでおもしろいw
つーか>>354自重しろいwwwwww
GJ!このスレの職人方の作品はマジですばらしい。

356 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 07:05:08 ID:QWd+85bk
まじで500あたりでスレ終わりそうな予感w

アニメの鬱憤を晴らすが如くの投下ラッシュw

357 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 09:33:58 ID:0UPj7rfd
1日見なかっただけで、このありさまww
職人さん、お疲れ様です♪
そして、ここを暖かく見てるみんな乙!

358 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 09:50:06 ID:K8l/nvaK
>>350
俺……205さんの策士タバサが大好きなんだ……

359 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 11:31:13 ID:C2kO89gy
>>305
ま た お 前 か
GGGGJJJJ!!
俺も205さんの策士タバサ大好きだ


360 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 12:31:31 ID:OVTHwN5s
慌てるなこれはタバサの罠だ

361 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 13:29:12 ID:ODEbmVhB
ルイズ「でもあわてちゃう・・・・くやしい・・・・・」

362 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 21:41:23 ID:DCSz0e7n
                               ヽ`
                              ´
                               ´.
                           __,,:::========:::,,__
                        ...‐''゙ .  ` ´ ´、 ゝ   ''‐...
                      ..‐´      ゙          `‐..
                    /                    \
        .................;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::´                       ヽ.:;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;.................
   .......;;;;;;;;;;゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙       .'                             ヽ      ゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙;;;;;;;;;;......
  ;;;;;;゙゙゙゙゙            /                           ゙:                ゙゙゙゙゙;;;;;;
  ゙゙゙゙゙;;;;;;;;............        ;゙                              ゙;       .............;;;;;;;;゙゙゙゙゙
      ゙゙゙゙゙゙゙゙゙;;;;;;;;;;;;;;;;;.......;.............................              ................................;.......;;;;;;;;;;;;;;;;;゙゙゙゙゙゙゙゙゙
                ゙゙゙゙i;゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙;l゙゙゙゙゙
              ノi|lli; i . .;, 、    .,,            ` ; 、  .; ´ ;,il||iγ
                 /゙||lii|li||,;,.il|i;, ; . ., ,li   ' ;   .` .;    il,.;;.:||i .i| :;il|l||;(゙
                `;;i|l|li||lll|||il;i:ii,..,.i||l´i,,.;,.. .il `,  ,i|;.,l;;:`ii||iil||il||il||l||i|lii゙ゝ
                 ゙゙´`´゙-;il||||il|||li||i||iiii;ilii;lili;||i;;;,,|i;,:,i|liil||ill|||ilill|||ii||lli゙/`゙
                    ´゙`゙⌒ゞ;iill|||lli|llii:;゙|lii|||||l||ilil||i|llii;|;_゙ι´゚゙´`゙
                         ´゙゙´`゙``´゙`゙´``´゙`゙゙´´


363 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 21:52:44 ID:b2mgzktK
既に205さんの>>346-349作品がwikiに収録されているという
仕事の早さに脱帽w
ヌィーマリーゴさんの正体見たり!!www

364 名前:205:2007/09/23(日) 23:21:11 ID:JoDKp6D9
こんばんは。
今夜はこのスレに新たなジャンルを提示しにきました。

365 名前:Please Mr.Lostman:2007/09/23(日) 23:21:55 ID:JoDKp6D9

 青年は、馬に乗って必死に街道を駆けていた。元々急ぐ旅でもなかったし、愛馬の体を傷つけたく
ないという思いもあったので、鞭や拍車の類は一切身につけていない。それでも全速力で走ってくれ
る辺り、馬にも危険な状況だということが分かっているのかもしれない。
(婆ちゃん、この辺りなら絶対安全だって言ってたのに!)
 静かな自信に満ちた表情で断言していた祖母の顔を恨めしく思い出しながら、青年はちらりと後方
を振り返る。遠くでもうもうと土煙が立ち込め、その向こうからは馬蹄の音が無数に聞こえてきて
いる。向こうも諦めるつもりはないらしい。
(無事に逃げ切れるだろうか)
 青年は不安だった。相手は大人数だし、全員馬に乗っている。脚力は同程度のようだから、今のと
ころは差は縮まらないが、しつこく追い回されては持久力の方に限界が来る。
 どうしたものかと思案に暮れていたとき、青年はふと、前方を見慣れない鳥が飛んでいるのに気がついた。
(フクロウ、か?)
 まだ時刻は昼間である。夜行性のフクロウが飛んでいるというのはどうも腑に落ちない。奇妙に
思ったとき、突然フクロウが飛びながらこちらを振り向いた。
「オイデ、オイデ」
 しかも喋った。ギョッと目を見張る青年に対して、フクロウは悠々と翼を広げたまま、街道脇の森
に向かって飛んでいく。見ると、そこに馬でも何とか通れそうな程度の獣道が延びていた。
(どうする)
 青年は判断に迷う。森は奥が見えないぐらいに薄暗く、フクロウがその奥に誘うというのは、まる
で魔女に手招きされているような状況である。
 だが、迷いは一瞬だった。青年は手綱を絞り、馬を森の獣道に入らせる。
(どうせ、このまま逃げていてもいずれは力尽きてしまうだろう。それなら、いっそ、あの鳥の主に
 賭けてみるしかない)
 青年がそう決心できたのは、何故か喋るフクロウというもの自体に大して警戒心や不審感を抱かな
かったというのも大きい。
「昔、お友達の家に行ったとき、飛んできたフクロウが喋り出してね。ビックリして気を失っちゃったのよ」
 そんな風に、祖母が笑って話していたからかもしれない。
 青年はフクロウの背を追って、ひたすら馬を駆けさせる。幸い、この獣道に入ってから、背後の蹄
鉄の音は遠ざかりつつあった。先導がいるこちらと違い、向こうは道なき森の中を走るのと同じだ。
速度が落ちるのは当たり前だった。
(これなら、逃げ切れるかもしれない)
 青年の胸に安堵が広がる。獣道はじょじょに上に向かって傾斜してきて、登り道になった。その内
森から抜け出すと、そこは小高い丘の中腹だった。フクロウは、丘の上に向かって飛んでいく。青年
も後を追った。
 小高い丘を登りきると、そこに一軒の家が建っていた。小さな柵に囲まれた、小さな家である。そ
の庭先のテーブルの前に、一人の老婦人が腰掛けている。フクロウは老婦人のそばに飛んでいくと、
空気に溶けるように消えてしまった。
(やっぱり、魔女なのか)
 青年は再び緊張する。老婦人は、こちらを見て穏やかに微笑んだ。
「こんにちは。旅のお方かしら」
 その皺だらけの顔を見ると、全身からすーっと緊張が消えていった。その老婦人は見たところ青年
の祖母と同年代ぐらいだったので、親近感が沸いたのかもしれない。青年はほとんど無警戒に馬を家
の敷地に乗り入れさせ、その背から下りた。
「お騒がせしてしまって申し訳ありません。あのフクロウは、あなたが?」
「ええ。なんだか下が騒がしかったから、幻を飛ばしたのよ。誰かに追われているようね」
 老婦人はティーポットを傾けてカップに紅茶を注ぎながら、ゆったりした口調で言った。
「ご存知なら、すぐに逃げてください。今は森を抜け出すのに手間取っているでしょうが、連中はす
 ぐにここに登ってきますよ」
「あら、向こうはずいぶんとご執心なのね」
「あ、いえ。もしかしたらもう諦めているかもしれませんが、念には念をいれませんと」
 青年を追ってきている男たちは、この近辺を縄張りにする盗賊らしかった。先程のような森が街道
脇に広がっているため、潜伏するには好都合なのだろう。青年も、馬に乗って街道を進んでいる途中、
突然前後左右から襲い掛かられたのだ。馬が自分の判断で走り出してくれていなければ、今頃どう
なっていたことか。

366 名前:Please Mr.Lostman:2007/09/23(日) 23:22:41 ID:JoDKp6D9

「とにかく、早く逃げてください。足腰のお加減が悪いのでしたら、僕の馬の背にお乗せしますので」
 青年が申し出ると、老婦人は少し首を傾げた。
「それはありがたいのだけれど、もうその子は限界なんじゃないかしら」
 青年は、はっとして馬の様子を見る。確かに息は絶え絶えだし、もう疲労の極みにあるようだった。
だがそれでも、「まだ行ける」と言うように、気丈に一声鳴いてみせる。愛馬に対する愛おしさが胸
にあふれ、青年は自然とその頬を撫でてやっていた。
「好かれているのね、あなた。見た目どおり、いい人みたいだわ」
「いえ。愛馬をこんな目に合わせている、とんでもない飼い主です」
 せめてこいつだけでも逃がしてやろうと、青年は手綱を放して、どこかへ行くよう愛馬を促す。だ
が、馬はその場を動かず、じっとこちらを見つめていた。
「あなたと離れたくないみたいね。ここで死んでもいいから一緒にいる、という気持ちみたいよ」
 老婦人はふと、遠くを見るように目を細めた。
「わたしにも昔、そんな人がいたのだけれどね」
 そのとき、丘の下の方から無数の馬蹄の音が響いてきた。はっとして振り返ると、ずっと向こうか
ら馬に乗った集団が丘を駆け上ってくるのが見える。彼らは、こちらが身を隠すよりも早く、家の前
に到着した。
「おうおう、ずいぶんと逃げ回ってくれたもんじゃねえか、ええ」
 先頭に立った男が、馬上からこちらを睨みつけてきた。
「だが、それもここまでよ。抵抗せずに大人しくするなら、せめて苦しまないように殺して、と」
 そこで初めて老婦人に気付いたらしく、男は彼女を見て眉根を寄せた。
「なんだ、こんなとこに一人で住んでいやがるとは、妙なババアだな。おい婆さん、どうせ老い先短
 い退屈な人生だろうよ。せっかくだからまとめて殺して、テメエのわずかな財産は俺らが有意義に
 使ってやるから有難く思え。まあ、こんな枯れ木みてえなババアの財産なんか、酒の一杯にもな
 りゃしねえだろうがな」
 男たちが高笑いを響かせた。
 青年は、どうにかしてこの親切な老婦人だけでも逃がせないものかと思案する。
 そのとき、老婦人が青年の背後で盛大にため息を吐いた。
「やれやれ。これでも三十年ぐらい前までは引く手数多だったんだけどねえ。もうそんな目じゃ見られない、か」
 どことなく寂しげに呟きながら、老婦人はテーブルに両肘をついて、鋭い目つきで盗賊たちを見据えた。
「警告してあげるわ」
「なに」
 男が高笑いを止めて、怪訝そうに老婦人を見る。彼女は淡々とした口調で諭すように言った。
「今あなたが枯れ木と呼ばわったこのババアはね、自尊心のせいで愛しい人とも一緒になれなかった
 ような、馬鹿みたいに気位の高い人間なの」
「だからなんだ」
「要するにね」
 老婦人は、枯れ木のような細い腕を、テーブルの上に置いてあった木の棒に伸ばした。
「わたしがまだギリギリのところで怒りを抑えている間に、とっとと尻尾巻いて逃げ出しなさいって
 ことよ。その豚より醜い顔と野良犬より薄汚い体を引き摺って、今すぐわたしの前から消え去りな
 さい。さもないと」
 木の棒の先端を男たちに向けながら、老婦人は皺だらけの顔に皮肉げな笑みを浮かべる。
 盗賊たちは今や完全に笑いを納め、殺気だった気配を発しながら各々の武器を構えていた。先頭の
男が、顔を真っ赤にしながら怒鳴った。
「さもないとどうするってんだ、ええ、このババアが!」

367 名前:Please Mr.Lostman:2007/09/23(日) 23:24:05 ID:JoDKp6D9

 盗賊たちが、一斉に馬を走らせようとする。それと同時に、老婦人が短く何かを呟いて、軽く杖を振るった。
 その途端、突如としていくつもの爆音が重なり合って轟いた。見ると、男たちが振り上げた武器が、
何の前触れもなく爆発四散し、周囲に金属の破片を撒き散らしていた。その破片が男たちと男たちの
馬に突き刺さり、周囲が悲鳴で満たされる。
 そんな凄惨な光景を見て、老婦人はにっこりと笑った。
「さもないと、次は体が弾けて、今の外見以上に見苦しい死に様を晒すことになるわよ」
 そうすることに躊躇はないとでも言いたげに、老婦人はこれ見よがしに木の棒を回してみせる。盗
賊たちの中から悲鳴が上がった。
「このババア、メイジだぞ!」
「逃げろ、燃やされちまうぞ!」
 口々に叫びながら、男たちは無我夢中で逃げ去った。
 後には、すまし顔で紅茶を啜る老婦人と、今の顛末をただ呆然と見守ることしか出来なかった青年、
そして疲れたようにその場に座り伏せる彼の愛馬だけが残された。
「失礼な連中ね」
 老婦人が不満げに呟いたので、青年はようやく正気に戻った。何をどう言ったらいいものかと迷う
彼を、老婦人は軽く手招きした。
「こちらへどうぞ。せっかくだから、この枯れ木のようなババアの茶飲み話に付き合ってくださいな」
 老婦人が悪戯っぽく言う。その表情を見ていると、先程の彼女に感じた恐怖心が自然と薄れていくようだった。
 結局、青年は愛馬を庭先の木につなぎ、老婦人の茶飲み話に付き合うことになった。

 桶を借りて水を注ぎ、馬の前に置いてやってから、青年は老婦人の向かい側に腰掛けた。
「ずいぶんと大切にしているのね」
 夢中で水を飲んでいる馬を見つめて、老婦人が微笑む。何となく照れくさくなって、青年は頭をかいた。
「祖母の言いつけで、動物は大切に扱うようにしているんですよ。祖母はすごく動物好きでしてね。
 特に犬が大好きで、我が家には10匹や20匹では足りないほどの犬が」
 老婦人の暖かみのある雰囲気に、自然とそんなことを話してしまう。そのときふと、彼は家の扉に、
一本の剣が飾ってあるのに気がついた。鞘も柄も、ずいぶんと古びている大きな剣である。
「あれは何ですか」
「ああ、あの剣ね」
 老婦人は家の方を見て目を細める。その瞳から、隠しきれない愛情が滲み出していた。
「あれはね、ある人と交わした、約束の証よ」
「約束、というと」
「必ずまた戻ってくるっていう、約束」
 老婦人はそう言って目を閉じる。
 約束の証に剣を置いていくということは、相手は剣士だったのだろうか。しかし、先程魔法を使っ
たのを見る限り、老婦人はメイジのはずだった。ということはおそらく貴族階級の出身のはずである。
(それで相手が剣士っていうのは、どうも不思議だな。いや、そもそも、そんな人が、どうしてこん
 なところに一人で住んでいるんだろう)
 いろいろと興味が沸いてきたが、不躾に尋ねるのは躊躇われる。そのとき、老婦人がふと呟いた。
「犬、ね」
「え、なんですか」
「ああいえ、さっき、あなたのお婆さまが犬を大切にされていると仰ってたでしょう」
「ええ、そうですが」
 犬を妙な名前で呼ばわる祖母の姿を思い出し、青年は頷く。
「わたしのそばにも昔、そんな感じの人がいたのよ」
 話の流れからするに、多分その「犬のような人」というのが、剣の持ち主なのだろう。頭の中で素
早く情報を整理しながら、青年は尋ねた。
「犬のような人、と言うと、召使か何かですか」
 もしもこの推測が当たっていれば、老婦人は昔道ならぬ恋をしたということになる。だが、彼女は
首を横に振った。
「いいえ。ある意味、召使よりも位が低かったわ。だから、わたしもずいぶんひどい扱いをしたものだけど」
 老婦人は懐かしむように微笑んだ。
「それでもその人は、わたしのことを一生懸命守ってくれたし、愛してもくれた。わたしの方も、
 段々彼に心を惹かれていったわ」
「へえ。でも、今はご一緒ではないようですが」
 話したくないことかもしれないと思いつつ、どうしても興味が抑えきれなかった。老婦人はあっさりと頷いた。

368 名前:Please Mr.Lostman:2007/09/23(日) 23:24:50 ID:JoDKp6D9

「ええ。いろいろあって、その人とは一緒にはなれなかったわ。彼には帰るべきところがあったから」
「帰るべきところ、ですか」
「ええ」
 その場所を見つめるように、老婦人は空に向かって頭を傾ける。
「とても、遠いところよ。帰るのも、こちらに戻るのも大変なぐらいに」
「でも、お二人は愛し合っておられたんでしょう」
「そうね。だから、わたしが望めば引き留めることも出来たのかもしれないけど、そうはしなかった。
 変に高いプライドのおかげかしら、どんな理由があったとしても、間違ってると分かっていること
 は出来なかったのよ。彼はそこにいろいろなものを残してきていたはずだから、一度は必ず帰るべ
 きだったのよ」
 老婦人はティーカップに両手を添えて、静かに目を閉じた。
「でもわたし、彼を帰したのを後悔したことは、今まで一度もないわ。正しいことをしたんだし、それに」
 老婦人は、いい夢でも見ているかのように、幸せそうに微笑んだ。
「彼はね、約束してくれたのよ」
「何をですか」
「自分なりにけじめをつけたら、必ずわたしのところに戻ってきてくれるって」
 紅茶を一口啜り、老婦人はため息を吐くように言った。
「もう、四十年以上も昔の話になるわね」
「じゃあもしかして、あなたは、今でもその人のことを待ち続けているんですか」
 その気の遠くなるような歳月を思いながら男が問いかけると、老婦人ははにかむように頷いた。
「ええ、そうよ。彼と別れてから、わたしはずっと一人で待ち続けた。恋敵だった友達が他に相手を
 見つけても、あの人はもう帰ってこないから忘れろと説得されても、そんな男のことは忘れてやる
 と、誰かに愛を囁かれても。わたしはただひたすら、彼だけを待ち続けた」
 老婦人は、自分の細い腕を見つめて、少しだけ悲しそうな顔をした。
「そうしている内に、こんな痩せた枯れ木のような老婆になってしまった。今はもう、誰もわたしの
 ことなど覚えてはいないでしょうね。それでもまだ、わたしは彼を待っているの。まだ、あの約束
 を信じているのよ」
 そう言って微笑む老婦人の顔は、今は確かに皺だらけだが、昔は相当な美貌を持っていたであろう
ことを窺わせる。
 青年は何も言えなくなってしまった。彼女の人生は、他人の目で見れば明らかに不幸なものだろう。
これほどの美貌や貴族階級という地位があれば、当然つかめるはずだった人間としての幸せを顧みる
ことすらせず、ただただいつ帰ってくるか分からない思い人を待ち続けた女。そうしている内に誰か
らも忘れ去られ、錆びついてしまった約束の証の剣だけを抱えて、こんな寂しい場所に一人佇む、痩
せた枯れ木。
「あら、ごめんなさいね」
 老婦人は茶目っ気のある笑みを浮かべた。
「あなたが真剣に聞いてくれるものだから、ついついこんな楽しくない話をしちゃったわ」
「いえ、楽しくないだなんて」
「そんなことよりも、外のことを聞かせていただけないかしら。こんなところにいると、世の中の流
 れに疎くなってしまってね」
「外のこと、ですか。そうですね」
 青年が自分の知る限り最近の情勢を話し始めると、老婦人は「まあそうなの」「それはそれは、世
の中ずいぶんと変わったものねえ」と楽しそうに相槌を打ち始める。その表情は明るく、ほとんど空
虚とすら思えるこれまでの人生を、ほとんど感じさせなかった。
(いや、少なくとも、彼女にとっては空虚なんかじゃなかったんだな)
 青年には、彼女が不幸だとは思えなかった。今目の前にいる彼女が、不幸や悲惨といった文字から
はかけ離れているほど、活力に溢れているように見えるからだ。
 この痩せた枯れ木は、今にも花を咲かせそうなほどに、空に向かって大きく枝を広げている。
 目の前で愉快そうに笑っている老婦人を見ていると、自然とそんな情景が頭に浮かび、青年も自然
と微笑みを浮かべていた。

369 名前:Please Mr.Lostman:2007/09/23(日) 23:25:37 ID:JoDKp6D9

 そうしてしばらく話をしたあと、青年はティーカップを置いておもむろに立ち上がった。
「それでは、そろそろお暇します。紅茶、ごちそうさまでした」
「そう。ごめんなさいね、旅の途中だというのに、こんな寂しいババアの退屈な茶飲み話につき合わ
 せてしまって」
 老婦人は冗談っぽい口調でそう言った。青年は笑って首を振る。
「いえ。とても楽しかったです。祖母にいい土産話が出来ましたよ」
「ありがとう。あなたのお婆さまにもよろしくね。ところで」
 と、老婦人が不意に青年の頭を見て、懐かしそうに目を細めた。
「お婆さまも、あなたみたいに綺麗な黒髪をしてらっしゃるのかしら」
 青年は自分の黒い前髪をつまみながら、祖母の姿を頭に思い浮かべる。
「そうですね。僕が子供の頃はまだ黒い髪の方が多かったかな。最近はもうすっかり白髪ばかりに
 なってしまいましたが」
「そう。いえね、昔わたしと恋敵だった人も、黒髪だったからね。そのせいかしら、あなたと長話な
 んかしたくなったのは」
 老婦人は口元に手を当ててくすくすと微笑んだ。
「ところで、これからどうなさるのかしら」
「ちょっとした用事で村を出てきて、それはもう済ませてしまいましたからね。あとはもう、帰るだけですよ」
 青年の馬は、休んだおかげで少しは元気を取り戻したようだった。まだあまり無理はさせられない
が、今から丘を下りて街道に戻れば、日が落ちる前に今日泊まる予定だった宿場町にたどり着けるだろう。
「まあ、それほど急ぐ訳でもありませんし、帰りは護衛つきの隊商にくっついていくなりして、出来
 る限り安全になるように心がけるつもりですが」
「ええ。その方がいいでしょうね。さっきのあなたのお話を聞く限り、またハルケギニア中に不穏な
 気配が漂っているみたいだし」
 老婦人は、少し心配そうにそう言った。
 青年は馬を連れて丘の下り始めに立ち、家の方を振り返った。中天を過ぎて日暮れへと向かう太陽
が、老婦人の背後から暖かな日差しを注いでいる。
「それでは、いろいろとお世話になりました」
「ええ、道中気をつけて」
 微笑んでそう言いかけた老婦人が、不意に目を見開いて絶句した。
 一体どうしたのかと思ったとき、青年は老婦人の視線が自分を通り越していることに気付く。自分
の背後にある、何かを見ているのだ。
 振り向くと、誰かが森を抜け、丘を登ってこちらに向かってきているのが見えた。遠目にも分かる
白髪頭から、それが老人であることが分かる。
 その老人は、痩せて見える体にも関わらず力強く背筋を伸ばして、まっすぐこちらに向かって歩い
てくるのだった。
(まさか)
 信じられないものを見ているような老婦人の表情から、青年はある予感を覚える。自然と胸が高
鳴った。そして、自分がとても劇的な瞬間に立ち会おうとしていることに気付き、邪魔にならないよ
う慌てて馬を連れ、脇に避けた。

370 名前:Please Mr.Lostman:2007/09/23(日) 23:26:23 ID:JoDKp6D9

 丘を登ってきた老人は、青年には目もくれずに老婦人の前に立ち、
「久しぶり。約束どおり、戻ってきたよ」
 と優しい口調で声をかけた。
 老婦人はその言葉で動揺から立ち直ったようだった。少々そわそわした様子で、
「あら、どちら様かしら。私、痩せた枯れ木みたいな老人を友人にした覚えはないのですけれど」
 と澄まして言う。老人は苦笑いを浮かべた。
「相変わらず意地の悪い奴だな。俺がお前を見間違えると思うのか」
 それを聞いてどことなく安堵したように、老婦人は得意そうな微笑を返した。
「それはわたしだって同じよ。あなたがどんな風になっても、絶対に見間違えない自信がある」
 そこまで言って、微笑が崩れた。皺だらけの顔が歪んで泣き笑いの表情になり、老婦人はたまらな
くなったように、老人の胸に飛び込んだ。
「お帰りなさい。ずっと、ずっと待ってたのよ」
「ああ、ただいま。ごめんな、こんなに遅くなっちまって」
 老人が優しい手つきで老婦人の頭を撫でる。ようやく帰ってきた思い人の胸の中で顔を上げ、老婦
人はそっと微笑んだ。
「本当、遅れすぎだわ。おかげでこんなに老けちゃって、今日なんか痩せた枯れ木みたいなババア
 だって言われちゃった」
「それは俺だって同じだよ。向こうじゃ妖怪枯れ木ジジイなんて呼ばれてたんだぜ」
「まあ」
 二人は抱き合ったまま見つめあい、若者のように笑いあった。若者のように、という表現は正しく
ないかもしれない。青年から見れば、老婦人と老人は、そこらの若者などよりもずっと明るい笑い声
を響かせている。
「本当に、待っててくれたんだな」
 老人が言った。
「当たり前じゃない。約束したもの。でも」
 老婦人が、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「正直、ちょっと不安だったわね。あんたってかなりの助平だったもの。向こうで、わたしのことな
 んか忘れて他の女とくっついてるんじゃないかって、何度も疑ったわ」
「そりゃ俺だって同じだよ」
 老人も苦笑する。
「モグラみてえな俺と違って、お前は美人だったものな。俺がいない間にコロッと他の男になびいち
 まうんじゃないかと、気が気じゃなかったさ」
 老婦人が、少女のように唇を尖らせた。
「まあ、失礼ね。わたし、そんな不貞な女じゃありませんことよ」
「お前こそ、俺の一途さを疑ってもらっちゃあ困るね」
「何言ってんの、昔あれだけフラフラして、わたしを泣かせてたくせに」
「そりゃお前がなかなか俺の気持ちに応えてくれなかったからだろう」
 二人はまた笑いあう。先に笑いを収めたのは、老婦人の方だった。
「わたしは、あなた以外の人と愛を語り合ったことなんて一度もなかったわ。ただずっと、あなただけを待ってた」
 老人も、自分の胸の中の老婦人の顔をじっと見つめて頷いた。
「俺もさ。お前以外の女なんて目に入らなかった。ただずっと、お前に会うために、ここに戻ってく
 る方法を探し続けてたんだ」
「それは寂しい人生だったこと」
「そうでもないさ。まだ、これからがある」

371 名前:Please Mr.Lostman:2007/09/23(日) 23:27:10 ID:JoDKp6D9
 そう言って、老人は一度老婦人から体を離す。懐に手を入れて、手の平に収まるぐらいの小箱を取
り出した。老婦人が無言で受け取って蓋を開けると、中には大粒のダイヤをはめ込んだ指輪が収めら
れていた。
「これ」
 老婦人が、戸惑うように老人と指輪を交互に見比べる。老人は深く頷いた。
「ずいぶん遅れちまったけどな。俺の気持ちは変わってないよ」
「本当にいいの?」
 老婦人は不安げな表情で問いかけた。老人が眉をひそめる。
「何が」
「見ての通り、わたしは本当に、痩せた枯れ木みたいになっちゃったわ。こんなババアと残りの人生
 を過ごそうなんて、いくらあなたでも冒険が過ぎるんじゃないの」
 老婦人は、自分の細い腕を見て泣きそうな顔をする。老人は呆れたように肩を竦めた。
「さっきも言ったろ。痩せた枯れ木みたいになったのは俺も同じだよ。それにな」
 老人は眩しそうに目を細め、壊れものを扱うような優しい手つきで、老婦人の皺だらけの頬を撫でた。
「痩せた枯れ木なんていうけど、俺には今でも、お前が枝一杯に満開の花を咲かせてるように見えているよ」
 老婦人の頬がかすかに赤くなった。
「言い過ぎでしょ、こんなババアに。顔は皺だらけ頭は真っ白けで、もう見るとこなんかないし」
 ここに来て急に自信をなくし始めたように、老婦人は悲しげに自分の白髪をいじっている。
 老人はうんざりしたように頭に手をやった。
「お前って相変わらず面倒な女だな。分かった、じゃあはっきりと言ってやるよ」
 老人は老婦人の手を取り、強く彼女を抱き寄せた。かすかに息をつまらせる彼女の眼前まで顔を近
づけ、先程の言葉どおり、はっきりとした口調で言う。
「ババア結婚してくれ」
 老婦人の顔が一瞬で真っ赤に染まった。老人の手を乱暴に振り解くと、先程までのしおらしさが嘘
だったかのように激しく怒鳴る。
「なによそのプロポーズ。ふざけてんの」
「うるせーな、お前があんまりババアババア言うから仕方ねえだろ」
 拗ねたようにそっぽを向く老人に、老婦人はますます顔を赤くする。
「だからって」
「あのな」
 老人は咳払いすると、再び真顔になって、熱っぽい口調で言い出した。
「俺は、お前がどんだけ年食おうがしわくちゃになろうが痩せた枯れ木みたいになろうが、そんなこ
 とはどうでもいいんだよ。美少女だろうがババアだろうが関係ねえんだ。美少女なら美少女のお前
 が好きだし、おばさんならおばさんのお前が好きだ。だから、ババアならババアのお前が好きなん
 だよ。要するに、お前が好きなんだ。愛してるんだよ。だから言うんだ」
 そう言って、老人は再び老婦人の手を握り締めた。
「ババア結婚してくれ」
 老婦人の顔の赤みは、とっくに引いていた。彼女は呆れたように老人を見上げ、ため息を吐いた。
「あんたって、本当に全然変わってないのね」
「だから、お互い様だろ。で、返事は」
「そうね」
 老婦人は、指輪をそっと左手の薬指にはめた。それを老人に見せながら、にっこりと微笑む。
「いいわ。そのふざけたプロポーズ、受けてあげる。痩せた枯れ木みたいなジジイと、くたばるまで
 一緒に暮らしてあげるわよ」
 先程の怒りの仕返しとでも言うような、皮肉っぽい口調である。
「それは正しくねえな」
 老人も負けずに皮肉っぽく返す。
「正確には、くたばるまで、じゃねえよ。くたばった後もだ」
 老婦人は大袈裟に顔をしかめた。
「なにあんた、犬のくせに貴族の娘と同じ墓に入ろうっての」
「当然だろ。そのぐらいする気がなけりゃ、ここには立ってねえよ」
 老人は自信ありげに断言する。
 老婦人は微笑ながら両手を大きく広げ、彼を抱きしめる。彼もまた、骨ばった腕で彼女を包み、強
く、強く抱きしめた。
「ここまで来たんだ。どこまでだって一緒に行くさ」
「ええ。どこまででも、着いてきてみせなさいよ」
 二人は互いに囁きあうと、少しだけ体を離して見詰め合った。そして、どちらからともなくおもむ
ろに顔を寄せ合い、静かに唇を重ねあう。
 夕陽の中で体を寄せ合う二人が、今一時だけ若者に戻ったように思えて、青年は何も言えずにただ
ただ黙って彼らの姿を見つめていた。

372 名前:Please Mr.Lostman:2007/09/23(日) 23:28:09 ID:JoDKp6D9

「ヘッ、こんな辺鄙なところで、汚ぇジジイと枯れたババアが三文芝居をやっていやがるとは思いも
 しなかったぜ」
 突然、背後から嘲笑を含んだ声が響き渡った。青年は慌てて振り返る。見ると、丘の少し離れたと
ころに、荒々しい雰囲気の男が立っていた。後ろには、先程逃げた盗賊たちを引き連れている。
(しまった。あの連中、頭目をつれて戻ってきたのか)
 しかも、新たに現れた頭目は、先程の盗賊たちとは比べ物にならないぐらいに危険な目をしていた。
部下がチンピラだとすると、この男は極道だ。悪の道を極めた人間だと嫌でも悟らせるような残忍な
気配が、青年の背筋を震わせる。
「久しぶりだってのに、とんだ邪魔者の登場だな」
「本当ね」
 老婦人と老人は、静かに体を離して闖入者を睨みつけた。
「俺の子分をずいぶん可愛がってくれたみてえじゃねえか」
 言葉に憤怒を滲ませながら、頭目が馬を下りてゆっくりとこちらに近づいてきた。
「舐められたらやっていけねえ身分なんでな。悪ぃが全員まとめて始祖ブリミルの御許へ行ってもらうぜ」
 頭目は、腰に下げていた長い得物を抜き放った。驚いたことに、それは剣や銃ではなく、杖だった。
 頭目は目を閉じ、静かに詠唱を始める。炎が飛んでくるのか大地が割れるのか予想もできず、青年
は咄嗟に目を閉じ、顔を手でかばう。
 しかし、頭目が詠唱を終えても、派手な音は何一つしなかった。おそるおそる目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「風は偏在するってな」
 頭目の得意げな声が、いくつも重なり合ってその場に響き渡る。それもそのはず、先程まで何もな
かった場所に、頭目と同じ姿の男が5人も立っていたのだ。
「分身の魔法か。ずいぶん懐かしいものを使うねえ」
 老人がふざけた様子で口笛を鳴らす。頭目を恐れているような感じは全くなく、それは老婦人の方
も同様だった。
「スクウェアクラスの魔法を使えるような男が、こんなところで盗賊なんかやってるとは思わなかったわね」
 彼らが全く慄く様子を見せなかったためか、頭目は少し調子を狂わされたらしい。意外に端正な顔
をゆがめ、唾を飛ばして怒鳴る。
「うるせえな。親父もお袋も大罪人だったんでな。表街道は歩けねえのよ。だが俺はやるぜ。お袋か
 ら受け継いだ盗賊団と、親父から受け継いだ『閃光』の二つ名と風魔法の才。幸い今の世は乱世だ
 からな、腕一本でどこまでものし上がってやるさ」
 二つ名のことを聞いたとき、老人と老婦人は目を丸くして顔を見合わせ、よく出来た冗談でも聞い
たように笑いあった。頭目がさらに顔を赤くする。
「何がおかしいんだ」
「いいえ、別に。ただ、ずいぶんと大それた望みだと思ったのよ」
「全くだな。さって、それじゃ、やりますか。な、あいつ、持ってきてくれよ」
「はいはい」
 老人の頼みに答えて、老婦人は軽やかな足取りで家の方に向かった。どうせこんな老人達には何も
出来まいと高をくくっているのか、頭目は特に何も言わない。
 老婦人は、玄関に飾られていたあの古びた大剣を持って戻ってきた。
「はい、どうぞ」
「うわ、なんでこんなボロくなってんだこいつ」
 老人は剣を受け取ると、嫌そうに顔をしかめた。老婦人が肩をすくめる。
「あんたが行っちゃったあと、『相棒が戻るまで起こさねえでくれな』とか言って、こんな風になっ
 ちゃったのよ。あれ以来一回も抜いてないわ」
「相変わらずだなこいつも。まあいいや、抜けばまた元に戻るだろ」
 気楽そうに言って、老人は剣を鞘から引き抜いた。途端にどこかからいびきが聞こえてくる。

373 名前:Please Mr.Lostman:2007/09/23(日) 23:29:03 ID:JoDKp6D9

「おいデルフ、起きろよ」
 老人が剣に向かって話しかける。一体何をしているのかと思ったとき、不意にいびきが止んだ。
「んあ……なんだよ人がせっかく……って、ひょっとして相棒かい」
 寝惚けた声が、驚いた声に変わる。青年は目を見張った。どうやら、喋っているのはあの刀身が錆
びた剣らしい。
(そういや、婆ちゃんの昔の友達も、喋る剣を持ってたとか言ってたっけ)
 そんなことを思い出す青年の前で、剣は感心したような、あるいは面白がるような口調で喋り出す。
「こりゃたまげたね。まさか本当に戻ってくるとは……それにしても、ご主人様共々痩せた枯れ木み
 たいになっちゃってまあ」
「相変わらず口の減らねえ野郎だな。だが安心したぜ。状況は分かるな?」
 老人は苦笑しながら鞘を背中につけ、右手に握った剣に問いかけた。剣がのんびりと返事をする。
「まあ大体ね」
「だったらそんな錆びついたなまくらの振りなんかしてねえで、とっとと本領発揮しやがれ」
「へいへい。全く剣使いが荒いんだから」
 剣は、内容とは裏腹に嬉しそうな声で文句を垂れながら、突然その錆びついた刀身から光を迸らせ
た。次の瞬間、その刀身は一瞬前まで錆びついていたのが信じられないような、磨き上げられた鉄の、
鈍い輝きを宿していた。
「どうだい。俺っちは昔と何も変わらねえだろうが」
「ちぇっ、一人だけ若返りやがって。まあいいけどよ」
「おい、馬鹿げた芝居はもう終わりか」
 それまで黙っていた頭目が、嘲るように言った。
「そのご立派な剣で俺と勝負しようってのか。あんまり舐めんなよ。テメエみたいな枯れ木ジジイが、
 そんな玩具でメイジに敵うとでも思うのか」
「テメエこそ、ちょっと数が増えたぐらいで歴戦の勇者に勝てるなんて、自惚れが過ぎるんじゃねえのか」
 老人は自信ありげに笑うと、柄を握っている右手に、ゆっくりと左手を重ね合わせた。
「かかって来いよ。枯れてもなお衰えぬ伝説ってやつを、お前に見せてやるよ」
 呟きと共に、老人の左手の甲が眩く輝き始める。
「そんな子供騙しで!」
 分身した頭目たちが、老人に向かって一斉に魔法を放った。老人はそれを避けようともせず、ただ
静かに剣を振り上げる。
 そして青年は、伝説を見た。

374 名前:Please Mr.Lostman:2007/09/23(日) 23:30:31 ID:JoDKp6D9

 五分後には、既に勝負がついていた。
 剣の作用か老人の腕によるものか、あらゆる魔法を無効化された頭目は、ムキになることもなく素
早く退散した。素人目に見ても、実に鮮やかな引き際である。辺境の盗賊団とは言え、やはり頭に収
まる人間は普通のチンピラとは違うらしい。
 こうして、日暮れの丘に再び静寂が戻ってきたのである。
「お疲れ様。なんだ、すっかりヨボヨボになった思ってたのに、昔と少しも変わらないじゃない」
「そりゃそうだ。ルーンは健在だし、一日だって鍛錬は欠かしてないからな」
 かなり激しく立ち回ったように見えたが、老人は息を乱してすらいない。その年に似合わぬ頑強さ
に感嘆する青年の前で、老人は呆れたようにため息を吐いた。
「しっかし、ついてそうそうこんな物騒なことになるとは思いもしなかったなあ」
「そうね。最近、また世の中が乱れてきてるみたいだし」
 老婦人は、青年の方をちらりと見ながら言う。老人は驚いたように眉を上げた。
「そうなのか」
「ええ。ねえ、さっきの話、この人にも教えてくださらないかしら」
「あ、はい」
 促されて、青年は二人の方に歩み寄る。老人が怪訝そうに首を傾げた。
「そういや、さっきからちょっと気になってたんだが、あんたは誰なんだ」
「ああ、僕は」
 青年が自己紹介するよりも早く、老人は何かに気付いたように目を見開いた。
「まさか、こいつの愛人とか」
「違うわよ、馬鹿ね」
 老婦人が例の木の棒で老人の頭を小突く。
「と言うか、失礼でしょう。こんな若い人に、そんな疑いをかけては」
「そうだよな」
 老人はほっと息を吐く。
「こんな痩せた枯れ木みてえなババアを気にかける男なんて、俺ぐらいしかいるはずねえもんな」
「一言余計なのよこの枯れ木ジジイ!
 老人らしくない喧嘩が始まったので、青年が説明を始めるのには少し時間がかかってしまった。

375 名前:Please Mr.Lostman:2007/09/23(日) 23:31:05 ID:JoDKp6D9
 
 かつてのアルビオン王国の滅亡に端を発する一連の戦争が終結して以来、ハルケギニアにはつい最
近までそこそこ穏やかな時間が流れていた。
 だが、ニ、三年ほど前から、その平和にも徐々に翳りが見え始めていた。
 そのきっかけがなんだったのかは、一般民に過ぎない青年には分からない。
 ただ、そんな一般民にも分かるぐらい、ハルケギニアの至るところで戦乱の種が芽吹き始めていた。
 ゲルマニアでは、最近勢力を伸ばしてきたツェルプストー家が、現皇帝家と一触即発の状態にある。
既に偶発的な小競り合いが頻発しており、表面上はその都度和解に妥協しながらも、裏では互いに兵
を集めて開戦の機会を窺っているという噂である。
 ガリアでは、ずっと権力の座に居座り続けたイザベラ前女王が最近になって急逝した。次代の王に
は二人の有力候補がいる。前女王の嫡男と、王家に縁深いオルレアン家の嫡男である。血筋から考え
れば前女王の嫡男が王位に着くのが当然であるが、資質としてはオルレアン家の嫡男の方が圧倒的に
優れているため、各々を王にと推す派閥同士が対立し合い、内乱寸前の様相を呈してきているという。
 トリステインも状態は同じようなもので、数年前に王政が幕を下ろして以来、新たな支配者の座を
巡る争いが未だに収まっていない。今現在は旧近衛隊の隊長であり、鋼鉄の女という異名でも知られ
る老女傑、ミラン卿がギリギリのところで治安を維持しているが、それも限界が近いのだという。
 旧王家が滅亡して以来各国分割統治の状態にあるアルビオンでも、不可思議な力を持つハーフエル
フの女性を教祖として崇める謎の宗教団体が、日に日に発言力を高めており、ここでも近い内に大規
模な騒乱が勃発すると予想されている。

「という訳で、僕が住んでいる田舎の村でも、住民は不安な日々を送っているんです。僕が今回こん
 なところまで出かけることになったのも、所用以上にハルケギニアの情勢を知るという目的が大き
 かったですし」
 長い説明を聞いた老人と老婦人は、顔を見合わせて苦笑した。
「どうやら、お前と一緒に静かな老後を送るには、困難が多すぎるみてえだな」
「そうみたいね。さて、どうしましょうか」
 答えは予想出来ているとでも言いたげに、老婦人は自信に満ちた瞳で老人を見た。老人もまた、当
然と言わんばかりに頷いた。
「決まってんだろ。行くともさ」
「そうね。あんたって、そういう奴よね」
「やれやれ、仕方ねえから俺っちも付き合ってやるよ」
 老人の背中で、剣が鞘から少し抜け出して喋る。老人と老婦人は、顔を見合わせると、意地の悪い
笑みを浮かべて言った。
「当たり前だろ」
「今まで寝てた分、刀身が砕けるまで働いてもらうわよ」
「うひゃあ、勘弁してくれよ」
 剣が情けない声を上げて鞘に引っ込む。老人と老婦人は、また顔を見合わせ、声を上げて笑った。
 青年が説明している間に夕暮れも遠くに去り、暗い夜空には月と無数の星々が浮かんでいる。満点
の夜空を見上げながら、老人は穏やかに呟いた。
「じゃあ、もう少しだけ、頑張ろうな」
「ええ。今度はもう離れない。ずっと一緒よ」
 老人と老婦人は、その言葉を証明するように、固く手を取り合う。
 その光景を見たとき、青年の背筋に震えが走った。
 この、世界中の誰からも忘れ去れた二本の枯れ木は、日の光の代わりに夜空から降り注ぐ星の光を
浴びて、大輪の花を咲かせることだろう。その花の香はハルケギニアの至るところに届き、人々を希
望の朝へと導いていくに違いない。
 何故か、そんな予感が全身を震わせていた。
(婆ちゃんへの土産話が、また一つ増えたみたいだな)
 そんなことを考えながら、青年は老人と老婦人の背中をいつまでも見つめ続けた。

 かくしてこの日、忘れ去られた伝説は、ハルケギニアの片隅で再び花開いた。
 この地が再び平穏な時間を取り戻すのは、これより五年ほど後のことである。

376 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 23:33:07 ID:lX3RkggS
>>375
何だこれは・・・GJすぎんだろ・・・

377 名前:205:2007/09/23(日) 23:36:46 ID:JoDKp6D9
 タイトルの元ネタがすぐに分かった人とはきっと友達になれると思います。

 そんな訳で、新ジャンルババア萌えを提示いたしました。
 とは言え性愛の対象にする訳ではないので、相変わらず明らかな板違いなんですが。
 よくゲームとかやってて、「こいつらきっと将来はNice jijiとNice babaになるな」とか思うもんで、
こんなSSを書いてみた次第であります。
 まあ本当のところ、「ババア結婚してくれ」って台詞を一回使ってみたかっただけなんですが。
 この台詞、状況によっては凄い愛情溢れてる感じがすると思うんですが、どうでしょう。

 作中に登場する人物は全員原作登場キャラか、あるいはその関係者です。
 青年と頭目の素性が分からなかった人とかいたら、それはそれで珍しいので名乗り出てください。

 では。珍しく長くなりましたが、それだけ気合入れて書いたってことでご勘弁をば。

378 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 23:39:02 ID:ECRxxlmx
40分ごろから投下してもよろしいでしょうか?
エロなしですが

379 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 23:40:04 ID:K8l/nvaK
>>377
面白かったー。ぐっじぇ!!
オルレアン家の嫡子が枯れ木さんとの隠し子だと言ってみたくなったが
時系列的にかなりおっさんになってしまうww

380 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 23:41:43 ID:a6XtpfuB
>>377
最初元ネタが銀魂かと思ったが違うようだ
何だろう…?



381 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 23:48:56 ID:eaxht45I
>>377
GJ!! ちょっとうるうるしました。
な、泣くわけなんてないでしょっ!!目よっ目にゴミが入ったのよっっっ
ハルケギニアの近況説明なくてもよかったかも。続編への布石? w

エロパロスレなのに、エロパロが書きづらくなってる件について www

382 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 23:51:11 ID:1XWNuyEh
ババァ結婚してくれで来るとはw

383 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 23:58:06 ID:K8l/nvaK
>>378
いいですよー
っていうか、ガンガン行ってください。

384 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:01:03 ID:TCTq6+1K
予定の時間より遅れましたが、投下作品の余韻のほうが大事と思い自粛しました。
んだば、許可も得たので失礼して。

 今でも夢に見る。あの炎に包まれた光景を。



 コルベールの朝は早い。軍人だったころの癖が抜けきらないのもあるが、教師としての
職務だけに飽き足らず、趣味の研究までしているのだ。時間はいくらあっても足りず、睡
眠時間を削ってまで日々を過ごしている。
 そんな彼を義娘はいつも叱る。もっと体を大事にしなさいと。
 食事に頓着をしない彼のために栄養を考えた食事を作り、風邪を引かぬようにと冬には
拙いながらもマフラーを編んでくれる。
 実にできた娘だった。コルベールにはもったいないほど、優しく育ってくれた。

 義父が、過去に彼女の村を焼いたとも知らないで。

 義娘の優しさに触れるたび、コルベールは言葉では言い表せぬ痛みを何度も胸に抱いた。
 彼の体を気遣う優しさが痛い。彼の背中を追って同じ教職を選んだという尊敬が痛い。
父と慕ってくれる愛情が痛い。ことあるごとに向けられる笑顔が痛い。

 何よりも許せないのは――一瞬でも罪を忘れてしまいそうになる自らの心の弱さだった。

 その度にコルベールは己の罪深さを心に刻む。彼女は、罪の証なのだと。

 窓から差し込む光に目を細め、コルベールの思考は中断された。いつの間にか、太陽は
ずいぶん高く上っていたらしい。時計を見れば、もうすぐ授業の時間だった。

「やれやれ」

 ぎい、となる椅子から立ち上がると、傍らに畳んでおいたマントを羽織る。その動作は
のろのろとしたもので、どうにも気が乗らない様子だ。
 別段、コルベールは授業に行くのが嫌なのではない。かつて血に濡れた手で何を教える
と思わないでもないが、だからこそ、子供たちには学んで欲しいのだ。魔法で壊す以外の
何かを。
 だが、それを教えるべき生徒たちは今たったの半数しかいない。コルベールが嫌う血で
血を洗う戦争のせいで。
 糞くらえだった。彼らのうち、何人が戻ってこれるというのか。戻ってきたとしても、
その罪に耐えられぬものは必ず出てくるはずだ。コルベールと同じように。
 怒りのせいだろうか。誰もおらぬ廊下を歩くコルベールの鼻を、忘れかけていた硝煙と
血の匂いが掠める。聞こえぬはずの悲鳴が耳に届き、感じるはずのない感触が腕を伝う。
 知らぬ間に、手は杖を硬く握り締めていた。まるでこの先の廊下の角で誰かに出会った
としても、すぐに対処できるように。

「何を馬鹿な」

 かぶりを振って自らに言い聞かせたが、一度心についた火は容易に消えそうになかった。
もはや、足音だけでなく衣擦れすらも消している。
 そうして、自らが作り出した静寂の中、ようやくコルベールは気づいた。

「……っ静か過ぎる!」

 なぜ気付かなかった――胸のうちをつく焦燥。走りながら、コルベールはマントを脱ぎ
捨てた。
 これは、戦場の空気だ。

385 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:01:37 ID:ECRxxlmx
II/
 メンヌヴィルにとって、女子供しかおらぬという学院の制圧など、ひどく気乗りしない
任務だった。彼が望むのは強者との戦い。無論、女子供の焼ける匂いは凡百の男を燃やす
よりはよほどメンヌヴィルを興奮させるが、それは渇いた喉を潤すには程遠い、その場し
のぎにしか過ぎない。
 今でも彼は思いを馳せるのだ。目の光を奪ったかつての上官を焼いてみたいと。
 その妄想に比べれば、実の燃える匂いなどすべて屑のようなものだった。届かないと、
メンヌヴィルに思わせたのは彼だけだったし、実際届かなかったのも彼だけだった。
 その至上をわずかでも連想させるために、メンヌヴィルはいまだ傭兵などという仕事に
ついているのかもしれない。

「さて、そこのお前はどう思う?」

 震える炎の少女を前に、メンヌヴィルは空を見ながら問いかけた。答えを期待したわけ
ではない。この少女に期待することなど、せいぜいいい匂いで焼けてくれと思うぐらいだ。
 そしてその予想通り、少女は問いかけに答えることはしなかった。恐怖に身を竦ませ、
怯えているだけだ。
 視線を外している内に逃げようとも立ち向かおうともしない。もっとも、彼の瞳は既に
死んでいる。故に見ていようがいまいが変わりないのだが。

「ふむ、同じ炎使いなのが仇になったか」

 少女の炎は、実に立派なものだった。力の程は大したことはなかったが、応用力が素晴
らしい。非力を理解し、状況に即して行使する魔法を選ぶ判断の速さで言えば、メイジと
してならかなりの腕になるだろう。あるいは目が見えていたころの彼ならば、負けるまで
いかずとも、深手を負っていたかもしれない。
 だが、その秀でた判断力が今となっては仇となる。少女は震えていた。わかるのだろう、
二人の間にある絶対的な力の差が。メンヌヴィルがかつて思い知ったように。少女もまた
メンヌヴィルとの力の差を知ったのだ。

「惜しいな。あと五年、いや、三年遅ければ、それなりの勝負になったやしれぬものを」

 言葉とは裏腹に、その口調は実に楽しげだった。強者との戦いも面白いが、前途ある
才能あふれる若者を焼くのも、メンヌヴィルの趣味には実に合致する。
 愉悦に口を歪ませルーンを唱えると、煌々と辺りを照らす巨大な火球が頭上に浮かぶ。
 人一人を燃やすには、明らかに過剰な火力だった。これでは肉が焼けるどころか一瞬で
骨まで燃えつきてしまうだろう。だが、刹那に消える儚げな匂いもまた乙なものだ。

「花火のように、白炎に消えろ」

 そうしてメンヌヴィルが杖を振り下ろし――一面は炎に包まれた。肌を焼く熱気の中、
メンヌヴィルは強く息を吸い込む。鼻がひりつくがかまいはしない。一瞬で消える匂いを
楽しむためならば、多少の火傷などむしろ望むところだった。
 だが、その望むべき匂いはいつまでたってもやってこない。ただ鼻に届いたのは、想像
以上に強い肉の焼ける匂い。
 これほどの炎を放ったのだ。機を逃し匂いを嗅ぎ取れぬことはあっても、こうまで肉が
焼ける匂いが続くことなどあるはずがない。
 訝しんでメンヌヴィルは獲物の温度を探った。が、放った炎が余りに強烈だったせいで
うまく感知できない。

「っち」

 舌打ちして、メンヌヴィルは聴覚に意識を集中させた。炎のはぜる音は確かに邪魔だが、
温度と匂いに頼るよりはマシだった。その中で、彼は風の音とありえぬ声を聞いた。

「大丈夫だったかい」

「――お父さんっ!!」

 それは、かつての上官の声だった。

386 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:02:15 ID:ECRxxlmx
III/

「コルベール、コルベールコルベールコルベール! 炎の蛇、隊長殿!!」

 歓喜の声でメンヌヴィルは叫んだ。興奮のあまり、今にも襲い掛からんばかりの勢いだ。
 それがわかっていながらなお、コルベールは振り返ることを拒んだ。目の前には怯えた
我が子がいるのだ。警戒は忘れない。だが、幾百の敵を打ち払うより、娘の心を守ること
をコルベールは選ぶ。
 身に纏っていた風の魔法を解除すると、コルベールは優しく娘に語りかけた。

「さあ、逃げなさい」

「でもお父さん、やけど、ひど、あ、そんな、ダメだよ、死んじゃうっ!」

 だが、守られたのはまたしてもコルベールのほうだった。助かったことよりも何よりも
先に、まず父親の心配をしたのだ。震える指先は、焼け爛れた皮膚を気遣うように何度も
何度も中空で撫でるように行き来した。涙を流してないのが不思議だった。
 思えば、この子が最後に泣いたのはいつだっただろうか。コルベールにはもはや覚えが
ないほど昔のことだ。その子が今、涙を流さず泣いている。
 そうして決意を胸に秘めると、娘を案じる父親と部下に命令する上司の中間のような、
例えようのない中途半端な笑みを浮かべ娘の頭を撫でると、コルベールはひとつ頷いた。

「心配ない。後ろの彼は僕が倒そう。生徒たちの安全は任せた」

 その言葉に、娘は息を呑んだ。思案しているのがわかる。自分も戦うと考えてるのか、
あるいは、一緒に逃げようと言おうとしたのかもしれない。聞けばきっと自分はそれを
受け入れてしまうだろう。
 残り少ない後ろ髪を惹かれる思いで娘の顔を視界から追い出すと、コルベールは即座に
立ち上がる。振り向けばわかった。そこにいたのは、かつて己を殺そうとした部下だった。
 あまりの皮肉さに、コルベールは人知れず臍をかんだ。折りしも、部下が襲い掛かって
きたのは娘の村を焼き払ったときだ。
 過去はいつまでもその背に付きまとい、思いがけぬ時に現在に襲い掛かってくる。

「せめて、すべて私に咎が来ればよいものを」

 かぶりを振って、コルベールは呟いた。声量に反し、そこには隠しきれぬほどの怒りが
込められている。その矛先は、自分であり、メンヌヴィルであり、天にいる神であった。
 あの子から母を奪ったのは誰だ。故郷を奪ったのは誰だ。炎で全てを失った子に、炎の
才能を与えたのは誰だ。そんなあの子に、再び炎と相対させたのは誰だ。

「どうした、早く行きなさい」

 この場から娘を逃がそうとするのは、何もその身を案じてばかりのことではなかった。
怒る自分を、過去に戻ろうとする自分の姿を、コルベールは見せたくなかったのだ。
 その声の硬さに気づいたのか、娘は立ち上がると、ようやく学院のほうへ走り始める。

「誰か呼んでくるから! だから、それまで絶対死なないでね、おとーさん!!」

 口の端に、笑みが浮かぶ。まったく、自分は恵まれすぎている。それこそ、今死んでも
いいくらいだ。
 猛る心を落ち着かせて守るべきものを心に刻み付けたコルベールは、全ての神経を目の
前の敵に集中させた。

387 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:02:58 ID:ECRxxlmx
「待たせね」

「は、かまわんさ。会えぬと思っていた貴方に今再びまみえることができたのだ、不意を
ついて焼いてもつまらなすぎる。それに今生の別れだからな。
 しかし驚いたぞ、隊長殿。貴方にまさか娘がいたとは。年のころはせいぜい二十歳か。
あの事件のあとに妻でも迎えたか?」

「血の繋がりはないさ。彼女は……あの事件の数少ない生存者だ」

「は、はははははは! なんと、なんという馬鹿げたことをしているんだ、隊長殿!
 まさか焼き残しをしたはおろか、その生き残りを引き取って育てるとは! 命令に反逆
するなど、俺の知る隊長殿では考えられんわ」

 呵々大笑するメンヌヴィル。それを見て、コルベールは直感的に悟った。この男もまた、
あの事件の裏側を知っていると。
 杖を握り締め、コルベールは眼前の敵を強く見据える。

「そうだな、お前の知る炎の蛇はもういない。今ここにいるのは、ただ一人の父親だ」

「それは同情か? 贖罪か? あるいは、自虐の趣味でもできたのか?」

 メンヌヴィルの隠そうともしない嘲りを受けてなお、コルベールの表情の表情は凪いだ
ままだった。だが、その内心は違う。自らの侮辱などどうでもいい。ただ、娘を傷つけた
この男が一秒でも長く生きていることが耐えられなかった。
 顔では表せぬほどの激情がコルベールの胸のうちにはあった。同じように、抑揚のない
声でコルベールは語りかける。

「そのどれかかもしれないし、全てかもしれないし、どれも当てはまらないかもしれない。
私自身にもわからないし、一生わかるつもりもない。お前が望むような答えを、私は持ち
合わせてはいないんだ。だから、言えるのはただひとつだけ。
 一応聞いておこう。メンヌヴィル、降伏するつもりはないか?」

 犬歯もあらわに笑い、メンヌヴィルは杖を突きつけた。

「痛みや熱に浮かされ狂ったか、隊長殿。まさか本気で言ってるわけではあるまい」

 一言ルーンを唱えれば、即座に炎が飛び出してくるだろう。
 そのような状況において、コルベールは、盲しいているというのによく正確に切っ先を
向けられるものだな、とどこか遠くに思いながら、なんとその瞳を閉じた。
 瞼の裏に映るのは、自分が殺した妊婦の姿。炎に焼かれながらもお腹を庇い、そうして
死んでいった。任務でなければ、到底できるはずもないむごい仕打ちだった。
 ――その任務は嘘だった。すべてに裏切られたコルベールがその胎の子が生きていると
聞いたとき、彼は決めたのだ。彼女の万難を焼き払う炎になることを。
 再びコルベールが目を開く。その顔には、笑みが浮かんでいた。メンヌヴィルに劣らぬ、
獰猛な獣の笑みだ。

「そうか、それはよかった」

「は?」

 呆けた返しをするかつての部下に、その手に杖が握られていることが不自然に思えるほ
ど優しい、それこそ生徒に者を教えるような口調でコルベールは語りかけた。

「何、“僕”はどうにも娘のことになると短気なようでね。オールド・オスマンの傍など
近寄らせたくないほどなのだ。まして娘を傷物にしようとした男を許せるほど、“僕”の
気は長くない。だから言ったんだよ。
 ――お前が降参してくれなくてよかった、と」

 言って、コルベールは駆け出した。哄笑とともにメンヌヴィルが迎え撃つ。
 二十年越しの戦いが、今始まる。

388 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:03:45 ID:TCTq6+1K
IV

 戦いはまず機先を制することから始まる。既にして炎に焼かれてしまったコルベールの
不利は否めない。体力にも余裕がない。長引けば長引くほど、コルベールの敗色は濃厚に
なっていく。まして、二人の間には二十年もの実戦の月日が隔たれている。
 相手は盲人、反応できぬ接近戦で一気にけりをつける――そう判断したコルベールは、
長い杖をレイピアのように見立て、メンヌヴィルの太い首に杖を突き出す、と見せかけて
その足元を狙った。
 フェイントだった。いきなり接近戦を挑む奇襲に加え、上半身、それも一撃で戦闘力を
失える首への攻撃に意識を集中させ、その反対に相手の足をまず奪う。
 盲人相手に慎重すぎるかも知れぬが、体格差は余りにも歴然としている。偶然の一撃が、
コルベールにとって致命傷にならぬ保証はない。
 限られた体力の中にあって、コルベールのかつての冷徹な思考が蘇っていた。
 だが、メンヌヴィルはそのコルベールの予想の上をいった。杖を突き出すのにあわせ、
すっと足を後ろにやったのだ。
 体重を乗せた突きが空振り、杖が固い地面に突き刺さる。驚愕に目を開くコルベールの
無防備な腹を丸太のような蹴り足が襲う。
 だが、一撃をかわされた程度で負けるような者が、どうして特殊部隊の隊長にまで昇り
つめられよう。それが例え過去のことであっても。
 襲い掛かる蹴りを冷静に眺めながら、コルベールは体重が乗せられた杖に力を込めた。
いや、正確には、その力の向きを変えたのだ。前に傾いでいた体が、ベクトルを変えられ
メンヌヴィルの左側面から離れるようにと流れていく。
 無造作とも思われた一撃は、そのままコルベールの回避手段に繋がっていたのだ。

「っく」

「ちっ」

 同時に舌打ち。お互い、今の一撃を外したのは大きい。
 コルベールは大きく体力を削られ、メンヌヴィルは相手を倒す絶好の機会を失った。
 だが、それでも有利なのはやはりメンヌヴィルだ。圧倒的な体力の差がある。

「どうした、隊長殿。もう息が上がっているぞ」

 答えず、答える余裕もなく、コルベールはルーンを唱える。今の一撃でわかった。敵を
盲人と侮り接近戦を挑んだのは過ちだった。彼の感覚は、確かにコルベールを捉えている。
 残りわずかな体力でメンヌヴィルを打ち倒すのはもはや無理だろう。不利を承知して、
魔法で挑むしかなかった。
 コルベールの杖先に長い炎が生まれる。火球をいくつも連ねたその様は、うねる蛇腹を
連想させた。コルベールの二つ名でもある炎の蛇。破壊しか巻き起こさぬ赤い炎。

「は、はははは! ようやくだしたか、隊長殿! それだ、それを見たかったのだ。俺の
光を奪った炎の蛇。
 格闘など捨て置け。それではつまらん、炎で来い。さあさあさあ、俺はずっと、それを
殺したくて仕方なかったんだ!
 今ここに、俺はようやく過去を越える!!」

 笑いながらルーンを唱えたメンヌヴィルの周りに浮かぶ白々とした五つの火球。恐らく
その温度は、優に千を超える。ちりちりと傍に立つメンヌヴィルの肌すらをも焼いている。
 それだけの炎を生み出しているメンヌヴィルの精神にはどれほどの負荷があるのだろう。
だというのに、彼が苦しむような気配はまるでなかった。魔法を維持するだけで額に汗を
滲ませているコルベールとは、余りに対照的だ。

389 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:04:37 ID:TCTq6+1K
「行けっ」

 長引かせるのはまずいと判断したコルベールがまたしても先手を取る。陽炎を纏う炎の
蛇が、獲物を狙うようにメンヌヴィルに向かって突き進む。言葉もなく、メンヌヴィルは
杖を振った。白炎の球が蛇を襲う。
 一つ。蛇はメンヌヴィルの炎など意に介さない。
 二つ。その炎すら飲み込んで、蛇は大きくその体を成長させる。
 三つ。さら巨大化した蛇が、赤から白へと色を変える。
 四つ。色が、完全な白に変わる。
 五つ、つまり最後の火球を飲み込んだところで、コルベールは蛇の制御を手放した。貴
重な体力を振り絞って生み出した炎の蛇だが、このままでは先に自分が潰れてしまう。
 蛇が、悲鳴のような爆音を残してあたり一面に炎を撒き散らした。
 沸騰した血液のようなそれを腕で振り払おうとして――首筋に感じた悪寒に従い、その
場を大きく飛びずさる。全力で、受身も考えず。
 本能は理性よりも正確だった。コルベールの死角、メンヌヴィルの背後から、六つ目の
火球が数瞬前までコルベールがいたところに襲い掛かったのだ。即座に飛び跳ねなければ、
命はなかっただろう。
 もはや、メンヌヴィルは体術でも魔法でもコルベールの御しきれる相手ではない。その
証拠に、後先考えずに逃げたはずのコルベールの右足は、墨のように炭化していた。

「ぐ、う……」

 額を脂汗が滝のように流れる。何とか姿勢を正そうとするが、もはや片足で立ち上がれ
るほどの体力はコルベールに残されていない。座りなおすことだけで精一杯だ。
 そうして、炎の壁のその向こうから、メンヌヴィルがその姿を現した。悠々と歩くその
様はもはや勝者のそれだ。顔には口が裂けてしまいそうなほど深い笑みが浮かんでいる。

「どうだ、コルベール! ついに俺は、お前の蛇を殺したぞ。白炎が蛇を飲み込んだのだ。
 ああ、このときをどれほど待ちわびたことか。俺の念願のひとつが、ようやく今ここに
叶ったのだ!! そして、残る願いは後ひとつ……貴様の、焼ける匂いを嗅がせてくれ」

 言って、再びメンヌヴィルの周りに火球が浮かぶ。流石にその色は先ほどとは違い赤い
炎ではあるが、底知れぬ精神力だけは十分伺える。余裕すら伺えた。
 たとえこの炎を凌ごうと、次の一手でコルベールは殺される。
 コルベールにできることは、座して死を待つだけだ。

 ――そう、炎を凌ごうとするのであれば。

「メンヌヴィル」

 顔を伏したコルベールの問いかけ。無視して炎で燃やせばいい。だが、勝者の余裕から
メンヌヴィルはその声に答える。

「なんだ、コルベール。かつて部下だったよしみだ、末期の言葉なら聞いてやろう」

 っく、と低く喉から漏れる息を、メンヌヴィルは確かに聞いた。まるで嗚咽のような声
だ。だが、目の見えぬ彼にはわかる。
 それは、嘲笑だ。

390 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:05:38 ID:TCTq6+1K
「死を前に狂ったか? まあいい、残す言葉がないのなら――」

 死ね。そういう前に、コルベールが面を上げた。強い意志でメンヌヴィルを睨み付け、
その手に杖を握り、

「さようならだ、メンヌヴィル」

 コルベールの頭上に炎が生まれた。あまりにか細い、吹けば消えるような小さな炎。

「は、はははは。やはり狂ったか! その程度の炎など俺の前では塵に等しい。
 確かにさようならだ、コルベール。さあ、お前の匂いを嗅がせてみろ!!」

 メンヌヴィルの杖と、意思に答え、火球がコルベールを襲う。対するは、今まさに風に
吹かれ、鬼火のようにゆらゆらとゆれる炎。
 だが、消えるのを待つまでもない。その前にメンヌヴィルの火球に飲まれて消える。

 だがなぜだろう。放ったはずの火球の温度が、どんどんと弱く小さくなっていくのは。
 なぜだろう。小さかったはずの鬼火の温度が、どんどんと強く大きくなっていくのは。

「これは、竜の血?」

 優れた嗅覚を持つメンヌヴィルの鼻が風に漂う異臭を嗅ぎ取った。そうして、気づいた
時には遅かった。メンヌヴィルの五感は、逆流してきた炎の中に囚われた。

V/

「優れた蛇は、温度だけでなく風をも読む。目先の勝利に溺れた貴様は、風を読み間違え
たのだ、メンヌヴィル」

 炎に焼かれ、悶え苦しむかつての部下を眺めながら、冷静にコルベールは評価した。
 蛇は、臥して獲物を狙う。それを忘れたメンヌヴィルの手から勝利がすり抜けたのは、
もはや自明の理と言える。
 戦いを楽しむ者と勝利を目指す者。その違いが、勝負の明暗を分けたのだ。

「かつて上官だったよしみだ。教えてやろう。
 炎はな、風のないところ、真空では燃えぬのだ。そして真空には空気が流れ込む。そこ
に錬金した燃料油を流し込めば、どのような火種だろうと爆炎になる。
 エンジン――貴様は知らぬだろうが、それの応用だ」

 それは、かつてコルベールが使っていた「爆炎」に酷似していた。違うのは、炎炎土で
はなく、炎土風に変えただけ。辺りの水蒸気を、コルベールが知る燃料油ではなく、更に
気化、炎上しやすいガソリンに錬金。その上でゼロ戦のエンジンからヒントを得た気圧差
を利用してバックドラフトにも似た状況を引き起こす。
 サイトから聞いた異界の技術などからコルベールが開発した、新たな殺戮魔法だった。

「すまないな、サイト君。私はどうにもこのようなことしかできぬらしい」

 地面の上から空を見上げ、主に従い遠く戦場へと赴いた少年に詫びる。
 そうして空を見上げたまま、コルベールはゆっくりと大地へ仰向けに倒れていった。

391 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:06:35 ID:TCTq6+1K
VI/

 炎に焼かれながら、メンヌヴィルは笑った。もはや声帯までも焼け付き、呻き声にしか
聞こえぬが、確かにメンヌヴィルは笑っていた。

「素晴らしい、やはり貴様は素晴らしい、コルベール!
 届かぬ。届いたと思ったが、やはり届かなかった。真にお前が焼ける匂いを、ついぞ俺
は嗅ぐことができなかった。それがどうしようもなく嬉しい! やはり俺は間違っていな
かった。お前に目をつけた俺は、間違ってなどいなかったのだ」

 声帯すら振るわせず、心だけ、己だけに向けた言葉をメンヌヴィルは絶叫する。肉すら
沸騰し、蒸発していく中でメンヌヴィルはただ己の正しさだけをかみ締めていた。
 そうして――気づく。

「ああ、この、匂いだ」

 夢にまで見た理想の匂い。届かないはずのその匂いが、今、メンヌヴィルの鼻にある。
 気づけば簡単だった。メンヌヴィルが燃やしてしまった時点で、その匂いはもはや届く
ものでしかない。どれほどの強者であろうと燃やしてしまえば、嗅いでしまえば、それは
届かぬ匂いではないのだ。
 では、真に届かぬ匂いとは、望むべき匂いとは、メンヌヴィルが勝てぬはずの相手から
もたらされるのではないだろうか。そう、自らを焼くほどの炎の使い手に燃やされること
こそ、ずっと彼が望んでいた結末だ。
 それが、メンヌヴィルが傭兵を続けていた理由だった。
 なら、もう生にしがみつく必要はない。

「さらばだ、隊長殿」

 そうして、灰だけを残してメンヌヴィルの肉体はこの世から消え去った。




VII/
 アニエス。アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン。トリステイン王国銃士隊隊長。

 そして――ダングルテールの生き残り。

 炎に過去を故郷を焼かれた彼女は、何よりも炎とそれを扱う火のメイジを憎む。だから、
彼女はコルベールとメンヌヴィルとの戦いが始まろうとするのを目の当たりにしたとき、
迷わずその背後を撃つことを決めた。
 無論、コルベールが教師であり、メンヌヴィルが学院における異邦人であることなど、
一目見ただけで看過できる。そして、二人が炎のメイジであることも。
 幸い、メンヌヴィルの注意はコルベールばかりに注がれていたため、背後を取るのは
容易だった。有効射程からはいささか距離はあるが、位置的にはそこがベストだ。
 コルベールが勝てばよし。負ければ、そのときは背後から奇襲を。
 敗北が死に繋がることなど容易に想像できるが、それがアニエスの下した判断だった。
 幸いにも、勝負はコルベールの勝利に終わった。メイジ殺しと称されるアニエスの背に
冷たい汗が流れるほどの勝負に、無傷とは言わないまでもコルベールは勝利したのだ。
 なれば、好かない相手でも捨て置くわけにはいくまい。いつの間にか白んでいた手から
なんとかして銃把を取り離すと、いまだ熱気覚めやらぬ中庭をアニエスは歩んでいく。



392 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:07:53 ID:TCTq6+1K

「これは……」

 近寄ってみれば、コルベールはひどい有様だった。所々醜く焼けただれ、服が肉に張り
付いている。ひどいのは右足だった。完全に炭化し、もはや崩れかかっている。
 これだけの傷を負ってよくも――アニエスの背筋に戦慄とも憧憬ともいえぬ、不思議な
感情が走った。
 痛みは精神の集中を乱す。相手の魔法を崩す際、それをよく多用するアニエスにとって、
この目の前の男はあまりに規格外だった。
 だが、驚いてばかりもいられない。アニエスに施せる処置などほとんどない。早く水の
メイジを呼んで、治療してもらうしかない。

「意識を失ってるのが幸いしたか」

 言って、男の傍らに膝を付く。呼ぶ前に、することがあったのだ。肉と服が完全に溶け
合う前に、それを引き剥がさなくてはならない。本来は清潔な布でもあればいいのだが、
そんなものはどこにもない。陛下からいただいたマントで代用するしかない。不本意だが。

「まったく、なぜ私が炎使いなどのために――」

 愚痴りながら、コルベールの身を起こそうと首に手を回し――



VIII/

 指揮官がいないのが幸いだった。もはやメイジが残っていないと油断していた敵部隊を
銃士隊と協力して襲撃した。
 各々は際立ったメイジであろうと、指揮系統が混乱したままでは対処など間々ならない。
連携だった攻撃を受け、彼らはたやすく瓦解した。無論、生徒たちに被害はない。少なく
とも肉体面に限った範囲でしかないが。
 だが、それを喜ぶ暇など彼女にはなかった。父が命の危険にさらされているのだ。例え
あの偉丈夫に勝利しようと、あの火傷は命にかかわる。いや、そもそもそれ程の傷を負っ
て戦いに挑むことすら無謀だったのだ。
 オールド・オスマンに後の頼み、教師、生徒を含む数人のメイジと銃士隊の面々を連れ、
幸い、アルヴィースの食堂から中庭までは、それ程遠くはない。
 焦りを胸に、全力でその距離を駆け抜け中庭に着いた彼女が見たのは、もはや面影しか
残らぬ焼け焦げた中庭と、倒れた父親、そして、倒れた父の傍らに佇む騎士風の女性だけ
だった。彼女を焼こうとしたメイジはどこにもいない。
 あるいは父を倒した後にどこかへ行ったのか――そのような益体もない思考が脳裏をよ
ぎるが、とにかく、父の生存を確認するのが先だった。生きているなら、一刻も早く治療
しなくてはならない。そのための水のメイジも連れてきてあるし、彼女もさほど得意では
ないが多少の治療魔法の心得はある。
 いや、そもそも倒れた父を見た瞬間に、そのような判断をすべて投げ捨てて彼女は走り
だしていたのだ。
 だから、その騎士風の女性に銃を突きつけられたとき、彼女は立ち止まることも、何故
と問うこともせず、ただ走って「邪魔だ」と、その手を払いのけた。
 止まれるはずもなかった。彼女はただ、父親を救いたいだけなのだから。
「お父さん、大丈夫!? よかった、まだ息がある。安心して、絶対助けるから!」

 連れ立った他の者が困惑する中、彼女はただ癒しのルーンを唱えた。水の秘薬を用意
することなど思いつかない。そんな鬼気迫る様子だった。

「父、だと? そいつが、貴様の?」

 その声はどうしようもなく震えていて、それでもアニエスの問いかけに答える余裕は彼
女にはない。背後で銃口を構えなおす気配がしたが、精神を削って治療を続ける。

「貴様は、そいつが昔何をしたのか知っているのか!! そいつは、そいつはな、私の、
ダングルテールの村を焼き捨てたんだぞ、村人ごと全部!!」

393 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:08:59 ID:TCTq6+1K

 動揺が全員に伝わるが、構わない。助力が得られないなら、その分は自分で補えばいい。
肌に張り付いた焼け焦げた服をはがしながら、彼女は額に浮かんだ汗をぬぐう。
 不得手な水の魔法を、既に数度炎を放った後で使っているのだ。負担は大きい。だが、
あきらめない。

「おい、きいているのか、そいつは――」

 ついに、聞く様子を見せない彼女の肩に、アニエスの手がかけられた。無理矢理にでも
治療をやめさせたいのか、強引に自分のほうへと向き寄せようとする。
 もはや限界だった。これ以上集中を削がれては、残りわずかな精神力を無駄に浪費して
しまう。
 そしてそれ以上に――この騎士が彼女は許せなかった。

「うるさいわね、知っているわよ、そんなこと!!」

 かけられた手を振り払う乾いた音が中庭に響く。いまだ残る炎のはぜる音にかすれて消
えたが、なぜか強く耳に残る。そんな音だった。
 思った以上に力を込めていたらしい。叩いた手を見れば、自分でも驚くほど赤くなって
いた。払われた相手もこのような反応をするとは思っていなかったのか、愕然と目を見開
いている。手の甲をさすりながら彼女は言った。

「知ってるわよ、そんなこと。お父さんが昔特殊部隊にいたことも。その命令で、ダング
ルテールって村を焼いたことも。
 そして――私がその生き残りだってことも。
 ……お父さんは、私が知ってることを知らないけどね」



IX/

 だから、邪魔しないで――そう寂しげに笑った少女の言葉を、アニエスは理解できなか
った。生き残り、ダングルテールの生き残り。それは、自分だけではなかったのか。
 混乱のあまり、足元がふらついた。その背を部下が支えたが、それにも気づかず、
アニエスは低く呻く。

「なぜ、なら、なぜ助ける。そいつは敵だ。なら、殺さないと。皆の敵を、討たないと」

 それは、自らに言い聞かせるような、呪文じみた言葉だった。ルーンではない。自らの
身をも焦がす呪いの言葉だ。

 それを、ダングルテールの生き残りなら、誰もが持つべきではないのか。

 すがるような視線で、アニエスは少女を見た。そこにはもう寂しげな笑みはなかった。
ただ真っ直ぐにアニエスを見据えその瞳で父を助けるのだと物語る。
 息は荒く、顔中に汗をかいているというのに、どう見たって疲れ果てているようにしか
見えないのに、なぜだかアニエスは彼女を綺麗だと思った。思ってしまった。
 そしてそれで終わりだ。もう、彼女に、そしてその父親に銃口を向けられない。
 のろのろと懐に銃をしまい、その代わりに傷薬を取り出すと、少女に向かって放り投げ
る。受け取った彼女が目を白黒させている間にマントの留め金をはずし、その間抜け面を
覆い隠す。

「傷薬だ。やけどに効くかどうかわからんが、ないよりマシだろう。それとマントもやる。
血を拭うなり、止血するなり好きに使え」

 言ってアニエスはその場から離れていった。ついて来ようとした部下に身振りだけで手
助けを命令し、一人中庭を後にする。
 たった一人の生き残り。そうではなかったという事実だけを胸に抱いて。

394 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:09:34 ID:TCTq6+1K
X/

 意識を取り戻した後、コルベールは盛大に娘に怒られた。かばうのはいいが、ちゃんと
自分も怪我しないようにしろ。嬉しかったけど。重傷なのに戦うなんて馬鹿げてる。私を
信用してないのか。一緒に戦えばよかった。心配させないで。一緒に逃げればよかった。
死んじゃうと思った。私の結婚式を見たくないのか。いや、相手はいないけど。
 盛大な娘の愚痴は、一時間にも及んだ。オールド・オスマンのとりなしがあれば、その
倍は硬かっただろう。苦笑を浮かべるほかない。
 奇跡的としか言いようがないだろう。コルベールは一命を取り留めた。治療に当たった
メイジいわく、渡された傷薬の質がよほどよかったらしい。それがなければ、おそらくは
助からなかったろうと言われたほどだ。
 当然だろう。魔法が使えぬ銃士隊。魔法で癒せぬ銃士隊。その隊長のアニエスが渡した
薬が悪いはずもない。
 ただコルベールが気になるのは、なぜそれほどのものを仇の自分に使わせたのかだ。
 聞いたのだ。彼女もまた、ダングルテールの生き残りなのだと。だから問いたかった。
なぜ自分を生かしたのかと。
 だが、それを問う前にアニエスは学院を去っており、父の咎を知らぬ娘には尋ねられず、
結局謎は謎のままだ。そしてコルベールには確信にも近い予感がある。
 自分がそれを知ることは一生涯ないだろうと。

「ちょっと、お父さん、聞いてるの。言っておくけど私、まだ許したつもりないからね」

 それまでの疑問も忘れ、コルベール笑った。ただ、娘と再びこうして喧嘩できること。
その幸運がたまらなく嬉しい。足を一本失ったが、代償としては軽いものだ。
 所詮この身は蛇。腕も足も惜しくない。
 この年になると、いくら魔法の義足でも体力が間に合わない。恐らく不便を強いられる
普通の義足をつけることになるのだろう。リハビリも辛く険しい。
 それでもコルベールは後悔しない。罪を忘れたわけではない。己に幸せが不釣合いなの
もわかってる。それでも、ただ娘の無事だけを喜んで、コルベールはもう一度微笑んだ。


――END――

395 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:10:16 ID:TCTq6+1K
以上です。
エロなし、オリが少し含まれているのに長々トレスを占有して申し訳ありませんでした。

396 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:25:04 ID:oZdcoLX6
GJ。バトルもいいもんです。

397 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:25:28 ID:nxZMQHdi
>>365-375
目が汗にて湿り候

>>380
素直にビートルズじゃないのか常考
さあいますぐ"Please Mr. Postman"でぐぐるんだ

398 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:40:44 ID:lNWeFggV
>>397
ビートルズで年をとるといったら
When Im 64 じゃないの?


399 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:42:57 ID:Ehn3RBDt
ビートルズはカバーだね。自分はカーペンターズのカバーの印象が強いけど…

400 名前:29Q:2007/09/24(月) 00:45:28 ID:RYn9H+bN
投下してもよかですか?
短いけど。

401 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:46:40 ID:oZdcoLX6
>>400
確認しなくてもいいと思うよ。どぞ。

402 名前:お姫様の憂鬱:2007/09/24(月) 00:51:16 ID:RYn9H+bN
 それは、小さな体に潜むほんの小さな恋心。
 あの人は、私を救ってくれた。氷のような私を、溶かしてくれた。
 だから私は誓った。私は従者。私はあの人のために生きる。あの人に、全てを捧げる。私は、あの人のためなら何でも出来る。
 あの人のために生きる私は、あの人が幸せであればそれでいい。たとえ誰を好いていようと、あの人が幸せであれば、それでいい。……それで、いい。
 授業中だけど、私はあの人の横顔を見る。暇そうな表情で、時折欠伸をしているあの人。欠伸をしたことをご主人様に注意されている人。あの人は笑いながら謝ってて、あの人のご主人様は怒ってる。
 でも、私にはわかる。彼女は本気で怒ってない。彼女自身と、あの人に恥を掻いてほしくないから怒っただけ。たぶん、あの人は気づいてない。
 あの人、嬉しそう。ご主人様と話をして、とても嬉しそうな表情をしてる。それは私にとっても嬉しいこと。でも、少し胸が痛む。
 ううん、駄目。我慢しなきゃ駄目。私は、あの人の幸福のためにある存在。そんな私が、あの人の幸福の邪魔をしちゃ駄目。だから私は、この胸のモヤモヤにも耐える。
 あの人が幸せであればそれでいいんだから。あの人が幸せであれば、私はどうなっても構わない。
 私は従者。私があの人を守る。その為だったら、私がどんな風になっても構わない。
 あ、いつの間にか授業が終わってた。あの人を見てると、すっかり時間の流れが早くなる。
「今日も見てたのね」
 見られてたみたい。声の主は、私とは逆の豊満な体を持つ赤い髪が特徴のトライアングルメイジ。私の親友。
「健気ね……彼には相手がいるっていうのに」
 わかってる。
「叶わぬ恋かもしれないのよ?」
 え?
「それでもいいなら、私は応援するけどね」
 ありがとう。……じゃなくて、別に私はあの人とそういう関係になりたいわけじゃない。ただ、あの人の幸せを守りたいだけ。
 私の親友は、それがわかってないみたい。私があの人を狙ってるって思ってる。そんなんじゃないのに……。
 確かに少しはそういう思いもあるけれど、私が一番に願ってるのはあの人の幸せ。好きな人と一緒に、好きな風に生活を送ること。少しくらい夢も見たりするけれど、それ以上に私が願うのはそれ。

403 名前:お姫様の憂鬱:2007/09/24(月) 00:52:22 ID:RYn9H+bN
「この犬ーーーーーー!!!」
 突然聞こえてきたのは、あの人のご主人様の叫び声。その後すぐに、あの人の悲鳴と爆発音。たぶん、いつもどおりの折檻。折檻に伝説の力を使うなんて、ずいぶん無駄な使い方だと思う。
 大丈夫かな? あの人、無事でいるかな? あの爆発音が聞こえてくるたびに、私は心配になる。怪我とかしてなければいいんだけど。
 声と爆発音が聞こえてきたのは広場から。私は窓から、広場の様子を見る。
 やっぱり……。
 あの人は、ボロ雑巾みたいに倒れてる。そして倒れてるあの人を、そのご主人様はこれでもかというほど蹴ってる。
 許せない。
 折檻が終わって、あの人のご主人様は怒りながら自分の部屋に戻っていった。あの人は気絶して、意識を取り戻してない。
 どうしてそんな痛い目にあってまで、あの人はついていくんだろう。どうして痛い思いをしてまで、あの人はついていくんだろう。
 ううん、わかってる。疑問に思うのが間違ってるくらい。
 あの人は、優しいから。あの人は、とても優しすぎるから。だから守ろうとする。だから自分の身を犠牲にしても、守ろうとする。
 でも、あの人がご主人様を守るのは少し理由が違う。使い魔というだけだからじゃなく、別の感情があるから……。
 ……また、胸が痛んだ。
 あの人は、今が一番幸せ。痛い思いをしても、ご主人様と一緒にいられるのが幸せ。
 でも……。
 もしも……それが幸せでなくなったなら……。
 私が……。

404 名前:29Q:2007/09/24(月) 00:57:41 ID:RYn9H+bN
最近はクオリティ高い作品ばかりの投下ラッシュなのでこんなので大丈夫だろうかとびくびくしながら投下。
とりあえずタバサ好きなのでタバサものをもう少し書きたいぜ。
でもテファもいいんだぜ。
でもシルフィードも(ry
でもタバサだぜ。

405 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 01:00:31 ID:vqQVREEW
>>404
見る人の心しだいで純愛タバサかダークタバサかが分かれる不思議なラスト
もう少しと言わずタバサ書いてください。GJ!!

406 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 01:01:18 ID:oZdcoLX6
んー、GJ☆ 長いのばかり読んだ後には、こういうつまみ食いできる感じのもいいや。

407 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 01:07:56 ID:EZ/fbeiW
205氏。
涙腺の緩い男に、なんたる仕打ち!!
。・゜・(ノд`)・゜・。   GJ


あ、だからといって、*の件を許したわけじゃあないですからね??
きゅいきゅい。w

>>395
乙です。「娘」と聞いてツェルプトーを想像してしまいましたが、違いましたね。w
次回作も期待してますよ。

408 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 01:40:55 ID:5CoLjS49
後50KBと少しで新スレの時期ですね。
間に合うように書こう書こう・・・

今回、今まででかなりのハイスピード投下じゃないですかね?

409 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 01:59:03 ID:Ehn3RBDt
アニメすげぇ…ここまでやったら逆に尊敬するわ…

410 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 02:11:21 ID:La7OpMFS
アニメ・・・wwww
ご都合主義再びwww
そしてテファの出番が・・・wwwwwwwwwww

411 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 02:35:42 ID:AHAHrBmN
ふぅ。アニメスレで不満をぶちまけてこちらに帰還。

一言「酷かったな」

412 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 02:57:20 ID:vqQVREEW
そんな事より聞いてくれよ。俺のきゅいきゅい鳴く妹がアホでさ〜

413 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 02:58:35 ID:FQYqJj9m
>>412
よかったな。おめでとう!

テファの声……

414 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 03:37:19 ID:fE52Ylfc
「こんなのは慣れっこじゃないのかい、相棒」

415 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 06:43:47 ID:p52yq/CQ
>>412
時間でも跳ぶつもりか?

416 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 07:34:39 ID:hzdXRUOi
絶望したテファの声が能登麻美子で絶望した
全くあってない

話変わるけどなぜカトレアだけヴァリエール姓じゃないの?

417 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 07:38:41 ID:AHAHrBmN
>>416
まぁゼロ魔2は結論としてシャナの宣伝みたいな感じだからな。カトレアの姓
が違うのは確か自分の領土持ってるからとかゆうのは聞いた事あるが

418 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 09:07:52 ID:UHpIzipA
三連休なのにブログの更新ができねー
タバサとルイズの対決のつづきが書きたいんだが携帯だと指がもたんorz

419 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 12:07:37 ID:Mp0X2kTN
本当に500レス行かなそうだな・・


420 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 12:17:16 ID:MhsSf2bc
スレを早く終わらせるために職人さんが頑張ろうとするのはなんか違う気がするけど、
職人さんが頑張った結果としてスレが早く終わるのっていいね。

自分でも何書いてるのかわからないな。

421 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 12:20:59 ID:Wk3gF2zh
過程と結果を入れ違いにしちゃいかんということか

422 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 13:17:15 ID:FpN0nDha
投下時期が重なって、原作のやアニメの話題が減少傾向だからね。
スレの密度が自然と上がってるんじゃないかな。

423 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 14:54:05 ID:JAWIjAyT
そしていつか原作も終わって過疎になり
「ここも過疎って来たな」
「age」
「昔は職人さんがいっぱいたんだがな」
という展開に・・・いやだいやだ終わりたくないやい!

424 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 15:01:14 ID:K7NPYteR
まあ、それも仕方ないさ。
勢いがある内に思う存分楽しませて頂こう。
上のコルベール先生のSSも、元は別のスレから誘導されて来たものだし
当分は新規作家の枯渇は無いと思う……タブン

425 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 15:02:02 ID:ZEl8UC29
アニメの絶望感に反比例して投下量が増えてる気がするんだがw

426 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 15:15:36 ID:FQYqJj9m
アヌメの絶望感が俺達の力になる!

427 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 15:16:20 ID:xU/b/q/N
アニメの期待以上の裏切りのせいで
頭で脳内変換してた職人さんがたまった妄想をここに投下してると思うんだ

428 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 15:17:50 ID:AHAHrBmN
>>423
とりあえずMFの看板作品になったし暫くは終わらんだろうが・・・・

>>425-427
現実逃避最高w

429 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 15:18:38 ID:Wk3gF2zh
モット伯のような話しでもやればネタになるのにね

430 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 16:20:48 ID:sk9PZxEg
Nice Noto.

431 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 16:43:06 ID:vKGkxDGk
アニメが放映されてない東北の田舎者としては、
1話と6話(しか見てなかったりw)の女の子アニエスをニコ動で見れただけで
余は満足じゃがw

432 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 17:06:01 ID:icLV5k90
なんだかタバサ×サイトの純愛系を読みたい、と唐突に思った。
何方か職人さんが筆をとってくれる事を望む。


433 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 17:15:02 ID:D2a63m39
>>432
YOU 書いちゃいなYO!!

434 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 17:35:31 ID:FQYqJj9m
>>431
そのあたりでやめておくのが吉かと。
二期はその……く、釘みゅの迫真の演技だったぜ!は、ハハハ…

435 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 17:49:00 ID:AHAHrBmN
>>434
ナギの方が良いと思ってる俺がいる・・・。いや、犬犬うっさくて

436 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 17:49:43 ID:flrZmVzm
>>432
 タバサ→サイト→ルイズ
 タバサ←→サイト←ルイズ
 タバサ→サイト←→ルイズ

どっち方面なんだろう


437 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 18:01:05 ID:HzLNFFoU
コッパゲとサイトの対話書いたけどオチがない…

438 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 18:02:07 ID:HXhUGemL
タバサ←→サイト←→ルイズ←→タバサ

439 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 18:10:06 ID:MSTFjmw+
そういやあとひと月で都産祭だが
誰かせんたいさんのサークルの情報知らんか?
いつだったか都産祭でスペース出してるみたいな話してたと思ったんだが

440 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 18:37:36 ID:pcM8lxal
Wii←→ Wii←→シャー←→シャー

441 名前:サイトが魔法を使えたら(1/2):2007/09/24(月) 18:56:38 ID:flrZmVzm
ルイズのお許しをもらったサイトは、午後の数時間をタバサと過ごすように
なった。もちろんご主人さまの命令(いいつけ)どおり、魔法を教えてもらうだけである。

ガンダールヴの力の助けもあってかサイトの理解力はタバサの予想を超えていた。
系統魔法の基本の手引きは3日足らずで理解してしまったのである。
今は初中級者向けの系統魔法の教科書を使って勉強に励んでいる。

タバサは毎日必ずサイトとふたりきりになれることに喜びを感じていた。

「タバサ、そろそろ教科書ばっか読んでるもの疲れてきたんだけど、実践ってやんないのか。
使えなかったら意味がないだろ?」

タバサはちょっと困ったように答えた
「メイジとしてルーンを紡ぐためにはその媒介とするものが必要」

サイトは首をひねった。
「媒介?」

「つまり杖のこと---」

「あー杖のことなのか、俺はそんなのもってねーな。デルフは剣だからな・・・」

「オレは魔法を吸収できても吐き出せねえよ。もちろん杖じゃねえ」
唐突にデルフリンガーが二人の話に割り込んできた。
「しかしだ。相棒の前のオレの相棒は右手にある物を持ってそれで魔法の
ルーンを唱えてたな。今思い出した!」

「なんだよ、そのある物ってのは」
サイトはいぶかしげにデルフリンガーに聞いた。
「それはオレに聞くよか、そこの青髪のおちびちゃんに聞いたほうがいいんじゃねえかな」

「え?!タバサに!」
目を見開いてサイトはタバサのほうに視線を向けた。

442 名前:サイトが魔法を使えたら(2/2):2007/09/24(月) 18:57:12 ID:flrZmVzm
不意にサイトと目が合ったタバサは頬を染めた。想い人に見つめられると
こんなに心躍るものなのだろうか、この高揚感にすこし戸惑い気味なタバサだった。
「い、イーヴァルディが作ったとされるインテリジェンス・スピアがある。
名は、《グングニル》。」

「ほほー、おちびさん、ヤツの名前までご存知とは恐れ入りやのきしぼじん」
デルフはタバサに感心していた。タバサは今まで人から(デルフは剣だが)褒められる
ことがなかったのでちょっと照れくさくなってうつむいてしまった。

「なあ、相棒オレは、相棒の左腕なんだよ。つーことはだな、右腕ってのもある
そー思ったことねえかい」

「う〜ん、正直デルフを扱うだけで一杯一杯だったからな。考えたことなかった」

「ありゃ、そなの・・・でもよ、グングニルってヤツがいるのは確かなんだよ
まぁ、ちょいと変わった性格してんだけどな笑。これも今思い出したんだがね」

「ところでタバサ、そのグングニルってのは今どこにあるんだ?」
サイトは素朴質問をタバサに投げかけた。

タバサは少し微笑み、じっとサイトを見つめてこの槍のありかを告げた。
「ここ。この魔法学院にあるの」

443 名前: ◆LoUisePksU :2007/09/24(月) 19:00:16 ID:flrZmVzm
>>284のつづき。
連休は大阪行ってたもんで少なめ。
ルイズはお休みですw

つづきはまた今度。

444 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 19:02:48 ID:QpQUdaWF
乙です。
これからどんな展開に持っていくのか楽しみです。w

445 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 19:03:50 ID:Wk3gF2zh
そういえばガンダールブは槍も持ってたんだっけな
戦う時は振り回しづらくないのかねぇ?

446 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 19:20:10 ID:tS47PUO+
投下乙。


たまにはサイトとキュルケのカップリングも見てみたいな。
そんなことになったら、ルイズラスボスルートは確実だろうがw

447 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 19:22:59 ID:pcM8lxal
肉弾戦の時だけデルフとグングを合体させて

魔法戦の時
デルフ→盾
グング→剣
みたいな感じにしてたりとか?

448 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 19:31:33 ID:kF73yVzZ
『グングニール』で『ニール』がよいんじゃね?


……犬ごめん

449 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 20:22:17 ID:vqQVREEW
>>436
もう、必ずしもルイズに拘る必要も
無いのではないかのう……?

450 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 20:24:34 ID:Wk3gF2zh
>>449
つまりこういうことか

タバサ→サイト→オスマン←コルベール

451 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 20:24:47 ID:FpN0nDha
>>440
勇者王自重

452 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 20:57:34 ID:flrZmVzm
>>448 承知した。「グングニル」→「グングニール」にもっていく展開にする。

453 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 20:57:59 ID:N2mXTG29
      巨乳たち
        ↑
タバサ→←サイト→←ルイズ
        ↓
   サイトのオカンの味噌汁
↑(多分)
       コッパゲ

454 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 21:00:08 ID:N2mXTG29
ずれた!お詫びの俺の後ろの穴を使ってくれてもかまわんよシルフィ

455 名前: ◆LoUisePksU :2007/09/24(月) 21:01:54 ID:flrZmVzm
さっきあげた >>441 のつづき書いた。
どうやら相当書けなかったのでストレスがたまったらしい。
どんどん行かして頂きますよ。


456 名前:サイトが魔法を使えたら(1/3):2007/09/24(月) 21:03:07 ID:flrZmVzm
神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。

デルフから先代ガンダールヴが右手に槍を持っていたことを聞いた。
その名前がグングニルであるということをタバサから聞いた。
なんと、その槍はこの魔法学院のどこかにあるらしい。

持ち前の旺盛な好奇心でサイトはワクワクしていた。
「じゃあさ、早速その槍を探したいなっ、な、タバサ。学院のどこ探せばいいんだよ」
タバサはたしなめるように言った。
「あせっちゃ駄目。在り処のめぼしはついてるから」
ちょっとサイトはすね気味に口を尖らせた。
「ちぇー。ケチんなくってもいいじゃんよ」

タバサはなぜかそんなサイトがかわいいと思ってしまう。
そしてサイトにやさしく諭した。
「駄目。まだ外は明るすぎる。今夜、夜が更けた頃、探しに行くの」
タバサのやさしい口調にサイトは素直に反応した。
「そか、暗くないとだめか。分かった。タバサの言う通りにするよ」

「ん。じゃぁ、今夜、本塔入口で待つ」

「了解、タバサ隊長!」

すこしにこりと笑ったタバサにサイトはどきっとした。
やっぱりかわいいよ。タバサ。

457 名前:サイトが魔法を使えたら(2/3):2007/09/24(月) 21:03:56 ID:flrZmVzm
ルイズの部屋に戻ったサイトは夜が来るのを待った。
隣ですーすーとルイズの寝息が聞こえるなか、
サイトはそっと部屋から出て行った。

魔法学院本塔入口---
タバサは既に待合せ場所で待っていた。
サイトとふたりで待合せ。なんだがどきどきしてしまう。
夜という時間もこのどきどき感を高めているにちがいない。

そわそわしながらサイトがくるのを待った。
もしかしたらあのルイズに止められてしまっているかもしれない。
いやな予感がする---タバサはきゅっと唇をかんだ。

「おーい、タバサ。お待たせ。」
サイトは走ってきたらしい。タバサはいやな予感がはずれてほっとした。

458 名前:サイトが魔法を使えたら(3/3):2007/09/24(月) 21:05:30 ID:flrZmVzm
「早く行こうぜ」
「ん。」
タバサは塔の入口の鍵をアンロックで開錠した。

「あのさタバサ、どこに行くんだよ」

サイトは小声でタバサの耳元で囁いた。
サイトの息が耳にかかったのでタバサはびくんと身体が跳ねた。

「・・・・耳。くすぐったい」

「おわっ、ごごめん。ちょっと近かったか」

サイトに少し距離をおかれてしまった。
別にいやなわけではなかったが、なんか恥ずかしいのだった。
気を取り直してタバサは答えた。
「5階の宝物庫に行く」

459 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 21:55:23 ID:lNWeFggV
GJ

460 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 22:51:22 ID:NxY/5X0+
GJ!続き待ってる〜

アニメテファ………orz

461 名前: ◆LoUisePksU :2007/09/24(月) 22:56:29 ID:flrZmVzm
今夜はとことん行くぜ!
>>456続き投下開始っ!


462 名前:サイトが魔法を使えたら(1/4):2007/09/24(月) 22:57:15 ID:flrZmVzm
魔法学院本塔5階。魔法を使えばすぐに一飛びで行ける距離だ。
しかし、まだメイジではないサイトと一緒に走っていくしかない。
歩けばいいのにサイトは走り出してしまったのである。

身体が小さいタバサの体力は他の生徒と比べるとやはり少ない。
サイトは男の子なのでなおさら距離は開く一方だった。
だんだん息が続かなくなってきてタバサは走るのをやめてしまった。

はぁ、はぁ、はぁ---いっそのことフライを使ってしまおうか。そう考えた
矢先、先走っていたサイトがいつの間にかタバサのところに引き返していた。

「タバサごめん、おもっきりダッシュしてた。手を貸すよ。一緒に行こう」
サイトはそういうとタバサの小さな右手を握ってきた。
サイトの予想外な行動にタバサは顔を赤くした。

「え・・・・あ、ありがと」

力強くサイトに手を引かれながら宝物庫の前までやって来た。
二人の目の前には巨大な鉄の扉が聳え立っていた。

「で、でかい---」
その巨大さにサイトは息を飲んだ。
しかもその鉄の扉にはこれまた頑丈そうな錠前が付いていた。

「・・・」
タバサは無言で鉄の扉を見上げていた。

「ど、どうすんだ。どうやって入るんだ」
サイトはあせってタバサに聞いた。

「・・・だいじょうぶ。」
そう一言タバサは呟くとサイトの目の前にきらりと光る物を突き出した。

「か、鍵?!どうやって持ってきたんだよ--」
サイトがびっくりしてタバサへ問いかけた。

タバサは悪戯っぽく笑って、ヒミツ。と言った。

463 名前:サイトが魔法を使えたら(2/4):2007/09/24(月) 22:58:43 ID:flrZmVzm
ガチャンーーータバサがどこから持ってきた鍵で宝物庫の巨大な扉は開かれた。

目の前に広がる秘蔵ともいうべきお宝の数々にサイトは圧倒された。

「す、すっげーよ。まるで博物館じゃねーか!!!」
興奮するサイトのパーカをタバサはちょっとつまんでくいくいっと引いた。
「こっち、来て」

どうやら地球にある博物館と同じようにある程度分類された状態で保管されている
ようである。
物珍しさにキョロキョロしまくっているサイトを横目でちらちら見ながらタバサは目的の
場所へと歩いていった。

「たぶん、ここらへん」
二人は剣や槍などの武器を保管している場所にたどりついた。

「にしてもずい分あるなー。探すにゃ骨が折れそうだな〜」
言葉とは裏腹にサイトの目はキラキラと輝いている。

そんなサイトをタバサは微笑ましく見つめた。
「デルフリンガー」
タバサがサイトの剣の名を呼んだ。
「ん〜。なんだぁお呼びかい。おちびさん---こりゃまた懐かしい匂いの
する場所にきたもんだ。おでれーた!」

「お願い。槍を探してほしいの」

「ヤツを見つけりゃいいんだな。分かったよ。おちびさん。
じゃぁ、相棒。悪いだが俺を持ってくんねぇかな」
デルフはサイトに言った。

わかった。そう言ってサイトは左手でデルフを握った。
左手のルーンが光り輝いた。
すると宝物庫のある一角が光を放ち始めた。

「相棒、おちびさん。あの光がヤツの居場所さ−−−」
なぜか渋い声色でデルフが言った。

二人は言われるがままに光の下へと急いだ。

464 名前:サイトが魔法を使えたら(3/4):2007/09/24(月) 23:00:59 ID:flrZmVzm
タバサとサイトは光を放つ場所にきた。

2メイル半はある美しい木目が目立つ長い柄。そしてその先には昔のデルフのようにくすんではいるが、
鋭利な刃が付いていた。その槍の刃には何か文字が刻まれており、その文字が光輝いていた。

「よう、ひさしぶりじゃねか、グング。いつまで寝てんだよ。とっとと起きやがれ」
デルフは、懐かしい友人に冗談を言うように槍に話しかけた。
すると、槍がしゃべりはじめた。
「っるさいわねぇ〜ダレなのよぉ。折角人が気持ちよく寝てたってのにさぁ〜」

その声を聞いてサイトは一瞬で凍りついた。
タバサは、伝説の槍を目の当たりにしてただただ凝視していた。
(これが、伝説のインテリジェンス・スピアーーグングニル・・・)

「おめぇ槍だし。いーから目ー覚ませ。久々に使い手が現れたんだぜ」
デルフは急かすように言った。
「なにさ、使い手?えっわたしたちを使える人間がまた出てきたってのね!
あぁらぁ、おにぃ〜さぁん、かわいぃじゃないよぉ。あたしのこ・の・みかしらぁん。ウフッ
お名前、おしえて〜ん」

サイトの全身からいやーな汗が大量に噴きだした。
デルフはサイトの雰囲気を察して、かわりに槍に話しかけた。
「相棒やっぱ固まっちまったか。今回の相棒名前はなーーー」

「あんたにきてないわよぉ。この子に直接聞いてるんだから、アンタは黙ってらっしゃいな」

「へーへー、ってことで相棒そろそろ口聞いてやってくれ」
「お・な・ま・え・は?」

「ひひひひひヒラガ・さささサイトです。」
サイトはてんぱってしまった。
またかよ。またアレか。この世界はスカロンみたいな人間だけじゃなく武器すらアレがいるのか・・・
そう、この槍オネエ言葉でしゃべるのだ。

465 名前:サイトが魔法を使えたら(4/4):2007/09/24(月) 23:02:33 ID:flrZmVzm
「素敵なお名前じゃないのぉ。サイトくんねぇ。よろしくぅ。あたし、グングニルっ呼ばれてんだけどさ、
あたしとしちゃ、グングニールって呼んでほしいわけ。あたしのお願い聞いてくださるわよねぇ〜
聞いてくんなきゃ、ゆーこときいたげないわよぉ。フフフ・・・」

この槍の言うこと聞いておかないと間違いなく寝込みを襲われる。奪われてしまう。
「わ、わかったよ。グングニール。よ、よろしくな」

「ぁあん。いー声じゃなぁい。ちゃーみんぐだわぁん。貴方のお願いならなーんでも
聞いてあげちゃうわよぉ。早速だけど、あたしに触れてみてぇ〜」

サイトは言われるがままグングニールに触れた。
するとグングニール全体が黄金色に光り輝いた。

「サイトくーん。あたしってば今はこんな図体だけどさぁ、とってもかわいらしく
変身できちゃうのよぉ。今からやったげるから、しっかり受け止めてねぇ」

輝きが閃光となり宝物庫全体を光で包み込んだ−−そしてサイトの右手
に杖くらいのかわいらしいサイズになったグングニールがいた。

「いやぁん、しっかりうけとめてもらっちゃたわ。感激ぃ」

激しい吐き気に襲われながらも必死になってサイトは小さくなったグングニールを
しっかり握った。

466 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 23:04:18 ID:lNWeFggV

釜なのか槍なのかどっちなんだww

467 名前: ◆LoUisePksU :2007/09/24(月) 23:05:01 ID:flrZmVzm
今日はこんなとこで。
やっと満足したきがするw

>>448
これでどう?


468 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 23:06:38 ID:flrZmVzm
>>466
そうそう、ヤリなんですがカマなのね。そこがポイントなんですよw

469 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 23:07:07 ID:hKCE3x+I
内容自体はまあGJなんだが。
いちいちカッコつけんでもいいから、書ける分書いてからまとめて投下してほしいなあ。
他の書き手さんたちも気を遣って投下のタイミング計りづらくなると思うし、
なんか常に自分に注目を集めようとしてるようで、読み手にとってもあんまり印象よくない。

470 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 23:09:47 ID:fE52Ylfc
n/Nって書き方してくれてるから別にいいんじゃないのとおもう

>467
とにかくGJ
ちゃんと最後まで書ききってくれ

471 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 23:11:24 ID:flrZmVzm
>>469
もうしわけない。さすがに今日はなんかちょっと節操がなかった。
以後気をつけるよ。

472 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 23:12:13 ID:vqQVREEW
>>467
タバサ好きですからいいんですけど……
タバサがサイトに告白した事についてはなにもフォローないんでしょうか?
サイトもタバサの告白よりルイズを優先した事についてもう忘れたかのように話してますし
その上でやっぱりかわいいと思うのはある意味原作より不誠実な態度なのではないでしょうか?
横槍入れてすみません。


473 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 23:13:02 ID:68Hsxcfw
>>365
ピロウズ好きの俺にはたまらない内容だったw

歌詞の内容とぴったりだし
「歳を取って忘れられてく 痩せた枯れ木に
Please Mr lostman 星が咲いていた please Mr lostman」

474 名前:せんたいさん ◆mQKcT9WQPM :2007/09/24(月) 23:23:59 ID:JZC8Hhi+
絶望した!俺の大好きなおっぱいエルフの出番が一瞬で終わって絶望した!
ていうかね。タバサも出番少なくてね。

…もう俺JCにケンカ売りにいこうかしらん、とか何度か思ったわけですよええ。

8巻冒頭のステキ妄想シーンを飛ばすとはなにご(ry
以上、愚痴終わり。
>>255の続きですが。
…また終わってないんですよこれがね。時間なくてね…。
恨むなら(ry

475 名前:キミが主で使い魔が俺で ◆mQKcT9WQPM :2007/09/24(月) 23:24:49 ID:JZC8Hhi+
「あっあのこれはですねっ!つい魔がさしてっ!」

目の前でシエスタが慌てている。
トリステイン魔法学院の制服で。
っていうかルイズの制服で。
目の前でぶんぶん手を振り回しながら、真っ赤な顔で。

「なんか似合うかもー、って思って!ミス・ヴァリエールとあんまりサイズも違いませんしっ!」

言い訳と一緒に振り回される腕と一緒に。
サイズが合わなくてこぼれそうなおっぱいがぽよんぽよんと揺れている。今にもこぼれそうなその物量はまさに過積載。
…なんというエロ可愛ゆさ。

「あ、あのー?サイトさん?」

はっ!?
しまったヨダレがっ?
ていうか俺は今相当アレな顔をしていたらしい。
シエスタは俺の方を心配そうに見つめている。
やべ、フォローしとかないと俺まじでへんたいさんですかっ!?

「い、いや、なんでもないよ!
 ていうか、シエスタその格好似合ってるよ。うん」

…とりあえず誤魔化してみる。

「そ、そうですか?」

褒められたシエスタは、えへへ、なんて嬉しそうに微笑んだ。
…よっしゃ成功。
とりあえず、ほっとして俺は続ける。

「うん、似合う似合う。
 こんなご主人様なら俺喜んで使い魔やっちゃうよ」

その言葉に。
シエスタの目が鋭い光を放った、ように見えた。
…キノセイダヨネ?

476 名前:キミが主で使い魔が俺で ◆mQKcT9WQPM :2007/09/24(月) 23:26:43 ID:JZC8Hhi+
シエスタはしばらく才人に背中を向けて何事かぶつぶつ言った後、振り向いた。
そして、ちょっとぎこちない爽やか笑顔で、こう言った。

「え、えと、じゃあ、今からサイトさんが私の使い魔で、私がご主人様、っていうのはどうでしょう!」

その言葉に、才人の目が点になる。

「へ?」

しかしここで引いては、せっかくの妄想実現チャンスを不意にしてしまう。
シエスタは半分呆れ顔の才人に食い下がる。

「本当に、ってわけじゃないんです!ごっこですごっこ!
 ちょっとの間だけ、してみません?き、きっと面白いですよ!」
「そ、そういうもんかなあ」

鼻息がかかりそうな距離まで近寄って、必死にそうのたまうシエスタに、才人はちょっと引き気味だ。
シエスタはほんの少し焦ったが。
ようし、こうなったら!

「そ、そういうわけで今から始めます!はい!」
「え?え?え?」

ヘタレで女の子の押しには弱い才人のことだ。
ここで押されれば、きっと。

「…の、喉が渇いたわ。紅茶を持ってきて頂戴」

ちょっとルイズを真似て、すこし斜に構えて才人を見下ろすシエスタ。
…お願い、上手くいって…!
才人は少しの間、ほけっとシエスタを見つめていたが、少しすると微笑んで、

「…了解しました、ご主人様」

すたすたと、紅茶を取りに部屋から出て行ったのだった。
やったーーーー!
シエスタは心の中で喝采し、部屋の中で小さく飛び跳ねたのだった。

477 名前:せんたいさん ◆mQKcT9WQPM :2007/09/24(月) 23:29:16 ID:JZC8Hhi+
2期丸まる使って8巻やればらきすた越えられたかもしれないのに、もったいない。
とか愚痴ってもしょうがないので

こどものじかんに萌えてきます<真性

じゃあ続きは後日ーノシ

478 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 23:38:10 ID:oZdcoLX6
んーGJ。見てみたいな兎塚絵で制服シエスタ。
・・・そろそろマジ容量限界が近づいてきた・・・

479 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 23:55:16 ID:C2AtT9+5
でも一応アニメで8巻展開は……やらないん?

上手く運べば燃えと萌え両立できる神素材なのに、
スタッフが諦めて萌えのみに特化せさせちゃった感があるからなぁ

480 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 23:59:45 ID:NxY/5X0+
アニメは毎回「俺が」身悶えるシーンが出てくるんだよね、
見てるこちら側が恥ずかしくなるような…糖尿になりそうだった
次アニメやるときは萌ベクトルをちょっと抑えて欲しいな

481 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 00:07:02 ID:llMYNLFm
>>480
オレ、ネコルイズが出てきた時点でTVの電源切っちまった
余りにも恥ずかしすぎて直視できなかったんだよ

482 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 00:12:18 ID:zvj29YHG
なんだあの2期END・・・怒りで震えが止まらない・・・

483 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 00:28:15 ID:ft103Qp+
アニメなんか作者公認の豪華な同人さ・・・

484 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 00:29:34 ID:HaSwWu89
キャベツに比べれば……ッ

485 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 00:30:14 ID:0yaGy/fm
OVAとかで出ないかねぇ〜
映画は無理としても…

486 名前:205:2007/09/25(火) 01:38:43 ID:BgiXlWlE
>>473
元ネタを知ってたお前とは間違いなく友達になれるだろうと確信する俺。
ビートルズって答えてくれた人も、ある意味間違いではないんですが。

しかし、かなり後ろにいってしまったSSにレスつけてくれるとは、なんていい奴なんだ!
気に入った、>>473もシルフィにファックされても(ry

えー、前置きが長くなりましたが、http://wikiwiki.jp/zero/?19-550「犬竜騒動」の続きを投下します。
前以上に意味不明な内容となりましたが、まあキニシナイ。

487 名前:犬竜騒動:2007/09/25(火) 01:39:58 ID:BgiXlWlE

「おねーさまおねーさま!」
 窓の外から大声で呼ぶ声がする。精神的な疲れを癒すべくベッドの中で眠っていたタバサだったが、
それがシルフィードの声だと気付くや否や、慌てて跳ね起き窓を開け放った。窓の外に浮かんでいる
シルフィードは、何やら非常に興奮した様子だった。
「大変なのね、大変なのね!」
「そんなに大声を出したら、他の人に気付かれる」
「あ、ごめんなさい、ついうっかり。きゅいきゅい」
 タバサの指摘を受けて、シルフィードはようやく声量を落とした。タバサは窓の外に首を突き出し
て、そっと辺りを窺ってみる。休日の昼間ということで人が出払っているのか、今のシルフィードの
声に驚き、騒いでいる人間はいないようだった。
 ほっとしつつ、念のため周囲に「サイレント」の魔法を張り巡らせてから、タバサは再びシルフィードに向き直る。
「それで、何が」
「そうそう、大変なのよ、あの女、とんでもねー化け物だったのよ」
 シルフィードは声を落としたまま、興奮した口調できゅいきゅいと説明を始めた。とんでもない回転刃の話やら、
詠唱なしで発動する、地面を抉るほどの超威力の魔法の話など。
 タバサはうんざりした。
(また、何か勘違いしているみたい)
 しかし、「これは由々しき事態なのね」という文句を何度も織り交ぜながら説明しているシルフィードを
見る限り、「何かの勘違いに違いないから、もう一回確認して来い」と言ったところで聞きはしないだろう。
(ここは、とりあえず適当に聞き流すに限る)
 タバサは手の平を出して、シルフィードの声を遮った。
「話はよく分かった」
「じゃ、シルフィに加勢してくれるのね?」
「そんな危険な怪物を相手にするのなら、情報が必要。もっと時間をかけて、相手のことを調べるべき」
 我ながら上手いことを言ったものだと思ったが、シルフィードは「それじゃ遅いのね」と叫んで激
しく翼をばたつかせた。
「ぐずぐずしてると、あの女の肉体にのめり込んでるサイトが、もっとひどいことになっちゃうわ!」
「もっとひどいこと、と言うと」
「ええと、きっと『回転刃プレイ』とかやらされるのよ」
「なにそれ」
「『いいこと思いついた。お前、この回転する板にチンコ入れてみろ』とか言われるのよ。大変、サ
 イトが種無しになっちゃうのね!」
「大変なのはあなたの頭」
 そして同時にタバサの頭も大変なことになってきた。アホな理屈を真面目に聞いていたせいか、後
頭部の辺りがずきずきと痛み出したのだ。
(休まないと大変なことになりそう)
 タバサが大きく息を吐き出すと、シルフィードは歯軋りしながらぶんぶん首を振った。
「おねーさま、やる気なさすぎです!」
「当たり前」
「もういいのね、おねーさまには頼らずに、サイトを助けてみせるのね。きゅいきゅい」
「シルフィード」
 身を翻しかけたシルフィードを呼び止める。竜は嬉しそうにこちらに頭を向けた。
「やっぱり、おねーさまも協力してくださるの?」
「ううん。ただ、正体がばれないように注意するようにと言いたかっただけ」
「言われなくても分かってるのね!」
 吠えるような返事を残して、シルフィードは飛び去った。
 タバサは黙って窓を閉じた後、ベッドではなく本棚に歩み寄った。頭痛を治めるためにも休まなけ
ればならないが、その前にやらなければならないことがある。
(風韻竜の肉の値段はどの本に載っているだろう)
 割と真剣に本の背表紙に目を滑らせるタバサであった。

488 名前:犬竜騒動:2007/09/25(火) 01:40:43 ID:BgiXlWlE

「これは由々しき事態なのね!」
 目の前の切り株を前脚で叩き、シルフィードは唾を飛ばしながら力説した。
 魔法学院周辺にある森の一角、泉のそばにある開けた場所である。シルフィードの目の前の広場に
は、魔法学院の生徒や教師達の使い魔たちが、所狭しと集まって好き勝手に鳴き喚いていた。
 使い魔会議。ご主人様たちには知られることのない、使い魔たちの秘密の会合である。本日召集を
要請したのはもちろんシルフィードで、例の鉄の竜を使い魔総出で何とかしようと提案する腹づもりであった。
「敵は非常に強大なのよ」
 シルフィードは居並ぶ使い魔を見下ろしながら説明する。
「近づくものを全て切り刻む謎の回転板、詠唱なしで発動する謎の破壊魔法。どこが目でどこが鼻な
 のか、そもそも何という名前の生き物なのか。全てが謎に包まれているのね。そして何よりも、あ
 の人間を魅惑する謎のぼでー」
 シルフィードは、鉄の竜の腹に顔を埋めていた才人の顔を思い出し、興奮に任せて何度も目の前の
切り株を叩いた。
「これは由々しき事態なのね! 早急に手を打たないと、皆のご主人様たちもゆーわくの骨抜きの種
 無しなのよ!」
 実に熱の篭った演説だという自覚はあったが、使い魔たちの多くは全く聞いていなかった。仲のい
い者同士集まって、ピーピーギャーギャーゲロゲログワッグワッと好き勝手に雑談している。
「お前のご主人最近どう?」
「相変わらず肉の塊だね。ああ、なんで俺はあんなデブ男の使い魔になっちまったんだろう。そっちはどうよ?」
「相変わらずペッタンコのオデコテッカテカ。しかも人使い、いやカエル使いが荒くてよ。そんなた
 くさん魔法薬の材料なんか集められるかっつーの」
「でもたまにキスとかしてもらってんじゃん」
「そのぐらいじゃ割に合わねーよマジで。これでバインバインだったら少しは頑張れるんだけどよー」
 愚痴を垂れ合っているのは、小さなカエルとフクロウのコンビである。確かロビンとクヴァーシル
という名前だったか。
「ミミズうめぇ」
 と、一人もぐもぐやっているのは、間抜けな顔の巨大モグラ。名前はヴェルダンデである。
(アホばっかり。いくらなんでもまとまりなさすぎなのね)
 誰も真面目に聞いてくれていないので、シルフィードは少しうんざりする。そのとき、使い魔の群
れの中から誰かが長い舌を突き上げた。
「質問があるんだが」
「はいはい、何なのねそこの人。あらフッチーじゃないの」
 発言したのは一匹のサラマンダーであった。名前はフレイム。タバサと仲のいいキュルケの使い魔
なので、シルフィードとフレイムも自然と友達になっていた。
 フレイムは、ちろちろと細い火を吐きながら首を傾げた。
「お前さんのご主人様は、あのタバサってちっこいお嬢ちゃんなんじゃないのか?」
「ああ、あの青髪のお子様な」
 シルフィードが答える前に、カエルのロビンがゲロゲロと口を挟んだ。隣でフクロウのクヴァーシ
ルが澄まし顔で頷く。
「俺、あのデブ……いや、ご主人様と違ってお子様体型って興味ないんだよね。やっぱ女はもっとこ
 う、バインバインしてた方がいいよ」
「同感。ウチのご主人には凹凸が足りない」
 カエルのロビンとフクロウのクヴァーシルが、揃ってフレイムをじっと見た。フレイムが気味悪げに顔をしかめる。
「なんだお前ら、その目は」
「いいよなフッチーはよ」
「そうだよ。あんなエロいご主人を毎日毎日飽きるまで観賞できてよ」
 恨みがましい二匹の使い魔の言葉に、フレイムは呆れたように首を振った。
「あのな、俺はそもそもトカゲだから、人間の女の体なんかに興味なんぞ」
 だがフレイムの弁解などお構いなしに、ロビンとクヴァーシルはどんどん興奮していく様子であった。

489 名前:犬竜騒動:2007/09/25(火) 01:41:37 ID:BgiXlWlE

「きっと、トカゲ風にじゃれつく振りして、あの長い舌でご主人の体思う存分なめ回すんだぜ」
「うひゃー、エロイ、フッチーエロすぎ! っつーかそもそも、あのご主人のおっぱい反則だよな」
「お前さんのご主人だって、胸にたっぷり肉がついてるじゃないか」
 フレイムが口を挟むと、クヴァーシルが飛び上がって威嚇するように翼を広げた。
「馬鹿言え、あれはただの脂肪だ」
「何か違うのか」
「おっぱいと脂肪を一緒くたにするんじゃねーよバカ」
「そーだよ、おっぱいには夢が詰まってるんだぜ」
 ロビンが怒りを表すようにぴょんぴょん飛び跳ねると、クヴァーシルもまた興奮した様子でばさば
さと翼を振るう。二匹は口を揃えてフレイムに叫んだ。
「という訳で、罰としてお前のご主人のおっぱい俺らに見せろ」
「そーだそーだ、俺らにもおっぱい寄越せ。おっぱいの開示を要求する!」
「意味が分からん」
「うるせー、いいからおっぱいうp」
「そうだそうだ、おっぱいうp、おっぱいうp!」
 ロビンとクヴァーシルにまとわりつかれ、フレイムは鬱陶しげに頭を振るう。
(この色狂いの使い魔どもは役に立たないのね)
 シルフィードは彼らに頼みごとをするのは諦め、代わりに広場の片隅で何やら土をごそごそやって
いるヴェルダンデに目をやった。
「そこのモグラさんはどう思われますの」
 土から顔を上げたヴェルダンデが、鼻をひくつかせながら答えた。
「ミミズうめぇ」
(アホの子なのね)
 シルフィードは盛大にため息を吐いた。
(どうしてこの学院の使い魔は、皆こんな能天気なのばっかりなのかしら。やっぱりメイジのパート
 ナーたるもの、もっと上品かつ知的でなければいけないのね)
 きゅいきゅいと頷きながら、シルフィードは憎い鉄の竜の面相を思い浮かべた。
(そこいくと、あの女はやっぱり失格だわ。あの嫌味で人を見下した態度、こちらを嬲るような魔法
 の使い方。最低なのね。サイトもあんな女のどこがいいのかしら、きゅいきゅい)
 そんな風にシルフィードが頭の中で罵声を唱え続けるおかげで、会議はいよいよ混沌の坩堝に陥った。
「おっぱい、おっぱい!」
「いい加減にしないと燃やすぞお前ら」
「ミミズうめぇ」
「ウチの主人はミーハーで困りますのよ」
「俺の主人なんかハゲだぜハゲ」
「馬鹿野郎お前ら、あんな根暗中年と長年付き合ってきた俺の苦労を知れよ」
「ミミズうめぇ」
「私のご主人も、もうすっかりおばさんでねえ」
「ミス・ロングビルがいた頃は天国だったよないろいろと」
「ミミズうめぇ」
 ギャーギャーワーワークォゥクォゥモグモググワッグワッピーピー。
 恐らく人間が通りかかったら腰を抜かすであろう、多様すぎる動物達の狂乱の宴。
 会議はこうしてまとまりを欠いたまま、何の結論も得られずに終わるかと思われた。
「おうおう、騒がしいじゃねえか、ああん」
 貫禄たっぷりの声が響いたのは、まさにそのときである。あれだけ騒がしかった広場が一瞬で静ま
り返り、全員が一斉に入り口の方を見る。そこへ、小さな巨人がゆったりと姿を現した。
『モートソグニルの旦那!』
 その場の全員が口を揃えて叫び、一斉に頭を下げる。
 モートソグニルと呼ばれたそのネズミは、チューチューと髭をしごきながら、使い魔たちが体を避
けて作った通路を通り、シルフィードの眼前まで歩いてきた。
「面倒な挨拶はいらねえよ。でっけえ嬢ちゃんよ、あんたは、ここにいる連中の力を借りてえってんだろ」
 先程まで演台として利用していた切り株の上に立ったモートソグニルが、小さな瞳でシルフィード
を見上げてくる。
「は、はいなのね!」
 シルフィードは緊張しながら返事をした。ネズミなどよりも余程強大な力を持っているにも関わら
ず、彼女もこのモートソグニルには逆らう気にはなれない。他の使い魔たちも皆同様で、モートソグ
ニルの命令には素直に従うのである。これが貫禄というものなのだろう。

490 名前:犬竜騒動:2007/09/25(火) 01:43:00 ID:BgiXlWlE

(凄いのね、モートソグニルの旦那の力を借りれば、きっとこの難局も乗り切れるのね)
 期待に胸を躍らせるシルフィードの前で、モートソグニルは「だがまあ」とため息を吐くように言った。
「タダっていうのは、虫がいい話だわな」
 やたらとドスの利いた声に、シルフィードは緊張して身を硬くした。
「な、何をお望みでしょう」
「そうさな。俺の知恵を貸してほしけりゃ」
 睨むような鋭い目が、シルフィードを見据える。
「なんかエロいもん寄越せ」
 要求は直球だった。
「さすがモートソグニルの旦那だ」
「俺達には真似できねえ」
 モートソグニルの背後で、カエルとフクロウが恐れ慄く。さすがあのエロ学院長の使い魔、好色さ
も他の使い魔顔負けである。
(良かった、割と容易い要求なのね)
 シルフィードはほっとしながら、愛想よく頭を下げた。
「じゃあ、これで一つよろしくお願いいたしますわ」
 少し長めの呪文を詠唱し、魔法を発動させる。風が巻き起こり、青い渦となってシルフィードを包む。
 その風が晴れたとき、シルフィードは青く長い髪を持つ、人間の美女へと姿を変えていた。もちろ
ん、生まれたままの姿である。
「これでいかがかしら」
 タバサの友人を真似て、媚びるような声と仕草をしてみせる。エロガエルとエロフクロウが興奮し
て飛び上がった。
「うひょー、ブラボー!」
「おっぱい、おっぱい!」
 あの二匹の反応を見る限り、きっとネズミの旦那にも満足してもらえるだろう。シルフィードは自
信を持って下を見たが、切り株の上のモートソグニルは喜びを露わにするどころかブルブルと体を震
わせていた。
「あら? どうしたのね、モートソグニルの旦那」
「嬢ちゃんよ、ふざけてんのかい」
 呟きと共に、モートソグニルはダッと駆け出した。ネズミらしい俊敏な動きで一気にシルフィード
の体を駆け上がり、彼女の頭に思いっきり前歯を突き立てる。
 シルフィードは悲鳴を上げて飛び上がった。
「痛い痛い、いたいのねーっ!」
「ンな紛い物いるかぁ! 俺は生が見てえんだよ、生が!」
 あまりの痛みにのたうち回るシルフィードの前に着地し、モートソグニルが吠えるように鳴く。
 使い魔たちが畏怖するように身を引いた。
「さすが旦那だ」
「ああ、あれが通ってもんだぜ」
「ミミズうめぇ」
 使い魔たちの長的存在であるモートソグニルの機嫌を損ねたことで、会議はまたも失敗に終わるか
と思われた、が。
「その辺で勘弁してやってくだせえよ」
 こちらもなかなか貫禄のある鳴き声を上げながら、サラマンダーのフレイムがのっそりと進み出てきた。
 モートソグニルが不機嫌に鼻を鳴らす。
「なんでえトカゲの坊主。こちとら、このアホ女がくだらねえ芸を披露してくれたおかげで気が立ってんだ」
「竜の嬢ちゃんは、図体こそデケェがまだガキなんです。ここは一つ、俺に免じて許してやっておくんなせえ」
 頭を下げるフレイムに、モートソグニルはひくひくと鼻をひくつかせた。
「そこまで言うんなら、お前さんが代わりのものを用意してくれるんだろうな」
 広場に緊張が走る。誰もが注目する中、フレイムは目を瞑り、厳かに言った。
「旦那が協力してくださるってんなら、一度だけウチの部屋に覗きに入るのを見逃しやしょう」
 その場がざわめいた。フレイムの言葉は、ほとんど主人への裏切りである。

491 名前:犬竜騒動:2007/09/25(火) 01:43:40 ID:BgiXlWlE

「あのケバいねーちゃんか。正直好みじゃねえが、まあいいだろう」
 モートソグニルが重々しく頷く。長がシルフィードへの協力を約束したのである。広場が再びざわめいた。
「じゃあ俺らにも見せろ」
「おっぱいうp、おっぱいうp」
 ロビンとクヴァーシルも便乗して騒ぎ出す。フレイムはため息混じりに頷いた。
「分かった分かった、その代わりこの竜の情ちゃんに協力するんだぜ」
「うひょー、やったぜ!」
「俺らも頑張るぜシルフィ」
「楽しみだぜおっぱい!」
「おっぱい、おっぱい」
 跳ね回る二匹のアホ使い魔の脇を通り抜けて、フレイムがシルフィードにのっしのっしと近づいてきた。
「おう、これでいいんだろ嬢ちゃん」
「ありがとう、本当にありがとうなのねフッチー」
 主の裸を売ってまで協力してくれたフレイムに、シルフィードは痛く感激していた。何度も頭を下
げる彼女に、フレイムが苦笑混じりに細く火を噴き上げる。
「いいってことよ。どうせウチのご主人は、他人に肌を見せることになんざ大して羞恥心を持ってね
 えんだ。獣に見られるぐらい、気にもしねえよ。何より、お前さんとお前さんのご主人にゃ、俺の
 ご主人も世話になってるしな。これからも一つ、よろしく頼むわ」
 フレイムは低い頭をさらに下げたあと、使い魔たちの中へ戻っていく。その背を見送ったあと、シ
ルフィードは残る知り合いにも声をかけた。
「あなたにも協力してほしいのね」
 この騒ぎの中、まだ地面をごそごそやっていたヴェルダンデは、頭を上げると鼻をひくつかせながら言った。
「ミミズうめぇ」
「分かった、後でシルフィも一緒にミミズ探してあげるのね」
「了解した、私も協力しよう、心の友よ」
「まともに喋れるのなら最初からそうしてほしいのね!」
 また喧々囂々の騒ぎになりかける広場を、モートソグニルが一喝で収めた。
「おうお前ら、話は分かったな。他の連中も、一つ俺の顔に免じて協力してくれや」
 文句は出ない。これもまた貫禄というものである。モートソグニルが満足げに頷いた。
「よし、じゃあ早速策を練るとしようか」
 こうして、使い魔会議はその日の夜遅くまで続けられたのである。

492 名前:205:2007/09/25(火) 01:44:50 ID:BgiXlWlE
俺は何故こんなプロットを立てたんだろうと疑問に思いつつ。
この展開を予想できた人がいたら掘られてもいい。

493 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 01:56:02 ID:JfEpABDW
とりあえずGJです

続きwktk

494 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 01:56:03 ID:72rfAChu
犬竜きたーよー!!
そういえばこっちのタバサさんは初期型だったの思い出したww

じゃあこれ約束のブツ(´・ω・`)つ[缶入り汁フィ]

495 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 02:05:50 ID:HaSwWu89
これは凄いwwww

496 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 02:06:42 ID:llMYNLFm
シルフィードが相変わらずアホ過ぎてワロスww
GJ!

497 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 02:06:43 ID:zsOXw+kL
>205
>「ミミズうめぇ」

吹いた

エロパロ板でなんでこんなに笑わされなきゃならんのだ
GJだぜ旦那

498 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 02:06:58 ID:D9pNtjv5
GJ!ミミズうめぇw

499 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 02:11:50 ID:tGyYdhfX
>>492
         ヽ、        /  思 い
  チ こ お   !        !   .い い
 ..ン の. 前.   !       |   つ こ
  コ. 回     |      !,  い と
  入. 転     ノ      l′ た
  れ す     ゛!  ___ 丶
  て. る    ,,ノ' ´    ` ''ヾ、、_   _,.
  み 板   /            ヽ`'Y´
 ..ろ に   }f^'^^了t^'^'`'ー1  l
       ノ|L_ ! ___ { ,..、|
'- 、.....、r‐''´  }f'tr'i  ''^'tォー` }j/i',|
     ヽ    l.| ´ |    ̄  vijソ.!
         丶 └、     Fイ l′
     /    ',  ‐--‐  ,イ ケ|
   , ,/.       ヽ `''"´,/ !  ^|ー、
  / /      _,,」、'....ィ'       '|. \、__
. /./  ,. ‐'''"´    ! /   ,  _」__ヾ',
.,'.,'  /´   └ 、_ ノi   ノ  (、_  ``ヾ!
,'/ /     ヽ、 ` ''ー 、ィ-─'' r`'^    `
l|  !            零    `ぅ ー=、_
| |          戦     〉
  ト             ′    ./''ー- 、,.._
  |  ヽl            (B     /    ヽ、
  |     !,、      !     /     ∠_
  ,イ     ヾ'     ィ 、   . /   ,,ィ'´


GJ!
ホント、よくこんなこと思いつきますねw

500 名前:261のひと:2007/09/25(火) 02:15:53 ID:qOHZlljg
>>131-135の続き……

そんなに黒くしたつもりは無かったのですが、黒い黒いといわれたので無理矢理方向転換。
今回は前より黒いかもですけど、次で締めます。

(当初の予定では、更に黒くだったけど……)

501 名前:1/7:2007/09/25(火) 02:16:50 ID:qOHZlljg
 ざわめいていた教室が、一瞬で静まり返る。

「?」

 皆がわたしを見て話を止めた気がしたけど、どうかしたのかな?
 テファの側に何人か女の子が居る。
 わたしが居ないと、テファの周りにはいつも人が沢山集まる。
 
『うれしいんだけど、一度に沢山の人って緊張しちゃうから、ベアトリスが居てくれて助かるわ』

 どんな形でもクルデンホルフの名前が役に立つのなら、うれしかった。

 でも、今日はなんだか違った。
 テファの周りの女の子たちは、わたしの姿を見ても逃げない。
 テファの陰に隠れるようにして、わたしの方を見ている。

 ――嫌な目だ。

 冷たい目、覗き込むような、見下すような……わたしを突き放した目。
 その視線に押されて、わたしはテファの側に近寄れない。
 少し前までは人の視線なんて。気にもならなかった。
 でも、今は少しだけ怖い。
 
 人がわたしをどう見ているのか、それがとても気に掛かるから。

「ベアトリス?」

 テファがわたしの名前を読んでくれると、テファの陰に隠れていた女の子たちが慌てて逃げ出す。
 
 ――テファはやっぱり優しい、わたしの一番のお友達。

 他の子が羨ましそうに見守る中、わたしはわたしの特等席に……テファの隣に座る。

「何かいい事有った? 凄くうれしそう」
「えっ……う、ううん、何も……何も無いよ……テファ」

 シュヴァリエに優しくしてもらった事を話すのが、ちょっと恥ずかしくて、ついテファにも内緒にしてしまう。

 …………教室の空気が揺れた。

 教室中の視線がわたしに集まる。
 今、気付いた。
 皆テファとわたしの会話を聞いていた事に。

 わたしの返答を聞いた皆が、ヒソヒソと話を始める。
 ――冷たい目、嘲笑うかの様な唇。
 何か……間違えたのかな?

「そう……何も……無かったんだ」

 テファが笑ってる。
 わたしはそれだけで少し安心できた。
 他の子なんか要らない、テファだけ居れば良い。

「後でわたしの部屋に来てね? ベアトリス」
 
 テファが笑っていれば、他に何も要らなかった。

502 名前:2/7:2007/09/25(火) 02:17:25 ID:qOHZlljg
「いらっしゃい、ベアトリス」

 テファの部屋はいつも良い香りがする。
 好きだから、落ち着くからって、近くの森や広場で花や野草を摘んで、
 部屋のあちこちに飾られていたし、
 お薬にもなるんだよって、綺麗に並べて干してあったりする。
 そのお陰で、テファの部屋に入るといつも森の奥に踏む込んだような不思議な気分になった。

「お邪魔します、テファ」
「お友達ですもの、邪魔になんかしないわ」

 穏やかに笑うテファが大きく腕を広げてくれると、わたしは耐え切れなくなってテファに向かって駆け出す。

「テファァッ……テファ、テファテファっ」
「あら、ベアトリスは甘えん坊さんね」

 子供をあやす様なテファの声。
 他の子にされたらきっと不快になるに違いないけど、テファに言われると別。

「テファ――、ずっと、甘えたかったのっ、今日も一日我慢したんだからっ、
 誉めて……誉めて、ねぇっ、誉めてよぅ」
「ええ、良い子ねベアトリス」

 だってわたしは本当に子供みたいになってしまうから。

 森の中のような部屋の中で、華の様なテファに抱かれていると、
 幸せで、幸せで、幸せで、なーんにも考えられなくなる。

「ベアトリスは良い子よね?」
「ん……良い子だよ」

 目を瞑ったまま、テファの胸に頬を擦り付ける。
 柔らかくて、暖かくて、きっと世界中の優しいものの詰まっている世界一のおっぱい。
 今ハルケギニアで一番幸せなのは、間違いなくわたし。
 自分の胸はまだ膨らまないけれど、テファのが有るから自分は良いや。
 うっとりテファに寄り添っていると、細い指先がわたしの髪を梳いてくれる。

「ベアトリスは、嘘なんかつかないわよね?」
「うん」

 何も考えずに、テファにお返事。

「じゃあ、あの子達が嘘ついたのかな?」
「え?」

 テファの手がわたしを抱きしめてくれる。
 それはとても嬉しかったけれど……

 抱きしめられていると、テファの顔が見えなくて……

 それが凄く怖かった。

503 名前:3/7:2007/09/25(火) 02:18:14 ID:qOHZlljg
「う、嘘?」
「うん、ベアトリスが授業をサボってサイトとお話してたって」

 っ!
 それは嘘じゃないけどっ。
 違うの、違うのテファっ

 テファに言い訳をしようとした……

 でも……教室で一度テファに何も無かったっていっちゃった。
 テファに嫌われるのが怖くて、もう本当の事を言い出せない。

 知らなかった。
 本当に怖い時、喉が凍って何も話せなくなるなんて。

「ベアトリス、サイトと仲悪かった筈なのに、凄く楽しそうだって聞いたけど……
 嘘だったのよね?」

 ……わたしは……何も言えない。

「ベアトリス?」
「……っ…………ぁ……ぅ……」

 身体が勝手に震えだす。
 怖い、わたしには何も無いのに。
 テファしか居ないのに、もし……

 考えたくも無い想像が私を押し潰す。

 わたしの肩を掴んだテファが、ゆっくりわたしを引き離すと静かにわたしの目を見つめる。

 ――全てを見透かすような目と視線を合わせる事が出来ないわたしは、咄嗟に……

 目を逸らしてしまって……

 テファにはそれで十分だったらしい。

「……さようなら、ミス・クルデンホルフ」

 どこまでも優しいテファの、どこかよそよそしい態度に押し出されるように部屋から出たわたしは、
 涙を堪えて自室まで駆け戻った。

504 名前:4/7:2007/09/25(火) 02:18:49 ID:qOHZlljg
『ベアトリス、サイトと仲良くなったんだ』

 前までのベアトリスなら、サイトとお話したりは出来なかったから、
 それは喜ぶべき事。
 
 ……嘘を吐かれたのは少し悲しいけれど、
 サイトとお友達になれるほど優しくなれたのなら、もう魔法を使う必要も無い。

『サイトにバレちゃうし……』

 ティファニアの魔法の存在を知るサイトに関する記憶を消すと、
 ベアトリスとサイトの記憶の齟齬から、サイトが気付くかもしれないから。

『……なんだか怒られちゃいそうな気がするし……』

 変わり始めたベアトリスを見て、ティファニアは自分の魔法に疑問を持ち始めていた。
 ひょっとしたら、軽々しく人に掛けてよい魔法ではないのかも知れないと。
 自分はとんでもない事をしてしまったのかもしれないと。

 でも……消えた記憶は還らない以上、最早できる事は何も無い。

『内緒、内緒』

 どうしようもない事で延々悩める程、ティファニアは余裕のある人生を送っていなかった。
 考えても意味の無い事で悩んでも仕方ない、そう思いばっさりとベアトリスの事を切り捨てる。


 それよりも……

「サイトとお話……いいなぁ……」

 自分も学院に来てからサイトとゆっくりお話なんかしていないのに。

 そんな想いがわだかまっていて、その所為で、不必要なまでにベアトリスに冷たくしてしまった自分の心に、
ティファニアはまだ気付いていない。

「……サイト……」

 窓を開けて、サイトの部屋のある方を眺めるティファニアの目は伝えられない思いで溢れていた。

505 名前:5/7:2007/09/25(火) 02:19:45 ID:qOHZlljg
 ベアトリスは一睡も出来なかった。

『テファに嫌われた』

 そう考えると、眠ることも起きることもできない。
 
 真っ青な顔をしたベアトリスを見て、ベアトリスの騎士達は彼女を引きとめようとしたが、

「下がりなさいっ!!」

 ベアトリスの記憶には騎士達の忠誠を信じるに足る根拠が無い。
 信用できない近衛等、鬱陶しいだけの存在に過ぎなかった。

 なにより……

『授業に出ないと……テファに会えない』

 ――ひょっとしたら……昨日の事は夢かもしれない。
 そんなありえない希望にすがり、世界で一番大切な人に会いに、
 重い足を引きずりながら教室に向かう。

 朦朧とした頭で教室に入ると、ティファニアは既に教室に居た。

「あ……」

 ベアトリスと目が合って……ふわりと、花がほころぶ様テファの笑顔。

『……よか……っ……たぁ……』

 やっぱり自分の勘違いだったんだ、夢だったんだ。
 テファがわたしに冷たくするな……

「おはよう、ミス・ クルデンホルフ」

 ――世界が止まる

「……おは……よぅ……ミス・ウェストウッド……」

 泣いちゃだめ……
 今泣いたら、テファが悪いみたいだもの、
 テファに泣かされたみたいに見られたら、テファに迷惑が掛かるもの。

「き、気分が悪い……から……今日は失礼させていただく……わ……」
「そう……気をつけてね? ミス・ クルデンホルフ」

 泣きたかった。
 でも、クラスメイトにテファを誤解されるのはもっと嫌だった。

 テファは何時だって優しくて素敵な人だから……

「さ、さようならっ」

 誰にも顔を見られない様、睡眠不足の身体に鞭打ってベアトリスは逃げ出していた。

506 名前:6/7:2007/09/25(火) 02:20:20 ID:qOHZlljg
 ――どうやって死のう?
 ベアトリスの今の興味はそれだけ。

 ――テファに迷惑が掛かったらどうしよう?
 未来への希望はそれだけ。

 ――遺書……書きたいな……
 テファにごめんなさいが言いたいから。

「ひっ……ぅ……っく……うぇ……」

 人気の無い廊下を、一人でぽつぽつと歩く。
 遠くから聞こえる授業の声。
 そこに自分が居ないことが、寂しさに拍車をかける。

 今テファは授業を受けていて、自分はそこに居ない。
 
 これからも……そこには居られない。
 嫌われてしまった自分が側に居たら、テファが不快になるかもしれないから。
 テファに悪い事をするくらいなら、自分なんか無くなってしまえばいいから。

 寂しい時に一人で居ると、思考は暗い方へ暗い方へ転がり落ちてゆく。

 誰にも愛されない自分、
 たった一人だけ優しくしてくれた人。

 ……いや……もう一人……


「おー、また泣いてんのか?」

 授業中の廊下を徘徊する変な人、

「シュヴァリエ……サイト……さん?」
「……サイトでいいけど……あー……」

 新鮮な逡巡、ベアトリスの周りの者はベアトリスの名前を知っている。
 ご機嫌を取るために、そうでなくとも敵として……

 なのに、ティファニアと同じくこの男は……

「ベアトリス……です」

 ――とても新鮮だった。

507 名前:7/7:2007/09/25(火) 02:20:53 ID:qOHZlljg
「つまり……テファと喧嘩した?」
「……違います」

 テファが大切にしている人だから。
 サイトに対するベアトリスの物腰は、知らず知らずに丁寧になってゆく。

「ん〜? 喧嘩じゃないのか?」
「テファ…… ミス・ウェストウッドは悪くないから、喧嘩じゃないです」

 嫌われたから、お友達じゃない自分は、もうテファって呼べないから。
 そう思うと、ベアトリスの涙はもう一度溢れ始める。

「と、とりあえず泣かないでくれー」

 世の男の常として、サイトも女の子の涙には弱い。
 ルイズの涙とは別の意味で、ベアトリスの涙には勝てない。

 なにしろ……年下。

「い、苛めてるみたいじゃねーかぁぁぁぁ」

 一向に泣き止まないベアトリスに、サイトの神経は追い詰められてゆく。

「わ、わたしなんか死んじゃえば良いんです」
「お、おちつけぇぇぇぇぇ」

 一度揉めた相手とはいえ、目の前で自殺されるのは勘弁して欲しかった。

「テ……ミス・ウェストウッドの事、釜茹でにしようとしたし……わ、わたしなんて、
 わたしなんて……死んで当然の……」
「だから落ち着けぇぇぇぇ」

 サイトは絶叫と共に、ベアトリスの肩を力任せに掴んだ。

「った……」
「そんなに釜茹でが重罪ならっ、テファに茹でて貰えばいいだろぉがぁぁぁ」

 ――サイトの頭も茹っていた。

508 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 02:22:31 ID:qOHZlljg
もう一回続きます、近日中に……

保管庫の過去ログは上げなおしました。

更新もしろって言われそうですけどっ、とりあえず暫くは許してっ

509 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 02:34:40 ID:tGyYdhfX
480KBを突破したので、用意。

【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合21
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1190655203/

510 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 03:30:05 ID:XBbcdqkZ
ゼロの使い魔 第2期は結局おっぱいアニメだった気がする。
ttp://twodimension.blog59.fc2.com/blog-entry-625.html


511 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 07:49:42 ID:ei3nYYl+
>>509


512 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 09:08:27 ID:IH5Vw+/P
残り18kb

513 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 10:09:56 ID:zn1b7t+T
>>508
GJでヤンス。面白い。

514 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 12:06:58 ID:EEcljhUH
もうここまで来たら







サイトよシルフィを襲ってくれ

515 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 12:21:14 ID:TMKwafc4
                   ,'⌒,ー、           _ ,,..  X
                 〈∨⌒ /\__,,..  -‐ '' " _,,. ‐''´
          〈\   _,,r'" 〉 // //     . ‐''"
           ,ゝ `く/ /  〉 /  ∧_,. r ''"
- - - -_,,.. ‐''" _,.〉 / /  . {'⌒) ∠二二> -  - - - - - -
  _,.. ‐''"  _,,,.. -{(⌒)、  r'`ー''‐‐^‐'ヾ{} +
 '-‐ '' "  _,,. ‐''"`ー‐ヘj^‐'   ;;    ‐ -‐   _- 次スレへ行こう。
 - ‐_+      ;'"  ,;'' ,''   ,;゙ ‐-  ー_- ‐
______,''___,;;"_;;__,,___________
///////////////////////
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1190655203/

516 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 12:47:41 ID:bNjGhWT0
シルフィ(美女態)のばあい
つサイト♂

シルフィ(竜形態)のばあい
つフィストf××k


これは大いなる意思の決定である(うそ

517 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 14:00:08 ID:DNftO/R8
職人の皆さん、GJです
こんなに早くスレが終わるとは・・・
次のスレでもwktkですなww

518 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 14:59:50 ID:h4Gtbccp
                   ,'⌒,ー、           _ ,,..  X
                 〈∨⌒ /\__,,..  -‐ '' " _,,. ‐''´
          〈\   _,,r'" 〉 // //     . ‐''"
           ,ゝ `く/ /  〉 /  ∧_,. r ''"
- - - -_,,.. ‐''" _,.〉 / /  . {'⌒) ∠二二> -  - - - - - -
  _,.. ‐''"  _,,,.. -{(⌒)、  r'`ー''‐‐^‐'ヾ{} +
 '-‐ '' "  _,,. ‐''"`ー‐ヘj^‐'   ;;    ‐ -‐   _- 次スレへ行こう。
 - ‐_+      ;'"  ,;'' ,''   ,;゙ ‐-  ー_- ‐
______,''___,;;"_;;__,,___________
///////////////////////


519 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 16:15:23 ID:Tns/0m2r
>>516
頭でも突っ込んでろ

520 名前:Girls, be ambitious:2007/09/25(火) 21:34:46 ID:55hRbtMJ
埋め代わりに爆弾投下します。前スレ19-519の続き

※百合表現を含みます。

容量間に合うか分からんが。

521 名前:Girls, be ambitious:2007/09/25(火) 21:37:56 ID:55hRbtMJ
「陛下。ミス・ヴァリエールが」
「通してください」

トリスタニアの王宮にて、アンリエッタは次々とやってくる政務に追われていた。女王の
職務は肉体的にも精神的にも辛い仕事である。食欲不振に陥ろうともなんら違和感はない。
だからといって休みがとれるわけもなく、会議は続き、報告書は積み上げられ、面会のひ
とは行列を作る。また女王に定休日というものは存在しないし、そもそも休みがあるのか
定かではない。そのためルイズやサイトがやって来る日はアンリエッタにとっては至上の
一時となるのである。だから先程の声にもどこか喜びが含まれていた。

「お久しぶりです。お変りはありませんでしょうか」
「まぁ、よく来てくれたわねルイズ。さぁこちらへいらっしゃいな」

友人の他人行儀な挨拶に少しムッとしながらも、彼女は友人の来訪を心から歓迎した。

「あら、ルイズったら、タイが曲がっていてよ」
「すっすいません……」

他人行儀の仕返しにイタズラしてあげるのも忘れない。こんなやり取りが彼女には至上の
楽しみなのだから趣味が悪いとは言っちゃいけない。

「それで、今日はどうしたのです?」

この友人は生真面目な性格で、用のない日にほとんどやって来ない。自分がどれだけ頼ん
でもそうなのだから、きっと今回も用事があって来たのだろう、とアンリエッタは感付いていた。

「あ、はい、その…今日は、お願いがあって……来ました」

その友人、ルイズはなんだかはっきりしない口調で答えた。部屋に来たときから何か思い
つめた顔をしていたな、とアンリエッタは思い返す。

「他ならぬあなたの頼みですもの、私にできることでしたら何だっていたしますわ」

一方のルイズは、しばらく言うのか言わないのか、どちらにしてももどかしい作業を繰り
返し、やがて意を決したように話した。

「ひ、姫さまっ!」
「なんでしょう」

「わ、わわわわわわたくしのっ、おおちちち、じゃなくて、むむむね、むねをっ揉んでくらさぁいっ!」

「……」

時間は止まり、空気が凍った。
扉の外で金髪の女性の含み笑いが聞こえた。

522 名前:Girls, be ambitious:2007/09/25(火) 21:41:19 ID:55hRbtMJ
「あ、あの、ルイズ?」
「……」

この部屋に誰もいれてなくてよかった、とアンリエッタは安堵しつつ、ルイズの手を取り
引き寄せた。

「え、あ……」

そのまま、ルイズと同じ高さまで腰を落とすと彼女の首へと手を添える。

「失礼します」
「ひ、ひめさま?」

ルイズの目前へとアンリエッタの顔が迫ってくる。それがたとえ同性であろうとも、真剣
な彼女の眼差しに魅了されてしまうであろう。ルイズも例外ではなかった。彼女の体が強張る。

コツン
「あ……」
「どうやら悪い病気ではなさそうですね」

ただ熱を測る、それだけのことだった。アンリエッタがルイズの手を取ったのも、屈んで
ルイズの背の高さにあわせたのも、そしてルイズのうなじへと手を添えたのも。しかし残
念ながらルイズの目にはそううつらなかった。

「どうしたのですか?」
「ひめさまが、ひめさまが、ひめひゃまが……」
バタッ

ルイズは百合の花畑へと旅立った。
扉の外で金髪の女性が呼吸困難に陥った。

「ルイズ、ルイズっ」
「んむぅ」

場所は変わって女王の寝室。
ルイズはアンリエッタのベッドの上で目覚めた。

「ひっひめさま。……も申し訳ありません! そそそそその粗相をいたしました」
「い、いいのよルイズ」

気まずい雰囲気がながれる。

「……それで、ルイズ。何があったの?」

とにもかくにも、アンリエッタは先程の願いの理由を尋ねた。

「そ、その……ちぃ姉さまから手紙がきて」
「カトレア殿から?」
「はい。それで、その手紙に…む、胸をおっきくする方法って……」
「まさか、それが?」

アンリエッタの問いにルイズの顔が林檎よりも赤く染まる。

「親しい人に、その……揉んでもらうことです」
「ほんとうですか?」
「はい」

にわかに信じがたい話ではある。一国の王女でも聞いたことがない、まるで異世界の妄想
の産物のようなものに聞こえた。


523 名前:Girls, be ambitious:2007/09/25(火) 21:44:56 ID:55hRbtMJ
「それで、こんなこと頼めるの、姫さましか」
「そうですか」

でも、この友人の言葉に嘘偽りはないようにアンリエッタには思えた。そこで、
(さすがカトレア殿ね。なんでもわかってらっしゃるわ)
と、納得することにした。

ちなみにこの物語にツッコミはいない。ちょっととんでるのが二人に、観客が一人いるだけだ。

ルイズはマントを脱ぎ、傍らに置くと、服のボタンを一つづつ外しはじめる。

「だから、その」

何がルイズをここまで動かすのだろうか、アンリエッタにはさっぱりわからなかった。
気付けば自分は人並み以上に膨らみ、大きくなってほしいなどと願ったことはなかったのである。
ふと自分の胸元をみる。
(この中にはいったい何が入っているのでしょう?)
男を魅了し、ルイズを駆り立てる謎の物体。
(あとでアカデミーに調査を依頼しようかしら)
彼女は無責任にもそんなことを考えながら目の前の友人をまじまじと見ていた。

「して……くださいませんか?」
「……わかりました」

言うや否やアンリエッタは自分のドレスを脱ぎはじめた。

「あ、あの、ひめさま?」
「無二の親友の恥を忍んでの頼みです。相応の覚悟をもって臨んでしかるべきでしょう?」
「は、はぁ」
他に方法は無かったのだろうかという素朴な疑問がちらりと頭をよぎった気がした。
それから二人は互いに下着以外の全てを脱ぎ、傍らへと積んだ。
一国の女王と上流貴族の子女が、その身のほとんどを外気に晒している。奇妙な静寂に
包まれる中、二人はベッドに腰をかけ、互いに向き合った。

「えっと……それでは」
「お、おおおねがいします」

二人とも恥ずかしいのか、お互い目を合わせないようにしていたが、アンリエッタは覚悟を決めルイズの方を見る。
(これが、ルイズの……)
幼い頃に一緒に風呂に入った仲である。彼女も別に初めてというわけではなかった。しかし、

「きれい……」

確かに膨らみには乏しい。だがそれを補って余りあるほどの精錬された肌である。父親や
母親、姉達が如何に大事にしてきたかが容易に想像できた。
(私も……)
アンリエッタはルイズの胸へと自らの白い手をゆっくりのばしていった。

524 名前:Girls, be ambitious:2007/09/25(火) 21:46:35 ID:55hRbtMJ
「……んっ!」
彼女の、人より若干冷たい指先がルイズの胸へと一瞬触れた。瞬間、ルイズの身体は電流
が走ったかの様にぴくりとはねる。緊張していたルイズは、その微かな刺激さえも反応し
てしまうほど敏感になっていた。ルイズの反応にアンリエッタも一瞬びくっと手を引っ込
めてしまうが、もう一度、親友の様子を伺いながら、次第に一本、二本と触れる指を増や
し、彼女の指にもルイズの肌の感触が分かるほどに触れる面積を広げていく。
(柔らかい……)
それがルイズの胸に触れた彼女の最初の感想だった。
他の人の胸を触る。それがたとえ女性であったとしても、それほど他人の胸を触れる機会
があるわけではない。まして王族であるアンリエッタにとって、その行為は幼少の頃から
慎むべきものだった。従ってルイズがほとんど初めてと言ってよかったのである。
ルイズの胸は、膨らみこそほとんどないものの、そこには女の子らしい柔らかさが確かに
あった。指を通して彼女の体温、鼓動が伝わってくる。アンリエッタは敏感な頂きに触れ
ないように、優しく撫でるようにルイズの胸を揉みはじめた。
「んく……ふぁ…………あ」
 しばらくするとルイズの身体に異変が生じる。身体の奥の方から何か熱く、モヤモヤし
たものが生まれるような感じがしたのである。
「んぁ、……あ……ん」
(熱い?)
それはルイズの胸の奥に溜って、だんだんその強さを増していく。丁度熱に浮かされるか
のようなその感覚は、しかし風邪のときのように不快なものではない。
(なんかふわふわする)
ルイズにとって未体験のその感覚は次第に彼女を翻弄していく。既にルイズの目は光忽と
し、初めは白かった肌も朱を帯び始めている。一方のアンリエッタにも変化が起きていた。
(何だか体が熱く……?)
彼女もまたルイズと同様に、身体に妙な、渇きの様なものを感じた。それはルイズの光忽
とした表情から伝染したのか、こんなことをしているという背徳感からか。いずれにして
も、アンリエッタの双丘の頂点は、下着の下からその存在を誇示していた。
「あ、……や……ひうっ!」
「す、すみません!」
相手にどれだけ愛撫を施そうと自らのモヤモヤした感じはなくならない。
アンリエッタの気づかぬうちに手に力が入ってしまっていたらしい。

「あ、あの……ルイズ」
「ぁ、な、なんですか?」

525 名前:Girls, be ambitious:2007/09/25(火) 21:48:43 ID:55hRbtMJ
手の動きはそのままに、アンリエッタはルイズに頼む。

「その、わたくしも……」
「ふぇ? ……は、はい」
通常時なら恐れ多くも女王陛下のなんたら、と絶対に受け入れなかったらだろうが、この
時は違った。彼女の頭の中には、今、この時がずっと続いてほしい、ということしかなか
った。胸の奥にこみあげる何かも、身体を駆り立てる何かも、むしろ心地よく感じてしまっていたのである。
(ひめさまの……)
ルイズの指先がアンリエッタの果実へと埋まっていく。その温かさ、柔らかさに彼女は自分の姉を思い出した。
(いいなぁ……)
浮かされているかのような高揚感のなか、ルイズとアンリエッタはひたすらに互いの果実を揉む。
「あっ……ひめさまぁ」
「んっ、あっ、気持ちいい」
二人の少女は、自然と口を重ねていた。
「んむ、ルイズぅ……」
互いの舌を絡めあい、呼吸が減ることで更に二人は高ぶっていく。アンリエッタはルイズの手を取ると自らの秘処へと導いた。

くちゅ
「ひめひゃま?」
「ほら、私もこんなに感じているのよ」
「……うれしい……」

ルイズの手がアンリエッタの秘処でうごめく。自慰の経験のほとんどないルイズのそれは
決して巧いとは言い難かったが、それでもアンリエッタを高みへと連れていくには十分だった。

「んぁっ、はぁ、ルイズのここも、こんなになっちゃって」
「ひあああっ」

アンリエッタはルイズのさくらんぼを口にくわえ、舌で転がす。共に限界が近かった。

「やっ……いあっひめさまっ」
「んむ……んっんん!」

ルイズの手の動きが限界まで速くなり、アンリエッタが彼女のさくらんぼを甘噛みする。

「「――――――――――――――!!」」

二人は共にビクビクっと二回ほど身体を震わせるとそのままベッドに倒れこんだ。

バンッ
「どうなされまし……ぶはっ」
そして金髪の女性により入口が紅く染められた。


ちなみに数日後サイトはルイズの
「ねぇ?わたしどこか成長した?」

という、究極の質問をうけることになる。


終わり。

526 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 21:52:23 ID:55hRbtMJ
百合は勘弁って人が多そうなんで、このタイミングにした。反省してる。

527 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 21:53:31 ID:IH5Vw+/P
>>526
いやいや、百合も良いではないか!
GJ!

528 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 21:55:51 ID:VKPuzwpy
>>526
ちゃんと注意書きもあったし大丈夫だと思いますよ。
GJ!でした〜

529 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 21:57:22 ID:72rfAChu
三代前から廃墟と化してた城に
勇者の子孫が来た気分だ……GJ!!
でもルイズを幸せに出来るのはシエスタさんしかいないと言ってみるよ!!

530 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 22:58:48 ID:zn1b7t+T
『この物語にツッコミはいない。ちょっととんでるのが二人に』<とびすぎだwww
でもGJ。この二人好きなんでうれしいわ。

531 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 23:13:37 ID:QI8TwvQJ
>>529
本編でノボルがシエスタルイズで書くという暴挙に出たばかりなのに
ここでそれをうpできるのは、相当な勇者だと思うんだ w

532 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 23:24:17 ID:UKeaX6fW
シエスタとルイズの絡みはその行為よりも
惚れ薬の影響で才人が眼中に無い
ここが一番よろしくなかったのではないかと。
なんかね、ギャクとかコメディで割り切れないのよ。

533 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/26(水) 02:50:39 ID:FkyOrFpC
                     /!                    ヾ`ー──┐
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534 名前:名無しさん@ピンキー:2007/09/26(水) 04:02:51 ID:8Srt+BPy
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            ∨小  V:リ      ヒ以│::/ ::::/ 
            |::::|:ハxx.   '   xxxj::/ ::::/ http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1190655203/
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